都市の「更新」から、新たな都市の「創造」へ
福岡市東区箱崎。2018年に九州大学箱崎キャンパスが伊都キャンパス(福岡市西区)への移転を完了させてから、約8年が経過した。100年以上にわたり九州の知の集積地として機能してきた広大な敷地は、いよいよ具体的な土地利用へと動き出す。2026年4月、民間コンソーシアムへの土地引き渡しが始まり、スマートシティ創出プロジェクト「FUKUOKA Smart EAST(フクオカ スマート イースト)」が実際の建設フェーズへと移行する。
その規模はみずほPayPayドーム福岡の約7個分に相当する約50ヘクタール。職・住・遊・学が融合した都市をゼロから構築する試みとして、計画の具体化が進んでいる。
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2026年4月、基盤整備から建築工程へ
これまでプロジェクトを下支えしてきたのは、独立行政法人都市再生機構(UR都市機構)による土地区画整理事業だ。幹線道路の整備や地下インフラの敷設といった都市の骨格づくりは2025年度中におおむね完了する見通しだ。
2026年4月からは、優先交渉権者である民間コンソーシアムへの土地引き渡しが段階的に開始される。代表企業の住友商事をはじめ、九州旅客鉄道(JR九州)、西部ガス、清水建設、大和ハウス工業、東急不動産、西日本新聞社、西日本鉄道という、地場企業と全国規模のデベロッパーが名を連ねる。
天神ビッグバンや博多コネクティッドといった福岡都心部の再開発が、既存のビルを建て替える「点」や「線」の動きであるのに対し、FUKUOKA Smart EASTはゼロから都市を設計する「面」の開発だ。既存の制約に縛られず、インフラから街並み、コミュニティの仕組みまでを一体的に設計できる点がプロジェクトの特徴といえる。
福岡市東区のプロジェクトでは、先行する人工島「アイランドシティ」があるが、あちらが埋め立てによって新たな土地を確保したのに対し、この箱崎は100年の歴史を持つ拠点跡地を再定義する「都心の再生」という性格を持つ。両者の大きな違いは交通インフラだ。車社会との親和性が高いアイランドシティに対し、箱崎は地下鉄・JR・西鉄が交差する鉄道ネットワークの結節点に位置する。約4km圏内に博多駅・博多港・福岡空港が収まるという立地条件は、福岡市内でも希少性が高い。
さらに交通利便性は、2027年にJR九州がJR鹿児島本線の千早-箱崎間に新駅「JR貝塚駅」を開業することで一段と高まる。これにより、西鉄貝塚線・地下鉄箱崎線「貝塚」駅と合わせて、2駅3路線の利用が可能になる。
九州大学100年の記憶を新しい街に刻む
まちづくりの根底には「歴史の継承」という設計思想がある。100年以上にわたり積み上げられてきた九州大学箱崎キャンパスの記憶を、物理的な遺構として新街区に組み込んでいく。
その象徴が「旧・工学部本館」だ。国登録有形文化財でもあるこの建物は、外観を保存したうえで内部をイノベーション拠点へとリノベーションする。旧本部第一庁舎の玄関部分、正門、門衛所といった遺構も、街の景観として保存・活用される。景観設計においても歴史資源を活用したアートの設置が計画されており、街の随所に「箱崎の記憶」が反映される。
街の骨格を成すのは、それぞれ異なる役割を持つ5つのメインストリートだ。ケヤキ並木が続く「ウェルカムストリート」、医療・福祉施設と連携する「ウェルネスストリート」、交流空間が連なる「ノースリビングストリート」と「サウスリビングストリート」、地域の歴史と学問をテーマとした「ナレッジストリート」の5本だ。主要な動線には、駅から雨に濡れずに移動できる「アンブレラフリー動線」の整備も検討されている。
自然環境についても、既存の植生を生かす方針だ。100年を経て根を張った大樹を保存しながら、新たに1万本以上の樹木を補植して「箱崎創造の森」を形成する。街全体の緑化率は約40%を目指しており、都市部において高い水準の緑量を確保する計画だ。
「技助」という思想と次世代通信基盤IOWN
プロジェクトの核心には、日本古来の「自助」「共助」「公助」にテクノロジーによる課題解決を加えた「技助(ぎじょ)」という思想がある。2036年には3人に1人が高齢者になると予測される中、高齢化や医療、子育てといった都市課題に対し、テクノロジーを介して向き合うモデルを箱崎から提示することを目指している。
この思想を支える通信基盤として、次世代通信技術「IOWN(アイオン:Innovative Optical and Wireless Network)」の導入が計画されている。
省電力・低遅延・大容量を特徴とするこの技術は、街全体のデジタルツインを実現したうえで、各スマートサービスを統合・連携する。イノベーション拠点「BOX FUKUOKA」では、スタートアップや研究機関が連携し、新技術の社会実装に向けた取り組みが進められる。
職・住・遊・学が融合する、主要ゾーンの全貌
敷地内には、分譲住宅約2,000戸をはじめ、単身者向け賃貸、高齢者向け住宅、共同社員寮、学生寮と、多様な世代が共生する住まいが供給される。仕事や学び、遊び、そして健やかな暮らしを支える機能が街の中に混在し、日常の機能が徒歩圏内で完結する構成となっている。
医療面では、総合病院や産婦人科クリニックの移転拡張、クリニックモールを核とした「箱崎版地域包括ケアシステム」の構築を目指す。ここに保育園や学童施設、福祉拠点を併設することで、多世代が支え合える環境を整える。教育面では、インターナショナルスクールや外語専門学校が集まる「マナビマチ」のほか、社会起業塾や生涯学習の場も設けられる。
これらの機能をつなぐのは、前述の5つの通りと次世代のモビリティだ。シェア型モビリティやオンデマンド交通、これらを一括で利用できるアプリを組み合わせ、街の中を自由に移動できる環境を提供する。さらに、エリア全体を見守るマネジメントセンターやAIカメラ、自律移動型の配送ロボットといった技術が、子どもや高齢者の安全を地域全体で守る「技助(ぎじょ)」として機能する。技術が表に出るのではなく、日々の安心を裏方として支える環境が整えられようとしている。
2026年4月、箱崎が動き出す
プロジェクトは、10年以上の歳月をかけて段階的にその姿が形づくられていく。2025年度中に主要幹線道路などの基盤整備が完了し、土地譲渡契約が締結される。そして2026年4月、民間事業者への土地引き渡しが始まり、建築工事が順次着工する。













