カフェのある暮らしを楽しむ住宅

「自宅がカフェのように素敵だったらいいな」とか、「自宅の近くにおしゃれなカフェがある街に住みたい」という願望を持ったことがある人は多いのではないだろうか。

立川駅から徒歩8分の場所にできたのがソーシャルアパートメントの「NEIGHBORS(ネイバーズ)立川」。パンの販売とカフェの営業を行う「NEIGHBORS BRUNCH(ネイバーズブランチ) with パンとエスプレッソと」を併設した集合住宅だ。10月から住戸部分の入居を始めており、10月25日に店舗の営業と住戸部分の本格的な入居を開始した。10月25日〜11月24日には「1カ月体験入居」が行われた。

ソーシャルアパートメントは、企業の寮として使われていた建物の内部をリノベーションして、8畳程度で面積が14.31m2の専有部と水回りやラウンジ、ワークスペースなどの共用部を設けている住まいだ。入居者の自発的な交流を促す。賃料は「2年プラン」契約時に月々5万8,000円〜7万2,000円(別途、管理1万円、水道光熱費1万800円)。賃料は周辺の相場より高く設定されているが、この賃料に併設店舗の利用代金1万2,000円分が含まれているのがネイバーズ立川の特徴だ。近所に店舗があっても利用しないという人も多い中で入居者にカフェを日常的に利用してもらうための仕組みだ。

同事業は、30件以上の物件を「ソーシャルアパートメント」として開発してきたグローバルエージェンツが企画と運営を担当、東京建物不動産販売が建物を所有している。飲食店を併設した「WORLD NEIGHBORS(ワールドネイバーズ)護国寺」に続く2件目のソーシャルアパートメントを企画したグローバルエージェンツの山崎剛代表取締役は「護国寺で成功したため、立川も飲食店併設型にしました。とはいえ立川は護国寺に比べて規模が小さく、入居者から飲食店への収入は確保しづらくなります。この場所と規模で成功できれば、今後の重要なビジネスモデルになります」と説明する。

立川の世帯数は72戸で、護国寺の180戸に比べると少ない。
護国寺では月に1万5,000円の飲食代が家賃に含まれており、月の収入目標の半分に当たる250万円程度を入居者から得ていたが、今回の立川のケースでは飲食代も戸数も少なく入居者側からのカフェの収入は100万円程度に留まる。これではカフェの経営はどうなのだろうかと思い山崎氏に聞いてみたところ、「近隣の住人に支えてもらわなければ店は成り立たない」という考えのようで、クローズされたカフェでなくイベントの開催や近隣の催しへの参加にも意欲を見せ、護国寺での経験を踏まえて近隣とのオープンな関係を築いたカフェ経営を目指しているようだ。

ネイバーズ立川の外観。写真手前がテラス席のある席数が40席のベーカリーカフェ。奥にはソーシャルアパートメントの住居部分のエントランスがあり、「NEIGHBORDS」のサインが光っているネイバーズ立川の外観。写真手前がテラス席のある席数が40席のベーカリーカフェ。奥にはソーシャルアパートメントの住居部分のエントランスがあり、「NEIGHBORDS」のサインが光っている

入居者と近隣の人をつないで街に付加価値を与えるビジネスモデル

このビジネスモデルは事業者の収入を安定させるだけでなく、入居者や近隣の住人が魅力を感じる仕組みがあってこそ成り立つものだ。

まず入居者にとっての魅力をみていく。1つ目は、同社から入居者に対して、衣食住の中の「住」の部分だけでなく「食」も提供されること。山崎氏は「忙しい朝の時間帯に朝食をしっかり取ってよい一日を過ごしてもらいたい」と語る。2つ目は、パンの物販やカフェを利用する近隣の住人とつながるきっかけが入居者に与えられることだ。山崎氏は「カフェは建物の中にありますが、外部の人とつながる役割も果たします。護国寺の店舗では入居者が来店した高齢者と挨拶を交わす風景も見られるようになりました」と話す。

次に近隣の住人に対してのメリットを見てみる。事業の成り立ちにくい住宅地でも美味しいパンとおしゃれな空間が楽しめるようになっており、近隣の反響について山崎氏は「開店準備中からカフェの前を通りかかって『自宅の近くにおしゃれなカフェができた』と喜んでくださる方もいました。街の人にとっても商業地域から外れた住宅街でのビジネスモデルの成功は、周辺の地域にとっても事業モデルのよい事例になります。逆に近隣に同じようなお店がないため、リピーターになってもらえる可能性も高いのです」と語る。
近隣のイベントにも積極的に参加をめざしており、オープンから1ヶ月足らずだが、近隣の飲食店による「立川つまみぐいウォーキング」にも参加したという。

ベーカリーカフェの入り口の脇にパンが並んでいる。向かいにはコンクリートと木を組み合わせた大きなカウンターがある。物販の会計と料理やドリンクの準備がひとつのカウンターの中で行われるベーカリーカフェの入り口の脇にパンが並んでいる。向かいにはコンクリートと木を組み合わせた大きなカウンターがある。物販の会計と料理やドリンクの準備がひとつのカウンターの中で行われる

パン工房を備えた魅力ある店舗に

店舗部分は、立川駅周辺に多いチェーン店舗とは差別化を図るインテリアデザインと、表参道の「パンとエスプレッソと」とコラボレーションしているという話題性も加わり注目を集めている。

店舗のファサードはガラス張りで、外から並べられたパンが見える。店内の奥には1,000万円以上かけてつくったというパン工房があり、テーブル席からパンがつくられる様子を眺めることもできる。

山崎氏は「朝は入居者の朝食に、昼間は近隣の方に使ってもらうことを中心に考えている」と説明する。入居者にも他の人にも、全てのメニューを同じ値段で提供している。入居者は客単価が低いが、利用回数が増えることで自然とカフェとのつながりができやすくなる。

入居者にとっては、月々のカフェの利用代金が余った場合も翌月への繰り越しや買い取りはできないため、カフェのある生活をしたい人が入居することになる。とはいえ、護国寺の入居者には月末が近づいても利用代金を使い切れない人も実際のところいるという。そういった場合はどういう対応が行われるのだろうか。「カフェでの物販が充実していることから、入居者の工夫で運営側が意図しなかった面白い使い方もされるようになっています。月末が近づいて25日や26日になっても5,000~6,000円残っている場合には、ビールなどの飲み物を買い込んで料金を使い切る人もいるようです」(山崎氏)。

インテリアのデザインコンセプトは、他のソーシャルアパートメントや立川の住戸部分にも共通する「西海岸風」で、コンクリートと張り分けた木材の表情が楽しめる。店の外からはパンが並んでいる様子が見えて、店内に入ると大きなカウンターで店員が元気に働く様子が見える。店の中ほどに設けられた個室は「ママさん5〜6名で使ってもらいたい」という意図で子供連れでも過ごしやすいソファー席を採用している。

店の奥には4つのテーブル席があり、その奥にパン工房が見える。毎日ここでパンがつくられている店の奥には4つのテーブル席があり、その奥にパン工房が見える。毎日ここでパンがつくられている

カフェや住居部分のラウンジのデザインが雰囲気づくりの力

住戸部分のインテリアは同施設の雰囲気や住人同士の交流の仕方を左右する。「西海岸風」というテーマで施設ごとにデザインを変えており、特に「ラグジュアリー」と謳われているラウンジは、きらびやかな高級感を装うのではなく、カウンターにはアメリカから輸入した古材を張るなど、コンクリートや様々な表情の木を組み合わせている。

施設内の全てのインテリアデザインは、カフェのインテリアデザインなどを数多く手掛けてソーシャルアパートメントの7割以上の物件を担当するデザイナーのTOSAKEN(トサケン)が手掛けた。32歳の山崎氏と年齢の近いデザイナーを起用して、同じ世代の20代〜30代に受け入れられやすい内装に仕上げた。

1階はセキュリティーのあるエントランスを入るとエレベーターがあり、他のラウンジなどを通らずに自室へ向かうことができる。さらに通路を進むとランドリールームやワークスペース、トイレ、ラウンジが並んでいる。

ラウンジはキッチンやカウンター、ボックス席、ソファーやテレビのあるリビングエリアがある。山崎氏は「飲食店にあるような、普通の家にはない家具を選びました」と説明する。キッチンにはコンロとシンクを4セット設置した。ゴミの捨て方などから起こるトラブルを防ぐためにキッチンの内部を映す防犯カメラを設け、問題が起こった場合に確認できるようにしている。ラウンジに私物が置けるように個人用のロッカーも設置した。

ワークスペースには作業スペースとなるカウンターとテーブル席を2つ設けており来客との打合せにも対応できる。フリーランスで仕事をする入居者も多く、夜は騒がしくなることが多いラウンジとは別に落ち着いて仕事できるスペースは好評だそうだ。

2階以上の各階には、専有部とトイレやシャワールーム、階によってはバスルームを設置した。さらに屋上が利用できる点も、ソーシャルアパートメントの魅力のひとつだ。立川や国立の街を一望できて、夏には昭和記念公園の花火も楽しめる。

こういった共用部の付加価値を、少し高い家賃を払っても楽しみたいという人がソーシャルアパートメントに入居するケースが多い。入居者は20代から30代の社会人を中心で平均年齢は約29歳だ。共用部を充実させた集合住宅は増え続けているが、山崎氏は今後の展開に強気の姿勢を見せる。

「場所を絞って開発するのではなく、面白い物件があるところに開発しています。今年は6棟が加わり、来年も年明けには3棟のリノベーションが完成する予定です。職住近接の都心にも、共用部を充実させられる郊外にも需要の増加が期待できます」と拡大に力を入れている。都心での需要は飽和状態と聞くこともあるが、参入が相次いでいることで付加価値や設備の充実が期待できそうだ。

ソーシャルアパートメントのラウンジ。写真手前はソファーを並べたラウンジで、右奥にキッチンとカウンター、左奥にはテーブル席がある。ひとつの空間でもエリアによって素材を変えることで変化をつけている。入居者がキッチンを使っていたソーシャルアパートメントのラウンジ。写真手前はソファーを並べたラウンジで、右奥にキッチンとカウンター、左奥にはテーブル席がある。ひとつの空間でもエリアによって素材を変えることで変化をつけている。入居者がキッチンを使っていた

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