緊急事態宣言が1ヶ月延長へ

11都府県に発令されていた緊急事態宣言は、2021年2月7日までとされていたが、栃木県を除いた10都府県で3月7日までの1ヶ月間延長となった。
しかし、感染者数は減少傾向にあり、春に向けて徐々に明るい兆しが見え始めてきたようだ。今回も引き続き、「ポストコロナの不動産市場」はどうなるのか?について考えてみたい。

不動産市場は日々変化しているわけだが、「新型コロナウイルスの影響が広まる現在の不動産市場」が、一時的なものなのか? そして今後どうなっていくのか? を判断するには、「現状を構造的に考える」ことが必要である。

コロナショックは社会を変えてしまうのだろうか。
ここでは、「不動産市場の構造変化」というテーマを「不動産投資市場のグローバル化」と「家計・企業の行動変容: 時間・消費の変化」という2つの視点で伝える。

11都府県に発令されていた緊急事態宣言は、栃木県を除いた10都府県で1ヶ月間延長となった11都府県に発令されていた緊急事態宣言は、栃木県を除いた10都府県で1ヶ月間延長となった

不動産投資市場のグローバル化

まずは、不動産投資市場のグローバル化について押さえておく。
我々の研究室では、世界の主要都市の不動産にどの国のマネーが入ってきているかについての分析をした。

まず、パリのビジネス中心部において、売却サイドでは、フランスが過半を占めるが、アメリカ、ドイツ、イタリア、あるいはスペインなども保有物件を売却している。購入においては、自国フランスが33%を占めるが、スペイン国籍が売り手となると、33%の物件をスペイン資本が購入している。また、つづいてアメリカ資本が購入している。フランスと国境を接するスペインからのお金の流入が目立っている。

次にシドニーにおいては、売却では7割超が現地オーストラリアの方(あるいは法人)だが、購入においては、自国オーストラリア資本が52%と過半を占める。中国籍が売り手となると、その購入の大半は中国籍の方が占めている。そのため、シドニーでは、中国資本が目立っていたわけだ。

ロンドンの行政施設・商業施設などが集まるWEST END地域においては、売却ではイギリス資本が持つものが69%と過半を占め、アメリカ8%、アイルランド7%、ドイツ3%と続く。一方購入においては、ロンドンでは、アメリカ資本が売り手となると、その買い手はアメリカ国籍の資本が中心になっている。これらの数字は、コロナウイルスの影響が出る前の数字である。

お金の入り方(量)の分析において、国の力と国同士の力関係という形で我々専門家は見ている。
「投資家からのお金がどこに向かうのか」「目的地はどこなのか」を分析してみると、距離が離れれば離れるほど、お金の動きが少ないという構造になっていることが分かった。この「距離」だが、単に物理的に離れている、ということだけでなく、言語が同じかどうか、かつての植民地という歴史的な関係、なども重要な要素として構造的に分かってきている。

昨今、「日本の不動産には世界からお金が入ってきている」ということがいわれているが、例えばロンドンの不動産市場には約60か国からお金が入ってきているし、ニューヨーク(NYC)には50か国弱からのお金が入ってきている。しかし、日本の不動産には20か国くらいのお金しか入ってきていない。
つまり、日本の不動産へのマネー流入は多様性が低いという事が分かっている。日本の不動産取引では同国籍間取引が多いわけだが、少しずつ多国籍のお金が入ってきている過程にあるといえるが、言語の問題等を考えると未来永劫入り続けるかどうかは疑問と思われる。

ロンドンの行政施設・商業施設などが集まるWEST END地域においては、売却ではイギリス資本が持つものが69%と過半を占めるロンドンの行政施設・商業施設などが集まるWEST END地域においては、売却ではイギリス資本が持つものが69%と過半を占める

家計・企業の行動変容: 時間・消費の変化

次に新型コロナウイルスの影響で消費者の行動がどう変化したのかを見てみる。

内閣官房が公表しているが人の動きと地域別の消費額の変化を見てみると、最初の緊急事態宣言が出たあとには、日本全体では月の消費額が昨年同月比で50%以下になった地域が目立つ。緊急事態宣言の影響が大きかったことがうかがえる。とりわけ影響が大きかったのが、3大都市圏となる。

2019年/2020年の消費行動の比較2019年/2020年の消費行動の比較

新型コロナウイルスの影響が出始めたあと、4月に入り緊急事態宣言が発令されたので、都心の中心部や大阪の繁華街があるエリアでは、大きな落ち込みがうかがえる。緊急事態宣言が解かれ数ヶ月を経た8月になると、郊外では急激に増加していく。しかし、東京都心や大阪中心部ではマイナスになっていることが分かる。

消費だけでなく、オフィスの利用についても変化が見られた。リモートワーク(在宅勤務)や時差出勤はかなりの企業が導入し、今後もこれは定着しそうな状況だ。

2019年/2020年の消費行動の比較都心の中心部や大阪の繁華街があるエリアの消費行動比較(3月)
2019年/2020年の消費行動の比較都心の中心部や大阪の繁華街があるエリアの消費行動比較(4月)

不動産市場を経済の一部として捉えてみる

このような事実から、どのようなことが考えられるのだろうか。

不動産市場を経済の一部として捉えてみる

図を見ながら考えてみたい。
企業は、生産要素市場から労働力を投下して商品やサービスを生産し販売している。その際に、オフィスでは、例えば9時から17時まで、生産や販売活動の拠点として活用していたわけだ。そして企業は家賃を支払っていた。その額は大きなものだが、いま述べたように新型コロナウイルスの影響によりオフィス利用が減り、稼働率が下がると、マーケットでは大きなインパクトをあたえる。

私たちの研究室が公表している日次不動産価格指数でみたように、オフィスの指数の大きな落ち込みにそれが出ていた。企業で生産されたものは、店舗で販売(あるいはサービスの提供)される。その店舗に来店する人が減ると、あるいは飲食店で食事をする人が減ると、これら消費行動の落ち込みは商業施設市場に大きな影響を与える。

一方、住宅市場を考えてみると、住宅には収入のおよそ25%~30%があてがわれている。そのため、住宅関連への支払いは、例えば新型コロナウイルスによる経済ショックがあっても、(現在のところ雇用や所得に大きな影響が出ていないのでその前提で考えると)大きな落ち込みは見せていない。
さらに、在宅勤務が増えると、住宅からうける利得は上昇してきている。生産の場として、住宅が取り込まれてきているわけだから、支払意思額は上昇してきている。このような住宅市場の状況から、日次不動産価格指数は好調だと考えられる。

新型コロナウイルスの影響が収束した後に、企業活動、消費活動、家計と住宅のあり方がどうなっていくのか、それにより不動産市場に変化が出てくることになるだろう。

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