2026年、なぜ「湯河原」が1位に躍り出たのか? データが示す郊外化の波

毎年2月頃に前年1年間の問合せ数を基にして発表されるLIFULL HOME’Sの「みんなが探した!買って住みたい街ランキング」。2026年の「首都圏版 買って住みたい街ランキング」では、毎年データ集計・分析している担当者が二度見、三度見する意外性のある駅が1位となった。

1位となったのは、「湯河原」。東京駅から約100㎞の距離に位置しており、都心からこれほど離れた街が問合せ数No.1になることは過去一度もなかったため、集計に間違いがないのか繰り返し確認したほどだ。ちなみに、2位は「八王子」、3位が千葉県郊外の「八街」となり、ベスト3がすべて郊外の街というのも住みたい街ランキングでは初めてのことである。

つまり、住宅価格の上昇・高騰が続き、実需層は郊外エリアに目を向けているという現状が浮き彫りになるランキングの結果となった。

実は、国が住民票の移動を基に把握する“移動人口”も、大都市圏の中心エリアである東京都や大阪府から35歳以上のファミリー層が子どもと一緒に郊外方面へと数多く転出し、転入者数との差分においても“転出超過”となっている(大阪府および湯河原のある神奈川県は転出超過になっていないが転入超過数が激減している)。

2026年、なぜ「湯河原」が1位に躍り出たのか? データが示す郊外化の波
2026年、なぜ「湯河原」が1位に躍り出たのか? データが示す郊外化の波

湯河原は、コロナ禍の住宅事情が色濃く反映され始めた2021年のランキングで86位と初めてベスト100入りしたが、コロナ明けの2024年には42位、翌2025年には一気に36ランクアップして6位、そして2026年には頂点に立つという急上昇ぶりを記録している。まさに首都圏でコロナ後に発生した住宅価格の高騰とタイミングを合わせるかのように毎年順位を上げてきた。

相模湾に面していて冬は温暖で夏も比較的涼しい住環境と海の幸と山の幸が豊富な生活環境に加えて、町民が割引利用できる温泉施設も多数。またフィッシング、サーフィンやダイビング、キャンプなどアクティビティも豊富で一年中リゾートライフが楽しめる湯河原町。移住相談の専任者を置くなど受け入れ体制を整えているという。今回は、湯河原町の不動産会社「株式会社リアルター」の門松 寅吉(かどまつ・とらきち)氏と、湯河原町役場で移住相談を担当する赤塚 黎生(あかつか・れお)氏に、LIFULL HOME'S総研の中山が現場での感覚や実態について話を聞いた。

熱海でも真鶴でもない。湯河原が選ばれる「絶妙な距離感」と「観光地らしすぎない日常」

株式会社リアルター・門松 寅吉氏株式会社リアルター・門松 寅吉氏

中山「『買って住みたい街ランキング2026』1位獲得おめでとうございます。コロナ禍が明けてから、湯河原町で購入物件を探されている方が増えている印象はありますか?」

門松氏「コロナ前の水準に戻っただけでなく、それ以上に増えていますね。1位と公表されてからお客様にも『すごい、やっぱり買ってよかった』と言われます。湯河原町は気候が温暖で、海・山・温泉と自然がたくさんあり、町の機能もそろっていて暮らしやすいのが理由だと思います」

中山「行政窓口の方では、1位を受けて周りからの反応はいかがでしたか?」

赤塚氏「前回から6位にランクインし、そこそこの順位だったのですが、まさか1位になれるとは思っていませんでした。今年度から移住相談の専任担当として私が配置されたのですが、漠然とした相談ではなく『湯河原でこういう生活をしたくて』というビジョンをしっかり持った“本気度が高い層”が、思っていたより多く来ている肌感覚があります」


中山「湯河原は東京駅から約100km圏内ですが、同じ圏内で考えると、千葉の銚子手前や群馬の高崎手前などになります。JR東海道本線だと乗り換えなしで「横浜」まで約60分、「東京」まで約90分。新幹線を利用すると「小田原」もしくは「熱海」乗り換えで「東京」まで約60分なので、東京をはじめ品川、川崎、横浜などにダイレクトアクセスが可能です。都心へのアクセスがずば抜けて良く、十分通勤・通学可能なエリアでしょう。しかも北関東ではなく『神奈川県』と首都圏にとどまっている点も大きいですよね」

門松氏「そうですね。やはり神奈川県は都会という感覚があり、選ばれる方は多いです。熱海だとギリギリ静岡県になりますからね」

中山「なぜ今回”買って住みたい町”として湯河原が選ばれたと思われますか?」

門松氏「熱海は今、観光客の方に大人気で少し騒がしいんです。なので、もう少し落ち着いていて静かな湯河原を選ぶ方が多いのではないでしょうか。実は、私自身は自宅が熱海にあるのですが、スーパーなども湯河原の方が多く、生活の便利さは湯河原の方が良いと感じます」

湯河原町役場 地域政策課 企画係主事・赤塚 黎生氏湯河原町役場 地域政策課 企画係主事・赤塚 黎生氏

赤塚氏「よく温泉地として熱海や箱根とまとめられますが、湯河原は観光渋滞などのいわゆる『オーバーツーリズム』が日常に支障をきたすレベルでは起こりません。相談に来た方も『いい意味で人がいない、観光地らしすぎない』と驚かれます。また、熱海は立地的に傾斜がちですが、湯河原は平坦な生活圏が多いので、将来車を手放しても生活できる点を押し出しています」

中山「手前の小田原や、隣の真鶴との違いはいかがですか?」

門松氏「小田原周辺で探す中で『箱根は寒くて住めない』と湯河原に来る方もいらっしゃいます。真鶴も今は価格が高く、独自の雰囲気があって熱いファンがいらっしゃいますね」

メイン顧客は「60代前後のアクティブシニア」。1,000万円台で探す堅実なセカンドライフ

中山「実際に物件を探しに来られるメインの年齢層はどのくらいですか?」

門松氏「ご夫婦で60代前後、リタイアする前ぐらいのアクティブシニアの方々が多い傾向にあります。現役の子育て世代からの問合せもありますが、学校までの距離がネックになるのか、購入にいたる割合はまだ少ないですね。一方で、単身者向けとはうたっていなくても、リモートワーク前提で1LDKなどを購入して一人で移ってくる現役世代の方も増えています」

中山「我々の調査だと、都内の中古マンションは築25年まで平均1億円になっています。普通の人が買える値段ではなくなっているんですが、それでも売れている。そうなると、都内の手持ち物件を売却して現金化し、税金を払っても手元にまとまった金額が残るので、その一部を使って湯河原で現金購入される方も多いんじゃないですか?」

門松氏「多いですね。湯河原町に移住される方々は、今からローンを組む年齢でもないですし、持っているお金とこれからの生活費を残しつつ、こちらに移ってこられる方はやはり多いです。年金ももらえるし、当座の生活費に困ることはないから、ここで終の棲家的にのんびり暮らしていこうという方がいらっしゃいますね」

中山「どのような価格帯や物件条件のニーズが高いですか?」

門松氏「ボリュームゾーンは1,000万円台で、上限2,000万円ぐらいまでが多いです。生活の便利さが求められるため、海側で駅から歩けるか、バス便が通っているところが人気です」

中山「やはり温泉が引かれている物件が人気なんでしょうか?」

門松氏「意外とそうでもなく、『家で温泉に入れなくてもいい』という方もいらっしゃいます。温泉付きは管理費が高くなったりするので、逆に温泉がないマンションを探して、入浴は近くの施設に通うそうです」

都内は平均1億円超で「普通の人が買えない時代」へ。湯河原1位は“郊外化の象徴”か

LIFULL HOME'S 総研・中山 登志朗LIFULL HOME'S 総研・中山 登志朗

中山「今のマーケット全体を見たとき、今回湯河原が1位になったのはまさに『郊外化の象徴』だと思っています。都心部が高くて買えないから郊外へと目が向くわけですが、例えば今、船橋の駅前で造っているタワーマンションは一番高い部屋が7億円なんですよ」

門松氏「7億ですか! 船橋で……」

中山「東京から30分ちょっとの距離で、7億です。横浜のみなとみらい周辺も中古で2億、3億円が当たり前になっていますし、大宮や、東京から100km離れた宇都宮・水戸の駅前タワマン最上階でも1億5,000万円とかするんです。一般の給与所得者が手を出せる金額で、買い物も便利で病院も学校もあるような街を探しても、1都3県や北関東まで広く見渡しても、見つかるところがなかなかないというのが現状なんですよね。これだけ不動産が高くなって、東京から50kmほど離れた藤沢あたりでようやく7,000万〜8,000万円ほどです。それでも長期のローンを組まないと買えないですし、そこから東京まで電車で1時間通うのもしんどい。そうすると、藤沢よりさらに外側の小田原や湯河原、真鶴などに目が向くのは自然な動きだと思います」

門松氏「元々『湘南エリアで探しています』という方は多いんですが、どうしても物件が高くなりがちなので、探しているうちに予算の兼ね合いでだんだん海沿いを下ってきて、湯河原まで来られるという方は、以前から多かったですね」

本気度の高い移住者が集まる、湯河原ならではの豊かなライフスタイル

中山「実際に買ってお住まいになっている方は、どのようなライフスタイルを送っているのでしょうか?」

門松氏「朝早く起きて海や川沿いを犬と散歩したり、釣りやサーフィンを仲間と楽しんだりする話をよく聞きます。また、週に2、3回温泉に浸かる機会があるのは本当に贅沢ですよね」

赤塚氏「行政としても、町民になると町営の日帰り温泉にワンコイン(町民料金)で入れたり、熱海・真鶴の一部施設も割引で利用できたりと、温泉を日常の暮らしに取り入れやすい環境をアピールしています。小学校の授業でも温泉入浴体験やお茶摘み体験、稚鮎の放流などをカリキュラムに取り入れていて、都心では体験できないような機会が身近にあるのが移住者にとっての魅力ではないでしょうか。このような湯河原の魅力を感じてもらえるようPRをしています」

中山「二拠点生活の需要もあるのでしょうか?」

赤塚氏「実際に八王子と湯河原で二拠点生活をされている方もいらっしゃいます。万葉公園の玄関テラスや駅前のカフェ、移住相談拠点『駅前の居場所』の2階など、フリーWi-Fiが飛んでいてコワーキングスペースとして利用できる場所も整備されているので、リモートワークを考えている方にも評価いただいています。ただ、こうした湯河原ならではの魅力が外部にうまく発信しきれていないのが課題なので、今後しっかり押し出して誘致につなげていきたいです」

湯河原駅前には「手湯」が設置されていた。身近に温泉を楽しめるライフスタイルが想像つく湯河原駅前には「手湯」が設置されていた。身近に温泉を楽しめるライフスタイルが想像つく

良い物件は即完売。「物件在庫不足」の背景と今後の展望

湯河原駅前の様子湯河原駅前の様子

中山「住みたい街1位ともなると、今売り物件の数はどうですか? 需要に対して足りなくなっているのでしょうか?」

門松氏「足りていないですね。お探しの方が非常に多くて、条件に合う物件があまりそろっていない状況です。いい物件が出てくるとすぐ売れて決まってしまうんです」

中山「なるほど。これだけ人気なら開発が進みそうですが、新築のマンションが次から次に建つわけではないんですよね」

門松氏「そうですね。湯河原町は20年ぐらい前から高さ制限の条例があり、一番高くても24mまでしか建てられません。10階も建たない高さなので、上に伸ばして効率的に稼ごうといった、開発する側のうまみがないんです」

中山「だから新築が供給されず、中古市場での競争が激しくなっているんですね。となると、リフォームして出していくのが良さそうですね」

門松氏「そうですね、相性が良さそうです。このランキングを見て注目されるリフォーム会社さんもいらっしゃるかもしれませんね」

中山「物件が無くなってくるとこれから物件価格は高くなってくる気がしますが、価格帯としてはどうでしょうか?」

門松氏「築年数が古いものも多いので急激に上がっていくというよりは、大体1,000万円が1つの目安で、上限も2,000万円という分かりやすいマーケットです。ただ、駅近くの共用施設が整っているマンションだと少し上の価格帯になり、60平米ちょっとで4,000万円ぐらい、少し下の方だと3,000万円台で出てくる形ですね」

中山「それでも東京や横浜と比べれば全然安いし、駅に近くて温泉もあって、コスパもいいですね。都心部の価格高騰の影響を受けた郊外化の受け皿としてだけでなく、観光地すぎない生活圏や温泉といった独自の魅力、そして圧倒的なコストパフォーマンスがあるからこそ、湯河原が1位になった実態がよく分かりました。単なる一時的なブームではなく、確かに選ばれる理由がありますね。本日は現場のリアルなお話をありがとうございました」

これからの「買って住みたい街」とは?

これからの「買って住みたい街」とは?

“買って住みたい街”の1位が前回の「勝どき」は今回34位に急落し、「湯河原」になったことは、物件価格や生活の効率だけで街を選択する“限界”を示しているともいえる。

住宅価格が高騰し、都市の機能性や事業集積性、高度な利便性といった効率を高めつつ生活を維持するスタイルが誰でも得られるわけではないという昨今の状況においては、これらと異なる“居住するうえで好ましい要素”を数多く備えている街・エリアを選択する視野の広さ、発想の転換が必要になると感じている。街の魅力は、機能性や事業集積性、人口集積性だけで決まるものではなく、祭禮や儀式・行事を通じて連綿と受け継がれてきた歴史や文化、情緒といった目に見えない&数値化できない要素も検討するべきだし、そういった要素が整っている街は、年齢や性別を問わず誰にとっても住みやすい街であることが多い。物件価格や賃料水準が安価であることだけが“住みたい街”の要素では、生活する楽しさや安心感、快適さを得ることは難しいのではないのだろうか。

住むエリアを選ぶためには、特に資産性において便利であることも大切な要素のうちの1つだが、一方で便利なだけでは生活を維持し続けることが困難だ。利便性以外の要素、たとえば住宅および街の快適性、安全性やコミュニティの存在、医療機関、教育機関の充実度、適度な繁華性と自然環境など、住宅とその周辺環境に求める要素は多岐にわたるため、時代によって“住みたい街”が変遷していくのも当然だろう。常に“自分と家族にとってこの街は安全に快適に、そして幸福に暮らし続けられるか否か”が最終的な判断の基準=本当に住みたいと思える街といえるのではないか。

(解説:LIFULL HOME'S総研 中山 登志朗)