相続した実家の土地。隣との境界はどこ?
生まれてから親や兄弟とともに暮らしてきた一戸建て住宅。この愛着のある実家を相続で引き継ぐことになった。その時、実家を初めて「不動産」として意識する人も少なくないだろう。特に古くから都市部にある一戸建て住宅は、隣地との関係などにおいて放置されてきた問題が、相続を機に表面化する場合が多く、不動産としての課題があれこれ見えてくることがある。新たに所有者となる相続人は、これをどう解決すればいいのか。
親世代が残した大きな資産である家や土地を問題なく利用していくために、必要な知識と解決方法を3回にわたって解説する。1回目の本稿は、土地の境界問題に光を当てる。1990年代以前に、分譲されたり売買されたりした一戸建て住宅には、境界が曖昧なまま、隣地との慣例で使用されている土地も多い。相続財産である土地の境界を未確定のまま放置するとどのような問題が起こるのか。土地の境界に詳しい土地家屋調査士の石田貴子さん(有限会社トヨノ測量設計事務所)と考える。
境界標とは何か
「ここからここが自分の土地。向こうが隣の土地」というように、土地と土地の境を境界という。境界には、登記された境である「筆界(ひっかい)」と、所有権の境を示す「所有権界」という2つの概念がある。筆界と所有権界は一致することもあれば、一致しないこともある。
まず、土地の境界を知るためにはどうすればいいのか。
「土地の境界は目に見えません。そこで目印としてコンクリート杭や金属杭でできた境界標というものがあります。境界標は土地の境界となるポイントを示しており、このポイントとポイントを結んだ線が境界です。この境界をもとに土地の形や広さ(地積)を正確に計算し図面に表したのが、地積測量図というもの。法務局でこれを保管し、請求があれば誰でも閲覧でき、写しも交付されます」
まずは、境界標を見つけ、それを結んだ線が、今までの隣地との境目の認識と合っているかどうか。それを確かめたい。
境界が未確定のままだとどのような問題が起こるのか
土地の売買では、買主に土地の境界を明確に示すことが求められるようになった。これまで「公簿取引」という取引では、慣習的に登記簿による地積や公図による位置関係だけが示される場合もあった。しかし現在は、土地の売主には境界明示義務があるとされ、契約書には売主は売買契約締結後、残代金支払い日までに、買主に現地で境界標を指示して隣地との境界を明示することを定めた条項が付される。
境界が未確定だったり、曖昧なまま放置しておくと、どのようなリスクがあるのだろうか。
「例えば、隣地の所有者が相続で変わったタイミングで、境界を確定したいと申し入れられたとき、被相続人の了解とは違う主張がなされる場合も考えられます。つまり、公的なエビデンスなしに人間関係上の了解だけで認識していた境界の位置は、人が変われば当然変わってくる可能性もあります」
つまり、境界問題を放置すれば、世代が変わり土地を売却するときなどのリスク要因となることがある。
実際にいざ売買する時になって、改めて境界確定を行おうとすると、時間がかかる。なにより合意が得られない場合など、その時点で売却できなくなることもある。
境界線が認識と違った場合どうすればいいのか
今までの認識と境界の位置が違っていた場合どうすればいいのだろうか。
「よくあるのが、隣地との境界にブロック塀があるケース。ブロックの中心が土地境界だと認識されている場合が多いのですが、ブロック塀を隣が設置したと主張された場合、通常は自分の土地(敷地境界の内側)に設置しますから、隣の主張では境界はブロックの外側ということになります」
ブロック塀を撤去したり作り変えたりする時にも問題が起こる。どちらが費用を負担するかという問題だ。塀がどちらの所有物であるかで当然負担者は変わるし、中心を境界とする場合でも、どちらが費用を負担するかという問題も起きる。
「かかる費用と境界の線引きを天秤にかけて話し合うこととなります。境界は譲って、その分ブロック塀の設置を任せるなどの解決方法が考えられます」
ブロック塀だけではない。屋根の越境問題もよくあるという。
「建物は敷地境界内に収まっていても、屋根の庇が越境している場合があります。建物ですから、屋根だけ切り落とすわけにはいかないので、将来建物を建て直す場合は改善してもらうように『覚書』を交わすのが、現実的な解決方法です」
話し合いで、引くところは引き、境界を決めていくのが、現実的解決方法のようだ。
そもそも不動産登記とは?土地家屋調査士とは?
そもそも不動産登記とは、土地や建物について、所在、面積といった物理的状況と、所有者の情報、抵当権の有無などの権利関係を、法務局(登記所)が管理する登記簿といわれる帳簿に記載し、公開するもの。不動産取引の安全と円滑を確保するための制度だ。
土地家屋調査士は、依頼者の代わりに土地や建物の調査・測量を行い、法務局への登記申請を行う。
「土地や建物を登記というかたちで“見える化”する職業ですね。見えない土地の境界や隠れた建物のスペックも登記で明確になります」と石田さん。建物の新築・増築、土地の分筆、境界確定など、不動産の物理的な状況が変わる場合、兼ね備えた測量技術と法律知識を基に正確な図面を作成し、登記申請を行う。
「土地家屋調査士に相談したい場合は、各都道府県にある土地家屋調査士会や土地の所在する地域を管轄する法務局で紹介してもらえます」と石田さん。土地の調査・測量と、不動産登記の専門家・土地家屋調査士。引き継いだ大事な財産を守っていくためにも、覚えておきたいプロフェッショナルである。
筆界特定制度やADR(境界問題解決支援センター)はどのような制度か
境界問題が話し合いによって解決しない場合、最終的には裁判によって争うことになる。しかし、その前に第三者的立場から判断してもらえる制度がある。
ひとつが、法務局の専門官による筆界特定制度。これは、隣地との境界線(筆界)が不明確な場合に、土地の所有者からの申請に基づいて、法務局が筆界調査委員の意見を踏まえて現地を調査し、公的な判断により位置を特定する制度だ。裁判の費用や手間をかけずに境界トラブルを解決できる。
これとは別に、弁護士と土地家屋調査士によるADR(境界問題解決支援センター)という制度もある。ADRは、土地の境界に関する紛争を裁判をせずに簡易かつ迅速に解決するための専門的な機関だ。裁判外紛争解決手続の利用の促進に関する法律(ADR法)により法務大臣の認証を受けた土地家屋調査士と、法律の専門家である弁護士が協力して、当事者間の話し合いを仲介し調整、境界に関しての合意を目指す。
ADRはあくまで当事者間の合意形成をめざす任意の解決手段である。これに対して、筆界特定制度は「法務局」が筆界を特定するという点で「行政」による特定手続きとなるため、相手当事者の合意が得られない場合や、そもそも相手が不明な場合などでも、利用できる。
将来のリスクを回避するために、相続前の手続きを
今では、土地の境界を明確に示すことが法律によって求められているが、かつては「公簿取引」といって、登記簿上の情報だけで行う取引が常態化していた。
しかし、土地の境界や寸法は、売買取引や建物を建てるうえで非常に重要な情報だ。例えば建築物を建て替えるとき、土地の大きさによって、できることとできないことが決まる。
将来相続が予定される土地は、相続で所有権を移転した後ではなく、できれば被相続人の手で境界を確定し、法務局に更正登記として登記しておくのがベストだろう。土地の面積と範囲が明確になり、登記簿の面積が正しい数値に修正され、最新の地積測量図が法務局に登録される。これによって、将来の売買や融資の際の抵当権設定などでのトラブルを防ぎ、円滑な不動産取引を進めることにつながる。








