国土交通省が掲げる「コンパクト・プラス・ネットワーク」とは
人口減少や高齢化が進行する中、特に地方都市では郊外へと広がった市街地を従来どおり維持することが困難になっている。そのため、医療・福祉、商業などの生活サービスや住まいを適切に誘導し、公共交通により効率的に結ぶことで、持続可能な都市構造を形成する取り組みが各地で進められている。
こうした都市づくりの基本方針として国(国土交通省)が掲げるのが「コンパクト・プラス・ネットワーク」だ。
「コンパクト」とは、生活に必要な都市機能を中心市街地や地域拠点に誘導し、徒歩や公共交通で暮らしが完結しやすい構造を形成することを指す。「プラス・ネットワーク」は、複数の拠点を公共交通や道路網で結び、面的に連携した生活圏を構築することを意味する。
この考え方は、都市機能をただ一極に集中させるのではなく、地域内に複数の拠点を設定し、それらを持続可能な交通ネットワークで結ぶ点に特徴がある。これにより、拠点間の交流を維持しながら、郊外部の生活利便性を大きく損なうことなく、人口減少社会に適応した効率的で持続可能なまちづくりを実現することを目指している。
その具体例のひとつが、秋田市の取り組みだ。市内に複数の拠点(中心市街地や地域中心)を形成し、それらを交通ネットワークで結ぶことで、地域間のつながりと生活圏全体の維持を目指したまちづくりを進めている。
「秋田市立地適正化計画」を策定し、持続可能な都市を目指す
国土交通省の「コンパクト・プラス・ネットワーク」施策は、人口減少や高齢化が進む中で、地方都市における地域の活性化、医療・福祉・商業といった生活機能の確保、高齢者が安心して暮らせるまちづくりを目的にしたものだ。この目標を達成するため、2014年(平成26年)8月に都市再生特別措置法が、同年11月には地域公共交通活性化再生法がそれぞれ改正・施行された。これにより、拠点に生活サービスや住宅を誘導する「立地適正化計画制度」や、自治体が中心となって公共交通ネットワークを再構築する新たな仕組みが導入された。
国の施策を受け、秋田市では2018年(平成30年)3月30日に「秋田市立地適正化計画」を策定。秋田市は、都心・中心市街地と6つの地域中心を核とした「多核集約型のコンパクトシティ」形成を目指している。これは、生活に必要なサービス機能を誘導し、それぞれの地域住民が地域内で容易にサービスを受けられるようにするためのものだ。具体的には、医療、福祉、商業、子育て支援施設などについて、居住区域と連携して誘導を図ることとしている。
計画では、地域中心とその周辺、公共交通沿線等に居住を誘導して人口密度を維持する「居住誘導区域」と、医療・福祉・商業・子育て支援等の生活サービスを提供する施設の集積を誘導する「都市機能誘導区域」を設定。それぞれで「誘導施策」を展開し、コンパクトなまちの構築を目指している。
立地適正化計画の中間評価では、人口密度などで成果も
立地適正化計画は5年に一度中間評価を実施。2024年(令和6年)に中間評価が行われ、2025年(令和7年)1月に中間評価報告書が公表された。
「計画策定から約5年が経過したことから、中間評価を実施しました。その結果、人口減少の影響を受け、居住誘導区域内の人口は減少しているものの、人口密度は目標値を上回っています。また都市機能誘導施設の立地が増加するなど、計画の成果が確認されました。『都市機能誘導区域内の平均地価』は上昇しており、『都市機能誘導区域内平均地価変動率』はマイナスからプラスに好転するなどの効果が見られました。平均地価の上昇は固定資産税の増収にもつながります」(秋田市都市整備部都市計画課 佐々木さん)
誘導区域への居住を促すために、商業的な利便性向上を目的とした空き店舗への支援策や、住宅リフォームに対する支援事業など、計画に位置付けた50以上の誘導施策を実施してきているとのことだ。
今回の中間評価では、居住誘導区域内の人口密度が維持され、都市機能誘導施設(商業・医療・福祉など)が立地してきている、という一定の成果が確認されている。その一方で、報告書によれば、都市機能・居住誘導区域内の防災・減災対策を位置付ける「防災指針」の記載、自然災害の頻発・激甚化を踏まえた都市機能・居住誘導区域の見直しなど、2025年度(令和7年度)以降に一部見直しを進める方針ともされている。
「秋田市公共交通政策ビジョン」を策定し、公共交通の維持に注力
秋田市は全国の中でも人口減少・高齢化のスピードが速いこと、また1990年代以降、郊外に住宅地や商業施設が拡散し、市民の多くが車移動に依存したことにより公共交通が弱体化。車が使えない高齢者の移動手段の確保が課題となっている。
その対策として秋田市では「地域公共交通の活性化及び再生に関する法律」を基に「公共交通政策ビジョン」を策定。2021年(令和3年)3月に策定した第3次公共交通政策ビジョンが現行計画となっている。
「多くの地方都市が同様の課題を抱えていると思いますが、モータリゼーションが進展し、車が一家に1台からひとりに1台という状況になるなど自家用車が普及した結果、公共交通の利用が大幅に減ってきています。しかし、利用者が減っているから公共交通をなくしていいわけではなく、行政や事業者がしっかり関与し、適切に役割分担をしながら公共交通を維持しましょうという考え方が、この計画のベースになっています」(秋田市都市整備部交通政策課 田口さん)
公共交通政策ビジョンでは、鉄道を骨格、幹線バス等を大動脈、タクシー等小型車両を毛細血管と位置づけ、乗り換えを前提とした効率的なネットワーク再編を目指している。
「マイタウン・バス」や、AI 配車技術を活用した「エリア交通」を整備
秋田市では以前、市営バスを運行していたものの、2000年(平成12年)に廃止という方針を出し、段階的に民間のバス事業者に路線を移行。2006年(平成18年)の3月をもって、完全に交通事業から手を引いた。
そのような中、秋田市が民間の事業者とともに取り組んでいるのが、路線バスや鉄道との乗り換えを考慮して設定した「マイタウン・バス」(コミュニティバス)と、乗り合いを前提とした予約制の「秋田市エリア交通」だ。
マイタウン・バスは、秋田市の郊外部における路線バスの不採算路線の廃止代替交通として、地域住民の移動手段を確保するため、市が事業主体となって運行しているコミュニティバス。路線の経路上で自由に乗降ができる区間を「フリー乗降区間」といい、この区間内であれば、バス停留所ではない場所でも乗り降りができるのが特徴で、東部線、西部線、南部線、北部線、下北手線の5路線で運行。不採算路線の廃止などによって公共交通が弱くなった市郊外部における重要な生活交通手段として利用されている。
秋田市エリア交通は、タクシー車両を使った乗り合い型交通サービスで、実証運行を行いながら徐々に運行地区を拡大している。あらかじめ定められた乗降場所(バス停のような所)を使いながら、予約ベースで運行を行っている。スーパーへの買い物や通院など日常生活に必要な移動を効率よく行うことができ、マイタウン・バスと異なり、「決まった路線・時刻」ではなく利用予約に応じて経路が変わる柔軟性が特徴だ。電話またはインターネットで予約ができ、運賃は大人が 300円、小学生は半額、未就学児は無料となっている。
また、秋田市エリア交通ではAI 配車技術を活用。人数や行き先などに基づいてスムーズに車両を振り分け、無駄な空車走行や過度な迂回を抑えられるようにした。
「『秋田市エリア交通』は運転手不足などでバスの減便が進んでいること、また郊外部よりも市街地のバスが少なくなってきており、その分をカバーしたいと考えて導入したものです。高齢者でも気軽に利用していただけるように、乗降場所は隣の乗降場所から200mぐらいをめどに設置することを目指しています。乗降場所の限定、かつ乗り合いということで普通のタクシーに比べれば不便ではありますが、その分運賃を安くして気軽に使ってもらえるようにと考えています」(田口さん)
公共交通をより使いやすくするために、バス事業者と連携して、出発時刻や行き先などを表示するデジタルサイネージの設置、バスの接近情報や遅延状況などをスマホで確認できるサービスの開始など、利用者ファーストの取り組みにも注力。また、秋田市では毎月第4金曜日をエコ交通の日と定め、公共交通利用促進を呼びかけている。
「コンパクトなまちづくり」への手応えと課題
お話をうかがった、秋田市都市整備部都市計画課の佐々木拓哉さん(写真右)と、都市整備部交通政策課の田口秀彦さん。「秋田市は大都市で自然環境が少ないということもなく、逆に山ばかりで何もないということもありません。まさしく『ちょうどいいから住みやすい』まちだと思います」(田口さん)立地適正化計画や公共交通政策ビジョンなどを通して、より暮らしやすいまちへと進化している秋田市。佐々木さんと田口さんに、取り組みに対するやりがいや課題をお聞きした。
「都市計画というのは、何かをしたらすぐに答えが返ってくるような事業ではないので、効果の可視化や、重要性の理解がされにくいというのは感じています。この仕事のやりがいは、日々の業務の中でまちの変化を実感できることですね。立地適正化計画の中間評価はもちろんのこと、様々なデータからまちの数値が向上しているのを見ると、小さなことでも、まちが良くなっていることを実感できて嬉しくなります。休日に町へ出かけると、かつて状況が厳しかった10年ほど前と比べて賑わいが増していると感じます。これは、これまでの取り組みの成果であり、魅力的なまちづくりに向け前進していると思います」(佐々木さん)
「多くの市民が自家用車を利用している秋田市では、公共交通への移行は簡単ではありません。市民の皆さんに公共交通の利便性を理解してもらい、利用習慣を変えてもらうためには、継続的な働きかけが必要です。秋田市では、路線バス事業を民間が担っているため、公共交通の推進には民間事業者の協力が不可欠です。しかし、民間企業の採算性を確保しつつ、市が目指すサービス内容と事業者の意向を調整することは非常に難しい側面があります。このような多くの課題がある中で、現在実証運行中のエリア交通では、利用者が少しずつ増えています。利用者アンケートでは『便利でありがたい』という声も聞かれ、こうした感謝の言葉が私たちの大きなやりがいにつながっています」(田口さん)
「住みたい田舎ベストランキング」の【若者世代・単身者部門】で3年連続1位を獲得
宝島社が発行する田舎暮らしを紹介する月刊誌が「田舎暮らしの本」。この本では田舎暮らしに関心のある人のための物件とライフスタイルを掲載し、毎年2月号に「住みたい田舎ベストランキング」を発表している。
このランキングは2013年(平成25年)2月号より開始。2025年(令和7年)版は、移住定住の推進に積極的な547の市町村を対象に、移住支援策、医療、子育て、自然環境、就労支援、移住者数などのアンケートを実施し、市町村からの回答をもとに、田舎暮らしの魅力を数値化。7つの人口別グループおよび全国12エリアに分けて、それぞれ【総合部門】【若者世代・単身者部門】【子育て世代部門】【シニア世代部門】の4部門をランキング形式で紹介している。
全国ランキング「人口20万人以上の市」(33自治体)で、秋田市は【総合部門】3位、【若者世代・単身者部門】1位、【子育て世代部門】2位、【シニア世代部門】3位となっており、特に【若者世代・単身者部門】では3年連続1位を獲得。秋田市の様々な取り組みが評価されたものと言えるだろう。
人口は約30万人。豊かな自然と都市機能が調和した「ちょうどいいまち」としての魅力に満ちた秋田市。米どころとして知られており、美味しい日本酒の産地としても有名だ。市役所での取材後秋田駅まで散歩したのだが、まちなかに大きな公園があるなど、ゆったりとした景観に好感が持てた。移住定住政策にも積極的なので、気になる人は問合せてみてはいかがだろう。
■取材協力
秋田市















