視覚障害者の暮らし、部屋探しと支援の実態とは
31万2,000人――これは、2016年時点での国内に在宅で暮らす視覚障害者の数だ。在宅の身体障害者手帳を持つ人428万7,000人のうち約7.3%に相当すると伝えられている。
人の認知情報の8割を担うともいわれる、視覚。「目が見えない」「見えづらい」ことで、情報集めが必須である“部屋探し”が相当に大変なことは想像に難くない。では具体的に視覚障害の人々は、部屋探しでどんな困難に直面するのだろうか。
実態を知るべく、今回は視覚障害者の目となって行動を助ける同行援護事業や当事者のためのウェブメディアを運営する株式会社mitsuki代表高橋昌希さんに、当事者をめぐる暮らし、部屋探し、同行援護とその支援の実態について、お話を伺った。
視覚障害者の支援だけでなくブラインドアスリートのサポートや情報発信を行う
――株式会社mitsukiの事業について教えてください。
視覚障害者には、移動障害と情報障害の、2つの障害があるといわれています。
移動障害のサポートとして、mitsukiでは、スポーツの伴走や生活全般の補助を行う“同行援護”の事業所の運営、同行援護を行うガイドヘルパーの研修と独自の資格発行、移動支援を行っています。
また最近は、移動支援の福祉制度を活用した外出の支援サービスの提供も始めました。少々ややこしいのですが、移動支援と同行援護は異なるもので、同行援護は福祉制度によるサービスのため、用途が限られていたり、自治体によって時間数の制限があったりします。
例を挙げると、障害者の通勤や通学に同行援護を使用することができません。そのため、利用者の方が制度の狭間で困ることを、サービスを使い分けつつ、行政や自治体に交渉して…といったこともしています。
情報障害に関するサポートとしては、「Spotliteメディア」というウェブメディアの運営を通じて当事者や支援者のための情報発信をしています。健常者のように視覚的情報を得づらいため、福祉に関すること、視覚障害者向けのイベント、新商品などを中心に、読み物としてお伝えしています。
――「Spotliteメディア」は当事者向けのコンテンツだったのですね。健常者に向けた当事者のリアルを伝える媒体だと思って拝見していました。
メインターゲットを視覚障害者当事者と想定して作っています。当事者を中心に、その周りに家族や支援者、関心がある人、関心のない人…といった感じでドーナツ状に情報を届けていければと思っています。
そのほかの事業として、香川県に事業所を立ち上げるきっかけにもなった、地域連携を行っています。香川のような地方都市ですと、視覚障害者が点在していて、当事者同士の接点が非常に少ないのが現状です。患者会などを通じて直接顔を合わせるようなイベント等を開催して、人と人のつながりを作る活動をしています。
視覚障害者の部屋探しは門前払いが当たり前 契約直前でNGとなったことも
――同行援護などで視覚障害者の方のお部屋探しの大変さなどにも触れていると思います。どんなケースが実際にあるのでしょうか?
一昨年、新入社員で視覚障害者の方のお部屋探しのサポートを私が担当したのですが、基本的に門前払いでした。話を聞いてくれた不動産会社で物件を選んで申し込みをお願いしても、管理会社に「視覚に障害がある方なのですが…」と担当の方が伝えたところで、電話を切られてしまうような対応を経験しました。
視覚障害者であることを伝えたうえで申し込みをしたときも、身分証明書とともに障害者手帳を提示すると、「難しいです」と断られたこともありましたね…。その後なんとか、管理会社とオーナーの方にも障害者である旨了承を得て契約までこぎ着けられた物件でも、提出した翌日に契約が破棄された、なんてことにも遭遇しました。
――その際、破棄の理由について何か伝えられましたか?
いいえ、何も。そこが明らかにならないのも、課題なのではと感じています。それから、不動産会社の方々に対して、視覚障害者の情報が伝わっていないなと感じた事例もあります。鍵がタッチ式の物件や、宅配ボックスやインターフォンがタッチパネルの物件は視覚障害者だと操作ができないので、そもそも内見せずともよかったなと思いました。
「視覚障害で段差は大丈夫ですか?」「1階のほうがいいですか?」と聞かれたこともあったのですが、過剰に気にしていただかなくても…と感じましたね。段差を心配されてのことなのでしょうが、段差や階段は多くの当事者にとって困るポイントではありませんから。
部屋探し以外では、家を買うときなどの契約時に、ローンをはじめたくさんの契約書の署名は自著のみで家族の代筆等が認められないので、何度も窓口へ出向くのがとても大変だと聞きます。とはいえ、法律的な部分で不動産会社の方の気持ちもよくわかるので、お互いに難しいところですよね。
ただ、サインガイド(ペンなどで名前を書くのに使用する、プラスチック製の枠)などがあれば、それほど難しいことではないので、工夫でなんとかできる部分ではあるなと思います。
――今、物件探しはネットで探すのが主流ですが、視覚障害者の場合はどうでしょうか?
視覚障害者の方も、探し方はそう変わりません。ネットで検索して、掲載している不動産会社に問い合わせをする方が多いです。ただ、その際のハードルとしてよく聞くのが、“物件画像が見えない”というものです。間取り図が見えないので、1LDKと表記されていても、縦につながっているのか、壁で区切られているのか、廊下が真ん中を通っているのか、形状がつかめないそうです。画像に代替テキストがあればそれを読んで、あるいは不動産会社に問い合わせて聞く、の二択です。
また、物件探すときに「歩きやすい駅か歩きづらい駅か」を参考にする方もいるそうです。道路が大きすぎず安全、駅から放射線状に道路が延びている、街なかを大通りが1本通っている、といった街が移動しやすいのだとか。そのため、部屋探しの前の住むエリアを探す際に、希望路線の駅を実際に歩いて候補地を絞る方もいます。
新しい土地・新居で視覚障害者が暮らしを整える大変さ
――お部屋探しだけでなく、住環境の変化にもご苦労がありそうです。
住まいに関しては、炊事洗濯を補助する居宅介護のサービスを受けられます。ただ、同行援護や居宅介護サービスを契約する事業所を新たに探さないといけない点が大変ですね。同行援護の事業所は所在のエリアを拠点にしているところが多いです。mitsukiの場合は東京・神奈川をカバーしているので都内・県内の引越しであればそう問題はないのですが、県をまたいだ引越しとなると転居先での事業所探しがハードルになることもあります。
また自治体によって使える制度の違いも生じます。例えば、1ヶ月の上限時間は、20時間程度から60時間程度のところまでさまざまで、また別の地域では上限を超えても交渉次第で希望を聞いてもらえる…といった具合に、自治体差がかなりあります。
自己負担額の助成や代読サービスの有無なども自治体によって異なっていて、こうした情報はネットには出てきません。そこで、私たちが事業を通じて培ってきた情報を基に、“福祉サービスのコンシェルジュ”さながら、引越し先を探すご相談に乗ることもあります。
関連して、引越しによる周辺環境の認知も当事者が苦労することのひとつです。コンビニやスーパーの場所を知るために、ガイドヘルパーが一緒に歩いて情報をお伝えするサポートを行っています。ただこれは、事業所側が気をつけないといけないことがあって、障害者を一人で歩かせてガイドヘルパーが後ろについてはいけないんです。
単独で歩く場合には、歩行訓練として歩行訓練士を派遣する必要があり、仕事の領域が異なります。逆も然りです。また、歩行訓練は利用者負担額が少ないのですが、周辺環境認知のために歩行訓練を使うことはできません。こんなところにも、制度の壁があったりするんですよ。
香川と東京、当事者の部屋探しや住まいにも地域差が
――mitsukiでは香川県にも事業所をお持ちとのこと。東京と香川の2拠点から見て、視覚障害者の住まいに地域差はありますか?
まず思い浮かぶのが、情報量の差です。東京はむしろ多すぎるくらいではないかと思うこともあります。部屋探しにおいても、東京だと物件数や不動産会社の数は多い半面、障害者に優しい不動産会社はどこなのかがすぐに見つけられず、よい不動産会社に出合えるまでにコストがかなりかかります。人づてでも情報が多いので、精査するのが大変です。一方香川では、不動産会社の数がそもそも少ないのと、口コミで情報が回っているので、少ない情報でピンポイントに対応できます。
次に車の利用です。東京都内は公共交通機関で大方完結するのですが、地方は車がないと成立しません。
香川県でも例に漏れず車の利用が必須になるのですが、同行援護では時間の算定のできる公共交通機関のみが対象で、車の利用が伴うと同行援護が使えません。そのうえ都内ほど福祉タクシーが普及していないのもネックとなっています。
具体的に例を挙げると、スーパーへ買い物に行くにしても、都内では徒歩やバスによる移動・買い物・帰宅までを1人のガイドヘルパーでまかなえ、1つの福祉制度の利用で収まり、自己負担も安く済みます。しかし香川の場合、スーパーへは一人で介護タクシーに乗って行き、スーパーでの買い物はヘルパーに同行をお願いして、また一人介護タクシーで帰ってくる、といった感じで2つの制度を利用しなければならず、自己負担もそれぞれにかかります。
同行援護の事業をしていると、制度の壁、自治体の壁にぶつかることが多く、視覚障害者の人たちの間では「自治体ガチャ」と呼ばれるほど、自治体間の格差があります。格差を埋めるために、情報の発信や、いろいろな業界の方とつながり、さまざまなアプローチで今ある難しさを変えるきっかけをつくろうと動いています。政策提言など、政治への働きかけも今後していきたいですね。
不動産会社と当事者の双方がお互いを知る努力を
――視覚障害者のお部屋探しや暮らしについてうかがってきましたが、視覚障害者をサポートする立場から、不動産会社に意識してもらいたいことなどありますか?
コミュニケーションをとってほしいです。私自身が視覚障害者のサポートで同行していて感じるのは、いろいろな事情があるとは思うのですが、“視覚障害者”と聞いて即断るのは性急なのでは、という点です。
障害があることはその人の側面のひとつでしかなく、年収や職業、家族構成などを含めて、総合的に判断してもらえたらと思います。そのためにも、障害や状況に関するわからないこと、不安なことを率直に聞いてもらうといいですね。
反対に、私たち障害者に関わる側・障害者側も、一方的に主張するだけではダメだなとも感じています。不動産会社の方は福祉のプロではないので、障害に関して知らないのは当然ですから、「生活に支障はないから入居させろ!」という気概だけではうまくいくはずもありません。具体的に何に困っているのか、何ができるのか、自身の見え方をきちんと伝える義務があると思います。
視覚障害者の中には「まったく困ったことがない」という人もいますが、そういう方は往々にしてコミュニケーション力が非常に高いです。当事者個人のコミュニケーション能力に依存するのではなく、お互いに聞き合い、質問し合って、理解を深めることができたらいいですね。
――来年の4月から障害者差別禁止法が改正されますが、そこに対して期待されることはありますか?
合理的配慮に関して、努力義務から義務へと変わることで、今後社会的な関心が高まるだろうなと思います。障害者にとっても、情報を発信して伝える契機になるのではと非常に期待している一方で、きちんと情報を届けていくための努力もしないといけないなと感じています。
また、障害者雇用率は法的に定められていますが、不動産関連でいうと、“障害者入居率”はありませんよね。目標数値があるわけでもないので、現場で成約を高めるためにも、当事者側からのアプローチが必要かなと考えています。
不動産に限らず、障害者側が合理的配慮ができていないことを指摘するのは容易です。それだけではなくて、今受けている制度の恩恵や、よかった事例などをなにげないタイミングでどんどん共有していけると、情報だけでなく人と人とのつながりとしても、いいサイクルが生まれそうですよね。
「私のような支援者は、日々視覚障害者と出会っているので気軽に当事者と接せられます。普段あまり視覚障害者と接点のない方は、視覚障害の人を見かけたら声をかける、声をかけなくても想像してみる時間を少しでも持ってもらうと、出会う人の数が増えていくと思います。出会いが増えれば、当事者に優しくなれますよね」と、高橋さんはインタビューの最後に語っていた。
視覚障害と一口に言っても、先天性か後天性かで違いがあったり、見え方も一人ひとり違っていたりと、大変さも人それぞれに異なる。想像力を働かせて具体性を高めれば、出会いはより印象的となり、自分事に近づけられるかもしれない。
お話を聞いた方
高橋昌希(たかはし・まさき)
1991年生まれ、香川県高松市出身。広島大学を卒業後、国立障害者リハビリテーションセンター学院を修了し、日本赤十字社へ入社。神奈川県ライトセンターにて歩行訓練士として従事する。国立障害者リハビリテーションセンター学院時代の恩師の伴侶のマラソンの伴走を務めたことをきっかけに、2018年合同会社神田三石を起業、2019年株式会社mitsukiを創立。事業の傍ら2023年4月からは香川県網膜色素変性症協会の副会長も務め、視覚障害者の生活のサポートやガイドヘルパーの育成に尽力する。
▼株式会社mitsukiが運営する「Spotliteの同行援護」
https://spot-lite.jp/
※本記事の内容は、LIFULL HOME'S ACTION FOR ALL note 2023年11月28日掲載当時のものです。
【LIFULL HOME'S ACTION FOR ALL】は、「FRIENDLY DOOR/フレンドリードア」や「えらんでエール」のプロジェクトを通じて、国籍や年齢、性別など、個々のバックグラウンドにかかわらず、誰もが自分らしく「したい暮らし」に出会える世界の実現を目指して取り組んでいます。
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