観光資源に恵まれた函館旧市街地「西部地区」で進む人口減少問題
「道南の玄関口」と呼ばれる函館は、皆さんご存知の通り北海道を代表する観光地のひとつだ。
100万ドルの夜景でお馴染みの「函館山」のほか、横浜・長崎に並ぶ国際貿易港として発展を続けたまちの歴史を物語る「金森赤レンガ倉庫」、異国情緒あふれる「西洋建築群」など、訪れる人を一瞬で魅了する美しい景観は函館のまちの重要な観光資源となっている。
しかし、函館市内では近年急速に人口減少が進行中。少子高齢化に加え、学びの進路や就職先の選択肢が少ないことから、若者の多くが高校卒業と同時に他都市へ流出してしまうという課題を抱えている。中でも深刻とされているのが、JR函館駅の西側一帯に広がる「西部地区」の衰退だ。
26町で構成された西部地区は函館最盛期の旧市街地で、美しい石畳の坂や教会、明治・大正期の建物、歴史的港湾施設など西洋風の街並みが特長となっているが、地区の高齢化率は46.8%(令和6年データ:函館市平均37.2%、全国平均29.1%)と市内でも突出して高い。
今後さらに高齢化が進めば、まちの活力が著しく低下し、空家や空地が増加することで本来の西部地区の魅力を失いかねない──そこで函館市は2021年にまちづくり会社を立ち上げ、まちの財産である景観を守りながら、定住人口の回復と交流人口の底上げに取り組んでいる。
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まちづくり会社の発足から3年、前回のHOME’S PRESS取材から1年、函館西部地区はどのように変化したのか?「はこだて西部まちづくRe-Design」の北山拓さんに話を聞いた。
地元では当たり前になってしまった地域資源の「本来の価値」を取り戻す
「私自身は埼玉の出身ですが、官民ファンドの地域経済活性化支援機構 REVIC(レビック)からの出向派遣で函館へ赴任しました。現在はまちづくりのリーダー的な存在を務める地元スタッフと一緒にまちづくりの活動を行っています」(以下「」内は北山さん談)
函館に赴任する前は長野県白馬村のまちづくりを担当していたそうだが、
「同じまちづくりを目的としていても、白馬の場合は観光客を増やすこと、函館の場合は定住人口を増やすことが目的であって、地域の課題がまったく異なります」と北山さん。
その地域にあった再生手法を考え、いずれ地域内で自走できるようサポートしていくことが、まちづくり会社の役目だという。
「前赴任地の白馬でも感じたことですが、外から来た人が見ると“素晴らしい”と感じる地域資源も、地元の方にとってはそれが当たり前になっていて本来の価値に気付いていないことが多いんです。西部地区の場合は、明治期や大正期のレトロモダンな建物が当時のままの姿で残されていますが、行政側にも利活用のノウハウがなく苦心している状態でした。そこで、私たちが“外からの視点”で本来の地域価値を見極め、付加価値をつくるための取り組みを行っています」
余談だが、北山さんが担当した長野県白馬村では昔ながらの民宿が多く、オーナーの高齢化が課題となっていた。そこで、地元スキー場との合弁でまちづくり会社をつくり、外部投資を獲得しながら地域資源である民宿のリノベーションを実施。ウィンターシーズンだけでなくオフシーズンでもインバウンド客を受け入れできる環境を整えることができた。白馬村のまちづくりに費やした年月は4年。昨年の基準地価(商業地)は30.2%上昇するなど、その目覚ましい成果は近年多くのメディアで報じられている通りだ。
「地元の皆さんが見落としている地域資源は各地にあります。しかし、それを放置し続けると地域価値が下がり、外部からの投資も来なくなる…そういう負の連鎖を私たちが先兵となって断ち切ることで、地域に新しい風穴を開けられると考えています」
設立から3年、函館の「外」と「中」がつながる投資が生まれるようになった
「まちづくり会社設立から3年が経ちましたが、現時点の成果としては、西部地区の収益不動産に関する問い合わせが急増していることです。
例えば、外部の民間企業さんから“これまで函館になかったコンセプトのホテルを作りたい”とか、“事業所をオープンしたいので空いている建物を紹介してほしい”などの依頼です。
さらに、私たちが仲介しなくても、函館の外の人と中の人同士が直接つながるような投資が生まれはじめている点は、とても良い傾向だと思います」
こうして外部からの投資が入るようになると、そこで働く人が増えるようになる。また、雇用機会が活性化し、賃金がしっかり支払われる仕組みが確立されると、地域の豊かさにつながっていく。そして、その豊かさが「住みたい人たち」を惹きつけるようになる。そのため、今後は収益不動産のニーズをいかに「住宅需要拡大に繋げていくか?」が課題になってくるという。
「現在考えているのは、空き家活用へのシフトです。函館市内にはたくさんの空き家がありますが、実はそのほとんどが市場に出回っておらず、不動産サイト上では“空き家が無い”ことになっています。理由は、持ち主の方がどうしていいのかわからず放置しているから。“どうせ売ってもお金にならないだろう”とか“息子が帰ってくるかもしれないからそのままにしておこう”とか、皆さんいろんな事情があります。
空き家問題は、住宅需要がないから発生すると思われがちですが、実は供給サイドで流動化していないことが一番の問題。その問題に対してアプローチできる仕組みづくりをいま仕込んでいるところです。例えるなら、行政の空き家バンクにもう少し資本主義を取り入れたもの…具体的にどんなシステムになるか?は、できてからのお楽しみです(笑)」
函館市の各地元町会と大手企業をマッチングする活動支援も同時進行中
空き家活用に加え、もうひとつ力を注いでいるのが町会支援だ。
函館市では、市内にある街路灯約3万4千灯のうち、約6割(約2万灯)が各町会等で維持・管理されているが、令和6年4月時点の町会加入率は48.1%まで激減。町会活動の衰退は、100万ドルの夜景だけでなく、夜間の犯罪抑止や交通安全確保にも大きな影響を与えることになる。
「町会活動の担い手不足や町会館の維持は大きな課題です。これは私どもの会社というより、函館市が行政として取り組んでいることですが、そのサポートの一環として各町会と大手企業をマッチングし、ミクロな活動にも外部投資を入れる取り組みを行っています。例えば、凸版印刷さんのDXツールを活用し、町会の皆さんにインストールしてもらって、活動効率を高めるような事例です。
こうした取り組みについて、若い世代の多くの方は共感して下さっているんですが、函館の最盛期を体験された高齢世代の一部の方は“外資が入ると既得権益が奪われてしまうのでは?”と不安に感じていらっしゃるようです。こうした世代間のマインドセットの違いについても、もう少し時間をかけて丁寧に変化させていきたいと考えています」
いちばん大切なのは函館に“このまちに感じる価値”を一緒の人を増やすこと
最後に「はこだて西部まちづくRe-Design」が目指すエンドゴールはどこにあるのか聞いてみた。
「外の人と中の人が融合しながら、一緒にまちづくりを行っていることですね。定住人口の増加が本来の目標ではありますが、函館のまちが好きな人だったら、別に実際に住まずに通ってくれるだけでもいい。
いちばん大切なのは“このまちに感じる価値が一緒の人たち”を増やしていくことで、その価値を体現するような事業を“外の人と中の人が一緒になってやっている”というのが私たちの理想像なんです。
もともと函館はペリー来航以来、外国人や外国文化を積極的に受け入れてきたまちですから『外からのモノ』を受け入れる土壌があります。こうした歴史的なストーリーにも絡めながら、函館のまちの活力を取り戻していきたいですね」
函館が誇るべきポテンシャルは、豊富な地域資源が眠っている点だ。その眠る資源をいかに発掘し、磨き上げ、次世代へ価値を継承していくのか?「はこだて西部まちづくRe-Design」の今後の活動に期待したい。
■取材協力/「はこだて西部まちづくRe-Design」
https://h-we-r.com/
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