- 日本を代表する企業であるトヨタ自動車から、創業者の思いで生まれたトヨタホーム
- 「人は皆、ある一定水準以上の住宅に住む権利を有すべきこと。」創業者、豊田喜一郎氏の思いをつぐ住宅事業の目指すところ
- 「住宅の仕事は人だ」、決意をもった分離独立。2010年全住宅部門を統合した新生トヨタホーム株式会社がスタート
- 企業体質を強固に……豊田章一郎氏が勧めた、デミング賞へのチャレンジ
- 2021年度グッドデザイン賞 BEST100「クルマde給電」をはじめとするトヨタグループの総合力が生かされている住まいづくり
- 何年経っても土地の価値だけでなく、街並みそのものに価値が生まれる「新しい時代の街づくり」を
- 紆余曲折の海外進出とこれからの住まいづくりへの思い
日本を代表する企業であるトヨタ自動車から、創業者の思いで生まれたトヨタホーム
「日本の未来の住まいはどのように変化をし、住まいに携わる企業の使命はどういったものなのか」を住宅業界のリーディングカンパニートップにインタビューを行う【NEXT 日本の住まい】企画。
今回は、ミサワホームやパナソニック ホームズと同じくプライム ライフ テクノロジーズのグループ企業である、トヨタホーム株式会社(※以下、トヨタホーム)を紹介する。
インタビュアーを務めるのは、「あらゆるLIFEを、FULLに。」をコーポレートメッセージとし、不動産ポータルサイトLIFULL HOME'Sを運営する株式会社 LIFULL 井上 高志 代表取締役社長。「住まいは人の幸せに直結する」という考えのもと、この企画を通じて日本の住まいを担うトップ企業の経営者がどういった思いと取組みをしているのかをインタビューを通じ、伝えていきたいという。
今回のインタビュー企業であるトヨタホームは、その会社名の通り、トヨタ自動車を筆頭とするトヨタグループの中核企業のひとつである。創業者である豊田喜一郎氏の思いで住まいづくりが始まったという。2018年には住宅専業としては初となるデミング賞(※Deming Prize。デミング博士の業績を記念して1951年に創設されたTQM(総合品質管理)に関する世界最高ランクの賞。TQMの進歩に功績のあった民間の団体および個人に授与される)を受賞した。
トヨタグループならではの技術力を生かした住まいづくり・街づくりへの思いと取組みを、トヨタホーム株式会社の代表取締役社長 後藤 裕司氏にお話を伺った。
「人は皆、ある一定水準以上の住宅に住む権利を有すべきこと。」創業者、豊田喜一郎氏の思いをつぐ住宅事業の目指すところ
後藤 裕司:トヨタホーム株式会社 代表取締役社長 プライム ライフ テクノロジーズ 株式会社 取締役。1983年名古屋大学卒業後、トヨタ自動車株式会社入社。2010年トヨタホーム株式会社 経営管理部長、2012年取締役、2016年常務取締役を経て、2019年6月 代表取締役社長就任。2020年1月 プライム ライフ テクノロジーズ 株式会社 取締役就任井上氏:プライム ライフ テクノロジーズのグループ会社へのインタビューは、プライム ライフ テクノロジーズ様・ミサワホーム様・パナソニック ホームズ様と続き、御社で4社目となります。それぞれの会社様の住まいへの思いや取組みなど、私も毎回インタビューをさせていただき大変興味深く拝聴しております。本日も、後藤社長にお話を伺えること、大変楽しみにしておりました。よろしくお願いいたします。まずは、御社の創業の精神と経営理念をお聞きできればと思います。
後藤氏:ご存じのように弊社はトヨタグループの一員でもあります。トヨタ自動車の住宅部門の創業の源流は、創業者の豊田喜一郎さんが戦後の焼け野原の惨状を目にして「人は皆、ある一定水準以上の住宅に住む権利がある」という強い思いがあったといいます。ただ、当時は終戦直後ですから、トヨタ自動車工業(当時)自体も経営が厳しい時期でした。その後、モータリゼーションの恩恵を受けて成長してきた中で、1975年、今度は豊田章一郞さんが「自動車の次は住宅だ。日本の住まいをよくしたい」ということで当時のトヨタ自動車工業の中に住宅事業部を設置したのが、我々の会社の始まりです。その2年後に戸建住宅の「トヨタホーム」を発売することになりました。弊社は、喜一郎氏・章一郞氏の思いを経て、人の幸せを大事にしていきたい、と考えたところから始まっています。
井上 高志:株式会社 LIFULL 代表取締役社長。1997年株式会社ネクスト(現LIFULL)を設立。インターネットを活用した不動産情報インフラの構築を目指して、不動産・住宅情報サイト「HOME'S(現:LIFULL HOME'S)」を立ち上げ、日本最大級のサイトに育て上げる。現在は、国内外あわせて約20社のグループ会社、世界63ヶ国にサービス展開している井上氏:「日本の住まいをよくしたい」という思いと、技術力で世界をリードするトヨタ自動車の中の住宅事業として、期待を担って事業が始まったのですね。
後藤氏:私は1983年にトヨタ自動車に入社し、その時も住宅に力を入れるということはいわれていました。しかし、なかなか思うようにはいかない状況が、1990年代後半くらいまで続きます。私は2000年に異動で住宅事業へ移りました。諸先輩方の努力もあって、その時期からようやく事業として成り立つようになりました。
井上氏:それまでは、採算は合わない事業部だったのですか。
後藤氏:そうです。そのころの雑誌には「トヨタのアキレス腱、住宅事業」と書かれたほどでした。社員のほとんどが「自動車会社に入った」という認識でおり、一部の建築を勉強してきた社員以外は、たまたま住宅事業に配属されたという、そういった環境でした。
「住宅の仕事は人だ」、決意をもった分離独立。2010年全住宅部門を統合した新生トヨタホーム株式会社がスタート
後藤氏:住宅事業に移り、強く思ったのが「やはり、この仕事は人だ」ということでした。議論を重ねて2003年にまずは住宅事業のうちの営業部門を中心としたトヨタホーム株式会社を設立しました。そこで、まずは住宅事業を志す有為な人材を積極的に採用しました。人の採用もそうですが、マンション事業など戸建て以外の分野も拡大していったのが2000年代の初頭でした。その後、これから住宅産業は少子高齢化で住宅着工数も減っていくだろう、このままだと生き残れないという危機感がつのりました。また、徐々にトヨタホームで採用した社員も増えてきました。社員一丸となって強い会社となり、商品サービスを展開していくためには、トヨタ自動車から分離独立して背水の陣で事業に向き合おうと、2010年10月にトヨタ自動車内の生産・開発など全住宅事業を統合して、新生トヨタホームとしてスタートしました。
井上氏:覚悟をもって独立されたということですね。事業への覚悟としても会社として、思いや姿勢など純度が増したのではないでしょうか?
後藤氏:いろいろな考えや意見、思いがありましたが、ちょうどリーマンショックの後で、トヨタ自動車自体も経営が厳しい中でした。腹をくくって、本当にやる気のある人間と一緒にやる。天・地・人がそろい、企業としての覚悟をもって、分離独立できたのは良いタイミングだったと思います。
井上氏:その後、事業としての業績も連動して、成長を続け、黒字化できていったのですか。
後藤氏:その途中段階でやはり節目もありました。特に2014年に消費税増税で市場が落ち込むなど、厳しい時もありました。また社員の構成は、トヨタ自動車出身の社員もいれば、新卒でトヨタホームに入った社員、キャリア入社の社員もいるといった混沌とした状況が生まれていました。そんな環境下ですから、「今のままの会社でよいのか」とマネジメント体制を見直す必要がでてきました。そういったときに、我々が取り組み、転機となったのがデミング賞です。
企業体質を強固に……豊田章一郎氏が勧めた、デミング賞へのチャレンジ
井上氏:デミング賞への取組みというのはどういったものだったのでしょうか?
後藤氏:住宅専業メーカーとしては先駆の取組みであり、受賞経験のあるトヨタ自動車でも難しいとされるTQMですが、豊田章一郎氏が「だまされたと思って、やってみろ」と勧めてくれました。会社を一枚岩にするとか、ある方向に一致して取り組んでいくというのは、トヨタに馴染みやすい考え方でもありました。2014年から2018年、完全分社の次の活動としてはデミング賞へのチャレンジというのが、今から思えばよかったと思っています。
井上氏:相当なご苦労があったのですね。デミング賞を取る、というのはすごく狭き門というイメージがありますが……。
後藤氏:大学教授の専門家やコンサルの先生が付きっきりで協力をしてくれて、5年かかるといわれています。我々も当初は、問題ばかりでした。活動例でいきますと、経営課題を洗い出すときに「何故、トヨタ自動車の社員は車はトヨタを買うのに住まいはトヨタホームを買わないのか」というテーマを出したりしました。トヨタホームを買わなかった理由を100人にヒアリングしたんです。「商品の魅力がない」「土地を買いたいといってもレスポンスが悪い」などの声が出てきたので、3年以内に徹底してこの課題をつぶそうと改善活動を始めました。商品開発も2005年に業務提携したミサワホームにも協力してもらい、売れない課題を解決し、新入社員にも徹底して教育しました。「営業は科学だ」ということで、科学的に検証して、改善していくことを繰り返しました。私たちがデミング賞で勉強したのは「再現性」です。
井上氏:デミング賞を受賞されたのは、住宅専業では、トヨタホームさんだけですよね。
後藤氏:我々には「ものづくりは人づくり」「日々是改善」という文化があります。その文化の証として、デミング賞を受賞できたことは、我々らしいチャレンジと成果だったと思います。
井上氏:チャレンジや努力の上にトヨタホームの商品があり、その技術が生きていることを我々としてはぜひ、お客様に伝えていきたいと思うのですが、なかなか伝えるのが難しいですよね。
後藤氏:テクノロジーの部分をお話しても、お客様には分かりづらいこともあります。我々はブランドビジョンとして" S i n c e r e l y f o r Y o u~人生をごいっしょに。~" を掲げ、お客様には技術やサービスに裏打ちされた3つの安心「建てる時の安心」「建てた後の安心」「支える安心」を提供することが使命だと思っています。最近では、もう少しわかりやすくお客様に伝えたいということで、「工場品質」「鉄骨の柱が強いこと」「全館空調」の3つを訴求しています。
井上氏:今は特にコロナで空気環境は大切ですし、また度重なる災害で家の強度についても大変関心が高いです。御社の住まいの品質を語るのに、分かりやすい3つのポイントですね。
2021年度グッドデザイン賞 BEST100「クルマde給電」をはじめとするトヨタグループの総合力が生かされている住まいづくり
井上氏:トヨタホームの住まいづくり3つのポイントについて、もう少しお聞きしたいと思います。
後藤氏:ひとつは、トヨタ生産方式である「工場品質」です。住まいづくりにおいて85%を工場でつくることで、天候の影響を受けず、技術のばらつきをなくすことができます。各工程のプロの作業、500項目もの検査体制があり、安定した品質を担保することができるのです。もうひとつは、格段の強度を誇る「鉄骨の柱」。この鉄骨と独自の工法を組み合わせることで、住まいの空間と敷地対応力が大幅に向上しました。
そして、「全館空調」。基礎断熱とオリジナル全館空調システムと組み合わせた「スマート・エアーズPLUS」や、天井埋込形ナノイーX発生機「エアイーX」、そして「ホームコーティング」の標準化により、空気環境と防菌の2つの観点で暮らしを守ります。
後藤氏:また、2020年に発表した「クルマde給電」は、HEV・PHEVといった車両に搭載されるAC100V・1500Wアクセサリーコンセント(非常時給電システム付)から、住宅内特定回路(※1)へ電力供給できる業界初の非常時給電システムです。非常時にガソリン満タンのHEVをつなげば、リビングなど一定の住まいの空間に約4日間の電力を供給できます。「クルマde給電」はすべてのHEVに適応でき、非常時には大変役に立つ仕組みです。この「クルマde給電」は、2021年度のグッドデザイン賞のBEST100に選ばれました。
※1:住宅全体ではなく、リビング、キッチン、各居室など住宅内の特定エリアのみをカバーし、電力供給する回路のこと
井上氏:それは、おめでとうございます。受賞の評価ポイントはどういったところだったのでしょうか。
後藤氏:主婦や子どもでも簡単に接続できる使い勝手の良さが特徴のひとつです。住宅の外観に支障がないようにデザインされており、将来的には住宅の当たり前の機能となることが期待されています。
井上氏:いずれも御社が技術力を駆使して、住まいから暮らしを豊かにする、暮らしを守る、という取組みが評価されたのですね。
何年経っても土地の価値だけでなく、街並みそのものに価値が生まれる「新しい時代の街づくり」を
井上氏:これからの街づくりについては、いかがでしょうか?
後藤氏:2020年にPLTグループが発足して、新たに住宅3社で街づくりに邁進していこうということになりました。トヨタホームとしても現在、注力しているのが街づくりです。我々は主に、郊外型の街づくりに注力しており、愛知県や首都圏で200区画・300区画を開発しています。昨年は、PLTグループとして、愛知県みよし市で全288区画の「MIYOSHI MIRAITO」を開発しました。おかげさまで、大変好調です。この街にはシンボルツリーの横に蓄電池や井戸水などを備えたクラブハウスをつくっており、災害時には住民の方々の避難場所となります。また、この街全体の約3割を森として、自然との調和をとっています。コロナ時代の新しい暮らし方にあっている環境だと思います。この「MIYOSHI MIRAITO」もグッドデザイン賞を受賞しています。
井上氏:まさに、ウィズコロナになって、こういった街での暮らし方が求められるでしょうね。将来的にはモビリティで自動走行の時代になっていくと高速の近くにこういった街が郊外にできてくるかもしれません。
後藤氏:「MIYOSHI MIRATO」では、新たな技術やサービスの実証の場として、様々な取組みをしていきます。
また街を育てていくという観点で、毎月開催するいろいろなイベントに、住民の方々だけでなく我々も参加して、お客様とつながっています。これからは、住まいだけを売るのではなく、豊かな暮らしを売ることが重要だと思っています。
井上氏:イベントを通じて、お客様同士でも自然にコミュニティが生まれるでしょうね。
後藤氏:そうです。今では、住民の方が率先していろいろな企画を行ってくれています。様々な仕掛けをすることで暮らしそのものを豊かにしていきたいですね。もう一つ重要なのは行政との関係です。「MIYOSHI MIRAITO」を、みよし市の市長も応援してくれていて、大変助かりました。
井上氏:街づくりでは、行政とのタイアップが非常に大切ですね。
後藤氏:街づくりでもうひとつ大切なのは、住民の皆様がその街に誇りを持つことができるかということだと思っています。そのために、家の外観や質感が重要になります。将来土地だけの値段になるのではなく、街並みそのものに価値が生まれるために、デザインは大切だと思っています。トヨタホームはかつて技術やハードの良さに安住していました。近年、ミサワホームの優秀なデザインチームの力を借りて、強化をしていきました。パナソニックホームズのノウハウもそうなのですが、PLTができたことで非常に多様性のある街づくりができるようになったと感じています。
紆余曲折の海外進出とこれからの住まいづくりへの思い
井上氏:海外展開についてはいかがでしょうか?
後藤氏:紆余曲折ありますね。本当にやってみないと分からないことが多いです。
現在我々は、インドネシアのジャカルタで事業を行っています。米国や欧州も検討しましたが、戸建で我々の技術が生きる場所はどこかと考えたときに、人口が多く、戸建志向が強い、経済成長が期待できるということがインドネシアに進出した大きな理由です。まず2012年にトヨタグループのゲストハウスや社員のコンドミニアムをつくりました。2015年に現地法人をつくり、東急不動産さんと組んでジャカルタに114戸の分譲住宅をつくりました。
インドネシアは地震が多いので耐震性・短工期は当たるだろうと思っていたのですが、地震が起こるのは主にジャワ島でジャカルタではほぼ需要はなかった。家の購入資金は、手付けを払ってからお金を貯めるので、住宅ローンがないインドネシアでは、さほど短工期は歓迎されませんでした。しかし、雨漏りがしない、断熱性能がある、長期保証は受け入れられました。おかげさまで114戸は完売しました。
井上氏:お国柄が違うと様々、予期しないことがおこるのですね。
後藤氏:そうですね。米国や欧州などでも工業化した我々の強みは生きると思います。PLTでも話しているのですが、米国などへもグループとしてチャレンジしようと話しています。
井上氏:最後に住宅産業が担う役割とはどういったものなのか、後藤社長としては、どういった思いを持っていらっしゃるのか、お話しいただければと思います。
後藤氏:カーボンニュートラルや空き家などの課題については、住宅産業の一角を担うトヨタホームとしては必ずやっていかなければならないと思っています。またお客様の幸せを考えたときに、環境を提供することが大事だと感じています。住民のコミュニティやウェルビーイングが生まれる、そういった環境を作り出せる住まいづくり・街づくりをしていかなければならないと考えます。
売って終わりのビジネスモデルは、もう終わりました。売ったあとにつながるものを、お客様に寄り添って提供できる企業でありたい。創業の精神とブランドビジョンを胸に、お客様対応をしっかりやる会社、CS基軸経営をしっかりできる企業でありたいと思っています。
井上氏:本日は、本当にありがとうございました。
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