住宅の品質情報
前回は、本来持つ不動産市場の市場メカニズムの機能を発揮させるためにも不動産価格情報の整備と適切な開示は、必要だとお伝えした。では、具体的にはどのような情報整備が必要なのであろうか?
住宅に付随する情報とは、大きく住宅そのものの品質に関する情報と、住宅を取り巻く環境情報に分けられる。品質情報は、物件の間取り・建築後年数・構造・日照・通風などのスペックを挙げることができる。これらの情報の中には、消費者が情報探索をすることで確認が可能な情報と確認ができない情報に分けられる。さらには、情報が時間の経過と共に変化していく情報が存在することに注意する必要がある。
間取りや建築後年数・日照・通風は、情報探索や実際の物件を直接に見ることで観察可能であったり、信頼できる文書によって確認したりすることが可能な情報となる。また、その情報の誤差も大きくないであろう。一方、構造やアスベスト・土壌汚染などの目で見ることができない情報は、開示されている情報を信じるしかない。
多くの他の市場財においても、すべての情報が知ることができるわけではない。製造者によって開示される情報を信頼するしかない。住宅市場においては、構造偽装問題に代表されるような開示情報そのものが信頼できないという問題が大なり小なり存在している。
特に中古住宅市場においては、その情報がさらに不確実となる。その理由としては、製造段階における情報が蓄積されていなかったり、時間の経過とともに製造段階での情報が大きく変化してしまったりしている可能性があるためである。特に保有段階での住宅の質的変化に対する情報蓄積の社会的ルールが徹底されていない。また、日照・通風などの情報においては、時間の経過と共に環境要因の変化によって情報が変化してしまう可能性がある。
建物・地質に関する品質情報
建物や地質に関しては、中古住宅市場において正確な情報を消費者が得ることはきわめて困難である。このような情報は適切に社会において生産していかなければならない。その情報生産は、住宅市場に関わるすべてのものによって行われ、それを社会において蓄積・開示していくことが必要である。
まず製造段階で、生産者が正確な情報を適切に開示していたかどうかという問題である。その開示ルールを明確にしていく必要がある。続いて第一次所有者は、その情報の保管義務を負い、リフォーム等によって品質を変更した場合には、その変更履歴を蓄積していく義務を負うべきである。さらに、所有段階において、製造段階で開示された情報と異なる品質問題が発生した場合には、製造者に対して、その改修を要求していくこととなる。そのような情報も含めて蓄積していかなければならない。
第一次所有者が売却する段階では、蓄積された情報を不動産仲介業者に対する提供義務を負い、不動産流通業者は,提供された情報を精査または調査することとなる。現行制度では、売り手に対して簡単な情報開示を求めるルールがあるだけであり、その他の情報は不動産仲介業者の責任の下で調査されると共に市場に流通されることとなる。そして将来において情報の品質に関しての問題が発覚した場合においては、不動産仲介業者の責任となるケースが多い。
住宅は目に見えない多くの情報の集合体であるため、一人の専門家によって全てを調査できるものではない。また、現在の調査能力を超える情報も多く含まれる。
得られた情報のストック
このような状況が住宅市場の不透明性・不確実性を高め、住宅の潜在的な価値が市場の中で評価されない原因になっているといっても過言ではない。この問題を解決していくためには、情報の責任を社会全体でシェアしていくことが必要である。
まず、第一次所有者の責任である。これは、所有段階におけるすべての質的変更の情報を蓄積すると共にその責任を負う。そして,流通段階においては、不動産仲介業者が責任を負うことができる情報と責任を負うことができない情報を明確にすることである。責任を負うことができない隠れたリスクを開示するとともに、それを回避したいと思う第2次取得者は当該情報を明らかにできる専門家に対して、調査を依頼するべきであろう。または、情報が不確実なことで物件を売却できなかったり、安い価格しか設定できなかったりする売り手においては、自らの責任の下で調査を実施して明らかにすべきであろう。
続いて契約書の問題である。現行の制度下では。重要事項説明において多くの情報が集約されている。そのために、責任がより不明確になるだけでなく、説明される情報が十分に理解できないといった問題が発生している。さらには現在の不動産仲介業者の能力を超える内容も含まれているケースも少なくない。そのため責任が不明確になるだけでなく、市場全体の不透明性と不確実性を高める要因にもなっている。
その結果、中古住宅市場の資産価値の低下をもたらす可能性を持つ。
このような問題を解決していくためにも、各段階別に住宅の品質に関する情報を整備・保管する責任を明確化するだけでなく、契約書も含めた仲介段階での情報開示の限定など、制度の見直しが必要とされているものと考える。
整備されるべき住環境情報
住宅選択において、周辺環境に関する情報はきわめて重要である。
住宅の品質に関わる情報は、もし建物に問題があれば自分の努力で改善することが可能である。土壌に関しても同様であろう。しかし自分の所有権の外側にある環境改善は、自分の努力だけではどうしようもない。その意味で、住環境情報は住宅選択に対して大きな判断要素のひとつであり、住宅価格に対して大きな影響を与える。
そのため、住宅購入者は自分で情報を探索することとなる。周辺環境情報といえど、多くの情報が存在している。例を挙げれば道路交通騒音も該当しよう。しかし、その情報は例えば昼間時に物件を訪問したときに知りえた情報と、夜間時において感じる情報との格差が存在する可能性が考えられる。昼間、生活騒音等により道路交通騒音がそれほど気にならなくても、夜間時においては不快と感じることもある。治安情報も、またきわめて重要な要素となるが、情報探索を行っても正確な情報を知りえることができないことが多い。
正の要因としては、気のきいたカフェやお洒落な美容院は、住宅探索時においてはより重視すべき情報が多すぎるために見落とされがちであるが、一旦生活が始まると、そのようなものがないことで不満が高くなっていく可能性も考えられる。
そしてその水準によって住宅価格が大きく変化する。
住環境情報の重要度
ネガティブ情報は、近年において、公共部門を中心となって公開されるようになってきている。
具体的には、水害のハザードマップ・地震危険度・大気汚染および犯罪発生マップなどである。しかし、住宅の探索時にはこのような情報が消費者に対して十分にいきわたっていないことの方が多い。またこれらの周辺環境は、住宅情報を提供する主体に対して、なんら義務付けられているものでもなく、消費者が自らの責任の下で情報探索を行われている。住宅の品質情報を、周辺環境を含めた広義のものとして捉え、消費者に対しての情報整備と提供の手段を検討していく必要がある。
住環境情報の重要度は、地域によって大きな差があることも確かである。
大きな河川や海に面しているような地域であれば、河川の氾濫や有事の津波などに関する浸水被害情報が重要になる。このようなものは、一様にデータベースなどで整備していくといったことも考えられるが、各地域単位で重要と思われる情報を生産し流通段階でそれを提示・認識させることを義務づけていくといったこともあるであろう。
例えば、パリにおいてはセーヌ川の氾濫情報を流通段階で開示させることを義務づけている。サンフランシスコにおいては、地震に関する情報を流通段階で開示することを義務づけている。
その情報生産は、公的部門と業界団体が共同で実施しているものであるが、参考になるものと考える。
※住宅新産業研究会 提言:「透明で中立的な不動産流通市場の条件~情報流通整備と新産業の重要性」
公開日:




