災害時のペット同行避難の選択肢
災害時の避難で盲点となりやすいのが、ペットの避難である。ペットを避難所に連れて行っていいものか迷う飼主は多く、事前に知識を有していないと緊迫した状況の中での判断は難しい。
実は国としては、災害時に飼主がペットと同行避難することを推奨している。同行避難とは、災害発生時に飼主が飼育しているペットを同行し、避難場所まで安全に避難することを指す。
しかし、避難所までペットと一緒に避難することを指してはいるが、避難所で同一の空間で飼主とペットが一緒に暮らせるわけではない。
同行避難と類似の言葉として、同伴避難という言葉がある。同伴避難は、避難所で同一の空間で飼主とペットが一緒に暮らせる状態のことを指す。国が飼主に同行避難を推奨している理由としては、災害時にペットを放置するとその間にペットが衰弱死したり、繁殖により増加したりする恐れがあるためだ。動物愛護の観点だけではなく、放浪動物による人への危害の防止や生活環境保全・公衆衛生上の観点から推奨しているのだ。
一方で、同伴避難まで推奨していない理由としては、避難所はさまざまな人と共同生活することを前提にしているためだ。避難所には動物が苦手な人やアレルギーを持っている人もいる可能性があるため、これらの人への配慮も必要となる。そのため、国としては、同行避難は推奨しているものの、同伴避難までは推奨しないというスタンスを採用している。
国が推奨していることもあり、災害時は飼主としてはペットと一緒に避難することが主たる選択肢となる。ただし、同行避難できるのは犬や猫が想定されており、危険動物は対象外となっている。また、避難先によっては同行避難を認めていない避難所も存在する。そのため、飼主は平常時に同行避難が認められている避難所を確認しておき、災害が生じたらその避難所へ避難することが必要だ。
環境省のガイドラインと自治体の取り組み
ここでは、環境省のガイドラインと自治体の取り組みについて解説する
(1)マンションの長寿命化の推進
日本には、動物愛護管理法(動物の愛護および管理に関する法律)という法律が存在するが、この法律は環境省が所管庁となっている。動物愛護管理法を所管している環境省では、「災害時におけるペットの救護対策ガイドライン」(以下、ガイドライン)という指針を提示している。
ガイドラインでは、飼主の役割として災害時はペットと同行避難すべきことを明記している。ガイドラインの特徴としては、災害時だけでなく平常時の飼主の役割も記載している点である。平常時と災害時のそれぞれの飼主の役割として、以下のような対策例を挙げている。
【平常時】
・住まいの防災対策
・ペットのしつけと健康管理
・ペットが迷子にならないための対策(マイクロチップ等による所有者の明示)
・ペット用の避難用品や備蓄品の確保
・避難所や避難ルートの確認等の準備
【災害時】
・人とペットの安全確保
・ペットとの同行避難
・避難所・仮設住宅におけるペットの飼育マナーの遵守と健康管理
平常時の対策としては、例えばペットが迷子にならないためにマイクロチップ等による所有者を明示することが推奨されている。災害発生時は、やむを得ずペットを残して避難することも想定されるため、保護されたときに飼主の元に戻れるようにする対策となっている。
また、ペットのしつけと健康管理も平常時の対策として掲げている。しつけとしては、決められた場所で排泄ができることや、ゲージに入ることを嫌がらないようにしておくことが求められている。健康管理としては、狂犬病予防接種等の各種ワクチン接種を実施しておくことや、不妊・去勢手術を行っておくことが挙げられている。
災害時の対策としては、避難所・仮設住宅におけるペットの飼育マナーの遵守と健康管理を掲げている。避難所等では、動物が苦手な人やアレルギーのある人もいることを認識しておく必要がある。咬みつきや鳴き声、体毛、糞尿等はトラブルの原因となりやすいため、周囲の人への配慮が求められている。
・各自治体が策定している具体的な対応策
環境省のガイドラインでは、自治体の役割も定められている。自治体は、災害発生時に飼主による同行避難や適正な飼育管理が行われるよう、平常時から飼主に対する啓発等の対策を講じることが望ましいとされている。そのため、近年は各自治体でペットの災害時の避難に関しても体制が整いつつある状況だ。
例えば、2024年1月1日に生じた令和6年能登半島地震で被害を受けている石川県七尾市では2014年7月の段階で「七尾市避難所運営マニュアル」を作成している。
七尾市のマニュアルでは、避難所での基本的なペット対応の考え方を掲げている。マニュアルは環境省のガイドラインに沿う形となっており、原則として同行避難を認めている。七尾市では避難所でのペット登録票を設けており、衛生管理ができるようになっている。また、避難所によっては同行避難ができない場所もあり、注意喚起も促している。
過去事例紹介
環境省のガイドラインは2013年に策定されている。
ガイドラインが策定されたのは、2011年に発生した東日本大震災がきっかけだ。
東日本大震災では、飼主や市町村等の災害担当部署にペットとの同行避難に関する意識が浸透しておらず、多くの飼主がペットを置いて避難し、災害後の対応に苦慮した経緯がある。
また、ペットが避難していた避難所では、犬の鳴き声や臭い等の苦情が多く、トラブルも発生した。
ガイドラインができた2013年以降は、避難所におけるペットの扱いはかなり改善している。2016年に生じた熊本地震では、多くの避難所でペットの同行避難の受け入れ態勢が取られていた。
例えば、熊本市の避難所では以下のような対応が行われている。
【避難所ごとに行っていたこと】
・避難所そばの屋根付き駐輪場をペット飼養スペースにしていた。
・避難所の一部を同行避難者専用の部屋にしてペットを受け入れていた。
【熊本市動物愛護センターと動物愛護推進協議会が協力して行ったこと】
・動物愛護推進員によるペットの悩み相談。
・ペット用物資(フード、ペットシーツ、ウェットティッシュ等)の無料配布。
・ケージ、キャリー、クレートの貸し出し。
・獣医師によるペットの無料健康相談。
そのほか、益城町や南阿蘇村、八代市等の避難所でも、一定のペット対応が行われている。
近年の事例を鑑みると、ガイドラインによって市町村等の災害担当部署の意識が大きく変わった点に意義があるものと思われる。
民間セクターの貢献とSNSの役割
ペットの同行避難に関する各役割について解説する。
・民間企業や団体の災害時の役割
ここで言う民間企業や団体とは、主に動物取扱業者、ペット用品販売業者、ペット用医薬品販売業者やそれらの業界団体等を指す。
これらの民間企業は、平常時にはペット用品等の備蓄、災害時にはペット用品等の提供といったことが期待されている。
・SNSの活用による情報共有と協力体制の構築
ペットの同行避難に関しては、情報共有が重要となってくる。
飼主の中には、ペットの同行避難ができないと思っている人も多いため、SNS等を活用して啓蒙活動を行っていく必要がある。
また、災害時には動物病院や獣医師、動物愛護団体等とも協力体制を取り、救助された動物の情報提供を行っていくことも求められている。
・ボランティア活動や支援組織の動向
収容動物の飼育管理等に関しては、ボランティアが必要な場合もある。
ボランティアには、給餌や給水、散歩、健康チェック、犬舎・猫舎の清掃・消毒等の支援活動を行うことが期待されている。
まとめ
ガイドラインができたことで、避難所を設ける自治体側の意識は変わりつつある。一方で、飼主や一般市民の間には、まだ同行避難が推奨されていること自体を知らない人も多いかもしれない。今後、避難訓練等を通じてペットの同行避難の知識が普及していけば、ガイドラインが一層役立つものになるだろう。
石川県能登地方を震源とする令和6年能登半島地震により、被災された皆さま方に心からのお見舞いを申し上げます。
被災者の救済と被災地の復興支援のために尽力されている方々に深く敬意を表すとともに一日も早い復興をお祈りしております。
LIFULL HOME'S PRESS編集部
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