かつて花街のあった大門エリアが、今ジワジワきている⁉
名古屋市中村区の大門(おおもん)地区は、かつて花街としてにぎわったちょっぴりディープなエリア。実は筆者は、この下町感あふれるエリアが最近気になって仕方がない。
きっかけは、以前当サイトで紹介した駄菓子屋さんの取材。ノスタルジックな雰囲気が残る町並みと、ここに暮らす人々の人情味、そして子どもたちの印象的な笑顔に触れたことだった。
新大門商店街には、地元の人に愛され続けている老舗店やスーパー、飲食店などが数多く残るが、シャッターが閉まったままの店舗も少なくない。一方で新しいお店が出店し始め、新たなにぎわいを見せつつある。どうやらこのエリアが気になっているのは筆者だけではないようだ。
そんな新大門商店街に、築深物件をリノベーションした紅茶専門店「Teapick(ティーピック)」がオープンしたという情報を聞きつけ、お邪魔した。
若者二人が大学時代からの夢を実現
Teapickのオーナーである田中耕平さんと、今回お話を伺ったスタッフの青山祥さんは、大学時代からの旧知の仲。当時から「いつか何か事業をやろう」と話していたのだそう。田中さんは紅茶好き、青山さんはコーヒー好きということもあり、二人の目標は「カフェオープン」に決まり、お互い社会経験を積んできた。
それぞれに仕事を持ちながらも夢に向かってキャリアを積んだ。例えば田中さんはティーインストラクターの資格を取得、青山さんはカフェ事業を経験。また飲食店の情報サイトや飲食店の設備メンテナンス業、商社などといった企業で働き、さらに先行してバーをオープンさせたり、飲食イベントを企画したりするなど、カフェを運営するノウハウを多角的に身につけたそうだ。
「もともとは紅茶好きの田中の『紅茶の魅力を多くの人に知ってほしい』という思いから、Teapickはスタートしました。コーヒーにこだわったカフェはたくさんありますが、紅茶専門店はなかなかありませんよね。お茶やコーヒーのように、紅茶をもっと普及させたい。そんな田中の強い思いから、紅茶専門店を始めることにしたんです」と青山さん。
約1年半前から、イベントに出店したりオンラインで茶葉を販売したりしていたお二人。
「おかげさまで評判もよく、イベントに毎回来てくれるような紅茶好きな方や、会場で紅茶の魅力にハマってくださる方がとても多かったんです。イベントは不定期ですので、お客さまが気軽にいつでも来られる場所があったら、今以上に紅茶が生活に密着するのではないかと、実店舗を持つことを考え始めました」
考え始めたのは2021年の10月頃、そして入居する物件が決まったのは2022年の1月。二人も驚くほど、トントン拍子に話が進んでいったのだとか。
借りたい人と家主を結ぶ「空き家マッチングサイト」で物件探し
Teapickは、当サイトでも以前紹介した、「さかさま不動産」の空き家マッチングサービスを利用したそうだ。さかさま不動産とは、借りたい人のプロフィールや希望条件、借りたい想いなどを掲載し、大家さんが貸したい人を探すという、通常とは“さかさま”な物件探しサービス。Teapickが希望した条件は、「小規模で、地域に根付く物件」。エリアは大門に限定していたわけではないそう。
「栄や大須のような栄えているエリアではなく、ご近所さんが集まってくれるような地域に根ざした場所が希望でした。そんな僕らの希望にマッチしていると紹介していただいたのが、大門のこの物件。もともとは居酒屋さん、直近は倉庫として利用されていたようです。正しい築年数は不明でしたが築60~70年くらいで、かなりボロボロ。正直、大丈夫かなと思いました」と青山さんは笑う。
「物件を決めるタイミングで大門の人たちと話す機会があったのですが、その時に直感で『なんとなく合いそう』と思ったんです。それでここに決めました。今では本当にこのエリアを選んでよかったと思っています。ご縁ですね」
こうして物件が決まり、実店舗オープンに向け準備がスタートした。
ボロボロ物件をリノベーション。施工は大門の会社に依頼
「リノベーションはこの地域の方に施工してもらえたら……という思いがあったので、同じ新大門商店街にある『soiro living(ソイロリビング)』さんに依頼しました。soiro livingさんもこのエリアに新しくオープンされた会社で、私たち同様この街に魅せられた人たち。今後も一緒に何かできたらいいなと思っています」と青山さんは語る。
古い建物のため、予想以上に傷んでいるところもあったそうだ。
「壁を剥がしてみると、柱の下半分が抜き取られ建物が傾いていたんです」。これにはさすがに驚いたと苦笑いする青山さん。
この街の魅力を伝えられる店になりたい
2022年5月よりプレオープンし数ヶ月。大門の魅力を青山さんに聞いた。
「僕たちはこの街で“よそ者扱い”をされたことがありません。知らない人が『何やってんの?』『頑張ってね』と声をかけてくれる。大門の人たちは、当たり前のように受け止めてくれる懐の深さがあるんです」
まだオープンして間もないTeapickだが、取材をしたこの日もフラッと扉を開けて「元気?」と声をかけてくれる人がいたことに、筆者は驚いた。しかもそれは大人だけでなく、近所の子どもたちも同じように「お兄ちゃんいる?」と店に顔を出すのだとか。
「子どもの友達もたくさんできました(笑)。子どもたちはこれまで家族や先生くらいしか大人との関わりがなかったはずですが、もっと大人と関われる場所があったらいいなと思っています。そんな存在になれたらうれしいですね。子どもたちは僕のことを大人とは思っていないと思いますが」と青山さんは笑う。
「Teapickにご来店してくださったお客さまを、僕がご近所の駄菓子屋さんやボタン屋さんなどに連れていくんです。大門の面白さや人の温かさに触れ、皆さん喜んでくださいます。Teapickがきっかけでこの街のよさを知っていただきたいですね」
そして青山さんはこう続ける。「大門エリアにはまだ空き物件が多いです。大門の人たちは本当に温かい。外の人たちが『ここで出店したい』と思ってもらえる先駆けになれたら」。そう話してくれた。
こうしたコミュニティも魅力の大門エリア。今後もきっと新しいお店が地域の輪にスッと仲間入りするのだろう。
『紅茶の魅力を多くの人に知ってほしい』とスタートしたTeapickは、紅茶の魅力だけでなく、大門という街や人の魅力も伝えていると感じた。ぜひその魅力を味わいに大門を訪れてみてほしい。
取材協力 Teapick
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