消費増税に伴う駆け込み需要は“生活防衛反応”である
過去の筆者のコラム(HOME'S PRESS記事:消費増税と駆け込み需要~購入者と供給サイドのギャップ~)で"駆け込み需要は生活防衛"との論旨を展開したことがある。
住宅価格は例外なく高額消費であるから、可能であれば少しでも安価に購入して、頭金の負担率を高め、住宅ローンの返済元本を減らしておくことが消費者として当然の“生活防衛反応”であると。少しでも総額が安いうちに住宅を購入したいという思いは、購入者からすれば極めて自然な欲求である。
一方、住宅=不動産は、単なる消費財ではない。
数万円の家電であれば最新型が出るタイミングで好みに応じて買い替えたり、知人に譲ったり、オークションサイトで自分が適当と思える価格で売却することもできる。これは「商品」としての寿命を考える前に、自らが減価償却期間を決められるケースと言える。つまり、価格にして数万円の家電は経済的な合理性を真摯に考えるまでもなく、利用価値や所有していることの満足度などによって買い替えの判断ができる消費財なのだが、住宅=不動産は数千万円の支出を伴う買物であり、例えば5,000万円で購入した新築マンションが10年程度で半額程度にまで減価したら、それは経済合理性を考慮しなかった結果としての“失敗体験”となってしまう。
しかもその失敗は大きな経済的損失を伴う可能性が高く、一般的な給与所得者にとっては決して看過できない負債として、その後の人生のリスクとなり得る。「良い物件だと思って気に入って買ったんだけど2,500万円になっちゃって。抵当権を抹消するのに追い金を1,300万円ほどしたけど、まあいい経験になったな。勉強代と思って銀行に支払ったよ」などと言えるのは、余程肝の据わった人だけだろう。
住宅=不動産は、高額であるが故に須く“投資的”な側面を有する購買行動であり、リターン=出口を考慮しないで購入することは、投資が失敗に終わる可能性を自分自身で大きくしていることに他ならない。住宅=不動産は「属性の固まり」である。価格形成要因として200項目程度を分析していると、借景が美しいからとか、東南の角部屋で陽当たり良好&気持ちが良いからとか、花火大会が特等席で見物できるから、などの理由とも言えない理由で(もちろん購入者にとって譲れない条件だったりすることもある)不動産を購入することは、悪いとは言わないまでも、その理由をもって購入することは決してお勧めできない。
この延長線上のどこかに“消費税がもうすぐ上がるから”という、もっともらしい理由が存在すると考えるからだ。
伊勢志摩サミット終了直後に安倍首相が消費税の10%引き上げを再度2年半延長して2019年10月からにしたいと意向表明したからといって(原稿を書いている現段階では決定した訳ではないが)、延期されるかどうか自体を購入時期とシンクロさせる必要はない。住宅を購入するということの意味、本質は別のところにある。
住宅価格は入口ではなく、出口こそ重要
消費増税という経済環境の比較的大きな変化は(相続税の税制変更の時と同じく)、住宅購入などの大きなフックとなり得るのは、上記の通り少しでも安いうちに購入しておきたいという意識・意向の表れである。それを否定するつもりは毛頭なく、むしろ正しい消費行動と考えているのだが、問題は“少しでも安いうちに”とか、現状に即して言えば“せめて消費税が8%のうちに”もしくは“経過措置が認められる2016年9月末までに”という一種の焦りにも似た切迫感が、価値判断および価格判断を鈍らせる可能性があることだ。
特に消費税は入口=購入時にのみ発生する税金である。また不動産購入に際しては、土地には掛からず、建物部分にのみ発生する。実際に消費税2%の増額分を考えると、都心高層マンションの中層階で物件価格6,000万円、建物と土地の価格比率が6:4の住戸の場合、2%は約66万円で総額は6,066万円となる。66万円を大した金額ではないと主張するつもりはないが、仮に(総額がいくらであっても)売却時に66万円の減価で済んだ場合をイメージすると、大多数の見方はほぼ減価しなかった=資産価値の高い優良物件だったという評価になるだろう。
つまり、入口では比較的大きく見える金額であっても、状況を変えて出口から見てみると然程大金には見えない、という一種の法則があることになる。
極論すれば、“不動産は購入する前に売却することをイメージして買う”ものであり、入口の価格よりも重視しなければならないのは出口=売却時の価格であると断言することができる。消費増税という期限の定めのある差し迫った状況において、少しでもお得に住宅=不動産購入をしたいと考えるならば、「こういう時期だからこそ、資産価値の有無をしっかり見極めたうえで住宅=不動産を購入しよう」という姿勢が求められる。
出口が重要なワケは…
上述の通り、住宅=不動産は耐久消費財ではなく不動産であり、耐用年数は税制で定められている期間よりも一般的に極めて長い。つまり不動産は所有することではなく、使用・収益に利するものとして考えておく必要があるということだ。実需=自分が住むために購入した不動産であってもその考え方には変わりがなく、仮に貸したとしたらいくらで貸すことができるのかという観点で、購入候補に上がった物件の資産性および収益性を考慮するべきだろう。
その際に必要なのは、“自分が気に入った物件が、他の人も同じく気に入ってくれるかどうか”という他人の眼=客観視である。物件購入時はどうしても欲しいという気持ちが優先するあまり、気に入った物件に惚れてしまって欠点が見えなくなってしまうというケースも決して少なくない。気に入ったが故に敢えて欠点を見ないようにしようとする購入者さえいるくらいである(その意味で物件選びは恋愛に似ていると言えなくもない)。
ただし、実需で購入する住宅は原則として一つの物件のみである。タイトルに示した通り、自宅投資という発想で住宅を購入するのであれば、「マイホーム」に集中投資するのはややリスクが高いとも言えるが(投資は分散が基本である)、自分が居住するための住宅購入に際しては、住宅ローン減税だけでなく、不動産取得税の軽減措置や、現在の異常とも言える超・超低金利など、実需で購入するのに実に恵まれた環境が整っている。
消費税や相続税など、国民の生活に根ざしている税制の変更は、特に個人消費に関わる経済環境に比較的大きな影響を与える。したがって、どうしても消費税の行方が気になってしまうものなのだが、住宅=不動産を購入することの本質、意味は、一義的に(経済的にもそれ以外でも)自分と家族が幸せに暮らすことができる“器を買う”ことなのであり、その器が将来も価値を維持するかどうかは、将来の自分と家族の生活を本当の意味で防衛することにつながっている。
住宅地として便利に暮らせるか及び使えるか、エリアと住宅の快適性は高いかどうか、街と物件の安全性(防犯と災害対応力)は高いか、などと同じように、将来に渡って資産性が高く保たれそうなエリア、もしくは物件かという観点が、住宅=不動産を購入する際に求められる基本的な要件である。
単に広いとか、月々家賃並みの返済で買えるとか、マンションの駐車場使用料が無料(これは暴挙としか言いようがない)とか、もちろん単に安いという理由だけで住宅=不動産を購入することは、住宅購入の本質を理解していないとの謗りを免れ得ない。
住宅購入を自宅投資と捉えるならば、購入計画を立てる際に概念として求められるのは、投資家目線としての“他人の眼”と、資産性を裏付けるバロメーターとなる賃料水準を重視する姿勢と覚えておきたい。
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