業界でも画期的だというAI不動産売却査定の開発

日本の不動産業界において、テクノロジーの活用はまだまだ発展途上にある。
とくに不動産売却査定については、住まいという人生最大の資産を扱うからこそ、その価値判断には高い透明性と納得感が求められる。

今回、株式会社ウィルは今回、株式会社LIFULLと生成AIを基盤とした「成約価格推定AI」を共同開発。2025年5月20日(火)より「AIウィルくんのマンション査定」の提供を開始している。

業界でも画期的だという生成AIの不動産売却査定サービス。
なぜ、不動産売却査定の領域において、2社が協力し生成AIを活用したサービスの開発に挑んだのか、またその裏側にはどのような課題や工夫があったのか。

今回のプロジェクト開発の中心人物である株式会社ウィル デジタルマーケティンググループ部長 室 薫氏、株式会社LIFULL イノベーション開発部長 山﨑 顕司氏のお二人に、その舞台裏と未来への展望を語ってもらった。

「 AIウィルくんのマンション査定」の開発に関わった株式会社ウィル デジタルマーケティンググループ部長 室 薫氏(右)、株式会社LIFULL イノベーション開発部長 山﨑 顕司氏(左)「 AIウィルくんのマンション査定」の開発に関わった株式会社ウィル デジタルマーケティンググループ部長 室 薫氏(右)、株式会社LIFULL イノベーション開発部長 山﨑 顕司氏(左)

10年越しの信頼と、AIへの危機感がつないだ共同開発

――まず、今回のプロジェクトが始まったきっかけについて教えてください。

室氏: 今回、生成AI開発のパートナーとしてLIFULLと共同ですすめましたが、最初に出会ったのはもう13、14年前になります。当時、LIFULLが開催していた「ホームズエキスポ」というイベントに関西で参加しお会いしたのが始まりです。
それ以来、LIFULLの社員の方とお話しすると、いつも違和感がなく理念が似ているな、と感じていました。多くの企業が売上や成果を最優先にする中で、LIFULLは「利他主義」というビジョンを大切にし、その結果として利益を出そうという企業文化があり、それが私たちウィルの『不動産業界のイメージを変えたい。』『心を打つ仕事がしたい。』という考え方と非常に似ていたのです。

山﨑氏: ありがとうございます。イベントからのお付き合いをきっかけに長年の信頼をいただいていたのですね。今回のプロジェクトについては、ウィルから「不動産売却査定のAI開発を行いたい」という熱烈なラブコールをいただいたのがファーストコンタクトでした。

室氏: きっかけは、ここ数年のWebやテクノロジーの進化スピードの速さを肌で感じていたからです。2024年頃に生成AIなどのサービスに触れた際、「これはスピード感が全然違う」と驚愕しました。このまま自社だけで内製化していても遅れてしまうという危機感があり、以前から信頼関係があり、先行して「AIホームズくん」をリリースしていたLIFULLに相談させていただきました。

山﨑氏: 開発において、SaaSなどソフトウェアを使うか、内製化するか、外注するのか、それぞれのメリット・デメリットを整理し、ウィルが成し遂げたいビジョンに近い選択をすべきだと最初にお話ししました。そこで、期待する要件を整理していただいた後に、「AIで売却査定をLIFULLさんで開発できないか?」と具体的なご相談をいただき、プロジェクトがスタートしました。

「ここ数年のWebやテクノロジーの進化スピードの速さに脅威を感じていた」という室氏「ここ数年のWebやテクノロジーの進化スピードの速さに脅威を感じていた」という室氏

人の「勘」と「営業の経験」でばらついてしまう従来の不動産売却査定の課題

――これまでの「人が行う売却査定」には、どのような課題があったのでしょうか。

室氏: 今までの不動産売却査定は、主に担当者の経験と判断に基づいて行われてきました。担当者が現地を訪問し、物件の立地や築年数、周辺の取引事例、相場動向などを総合的にみながら、売却可能と考えた価格を提示するのが一般的なものです。こうした査定は、長年にわたり多くの取引を経験してきた担当者ほど精度が高まる一方で、査定結果が担当者の経験や土地勘や判断軸に左右される側面も持ち合わせています。

――データから算出するという方法は今まではなかったのでしょうか。

室氏: 不動産査定には主に「取引事例比較法」「収益還元法」「原価法」という3つの手法がありますが、居住用では主に「取引事例比較法」が使われます。しかし、この比較法には難しさがあります。まず、過去に売れた値段(実事例)に引っ張られてしまい、その物件が持つ本当のポテンシャル価格かどうかが分からないという矛盾を抱えています。

――なるほど。適用する事例選びにも属人性が生じそうですね。

室氏: どの事例を採用するかはマニュアル化しきれず、現場の感覚に委ねられています。さらに大きな課題として、私たち不動産会社には「媒介契約を取りたい」という営業的な動機があります。お客様から物件をお預かりするため、できるだけ高い価格を提示したいという希望と期待へのバイアスがかかり、正確な価格が不明確になることがあるのです。

山﨑氏: 高く売りたいお客様と、安く買いたい市場のバランスの中で、なぜその価格なのかという「正しさ」や「納得感」が求められる非常に難しい領域ですよね。

「人が行う売却査定には多くの課題があった」「人が行う売却査定には多くの課題があった」

「ブラックボックス」からの脱却。なぜ生成AIだったのか

――そこで今回の開発につながるわけですが、従来のAIではなく「生成AI」を選んだ理由は何でしょうか。

山﨑氏: 当初の開発要件は、従来の機械学習を⽤いた開発手法という希望をいただいていました。更に、自分たちでチューニングできる余地を残して欲しいと(笑)。機械学習を⽤いたAI査定サービスは既に世の中に存在していますが、それらは決められたルールに従って⾦額を算出するだけで、なぜその⾦額になったのかというプロセスが「ブラックボックス」な点が特徴です。

室氏: 実は約5年前に、購入側の機械学習ベースのサービス(AIウィルくんの『住まい提案サービス』)はリリースしているのですが、機械的に出したレコメンドされる内容に納得感がなく、しかもどういったプロセスで出されているのかがわからないので自分たちで修正もできない、という苦い経験がありました。

山﨑氏: 生成AIの技術を使えば、価格の算出だけでなく、その背景にある「なぜこの価格なのか」という言語化や論理的な説明が可能になると考えました。ウィルは25年前からファイルメーカーを使って今までの営業実績ややり取りなどのデータを蓄積・管理されており、アナログな情報をデジタル化に変換する土壌があったことも大きかったです。

室氏: 紙の時代からコツコツと入力し続けてきた約75万件の成約データが、今回生きました。やはり、過去の事例をコツコツデータとして積み上げてきたことは財産であると痛感しました。

「今回の開発には、ウィルさんのアナログな情報をデジタル化する土壌があったことが大きかった」「今回の開発には、ウィルさんのアナログな情報をデジタル化する土壌があったことが大きかった」

開発の壁と、1000回以上の「AIへの教育」

――開発は順調に進んだのでしょうか?

山﨑氏:いえ、やったことのない挑戦ですから、最初は弊社の開発チームも「本当にできるかわからない」と胃を痛めていました(笑)。最初の1ヶ月は不安でしたが、プロトタイプを作ってみて、少しづつチューニングを重ね、やっと「これはいける」という手応えを掴みました。ただ、最も苦心したのはそこからです。AIをどのように「教育」し、営業の現場の知見を定着し、納得感のある結果を提示できるかというフェーズです。ここは、開発者だけではできない、どうしてもウィルの営業現場の方々の経験による知見が必要だったのです。

室氏: AIは非常に頭が良いのですが、不動産実務の経験がない「新人」のような状態です。そこで、元々営業をしていたメンバーも含め、チームで合宿のように時間を決めて、AIへのプロンプト(指示出し)の修正をなんどもなんども繰り返しました。

――具体的にどれくらいの回数を行ったのですか?

室氏: おそらく4桁、1000回以上は試行錯誤しましたね。AIが出してきた答えに対して「ここがズレている」「そうではなくてこうだ」と、現場の営業担当者たちがまさに新人を教育するようにプロンプトの修正を繰り返しました。

山﨑氏:私たちが土台を作り、ウィルの皆さんがドメイン知識、いわゆる現場のリアルな知識を持ってAIを根気よく育成していく……とにかく、ウィルの皆さんのサービスを磨き上げるための熱量が本当にすごかったです。現場担当の営業の方々が教育役を担ってくれたからこそ、実務に即した本当に納得感のある結果を提示できるプロダクトになりました。

「ウィルの営業担当者たちが教育役を担ってくれたからこそ、実務に即した本当に納得感のあるプロダクトになった」「ウィルの営業担当者たちが教育役を担ってくれたからこそ、実務に即した本当に納得感のあるプロダクトになった」

「営業現場がみても違和感がない」対話でも納得感を引き出す日本初のサービスへ

――今回のAI売却査定サービスが画期的だというのはどういった部分でしょうか。

室氏: 従来の「データ入力→金額算出」だけの査定システムとは一線を画すところは「なぜその価格か」を単に数字の査定額を出すだけでなく、その金額に至った根拠と営業がもつ相場観を含めて論理的に文章として説明できることです。これは従来のシステムではあり得ないことでした。さらに、ユーザーがその結果に対して質問を投げかけると、AIが根拠に基づいて回答する質疑応答機能も備えています。これにより、ユーザーが結果だけの投げかけで理解が追い付かないことが起こらず、納得感を得ることができます。

山﨑氏: 従来のAI査定とは異なり、生成AIが人間のように論理立てて価格の根拠を説明できる、また対話を通じて納得感のある結果を提示できる点において、おそらく日本初、あるいは世界でも類を見ない画期的なサービスになったと思っています。生成AIを活用するにおいて、信頼性のあるデータと現場の営業担当者の人間的な考えを入れた教育、繰り返し結果に対するブラッシュアップができたことが成功の大きなポイントだと感じています。

「AIによる不動産価格査定サービス」のサービス概要「AIによる不動産価格査定サービス」のサービス概要
「AIによる不動産価格査定サービス」のサービス概要「AIウィルくんの『住まい提案サービス』」の概要

――完成したサービスの担当者の反応はいかがですか?

室氏: リリース前に社内の営業担当にチェックしてもらったのですが、「営業がなんとなくもっている相場観をAIが再現している」「説明に納得感のある論理的な印象を感じた」「自宅を査定してみたがズレていなかった」「もう少し高く売りたい、査定値では完済できない、等の質問にも適切な回答があり驚いた」といった声が上がっています。「これなら使える」という現場の実感です。今までのシステム開発では「違和感がある」「使えない」ということも多々あるのですが、今回は開発者も現場もお互いに納得感があるという声を聞いています。

山﨑氏: プロの現場で担当している営業がその結果をみて、その説明内容や価格に違和感がないというのはすごいことですよね。

この先にあるのは「情報の非対称性をなくし、住まい手が主役になる」未来

――最後に、このプロジェクトの意義と今後の展望についてお聞かせください。

室氏: 生成AIが不動産情報においてつくりだす最も大きな意義は「情報の非対称性」の解消です。これまで不動産業者が持っていた情報を、お客様がフラットに獲得できるようになると思います。このサービスを育てていきながら、将来的には、街のポテンシャルや生活利便性などを加味した独自の不動産の評価軸も加えていきたいですね。

山﨑氏:まずはこのサービスをしっかりと育てていくことで、ユーザーにどう受け入れられるか検証していきたいです。使っていただければ使っていただくほど、ユーザーに寄り添ったサービスが生まれる可能性があります。

室氏: 日本ではまだ馴染みが薄いですが、欧米のように自分の家の価値を自分で把握し、資産管理していくことが当たり前になる時代が来ると思います。その時にいつでも公正な価格を確認できるこのサービスが、ユーザーにとって大きな価値になると信じています。

山﨑氏:今回のプロジェクトでは、ビジョンを共有できるパートナーと共に、生成AIという新しい技術で業界の課題に挑めたことは非常に幸せな経験でした。

室氏:人と人の縁、企業同士の相性が生んだきっかけをはじめとし、開発にかかわる全員がその知見を生成AIに反映することができたプロジェクトだと思います。これからも共に不動産業界の未来への挑戦を続けていきましょう。

「欧米のように自分の家の価値を自分で把握し、資産管理していくことが当たり前になる時代が来る。いつでも公正な価格を確認できるサービスが、ユーザーにとって大きな価値になる」「欧米のように自分の家の価値を自分で把握し、資産管理していくことが当たり前になる時代が来る。いつでも公正な価格を確認できるサービスが、ユーザーにとって大きな価値になる」

■取材協力
株式会社ウィル
https://www.wills.co.jp/

AIによる不動産価格査定サービス
https://www.wills.co.jp/sell/ai/

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