「チーム愛媛DXウィンターキャンプ」
2023年2月8日、愛媛県庁、県内市町のデジタル担当者が松山駅にほど近いJAえひめ中央「みなとまちまってる」の多目的ホールに終結した。その名も「チーム愛媛DXウィンターキャンプ」。お題は県内自治体が推進する、DX(デジタル・トランスフォーメーション)施策の情報共有と担当者の横の連携の強化である。
会場前方には、愛媛県内自治体のDX推進を支援する愛媛県・市町DX推進統括責任者の菅原直敏氏、チーム愛媛DX推進支援センターの渡部久美子センター長と5人の専門官がずらりと並ぶ。チーム愛媛DX推進支援センターは、愛媛県と県内20市町で構成する「愛媛県・市町DX推進会議」が実施する高度デジタル人材シェアリング事業で設置するものであり、彼らは全員がいわゆる外部人材だ。日頃はリモートによる相談や、ときには実際に各市町を歩いてDXの課題抽出を行ったり、DX研修講師を引き受けたりするだけでなく、業務改善などの日常業務の問題解決にも協力している。
冒頭、県CDOの八矢副知事が「何をやっているのか、何がもやもやしているのか、言い合える仲に」と熱く語る。しかし、県職員はいわば裏方。今日の主役は県内市町のデジタル担当者である。企画メンバーを市町の職員の方から募集し、県、DX推進支援センター、市町が協働で企画したのが今回の特徴だ。
県内の20市町が一斉に主体的にDXに取組み成果を上げつつある
このブートキャンプ、実は2022年の夏に続いて2回目の取り組みである。同年4月に始まった「チーム愛媛高度デジタル人材シェアリング」事業だが、コロナ禍でもあり、日常の業務の中心はリモート対応が中心である。
また、県内市町の担当者もリモート研修などでは同席するものの、なかなか実際に顔を突き合わせ、議論し、悩みや課題を共有する、という機会がない。
このため、愛媛県・市町DX推進統括責任者である菅原直敏氏をはじめとする外部人材7人が集まり勢ぞろいする8月19日に第1回の「チーム愛媛DXサマーキャンプ」を同推進会議の事務局である県デジタルシフト推進課が中心となって企画された。
サマーキャンプでは冒頭に菅原統括責任者の講演で「チーム愛媛」の取り組みの意義を共有するところから始めたが、第2回であるウィンターキャンプでは、菅原氏は盛り上げ役に徹し、副知事の挨拶後、即座に「システム・セキュリティ」「データ利活用」「デザイン・UI・UX」「広報・マーケティング」「官民共創」の5つのパートに分かれてプレゼンが始まった。
それぞれのプレゼンは各市町の個別テーマの取り組みであり、その一つひとつが飛びぬけて先進的なものかというと、そうではない。特筆すべきは県内の20市町が一斉に主体的にDXに取組み、一斉に成果を上げつつある、という愛媛の一体感だ。「だれ一人取り残さない」という言葉があるが、「一つの市町も取り残さない」ことが「チーム愛媛」の強みといえるだろう。
西条市:データ利活用による産業政策の立案
西条市は庁内ワークショップを通じて、データ分析による地域産業の現状分析と産業施策の検討を行った。
従来の産業振興施策は「これまでもやってきたから」「国や県が推進するから」という、いわば主観的で受動的な傾向があったという。
そこで、産業振興課の担当者は、市デジタル戦略課の紹介で下山紗代子DX推進専門官(データ利活用担当)との相談会に参加し「エビデンスに基づいた政策の企画・立案を進めたい、ただし“言うは易し”でノウハウがない」という危機意識を伝えたところ、全3回の「データ利活用ワークショップ」の開催を提案された。
こうして「令和4年度西条市中小企業等経営環境調査」の調査の枠組みづくりから下山専門官の伴走により実施することとなった。
データ利活用というと、いきなりデータの分析を、と焦りがちだが、このワークショップではまず、課題の整理と仮説の組み立てから取り組んでいる。西条市の関係各所だけでなく、近隣市の担当者にも出席してもらい、異なった視点からのディスカッションを行った。
また、オンラインホワイトボードツール「miro」によりロジックツリーを活用した課題整理と仮説の検討がスムーズに行えたほか、内閣府のリーサスをはじめとする既存のツールをフル活用することとなった。
これまでクロス分析ができず見えてこなかった「業態転換にチャレンジしている会社は業績が良い」「事業計画を立てている企業は黒字が多い」「DXに取り組んでいる企業は売上高の向上率が高い」などの知見を得、さっそく政策立案に反映させたという。今後のさらなるデータ利活用にも、手ごたえを感じているという。
久万高原町、宇和島市、八幡浜市:SNSの統廃合
「広報・マーケティング」担当専門官である藤田愛氏のアドバイスの下、整理統廃合による適切なSNS運用に取り組んだのは久万高原町、宇和島市、八幡浜市の3市町である。
「そもそもこのプロジェクトは、SNSの整理・統廃合が目的なのではなく、情報を届けたい人に届けるために行うものである」と藤田専門官は強調する。
SNSは基本的に使用料がかからず、一時期流行したこともあって、乱立する傾向がある。情報が一元化されていなかったり、更新内容や頻度にばらつきがあったり、さらには放置アカウントが多数ある、という問題も指摘されている。放置された形になっているアカウントは乗っ取りリスクがあるだけでなく、その放置されている姿が住民からも見えるため問題がある。
そこで、3市町ではまず、SNS運用の現状把握から始めることとした。
たとえば、八幡浜市ではFacebookだけで7つのアカウントを持ち、フォロワー数も最多の市役所公式アカウントの約千七百から下水道課の約百二十までさまざまであり、最終更新から5年程度経過しているものが3アカウントもあった。
また、久万高原町では現在、調査を実施している段階だが、スマホ利用者の大部分がLINEを利用している中で、広報誌から情報を収集している方が多く各種SNSの公式アカウントから情報を収集している方が少ないため、即時性の高い情報の伝達に不安を感じたという。
宇和島市では、庁内SNSを再確認し、それぞれの特徴に合わせた発信方法の見直しを行う担当者ワークショップを企画している。
この現状報告を踏まえて、3市町の担当を中心に意見交換があった。「廃止にはエネルギーが必要であり、どうしても現状維持となってしまう」「放置された形になっているアカウントの担当部署には思い入れがあり廃止を聞き入れてもらえない」などと現場の悩みが吐露され、具体的な現場とのやり取りについても意見交換が行われた。
最後は、サプライズで、法衣のコスプレで登場したデータ利活用担当の下山専門官とともに、廃止されるアカウントの「供養」が行われた。
「孤独なDX」から「愛媛ならではの連携力を生かしたチーム愛媛のDX」へ
なお、当日午後のワークショップでは、「100 年後の行政」を切り口にワールドカフェ形式でお互いの悩みを共有し、チーム愛媛としての結束を高めることとなった。
一人からせいぜい数人で広範なDXに取り組む自治体の担当者たち。その日常はまさに孤軍奮闘である。20市町にはDXへの温度差も、担当者の練度にも差がある中で「これはDXではなく業務改善ですね」(官民共創担当の小田理恵子専門官)というような課題も含めて、各市町が直面する取り組みに専門官たちがチームとして協力してきた。
その成果を踏まえたのが今回のウィンターキャンプ。普段はリモートでしか集まれない「チーム愛媛」がリアルで盛り上がり、チームでDXを推進する愛媛を体現する一日となった。この愛媛の一体感こそが、知られざるDX先進県を支えている。
公開日:









