エアコンが故障した場合の基本的な考え方
地球温暖化の影響により、最近の夏は日中の気温が35度を超す日も少なくない。
エアコンの重要性は以前よりも増しており、故障してしまったときの対応も緊急性を要するようになってきている。
賃貸物件のエアコンは、大きく分けて「借主側が設置している物件」と「貸主側が設置している物件」の2パターンがある。まず、借主側が設置している物件であれば、エアコンの所有者は借主であるため、故障したら自分の判断で自由に修理を依頼したり、買い替えたりして構わない。エアコンに限らず、自分の所有物は自分の費用負担で修繕するのが基本的なルールである。
一方で、貸主側が設置している物件であれば、エアコンの所有者は貸主であるため、故障したら貸主に修繕してもらうことが原則となる。そのため、故障したらまずは貸主に連絡することが必要である。貸主側が設置している物件の場合、エアコンの修理費用も貸主側の負担となる。
ただし、例外として借主による日常の不適切な手入れもしくは用法違反による設備の毀損によってエアコンが故障した場合には、借主の費用負担にて修繕する必要がある。
エアコンがない賃貸物件での設置の可否
近年、新築される賃貸物件は入居者を獲得しやすくするために貸主側でエアコンを設置する物件が主流となっている。しかしながら、古い物件の中にはエアコンがない賃貸物件も多く存在する。また、新しい物件であっても分譲マンションが賃貸されるケースでは、エアコンが備え付けられていない物件も多い。エアコンがない賃貸物件では、そもそもエアコンが設置可能かどうかで対応が分かれる。
エアコンが設置できる物件では、エアコンの取り付けが可能な場所が指定されていることが一般的である。エアコン設置が可能な物件は、壁にスリーブと呼ばれるエアコンと室外機をつなぐ配管を通すための穴が壁に開いている。入居時にエアコンを設置できる場所を説明されることが通常であり、指定箇所に設置すれば問題ない。
一方で、エアコンが設置できない物件では、壁にスリーブが開いておらず、バルコニーなどの室外機置場もないことが多い。このような物件は、物理的にエアコンを設置できないことになる。
物理的にエアコンを設置できない物件では、設置するために貸主の許可が必要となる。しかしながら、エアコンを設置するためには壁にスリーブを開ける、外部に室外機置場を造作する等の躯体を傷付ける工事をする必要があることから、許可されないことも多い。
よって、エアコン設置を前提としていない物件の場合には、通常タイプのエアコンは設置できないことがよくある。ただし、エアコンが設置できない物件でもウィンドウエアコンなら設置できる場合がある。
ウィンドウエアコンとは、送風機と室外機が一体となった窓枠に付けられる小型のエアコンのことだ。ウィンドウエアコンを設置する場合にも、貸主には了解を得ることが望ましいといえる。
貸主が修繕してくれないときの対応
エアコンを貸主側が設置している物件では、エアコンの故障は貸主が修繕をしなければならない。しかしながら、貸主の中には依頼しても修繕に対応してくれない人もいる。そこで、民法では貸主が修繕しない場合には、借主が修繕することを認めている。
【民法第607条の2】(賃借人による修繕)
賃借物の修繕が必要である場合において、次に掲げるときは、賃借人は、その修繕をすることができる。
一 賃借人が賃貸人に修繕が必要である旨を通知し、または賃貸人がその旨を知ったにもかかわらず、賃貸人が相当の期間内に必要な修繕をしないとき。
二 急迫の事情があるとき。
借主が修繕するには貸主に通知をする必要があり、貸主が相当の期間内に必要な修繕をしないときにようやく借主がはじめて修繕できるということになる。
また、契約期間中の修繕に関しては、賃貸借契約書に取り決めがなされていることが一般的である。国土交通省が示す賃貸住宅標準契約書では、以下のような文面となっている。(甲は貸主、乙は借主)
(契約期間中の修繕)※必要な箇所のみ抜粋
第9条 甲は、乙が本物件を使用するために必要な修繕を行わなければならない。この場合の修繕に要する費用については、乙の責めに帰すべき事由により必要となったものは乙が負担し、その他のものは甲が負担するものとする。
2 (中略)
3 乙は、本物件内に修繕を要する箇所を発見したときは、甲にその旨を通知し修繕の必要について協議するものとする。
4 前項の規定による通知が行われた場合において、修繕の必要が認められるにもかかわらず、甲が正当な理由なく修繕を実施しないときは、乙は自ら修繕を行うことができる。この場合の修繕に要する費用については、第1項に準ずるものとする。
貸主が修繕対応しないときの取り決めは、4項に記載されている。
借主が正当な理由なく修繕をしないときは借主ができるとし、修繕に要する費用は貸主が負担することとなっている。
国土交通省の賃貸住宅標準契約書は、類似の文言が広く一般の賃貸借契約書にも採用されている。よって、貸主が修繕対応をしてくれない場合には、今一度賃貸借契約書を読み返し、取り決めを再確認してほしい。
退去時のエアコンクリーニングの必要性
エアコンに関しては、退去時に借主がクリーニングまでしなければならないかどうかも問題となる場合がある。
原則として、喫煙等の臭いなどが付着していない場合であれば、借主は退去時にエアコンの内部洗浄までする必要はない。借主には、退去時に原状回復義務が課せられている。
原状回復とは、借主の居住、使用により発生した建物価値の減少のうち、借主の故意・過失、善管注意義務違反、その他通常の使用を超えるような使用による損耗・毀損を復旧することである。つまり、借主が費用をかけて復旧しなければならないのは、以下の3つのケースに該当する場合ということになる。
・借主の故意・過失による損傷
・善管注意義務違反による損傷
・その他通常の使用を超えるような使用による損耗・毀損
1つ目の故意・過失とは、「わざと」または「うっかり」によってエアコンを壊したときの損傷が該当する。
2つ目の善管注意義務違反とは、日常の不適切な手入れもしくは用法違反による設備の毀損が該当することになる。
3つ目のその他通常の使用を超えるような使用による損耗・毀損とは、喫煙のヤニにより変色した場合などが該当する。
喫煙等の臭いなどが付着している場合には、その他通常の使用を超えるような使用による損耗・毀損に該当するため、借主は退去時にエアコンクリーニングをしなければいけないことになる。
一方で、通常の住まい方をしている限りは、通常損耗や経年劣化による損傷や汚れに該当するため、借主に原則としてエアコンクリーニングなどの原状回復義務はない。通常損耗とは借主の通常の使用により生じる損耗のことを指し、経年劣化とは建物や設備等の自然的な劣化または損耗のことを指す。
ただし、賃貸借契約書で一定の要件を満たす特約を締結している場合には、通常損耗や経年劣化であってもエアコンクリーニングを借主が例外的に行わなければならないこともある。エアコンクリーニングを借主負担にできる特約の要件とは、以下の3つの要件を満たしていることが必要となる。
【借主にエアコンクリーニングを負担させることができる特約の要件】
1.特約の必要性があり、かつ、暴利的でないなどの客観的、合理的理由が存在すること
2.賃借人が特約によって通常の原状回復義務を超えた修繕等の義務を負うことについて認識していること
3.賃借人が特約による義務負担の意思表示をしていること
近年の賃貸借契約書では、上記の特約要件を満たした上でハウスクリーニングやエアコンクリーニングを借主負担としているケースもある。
賃貸借契約時の内容は借主自身も忘れてしまっていることが多いため、退去の際は改めて賃貸借契約書を見直すことが適切といえる。
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