熊本を代表する企業のひとつ、株式会社Lib Work

住まいの”本当”と”今”を発信するLIFULL HOME’S PRESS編集部が、不動産・住宅会社のトップにインタビューし、その考え方や取組みを聞く企画。今回編集部が訪れたのは、熊本市中心部から車で約50分、熊本県山鹿市に本社を置く株式会社Lib Workだ。

熊本県内に本店を置く上場企業は7社(2024年1月現在)あり、Lib Workはそのひとつ。取材前日、編集部が訪れた熊本市内の飲食店でも、「Lib Workで家を建てた」という人が多くいた。そんな熊本を代表する企業は、いったいどのように生まれ、どう成長してきたのだろうか。株式会社Lib Work 代表取締役社長 瀬口力氏にお話を伺った。

株式会社Lib Work 代表取締役社長 瀬口力氏。2024年1月、熊本県山鹿市のLib Work本社にて株式会社Lib Work 代表取締役社長 瀬口力氏。2024年1月、熊本県山鹿市のLib Work本社にて

突然の跡継ぎ。法曹を志す学生が工務店の社長になった

編集部:貴社の始まりは、お父さま(瀬口正行氏)が設立された瀬口工務店だと伺っています。瀬口力社長が2代目の社長に就任された経緯と、当時の会社について教えてください。

瀬口力氏(以下、瀬口氏):父はもともと大工の棟梁で、1975年に瀬口工務店を創業しました。家を建てたお客さまのところを訪れては不具合がないかを確かめ、そのまま一緒にお酒を飲んで帰って来るような、お客さまと半分友人のように接するような社長でした。しかし私が大学生のときに病に倒れます。当時の私は弁護士を目指して法律を学んでおり、跡を継ぐ気などありませんでした。しかし病床の父を看病する中で、これまでに家を建てたお客さまへの思いなんかをずっと聞くわけです。そして父が亡くなった後、葬儀には多くのお客さまが来られました。そこで父の存在や、父の仕事の意義を強く感じ、遺族代表の挨拶で「僕が跡を継ぎます」とつい口走ってしまったのです。そうして1999年、まだ学生だった私は瀬口工務店の2代目社長となりました。

当時は非常に小さな家族経営の工務店でした。父のもとで現場監督をやっていた叔父に現場を任せて、現在の常務でもある私の母が営業を担当していました。しかし父が担っていた設計業務を行う人は、誰もいませんでした。

瀬口氏が通った熊本大学法学部瀬口氏が通った熊本大学法学部

Webマーケティングで事業拡大。家族経営の工務店が上場企業に

編集部:設計ができる人材がいないというのは、非常に厳しい状況のように思います。しかしそこから現在のような上場企業に成長していくわけですね。

瀬口氏:私は素人なので図面が分からず、設計には本当に苦心しました。そこで3D CAD(設計図を3D化できるソフト)を導入してみたところ、若い従業員がどんどん使いこなしてくれるようになったんです。それによってお客さまも、建てる前に完成形を想像できるようになり、満足度も上がっていきました(現在はVRでの疑似体験を提供)。当時はまだ最先端の技術。数百万円の投資でしたが、従来のハウスメーカーでは実際に足を運んで見られるモデルハウスを提供する代わりに、当社は3Dが見られる環境とホームページを整えていったのです。ちょうどITバブルの頃でしたね…… そこから会社が成長していきました。

<b>瀬口 力(せぐち ちから):</b>1973年生まれ。熊本大学大学院法学研究科修了。99年に同社の前身・瀬口工務店の代表だった父親が死去。同年、代表取締役に就任、2000年から現職。15年福岡証券取引所Q-Board上場、19年東京証券取引所マザーズに上場瀬口 力(せぐち ちから):1973年生まれ。熊本大学大学院法学研究科修了。99年に同社の前身・瀬口工務店の代表だった父親が死去。同年、代表取締役に就任、2000年から現職。15年福岡証券取引所Q-Board上場、19年東京証券取引所マザーズに上場

2004年には、山鹿の工務店から全国で戦えるハウスメーカーになっていこうという思いで会社名を「エスケーホーム」に変更します。父の「お客様第一主義」の考えを守りながら、将来的な上場を目指して歩み始めたのです。その後は当社の特色でもあるWebマーケティングによる集客で事業を拡大し、2015年には福証Q-Boardに上場、2019年には東証マザーズ(現 東証グロース)に上場することができました。

Webマーケティングについては、私が建築に疎かったことが功を奏しました。技術的なことに深く足を突っ込めない代わりに、家を建てる人々の行動を徹底的に分析したのです。そしてインターネットでの家探しが普及しはじめた頃、「会社名で検索する人っていないよね」と気がつきます。家を建てる人はまず土地を探すはずだと考え、2014年に土地探しの専門サイト「e土地net」を開設しました。このように、お客さまのニーズに合わせた複数のWebサイトを作り、さまざまなキーワードから広く集客するようにしたのです。これが今に続くWebマーケティングの始まりで、当社が現在取り組むDX(後述)の礎にもなっています。

サステナブル推進室から生まれるさまざまなアイデアとは

編集部:住宅業界ではWebマーケティングの草分け的存在となった貴社ですが、昨今SDGsなどが意識される世の中において貴社は「サステナブルな家づくり」を前面に掲げています。何か業界の中でも先進的な取り組みを行っているのでしょうか?

瀬口氏:私、実は私が中学生だったころに父が建てた家に今も住んでいるんです。このようによいものを大事に長く使うことがサステナブルなわけですが、そのためには本物の素材を使う必要があります。本物とは、地域の風土に合った、その土地の自然素材です。

またCO2の排出も住宅業界にとって責任ある問題です。住宅の高性能化やZEH住宅が広まることはよいことですが、それをつくる際のCO2排出量を算出しているハウスメーカーはほとんどありません。そこで私たちは、家をつくる過程で出るCO2を可視化して表示するカーボンフットプリントに取り組んでいます。これにより、お客さまにもこれから建てる家の環境負荷を意識してもらい、判断材料にしてもらうのです。
最終的な理想は、これを各ハウスメーカーが競うようになること。そういった未来を期待して、当社が積極的に取り組んでいます。

また、部署を横断した有志で構成する「サステナブル推進室」も設置しています。郊外に位置する当社は、通勤で車を使わざるを得ません。そこでサステナブル推進室が中心となって、「EV手当」を設けました。電気自動車で通勤する従業員に、手当を支給するのです。ガソリン代もかからないですし、充電も会社でできるので、環境にも財布にも優しい。自分自身が豊かさを実感することで、お客さまにも提案できるようになります。
ほかには、発注先の事業者を選ぶときに、ただ安いから発注するのではなく事業者の環境に対する取り組み状況をランク化しています。ランクが高ければ金額が多少高くても発注するといった取り組みをしようというアイデアも生まれています。

「モダンと和が融合した平屋」がコンセプトの「Z・E・N」シリーズ「モダンと和が融合した平屋」がコンセプトの「Z・E・N」シリーズ
「モダンと和が融合した平屋」がコンセプトの「Z・E・N」シリーズ木・真鍮・モルタルをいかしてカフェ風にした「Laiton」シリーズ

「マイホームロボ」の拡販など、DXで業界をリードする存在に

編集部:DXにも取り組んでいるというお話がありました。デジタル化が遅れていると言われることも多い住宅業界ですが、貴社ではどのような取り組みをされているのでしょうか。

瀬口氏:DXに取り組むということは、デジタル技術を用いて解決すべき業界の課題があるということです。例えば、注文住宅を希望するお客さまから要望を聞いて間取りを提案するのは、設計士ではなく営業担当者だというのは、この業界ではよくあることです。しかし、設計士と比べると知識や経験が足りるはずがありません。聞くと彼らは、「ネットを見ながら参考になる間取りを拾っています」と言うのです。

では当社がどうだったかというと、提案こそ設計士が行っていましたが、実は似たような状況でした。時間が足りないからときちんと考えずに、自身の頭の中にある過去の似た事例を引っ張り出して提案していたのです。そこで、社内の情報整備に取り掛かりました。過去の採用案も没案も、全員のものをすべてデータベース化しました。自分の経験だけでない多様なアイデアのなかから、お客さまのニーズに合ったプランを探せるようにしたのです。するといい提案がいっぱい出るわ出るわで……!

そしてこの悩みは当社だけではないはずだと考え、「マイホームロボ」というサブスクリプションサービスに進化させ、現在は他社の方にも広げていっているところです。

マイホームロボは、Lib Workの若手チームと、安心計画株式会社(福岡市)の共同開発。「住宅会社の枠を超え、住宅テックの会社を目指す」と瀬口氏マイホームロボは、Lib Workの若手チームと、安心計画株式会社(福岡市)の共同開発。「住宅会社の枠を超え、住宅テックの会社を目指す」と瀬口氏

編集部:競合他社にノウハウを伝授してしまってよいのでしょうか。

瀬口氏:当初は社内からも反対の声がありました。しかし大事なのは、多くの方が満足できる家を建てられること。当社ではない工務店で建てられたお客さまが満足できない家を建ててしまうくらいなら、他社で建てても「マイホームロボ」を通して満足できる家を建ててくれたほうがよいじゃないですか。

いろいろな工務店さんに使ってもらい、データベースにないもの、つまり新しいものを作ることに時間を割けるようになったら、この仕事はさらにクリエイティブでやりがいのある仕事になると思っています。

また、ゆくゆくはお客さまの属性などに応じて自動でおすすめプランが提案できるようになればいいとも思っています。既に間取りの説明は、ChatGPTと連携させることで自動化を実現しています。

3Dプリンター住宅の実用化を目指す。しかしまだまだ大工は必要

瀬口氏:もし、データひとつで勝手に家が建てば、これは究極のDXです。将来、大工が不足することはもう分かっているので、施工のDXにも取り組まないといけないと思っています。実は現在、データを入力すると、3Dプリンターが家を自動で出力する、3Dプリンター住宅の実用化に向けて動いています。まずは昨年(2023年)12月に15m2の3Dプリンターハウス「Lib Earth House “modelA”」を完成させました。今年は30坪程度の家を作る計画です。

熊本県山鹿市に建てられた3Dプリンターハウス「Lib Earth House “modelA”」熊本県山鹿市に建てられた3Dプリンターハウス「Lib Earth House “modelA”」

とはいえ、まだまだ大工の力は必要です。そこで当社では、大工不足の解消と技術の継承を見据え、大工の新卒採用を行っています。3年間は当社で雇用しながら技術を身につけてもらい、その後は大工の棟梁のもとへ出向させるのです。
これは棟梁、新卒社員、当社の三方よしの仕組みです。棟梁にとっては、経験のない若い人を新たに雇うのはリスクです。すぐに戦力にならない人材に給与を支払う余裕はないからです。一方で新卒の大工は、まずLib Workに入社することで、安定した給与が保証され社会保険にも加入できます。そして当社も、大工の人材を確保できます。

編集部:WebマーケティングやDXといった先進的な取り組みの一方、現場も大切にされているのですね。

瀬口氏:はい、その両面が必要だと思っています。

「家」を売る会社から「暮らし」を創造する企業へ

工務店の未来について語る瀬口氏の口調は、徐々に熱を帯びてきた工務店の未来について語る瀬口氏の口調は、徐々に熱を帯びてきた

編集部:自社のみならず、業界の未来を見据えてさまざまな活動に取り組んでいらっしゃる貴社ですが、最後に、今後の貴社の方向性や、業界が進むべき道についてお考えを教えていただけますでしょうか。

瀬口氏:2018年、当社は会社名を株式会社Lib Workに変更しました。「Lib」はリビング(Living)のLibです。「Work」は働くという意味のほかに、ネットワークという意味を込めています。これは、家だけでなく、生活をネットワークさせ「暮らし」そのものを創っていきたいという思いから来ています。

そして、自分たちだけでなく、他社とのネットワークも大切です。例えば私たちは北海道の気候や風土に詳しくありません。そこに戦いに行くのは、エゴでしかないと私は思うのです。そこで私たちは、工務店同士がお互いに足りないところをフォローし合う形にシフトできれば、どこでももっといい家ができるはずと考え、取り組んでいます。

例えば、当社では現在ライフスタイル系のショップとコラボした「Afternoon Tea HOUSE」や「niko and ... EDIT HOUSE」といった商品を展開しています。「○○工務店の家」よりは、「Afternoon Teaの家ってどんな家だろう」と見に行ってみたくなりますよね。実際にこれらのモデルルームを設置した千葉県の住宅展示場では、現地では知名度が低い当社でもトップの集客を記録しました。そして現在、これらのコラボ住宅を、全国の工務店さんが取り扱えるようにしています。

Afternoon Tea HOUSE(熊日RKK住宅展店)Afternoon Tea HOUSE(熊日RKK住宅展店)

とはいえ、全国で統一した材料を使うわけではありません。やはり、その地域にはその地域に根差した材料があります。コピーではおもしろくありません。どこの工務店さんも、熱い思いをもってやっていらっしゃいます。ですからそこは彼らに任せて、応援したい。各工務店さんには、その地域に合わせた本物の素材を使って、本物の家づくりをしていただけるようにしています。

大手ハウスメーカーには大手ハウスメーカーのよさがあります。でも、街もチェーン店ばかりだとおもしろくないですよね? 地元の飲食店があって、そこでしか食べられないものが食べられる。それが豊かさだと思います。私たちのような地域の工務店にも、地域に根差しているからこそのよさがあるのです。そういった業界を盛り上げ、それを後押しできる会社でありたいです。3Dプリンターハウスだって、使用する土や石灰は地域の天然素材ですよ。これは、父から続く工務店のDNAでしょうか(笑)


編集部:瀬口社長ご自身についてはいかがですか?

瀬口氏:仕事でやりたいことがありすぎて……。あ、ひとつありました。ゴルフのエージシュート(※)っていうのがあって、それを目指したいんです。それができるくらい、健康体で長生きしなければ――。よい目標ができたと思っています。

編集部:本日はありがとうございました。

※ エージシュート:1ラウンド(18ホール)を、プレーヤー自身の年齢以下のスコアで回りきること

工務店の未来について語る瀬口氏の口調は、徐々に熱を帯びてきたデジタルマーケティングを駆使して事業を拡大してきたLib Work。これからの展開に注目したい

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