不動産データをもとに空き家の未来予測をするAIシステム「MiraiE.ai(ミラーエドットエーアイ)」

日本国内では空き家が増加し続けており、深刻な社会問題となっている。2018年における日本の空き家数は約849万戸あり、7軒に1軒が空き家という状況だ。野村総合研究所が2017年に発表した予測では、2033年に国内の全物件のうち約3軒に1軒が空き家になるとしている。

今後も続く空き家問題の対策のため、マイクロベース株式会社(以下:マイクロベース)が開発したのが、AI技術を活用し、空き家の流通確率や適正価格予測などの未来予測を行うAIシステム「MiraiE.ai(ミラーエドットエーアイ、以下「MiraiE.ai」と記載)」だ。同社はあらゆる地理情報・データ・技術と豊富な知見・実績を持ち、それを生かしてさまざまなサービスの開発・リリースを行っている。今回のMiraiE.aiの開発には、LIFULL HOME'Sの不動産データも活用されている。

MiraiE.aiの空き家予測マップの例(提供:マイクロベース)MiraiE.aiの空き家予測マップの例(提供:マイクロベース)

マイクロベースでは、国や地方自治体と連携して空き家対策の実証実験に取り組んでいる。MiraiE.aiを国・自治体へ提供し、再入居を予測シミュレーションするAIシステムに、LIFULL HOME'Sの不動産データ「緯度経度、賃料・価格」等を連携。国や自治体は、MiraiE.aiを活用した空き家対策・空き家流通促進を行う。MiraiE.aiによる5年後の予測は、92%の精度となることが確認されており、今後の活用が注目される。

令和4年度(2022年度)には、空き家対策モデル事業として実証実験の形でMiraiE.aiが採択され、愛知県豊田市や東京都町田市が協力。実際にMiraiE.aiが空き家対策・流通促進の業務に活用されているという。

MiraiE.aiを活用した実証実験の結果や現状について、豊田市役所の都市整備部 定住促進課 空き家対策の担当長の笹森さん、担当の岩本さんに話を聞いた。

MiraiE.aiを使った実証実験に参加する愛知県豊田市

豊田市は愛知県の中央から北部にかけて広がる、面積およそ918km2、人口約41万5,000人の中核市。全国的には、日本を代表する世界的企業・トヨタ自動車の本拠地として知られており、市内には同社の事業所や関連企業が多く立地しており、空き家問題とは縁がない印象があるかもしれない。

しかし、現在の豊田市は2005年に周辺6町村を編入合併し、愛知県の約17.8%を占める広大な市域になった。そのため郊外には農村部が多く、市内の約7割が山林となっており、空き家問題が課題となっているという。また、市街地においても団地に住む団塊の世代が高齢化していることから、今後空き家が増えていくと予測される。

笹森さんは「2018年の統計では全国の空き家率が13.6%なのに対し、豊田市の空き家率は9.0%。全国的に見て豊田市の空き家は少ないほうです。ですが、豊田市の人口は減少傾向なこともあり、長期的には豊田市の空き家は増加していくと考えています。私たちも漠然とですが、危機感を抱いています」と話す。

特効薬のない空き家対策だからこそAIの活用を試す

豊田市がMiraiE.aiを活用した実証実験に協力したきっかけは、上下水道局が抱えていた課題だったという。冬季になると、山間部を中心に水道管が凍結・破裂することがある。空き家付近で水道管の破裂が発生すると、居住者がいないため調査が難航して工事・復旧に時間がかかる。そのため水道局では、空き家の把握が課題となっていた。

そこで独自に空き家マップを製作して対応していたが、マップが古くなったのに加え、空き家も新たに増加していたことから、新たな対策を模索していたという。上下水道局の職員と空き家対策担当の職員の会話の中でマイクロベースの話があがり、AIシステムMiraiE.aiを使った取り組みを知ることになった。

「空き家の問題は、『これだ!』という特効薬はないと思っています。どこの地方自治体も、地道な取り組みをずっと続けています。豊田市においてもそうです。しかし特効薬がないからこそ、いろいろな対策を試してみるのもいいのではないかと考え、MiraiE.aiを活用した実証実験に協力することにしました」と岩本さん。

また笹森さんは「豊田市はとても広いですし、MiraiE.aiでエリアごとの予測ができれば、効率的に対策が打ち出せるのではないかと考えました」と話す。

豊田市における空き家の推移(提供:豊田市)豊田市における空き家の推移(提供:豊田市)

令和4年(2022年)度の国土交通省の「空き家モデル事業」に参加する形で、MiraiE.aiの実証実験に協力することになった豊田市。豊田市から緯度・経度情報をマイクロベースへ提供し、それをもとに同社が豊田市の空き家マップを製作した。同マップでは将来空き家がどのあたりに発生するかを予測する。

令和4年度では空き家の発生予測だったが、令和5年(2023年)度からは空き家への再入居の予測や成約価格シミュレーションも行っている。

なお豊田市では、電力データなどをもとにして空き家の実態調査を行う企業からデータを購入し、空き家の実態を把握している。実際に家屋を訪問して、家屋の状況などを見て回る方法もあるが、それだとなかなか空き家かどうかの判別が難しいケースもある。データにもとづいた調査のほうが、精度の面で有効かもしれないと考えたとのことだ。

空き家発生予測エリアをもとに効率的に空き家対策セミナーを開催

空き家の約55%は相続に関わるもので、個々の空き家にそれぞれ対策をするのは難しい。相続した際、当事者間でコミュニケーションが不足し、所有者本人もどうすればいいか分からなかったりするのが現状だ。そうした問題を防ぐために、豊田市では住民に向けて空き家対策のセミナーを開催している。

「空き家の個別対策は難しいですが、先回りの対策として『空き家の対策としてどんなことをすればよいか』などを説明するセミナーを開催しています。住民の空き家に対する意識向上を促すことで、将来的な空き家の減少につなげるのが目的です」と笹森さん。

この空き家対策セミナーの開催地の選定に、MiraiE.aiが活用されているという。

岩本さんは「セミナーを開催する際、MiraiE.aiによって予測された『近い将来空き家が増加しそうなエリア』を対象に、重点的にセミナーを開催しています。やみくもにいろいろなエリアで開催するよりも、空き家が増えそうなエリアに対象を絞ることで、効率的に対策が打てています」と語る。

将来空き家予測と再入居予測の例(提供:マイクロベース)将来空き家予測と再入居予測の例(提供:マイクロベース)

たとえばセミナーでは、空き家を相続する際のコミュニケーション不足を回避するため、現所有者がエンディングノートのように所有建築物の今後の扱いについて書いておくなど「家じまい」についての説明をしているという。また、今住んでいる家もリフォームなどによって家の価値を落とさないようにすれば、空き家になっても流通させられるといった、空き家を発生させない工夫も紹介している。

空き家対策のセミナーは、空き家率が高くなると予測されたエリアに対し、そのエリアの自治区長に市職員がセミナーの開催を打診する。当初、事前の予想では10人程度のセミナー参加者を見込んでいたが、実際に開催すると、40人近い人が参加したこともあったという。

「人は健康なときはどうしても先のことは考えにくいですよね。でも何となく『自分がいなくなったあと残る家はどうにかしないといけない』という意識はあるのだと思います。だからこそ、予想を超える参加者がいたのでしょう」と笹森さんは話す。

また「先送りしやすいことだからこそ、セミナーのような形で考えるきっかけを提供するのが大事かなと思っています。今後もMiraiE.aiを活用して、セミナーを開催していこうと考えています」と岩本さん。

なお豊田市がMiraiE.aiの実証実験に参加するきっかけとなった水道局も、MiraiE.aiのマップを活用しているという。

MiraiE.aiの予測は将来に向けての空き家対策の有効打になる可能性も

日本各地で空き家が増加し続けて深刻な社会問題になっており、空き家への対策が課題となっている(写真はイメージ)日本各地で空き家が増加し続けて深刻な社会問題になっており、空き家への対策が課題となっている(写真はイメージ)

岩本さんは実際にMiraiE.aiの実証実験を通じて「市内を『空き家が発生しないが、家が売れるエリア』『空き家が発生し、家が売れるエリア』『空き家が発生しないし、家も売れないエリア』『空き家が発生するが、家が売れないエリア』の4パターンに分け、それぞれのエリアの特性に合った対策を講じていく必要があると感じています。具体的に何をどうすればいいのかという答えまでは、まだたどり着いていませんが、MiraiE.aiはそのための有効なツールになり得る可能性があるのではないでしょうか」と思ったという。

また「空き家に関する法改正のタイミングもあり、どうしても現在ある空き家対策の比重が大きくなってしまいます。もちろん、それも大事です。しかしMiraiE.aiによって、データにもとづいた空き家発生や再入居・流通の『予測』というものが活用できます。予測を生かし、将来に向けての効率的な空き家対策ができるのは、大きな強みではないでしょうか」と笹森さんは語った。

岩本さんは「今後、豊田市では新たに人口減少を見据えたまちづくりをしていく必要があります。その際に、MiraiE.aiを使った予測が生きてくるかもしれませんね」と語る。

豊田市のMiraiE.aiを活用した実証実験で、予測を利用した有用な空き家対策がモデルケースとなれば、全国の自治体へ広がっていくかもしれない。

不動産データとの連携によるMiraiE.aiの予測精度が向上

豊田市や町田市が協力するマイクロベースの令和5年度空き家対策モデル事業において、不動産データとの連携により、MiraiE.aiの空き家再入居や適正価格の予測精度が向上することが確認された。

空き家は今後も増加すると推測され、大きな社会問題だ。空き家問題への対策のため、国・地方自治体・民間企業が一体となった取り組みが重要だろう。MiraiE.aiの不動産データを活用したAIによる予測は、空き家の現状把握や今後の空き家対策、空き家の流通促進などに有効なツールのひとつとして期待できる。


※本記事で紹介した、マイクロベース株式会社が提供する住戸単位の再入居を予測シミュレーションするAIシステム「MiraiE.ai(ミラーエドットエーアイ)」には、LIFULL HOME'Sの不動産データが活用されている。
LIFULL HOME'Sでは、全国で過去累計約2,800万件(2023年6月時点)の不動産データを所持しており、LIFULL HOME'Sが持つ、建物情報と位置・価格が関連づけられている不動産データ(空き物件数、棟情報、建物名、所在地、建物種別、築年月、間取り、設備、緯度経度、路線・駅、土地建物面積、賃料・価格など)をセットでMiraiE.aiに提供・連携している。それにより空き家の流通・成約を促進する適正価格を、効率的かつ高い精度で予測できることにつながる。

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MiraiE.aiでの不動産データ活用イメージMiraiE.aiでの不動産データ活用イメージ

※参考:
将来住居・不動産流通予測AI MiraiE.ai(ミラーエ)|マイクロベース株式会社
https://www.microgeo.biz/jp/service/1165

※取材協力:
豊田市
https://www.city.toyota.aichi.jp/