『地震に強い家づくり』が一条工務店の原点

地震大国、日本。

近い将来、南海トラフ地震や首都直下地震は高い確率で発生することが予想されており、いつどこで巨大な地震が起きても不思議ではない状況だ。

近頃は大きな揺れを感じる地震が頻発しており、報道等で被災地の様子を目にするたびに、多くの人が危機感を抱いているのではないだろうか。しかし時間の経過とともに、どこか他人事のように感じてしまうことも残念ながら少なくない。

耐震性能に不安を抱えている家屋などでは、まずは人命を守る対策、つまり耐震補強工事をしたいと考えるだろう。しかし費用や工期などを理由に諦めている人がいるのも現実だ。

今回紹介するのは、一条工務店が販売を続ける「木質耐震シェルター」。

耐震シェルターと聞くと、高額で大がかりなものを想像する人もいるかもしれないが、同シェルターのスタンダードシリーズは、税込み・施工費込みで27万5,000円(金額は取材時点。以下同)。しかも工期はわずか2日間だというから驚きだ。

木質耐震シェルターの開発経緯や性能へのこだわりなど詳しいお話を、一条工務店 制作・広報部 課長の津川武治さん、そして同じく制作・広報部の加藤亜沙美さんに伺った。

一条工務店の津川さん(写真左)と加藤さん(写真右)一条工務店の津川さん(写真左)と加藤さん(写真右)

今回筆者が訪れたのは、静岡県浜松市にある「一条工務店 浜松工場」。
1978年にこの地で創業した同社は、今や日本を代表する大手ハウスメーカーへと成長した。地震・台風・水災・火災などに備えた防災住宅開発のリーディングカンパニーとして業界を牽引する存在であるのは、言うまでもない。

「当社が創業した1978年は、東海地震の危険が叫ばれ始めた頃でした。予測される東海地震の震源地はこの浜松市近辺。だからこそ『地震に強い家づくり』が一条工務店の原点です。創業当時からその思いは、脈々と受け継がれています」と、津川さんは話す。

価格にこだわった耐震シェルター

同社が2006年から販売を続けているのが、今回紹介する「木質耐震シェルター」。

既存の住宅に手を加えることなく、一室にすっぽりとシェルターを設置。部屋を耐震シェルターとして使用するのが特徴だ。

「木質耐震シェルターを設置されるのは、一条工務店のお施主さまだけでなく、むしろ当社以外で建てられたお客さまが中心です。築年数が経過している木造住宅にも設置できるので、『地震対策に関心はあるけれど、そこまでお金をかけられない』という方にお選びいただいております」

一条工務店浜松ショールームでは、木質耐震シェルターの実物を見学可能。詳しくは最寄りの展示場へ問合せを一条工務店浜松ショールームでは、木質耐震シェルターの実物を見学可能。詳しくは最寄りの展示場へ問合せを

種類はスタンダードシリーズとワイドシリーズの2種類。

スタンダードシリーズは既存住宅の4畳半から6畳くらいの部屋の中に設置することが可能で、内部の広さは3畳強。一方のワイドシリーズは8畳程度の部屋の中に設置でき、内部は4畳半程度の広さだ。

気になる価格は、税込み・施工費込みで、スタンダードシリーズが27万5,000円、ワイドシリーズが38万円。床の構造がシェルターの重量に耐えられるかを事前確認し、補強が必要な場合は別途費用が必要にはなるが、基本的には上記の価格で設置できる。

津川さんはこう話す。
「これから起こるであろう地震に対し、新築住宅へ地震対策の提供をするだけではなく、そこに至らない方々に対しても地震対策を考えるのが、われわれの『使命』であると考えています。そのためには安価であることが大切です。当社の技術をもって行う耐震改修には、もっと費用のかかる別の方法ももちろんあります。しかしそれだと多くの方にご採用いただけない。お客さまに『この価格ならやってもいい・やれる』、そう思っていただける価格にすることが、当初からの開発目標でありゴールでもありました」

一条工務店がつくる住宅の材料を応用し、耐震スペックは保ちながらも、できるだけシンプルにすることでコストダウン。社会貢献として開発し、採算はほぼ度外視という企業努力によって、多くの方が採用しやすい価格が実現したのだ。

設置後はリフォームしたような雰囲気に

耐震シェルターの設置には、シェルターの重量に耐えられる床の構造や強度、侵入口の広さや搬入経路の確保が必要なため、事前調査で確認。

設置可能であれば、工場で製作したパネルを既存住宅の部屋に運び入れ、内側からシェルターが組み立てられる。既存の部屋の内部に木の箱を入れ込むような形でつくられるため、床の補強工事がなければわずか2日間で設置可能だ。

写真はシェルター内部。スタンダードシリーズの広さは3畳強。シングルベッドが2つ置けるほどの広さが確保されている写真はシェルター内部。スタンダードシリーズの広さは3畳強。シングルベッドが2つ置けるほどの広さが確保されている

耐震工事といえば、基礎から補強したり壁の増設をしたりするなどの方法があり、その場合かなり高額になるうえに工期も数週間かかることが多い。しかし、一条工務店の木質耐震シェルターならそれらに比べかなり安価であり工期も短いのは大きなメリットだ。

もともとの部屋と比べると少しコンパクトにはなるが、天井・壁・床が一新され見た目もきれいに仕上がることにより「リフォームされたみたい!」と好評だという。

また就寝中の地震に備え、寝室にシェルターを設置するご家庭も多く、「安心して眠れるようになった」という声も多く聞かれるそうだ。

実物大の建物で実験し、耐震性能を確認

構造の強さは、計算だけでも数値を出すことができる。しかし一条工務店は創業以来、住宅メーカーでもいち早く実大実験を開始。実物大の建物で実験し性能を確かめることで、より確かな安心を提供してきた。
木質耐震シェルターももちろん実大実験を実施。しかも3つの実験を行っている。

1つ目は、2階建ての建物の中に同シェルターを設置し、建物を倒壊させる実験。結果はシェルターのクロスに少し亀裂が確認された程度で、損傷はほとんどなかったそうだ。

実験後の様子。建物はシェルターに覆い被さるように倒壊したが、シェルター内部はほぼ損傷なし実験後の様子。建物はシェルターに覆い被さるように倒壊したが、シェルター内部はほぼ損傷なし
木質耐震シェルター落下実験(写真上)と防護性能確認実験(写真下)木質耐震シェルター落下実験(写真上)と防護性能確認実験(写真下)

2つ目は、木質耐震シェルターを地上5mの高さまで持ち上げ落下させるという実験。
実際にはこんな状況になることはないのだが、耐衝撃性能を確認した結果は、室内仕上げ材の一部でパネルのジョイント部にシワが発生、屋根パネル一部の合板に浮きが見られたのみだった。

3つ目の実験は、木質耐震シェルターの上部3mの高さから3トンの瓦を落下させるという実験。
結果は壁パネルのクロスに亀裂が確認され、天井パネルの中央部・下地合板に多少の割れが発生した程度。内部の安全は十分に確保され、高い防護性能が立証された。

このように、普通ではあり得ない衝撃をシェルターに与え、徹底的に耐震性能を確認しているのだ。

家が浮く!? 住まいの性能を体験

今回の取材にあたり、浜松工場内にある木質耐震シェルター以外の体験施設も見学させていただいた。なかでも非常に興味深い性能が、耐水害住宅だ。

近年、台風や線状降水帯の発生などにより、河川の氾濫や内水氾濫が頻発しているが、同社の耐水害住宅は船のように水に浮き、家や家財道具を守るという。そして水が引くと、ほぼ元の場所に戻る。施設では、家の内部に浸水しない仕組みや水に浮いても流されない仕組みなどを体感することができるのだが、その仕組みは想像以上にシンプルなものであることに驚いた。

テクノロジーを駆使することもできるのだろうが、木質耐震シェルターと同じく、あまりに高額な耐水害住宅であっては、お客さまに採用していただけない。これまで同社が培ってきた技術や知恵、建築部材の特徴などを活用することにより、低コストを実現しているのが一条工務店のこだわりだ。

ちなみに一般的な大きさの住宅であれば、新築時に80万円程度のオプション費用で、浮上タイプの耐水害住宅にすることができるそうだ。仮に床上浸水してしまい、家具や家電を買い替えることになることを考えれば、決して高い買い物ではないことがわかるちなみに一般的な大きさの住宅であれば、新築時に80万円程度のオプション費用で、浮上タイプの耐水害住宅にすることができるそうだ。仮に床上浸水してしまい、家具や家電を買い替えることになることを考えれば、決して高い買い物ではないことがわかる

他人事ではない災害に備える住まい

加藤さんはこう話す。「私は東海豪雨を経験しています。被災当時の家が耐水害住宅だったら……と考えることもありますね。水害に限らず、さまざまな災害が増えていると感じる今、どんな状況になっても『この家なら安心』と思える建物を、これからも提供していきたいです」。

そして津川さんはこう続ける。「地球温暖化や異常気象、状況は地球レベルで変化しています。こういった環境や時代の変化によって、家も変化と発展をしていかなければならない。われわれはその時代のゴールを持ちながらも、終着点を定めず家を進化させていきたいと思っています」。

住み心地のよさの追求はもちろん、大切な命を守り、家を守り、暮らしを守る“お客さま目線の”家づくりにチャレンジし続ける一条工務店。

いつどこで起きても不思議ではない地震だからこそ、自分や家族の命を守る備え「木質耐震シェルター」の存在は、私たちに大きな安心感を与えてくれるだろう。「木質耐震シェルター」について知った今が、耐震について考えるいいタイミングなのかもしれない。



取材協力:一条工務店

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