建設費高騰で延期された「泉ケ丘駅前活性化計画」が再始動

大阪府堺市の南部に、泉北ニュータウンという大規模な住宅地がある。1967年のまちびらき以来、丘陵地の緑に囲まれたこのエリアには公園や遊歩道が計画的に整備され、大阪有数の繁華街である難波エリアまで電車で約30分という利便性もあいまって大きく発展してきた。最盛期の1992年には約16万5,000人が暮らし、関西屈指のニュータウンとしてその名が知られている。

しかし、まちびらきから半世紀以上が経った現在、当時入居した世代がそろって高齢期を迎え、エリア全体の高齢化率は37%を超えた。これは全国平均よりもはるかに高い数字だ。一方で、若い世代は進学や就職をきっかけに街を離れていき、現在の人口は約11万人台にまで減少した。

泉北ニュータウン内の住宅も高経年化が進んでいる泉北ニュータウン内の住宅も高経年化が進んでいる
泉北ニュータウン内の住宅も高経年化が進んでいる泉ヶ丘地区の年齢階層別人口及び高齢化率の推移を見ると、高齢化率が年々高まっていることがわかる(画像引用:泉北ニューデザイン推進協議会「泉ヶ丘ネクストデザイン」)

この状況に手を打つべく、堺市と南海電鉄は2022年に「泉ケ丘駅前活性化計画」を立ち上げた。しかし計画の直後から建設費の高騰が深刻化し、計画は延期に追い込まれる。

それでも堺市と南海電鉄は計画を中止せず、両者は2023年12月に包括連携協定を締結し、行政と民間企業が将来のビジョンを共有する体制を強化した。さらに大阪府などの公的団体も加わった「泉北ニューデザイン推進協議会」を通じて、泉ケ丘駅前地域の将来像「IZUMIGAOKA Next Design」を策定したのだ。

そして2025年1月、この粘り強い連携の積み重ねにより、泉ケ丘駅前活性化計画がついに再始動した。その目玉は大きく3つ。泉北ニュータウン初となる30階建てタワーマンションの建設、老朽化した駅前商業施設の建替え、そして駅前の歩行者動線を2階に引き上げる回遊空間の整備である。

本記事では計画の紹介とともに、全国の郊外ニュータウンが抱える課題を解くヒントを探っていきたい。

泉北ニュータウン内の住宅も高経年化が進んでいる南海電鉄泉北線泉ケ丘駅

泉北ニュータウン初となる30階建てタワーマンションの建設

泉北ニュータウンといえば、一戸建てや中層マンションがゆったりと並ぶ街並みが特徴だ。丘陵地の緑を活かした閑静な景観は、半世紀以上にわたってこの街の大きな魅力だった。その泉北ニュータウンに、30階建て・高さ約100mのタワーマンションが建設される。長いこの街の歴史において、まさに転換点と言える計画だ。

建設される場所は、泉ケ丘駅前の南海電鉄が所有する敷地だ。駅の目の前という立地で、2028年度に開業予定の新しい商業施設や、駅前の歩行者ネットワークとも直結する計画となっている。

泉ケ丘駅前活性化計画 完成イメージ(画像引用:南海電鉄「南海電鉄と堺市が“公民連携”で泉ヶ丘駅前地域を再整備!&南海電鉄による「泉ケ丘駅前活性化計画」が再始動!」)泉ケ丘駅前活性化計画 完成イメージ(画像引用:南海電鉄「南海電鉄と堺市が“公民連携”で泉ヶ丘駅前地域を再整備!&南海電鉄による「泉ケ丘駅前活性化計画」が再始動!」)
泉ケ丘駅前活性化計画 完成イメージ(画像引用:南海電鉄「南海電鉄と堺市が“公民連携”で泉ヶ丘駅前地域を再整備!&南海電鉄による「泉ケ丘駅前活性化計画」が再始動!」)再開発エリア内にあるフェンスで囲まれた工事予定地

2026年1月時点でのタワーマンションの概要は以下のとおりだ。

・建物規模:地上30階建て、約370戸
・延床面積:約4万2,000m2
・竣工予定:2031年度
・事業者:南海電鉄を含む複数事業者

駅前にタワーマンションができれば、泉北ニュータウンで「郊外だけど便利に暮らせる」という新しい選択肢が生まれる。通勤時間を少しでも短くしたい共働き世帯や、子育て環境と生活の利便性を両立したい子育て世代にとって、駅前ですべてがそろう暮らしは魅力的に映るはずだ。

緑豊かな郊外環境を楽しみながら、駅前で日常の用事が完結する暮らし。このタワーマンションは、泉北ニュータウンの次の時代をつくる象徴的な存在になるだろう。

長年親しまれた専門店街が新しい駅前商業施設へ生まれ変わる

タワーマンションと並ぶもう1つの柱が、泉ケ丘駅前にある「泉ヶ丘ひろば専門店街」の建て替えプロジェクトだ。この専門店街は、泉北ニュータウンの発展とともに地域住民の日常を支えてきた商業施設だ。個人商店やクリニック、金融機関などが軒を連ね、駅前の生活拠点として長年親しまれてきた。

しかし、まちびらき当初に建設された商業施設は建物の老朽化が進み、現代の生活ニーズに応えきれなくなっている側面も否めない。新しく生まれ変わる商業施設は、タワーマンションの竣工より3年ほど早い2028年度の開業を予定しており、駅前の雰囲気を一新する存在になるだろう。

1階駅前南コンコースの大階段と駅前商業施設イメージ(画像引用:南海電鉄「南海電鉄と堺市が“公民連携”で泉ケ丘駅前地域を再整備!&南海電鉄による「泉ケ丘駅前活性化計画」が再始動!」)1階駅前南コンコースの大階段と駅前商業施設イメージ(画像引用:南海電鉄「南海電鉄と堺市が“公民連携”で泉ケ丘駅前地域を再整備!&南海電鉄による「泉ケ丘駅前活性化計画」が再始動!」)
1階駅前南コンコースの大階段と駅前商業施設イメージ(画像引用:南海電鉄「南海電鉄と堺市が“公民連携”で泉ケ丘駅前地域を再整備!&南海電鉄による「泉ケ丘駅前活性化計画」が再始動!」)泉ヶ丘ひろば専門店街の今の様子

建替え予定の商業施設の概要を見てみよう。

・建物規模:地上4階建て
・施設用途:複合(商業・サービス等)
・延床面積:約1万0,900m2
・竣工予定:2028年度
・事業者:南海電鉄

南海電鉄は計画当初から、泉北ニュータウンに不足していた「働く場」の提供や「子育てを支援する機能」の導入を掲げてきた。新しい商業施設には、買い物だけでなく、仕事や医療、子育て支援など、暮らしに必要な機能が集約される予定だ。

駅前に暮らしの機能が集まれば、ベッドタウンだった泉北ニュータウンに昼間の活気が戻ってくることが期待できるだろう。

大階段と歩行者デッキの再整備による回遊性の向上

今回の計画には、建物だけでなく、駅前での人の歩き方そのものを変える計画が盛り込まれている。その1つが、泉ケ丘駅の南側コンコースに新設される大階段だ。

現在、泉ケ丘駅の2階部分には、堺市が整備した「くすのき広場」というペデストリアンデッキがある。しかし、駅から出た人の多くはそのまま1階に降りてしまうため、2階のデッキはあまり活かされていないのが実情だ。

2階デッキのくすのき広場と駅前商業施設イメージ(画像引用:南海電鉄「南海電鉄と堺市が“公民連携”で泉ケ丘駅前地域を再整備!&南海電鉄による「泉ケ丘駅前活性化計画」が再始動!」)2階デッキのくすのき広場と駅前商業施設イメージ(画像引用:南海電鉄「南海電鉄と堺市が“公民連携”で泉ケ丘駅前地域を再整備!&南海電鉄による「泉ケ丘駅前活性化計画」が再始動!」)
2階デッキのくすのき広場と駅前商業施設イメージ(画像引用:南海電鉄「南海電鉄と堺市が“公民連携”で泉ケ丘駅前地域を再整備!&南海電鉄による「泉ケ丘駅前活性化計画」が再始動!」)2026年2月現在のくすのき広場

そこで今回のプロジェクトで大階段を新設し、駅を出た人の流れを自然に2階へ導くことで、くすのき広場や新しい商業施設、さらには2025年に泉ヶ丘エリアに移転開院した近畿大学病院方面へ、地上に降りることなくスムーズに移動できるようになる。

完成は2028年度の予定で、新しい商業施設の開業と同じタイミングだ。車道と交差しない2階の歩行空間は、ベビーカーや車椅子を利用する人にとっても安心感がある。さらに広場やデッキで人が自然と足を止め、ベンチで休んだり会話を楽しんだりする「賑わい空間」としても機能することになるだろう。

2階デッキのくすのき広場と駅前商業施設イメージ(画像引用:南海電鉄「南海電鉄と堺市が“公民連携”で泉ケ丘駅前地域を再整備!&南海電鉄による「泉ケ丘駅前活性化計画」が再始動!」)2025年11月に近畿大学医学部と近畿大学病院が「おおさかメディカルキャンパス」として泉ケ丘駅前に新築移転した

泉ケ丘駅前の再整備が示す、これからのニュータウン

泉ケ丘駅前活性化計画には、日本の郊外ニュータウンがこれからどう変わっていくべきか、そのヒントが詰まっていると筆者は考える。

まず注目したいのが、「集約」というキーワードだ。これまでの泉北ニュータウンは、広い丘陵地に住宅が点々と並ぶ街だった。若い頃はそれでよくても、高齢化が進むほど移動の負担が大きくなる。泉ケ丘駅前活性化計画は、駅前にタワーマンション・商業施設・医療機関を集約し、歩いて暮らせるコンパクトな生活圏をつくることで、この課題に応えようとしている。

2つ目のキーワードは「自立」だ。都心で働き、郊外で寝る。そんなベッドタウンの時代は終わりつつある。新しい商業施設に働く場所や子育て支援機能が導入されれば、地元で働き、買い物をし、人と交流する暮らしが実現する。若い世代からシニアまでが日中から集まる場所ができれば、街の雰囲気は大きく変わるはずだ。

このような課題は泉北ニュータウンだけのものではない。多摩や千里など、全国の郊外ニュータウンが同じ壁に直面している。泉ケ丘駅前の成果は、他のニュータウンが再生に踏み出す際の重要なヒントになるに違いない。

2028年度に駅前の再整備が完了し、2031年度にタワーマンションが竣工する。その時、泉北ニュータウンがどのような姿に生まれ変わっているのかに注目していきたい。