資産価値とは将来の価格を現状からイメージすること

“冷静に物件のスペックを見極める”=物件とのスタンスを適度に保つ他社の目を持つことが肝要だ“冷静に物件のスペックを見極める”=物件とのスタンスを適度に保つ他社の目を持つことが肝要だ

昨年末に「資産価値とは立地である」とのタイトルだけは潔いコラムを公表した。
その後、「物件の真価を見抜くための“他者の眼”」とは具体的にどういう意味か、とか「自分が気に入った物件を、他の人も良いと思ってくれるだろうかという感覚」ってどんな感覚のこと?などと関係各位から聞かれたので、今回はマンション(住宅と言い換えても良い)の資産価値について、少し踏み込んで説明したい。

まず、頂戴した質問を解説すると、「他者の眼」とは“物件に過度に惚れ込まず、努めて客観的に評価せよ”という意味である。
物件を購入するかどうか検討している時は、欲しいという気持ちが先立ってしまい、物件の長所やメリットばかりが目について案外デメリットに気が付かないものだ。
キッチンの機能性やリビングからの眺望に目を奪われないほうが難しいとは言え、例えば“駅3分の稀少立地”などと広告やパンフレットに書かれているとそれを鵜呑みにしてしまうことが多い。広告表示では、駅の構内で最も物件に近い出口からの所要時間を表記することが認められており、駅徒歩3分とは必ずしも駅の改札から3分ということを意味しない。つまり○○駅のA5出口から徒歩3分なのであり、改札からA5出口までの所要時間は含まれていないのである。駅徒歩3分だから資産価値は高いはずだと思っても、実際に改札まで徒歩7~8分掛かる場合は、スペックを割り引いて見ておく必要があるだろう。
全てを疑ってかかる必要はないが“冷静に物件のスペックを見極める”=物件とのスタンスを適度に保つことが他者の眼を持つということだ。

また、「自分が気に入った物件を他人も気に入るかどうか」というのは、専ら“物件の汎用性”について言及している。
使い勝手の優れたマンション、買い物が便利で落ち着いた佇まいのマンション、セキュリティがしっかりしていて安心感が高いマンション、公開空地があって子供を安心して遊ばせることができるマンション…など、人が住宅に求める機能や条件は多岐に渡るが、少なくとも「不便なマンション」や「住み心地の良くないマンション」の資産価値が良好なはずはない。
つまり物件の“加点ポイント”が多いことよりも“減点ポイント”が少ないことのほうが汎用性は高くなると考えて良い。もちろん、減点が少ないうえに魅力的で便利な物件であればそれに越したことはないが、そういう物件は一般的にかなり高額である。さらに汎用性とは狭すぎるとか、反対に広すぎるとかという点にも表れる。
「過ぎたるは及ばざるが如し」とはよく言ったものだが、住宅の資産価値を斟酌するにも当て嵌まる言葉だと思う。

“なにかと便利”であることが資産価値を高く保つ

交通利便性は駅に近いだけでなく、アクセスや目的地までの乗り換え回数、トラブル時の代替交通手段、駅改札やホームまでの所要時間も重要なポイント交通利便性は駅に近いだけでなく、アクセスや目的地までの乗り換え回数、トラブル時の代替交通手段、駅改札やホームまでの所要時間も重要なポイント

では、上記のように客観的かつ冷静に物件を見極め、汎用性についても確認できたとして、資産価値に“効く”要素は何だろうか。

私は、極論すれば利便性に尽きると考えている。
利便性は「交通利便性」と「生活利便性」とに大別できるのだが、特に交通利便性は単に駅に近いということだけでなく、その駅がどこにアクセス可能なのか、乗り換えずに(効率良く)勤務先や目的地に辿り着くことができるか、万一トラブルが発生した際に代替交通手段があるか、などにも注意する必要がある。もちろん駅の改札、もしくはホームまでの所要時間も重要なポイントになる。
生活利便性は物件周辺の充実度のことだが、これは人によって求めるものが異なるものの、スーパーマーケットや商店街の存在、医療機関など誰もが必要とする“生活装置”が過不足なく整っているかを確認すれば済むことである。また歩道や道路幅員も暮らしやすさに関わってくるので、できればチェックしてもらいたいポイントである。

このように、一見子細な要素が集まることで利便性は成立しており、要は“なにかと便利”であることが、資産性にも影響を与えていると考えてほぼ間違いはない。さらに便利であることに加えて、「安全であること」も現在では見逃せない要素になっているが、この安全性も、いつ発生するか分からない災害に対する備えと、日常の安全=交通事故や犯罪から身を守るという意味での安全の両方を確認すべきだろう。

利便性は賃料水準で確認できる

2つの利便性と安全性が資産価値に大きな影響を与えるとしても、これらの要素は何を見れば確認できるのか。
その答えはエリアの「賃料水準」に求めることができる。
都心に近ければ賃料は高いし、駅に近くても同様である。新築や築浅物件の賃料は高く、これらが全て揃った住宅地の賃料水準は例外なく高い(しかも反対を考えれば、賃料水準は例外なく低いこともわかる)。つまり、その物件、その町、そのエリアに“住みたい”と思う人の数の多さが賃料水準の多寡に作用していると考えると、賃料水準が高いこと=人気があること=何かと便利で安全であること=資産価値が落ちにくい、というフローがイメージできる。
最近では不動産鑑定評価でも収益還元法(収益=賃料を基準に価格を算定する手法)が定着してきた感があるが、賃料はもともと人気のバロメーターであり、しかも振幅が少なく相場観がエリアごとに安定推移する特性があるので、特定エリアの資産性(=ポテンシャル)を計るのには大変便利な指標になり得る。賃料という定量的な「物差し」をあてれば、資産価値を推し量ることができるのである。

では、賃料水準だけ見れば資産価値は“わかる”のか。
マンション選びは街選びであるという立場からは、エリアのポテンシャルは賃料水準で十分確認可能だと考えている。ただし、最終的には自分と家族が住む器としてのマンションを選ぶので、賃料水準に加えて見るべき指標が必要となる。
それを次回のコラムで解説する。

資産価値を示す利便性と安全性のひとつのバロメーターとして、そのエリアの「賃料水準」があげられる資産価値を示す利便性と安全性のひとつのバロメーターとして、そのエリアの「賃料水準」があげられる

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