過疎化による商業施設の閉店。買い物選択肢の減少は地方の課題
人口減少や高齢化、空き家など多くの問題を抱える日本。特に地方ほどその影響は大きい。
地方地域では過疎化に伴い、複合商業施設や個人経営の商店が閉店し、テナント募集の看板が立っていたり廃墟化していたりすることも少なくない。買い物選択肢が減少し生活利便性が低下すれば、人口減少に拍車をかけることにもなりかねないだろう。
愛知県の南東部。北は三河湾、南は太平洋、西は伊勢湾と三方を海に囲まれた渥美半島に位置する田原市は、温暖な気候を活かし農業が盛んで、キャベツやトマト、メロンなどの生産量は全国トップクラス、花き産出量は全国1位を誇る。美しい景観が広がる観光地として知られる1971年、愛知県の南東部に位置する田原市旧渥美町地域にオープンしたのが「ショッピングセンターレイ」。当時は最先端の商業施設として、全国に知られる存在だったそうだ。そんなショッピングセンターレイも、地域の人口減少や周辺にドラッグストアやコンビニエンスストアなどができたことにより客足が落ち込み、徐々に空き店舗も増えていったという。そして2022年、50年の歴史に幕を閉じた。
地元住民はこう話す。「閉店すると聞いたときは本当にショックでした。思い出がたくさんつまっていましたからね。学生時代は学校帰りにみんなでよく寄り道しました。昔は大人も子どももみんなが集まる、まちの中心的なお店だったんですよ」
まちの人に長年愛されたショッピングセンターレイの閉店は、地元の人たちの心にぽっかり穴があいてしまうような出来事だったそうだ。
先述の地元住民はこう続ける。「3年振りにリニューアルオープンすることになって嬉しいです。この日をとても楽しみにしていました」
そう。2022年に一旦閉店した「ショッピングセンターレイ」は、地元企業「あつみ編集舎」が買収し改修。2025年2月28日、「あつみの市 レイ」として新たなスタイルで営業を再開したのだ。
今回はレイ復活の立役者である、あつみ編集舎 代表取締役社長の渡会一仁さんに話を聞いた。
あつみの市 レイは50年後の渥美半島へのプレゼント。関係人口を生む新たな拠点に
ついにリニューアルオープンを果たした「あつみの市 レイ」。まずはどんな複合商業施設となったのかを紹介したい。
キーテナントは、地元の農産物も揃う食品スーパー「フードオアシスあつみ」。1kmほど東にあった「福江店」が移転してきた。余談だが、空き店舗になった旧福江店は、今後、地元農産物の加工場になる予定だという。また新たな雇用が生まれ、人口の流入などが期待できそうなトピックだ。そのほかにも渡会さんのなかでは新たな企みも考えているという。じつに楽しみだ。
話を戻そう。新しくなったレイにはほかにも、ベーカリー「パン工房あつみ」やレストラン「あつみ食堂」など、地元の人たちの食を彩る店舗が並ぶ。ここまでは比較的ほかの商業施設でも見かけるラインナップかもしれない。
しかし「あつみの市 レイ」には、地元住民と渥美半島を訪れる人たちをつなぐ店舗やスペースがある。順に紹介していこう。
まず特徴的なのが、1階の広い全天候型の多目的スペースだ。旧レイの外壁を取り払い、廃材などを活用したテーブルやベンチを配置。スケボーパークやイベントスペースとしても活用するという。
そして1階に入店するのが、ビール醸造所とビールを提供するパブレストラン「渥美半島醸造ブリューパブ」。今後は渥美半島で採れる野菜や果物を使用したオリジナルクラフトビールを醸造する予定だ。大型バスの駐車場も3台分完備。地元の人たちが集うだけでなく、新たな渥美半島の立ち寄り観光スポットとなりそうだ。
「渥美半島は年間200万人もの観光客が訪れます。みんな『海があって山があって食べ物もおいしくて、いいところですね』と言ってくれる。そんな人たちを関係人口として取り込めないかと思いました。お土産に購入した缶ビールを飲みながら、『こんなまちに行ってきたんだよ』とお土産話に花を咲かせる。缶ビールのQRコードを読み取ると渥美半島の詳細が表示され、さらに渥美半島を身近に感じてもらえる。ビールをきっかけに渥美半島に興味を持ってくれる人が増えたらうれしいですね」(渡会さん)
2階に設けられたのは「ゲストハウスあつみ編集舎」。ドミトリータイプや個室などが用意されており、安価に宿泊ができるのがうれしい。個人やビジネス、団体利用はもちろん、移住は少しハードルが高いという人が長期滞在することもできるだろう。
渡会さんはこう話す。「渥美半島へはドライブで訪れる人が多いんです。でも本当は、より地域の良さを感じてもらうためにゆっくり滞在してほしい。たとえば朝サーフィンをして、昼間は農作業をし、収穫したものをここで食べる。ブリューパブでビールを飲みながら地元の人と交流し、そこで仲良くなった人たちと翌朝はちょっと早起きしてとうもろこしの収穫。昼はヨットに乗って沖まで出よう、夜はBBQでもするか……。そんなふうに暮らすように滞在してもらえたら。そのためにもゲストハウスを活用していただきたいですね」
どの地方も人口減少は大きな課題だ。一方で、多様な働き方ができるようになった現代において、移住や二拠点生活を検討している人も少なくない。
「何もしなければ人口減少は進むばかりです。しかし渥美半島のポテンシャルはとても高い。東京と大阪の真ん中で、名古屋にも近く、東海道新幹線の豊橋駅にも1時間程度。移住先や二拠点生活先としてもぴったりな土地です。あつみの市 レイが関係人口の増加や、移住・二拠点生活の促進のきっかけとなる場所になってくれたら。『あつみの市 レイ』は、50年後の渥美半島へのプレゼントです」と渡会さんは語った。
惜しまれつつ閉店したショッピングセンターレイ復活への思い
先述のとおり、あつみ編集舎代表の渡会さんは、地元でスーパー事業を展開する「渥美フーズ」の社長でもある。旧レイのテナントには渥美フーズの関連会社のスーパーが入居していたそうだ。
「じつは閉店当初、建物は解体し売却する予定で、買い手や金額も決まっていました。建物を壊し、倉庫のような安価な建物を建てれば、はじめはディスカウントショップなどが入店するでしょう。それは一時的にはいいかもしれません。しかし人口減少している今、その先何十年もそれらの店が営業を続けるとは思えない。そういった建物に変わることが、このまちにとっていいことだとは思えなかったのです」と渡会さん。
たしかに、人口減少が進む地域を車などで通過すると、空き店舗となったそういった店舗を目にすることがある。駐車場には雑草が生え、いかにもさみしい雰囲気が出ていると、まちはどんどん活気を失ってしまうだろう。
「レイがオープンしたのは1971年、私が生まれたのは1972年。私は母のお腹の中にいるときからレイに親しんできたんです。小学生の頃にお年玉でファミコンのカセットを買ったのもレイ、中学校の頃に初めてCDを買ったのもレイ、初めてのスーツも眼鏡も腕時計もレイで買いました(笑)。自分の人生の思い出がつまっている場所がレイなんです。それはきっと私だけでなく、地元の人はみんながそう。そんな思い出がつまったレイを次の世代につなぎ、次の世代にとってもたくさんの思い出が生まれるレイにしたい。そんな思いで買収を決意しました」(渡会さん)
こうして解体して売却する予定だった計画をひっくり返し、あつみ編集舎が買収。新生レイ復活に向けて歩きだした。
苦肉の策が功を奏した全天候型の交流スペース
築50年の鉄筋コンクリート造の建物は、想像以上に老朽化が進み、想定外のことがたくさん起きたそうだ。「なんとかなるだろう……という気持ちで改修計画をスタートしたのですが、なんともならないこともありましたね」と渡会さんは話す。
「旧レイはすべてが屋内でした。以前のように屋内商業施設にすると、スプリンクラーや換気などの設備を整えるために莫大な費用がかかる。もともとあった使えるはずのスプリンクラーも使えないことが判明し、ないと言われていたアスベストもかなりあり、撤去費用だけでも相当かかりました」
費用がかさんでしまい、苦肉の策として屋根は残したまま壁を取り払うことにした。壁をなくしたことで特定建築物の要件から外れ、スプリンクラーの設置義務もなくなり、大幅なコストダウンに成功。屋外であることからオペレーションコストも抑えられた。
「旧レイには、テレビが設置されたスペースがあったんです。幅広い世代の人たちが自然と集まり世間話をする、そんな場所でした。苦肉の策でつくった新生レイの全天候型の交流スペースですが、完成してみるとこういった場所ができてよかったと思います。旧レイのテレビがあったスペースのように、地域の人たちにとって居心地のいい場所になってほしいですね」
まちのコンテンツを編集。「あつみ編集舎」の社名に込めた思い
想定外に築古物件の洗礼を受けた今回の改修だったが、想定外なことはマイナスなことばかりではなかったそう。
「われわれ渥美フーズが以前より掲げているのが『渥美半島エコガーデンシティ構想』。渥美半島をオーガニック半島にしようというものです。オーガニックは農薬を使わないという意味ではなく、低投入・内部循環・自然共生の3つが基本原則。象徴的なのは農業ですが、地産地消やエコサークル活動などを通じ『よりよい未来をつくっていこう』というのがわれわれの理念です。この理念に共感し、地元はもちろん全国から素晴らしい人材が集まってきてくれました。それは本当に奇跡のようなことです」と渡会さんは嬉しそうに話す。
「渥美半島は、自然、農地、立地などに恵まれた素晴らしい土地。でもここに住んでいる人たちは、当たり前すぎて気づいていません。そんな素晴らしい資源を磨き上げ、コンテンツを編集していけば、すごく魅力的なものになるとわれわれは気づいています。必要なのは人、企業、まち、自然、エコなどをつなぎ編集することです」と、渡会さんは『あつみ編集舎』の社名の由来を話してくれた。
スクラップアンドビルドを繰り返し、まちの形を更新し続ける都会。それは都会の豊かさの象徴でもある。しかし地方は同じではない。地方こそ、今ある資源を大切にし、磨き上げることが重要なのではないだろうか。そのために必要なのがアイデアや編集なのだ。
あつみ編集舎がユニークなアイデアでまちを編集した「あつみの市 レイ」は、これから渥美半島の魅力を発信し、まちと人をつなぎ、関係人口を創出する拠点となるだろう。
「ショッピングセンターレイ」でつないだ50年のバトンを「あつみの市 レイ」が受け取った。そして次の50年へとつないでいく。日本一の花のまち田原市で挑戦したこの取り組みは、今後どのように花開いていくのか注目したい。
取材協力:あつみの市 レイ
公開日:
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