若い子育て世帯が集まる「北斗市」ではじまった新しいまちづくり

新しいまちづくりを推進するには、熱い想いを持って地域の人たちを導く「スタープレイヤー」の存在が絶対に欠かせない。今回訪れた北海道北斗市にも、ひとりの名物プレイヤーがいた──「北人 まちの大学※」の代表を務める榑林正和さん(30歳)だ。
※2024年1月「北斗 まちの大学」から「北人 まちの大学」へ名称変更。

2006年に旧上磯町・旧大野町の2町が合併して誕生した北斗市は、道南エリアの玄関口「函館」のベッドタウン。人口約4万人の小さなまちだが、2016年に「新函館北斗」駅が開業したことで“北海道新幹線の始発終着駅を有する市”として一躍全国区の知名度を誇るようになった。積極的な子育て政策に加え、海や高原に近い豊かな自然環境、比較的安価な土地価格等が好まれ、若いファミリー世帯の転入が増加。“北斗市=子育てのまち”というイメージも定着している。

その北斗市を発信地として「北海道の人と街をつなぐ」という壮大な目標を掲げ、まちづくりに尽力しているのが榑林さんだ。ご本人はもともと地元の信用金庫出身、独立後に広告代理店を立ち上げたという異色の経歴の持ち主だ。

▲「北人 まちの大学」の榑林(くればやし)正和さん。夕張市の財政再建に尽力した西村宜彦教授に憧れを抱き、学生時代は札幌・北海学園大学で地域経済学を学んだという。「父が道庁に勤務していたので、いつの頃からか北海道の地域経済に興味を持つようになりました。ただ、まさか自分が実際にまちづくりに携わるとは思ってもいませんでした(笑)」▲「北人 まちの大学」の榑林(くればやし)正和さん。夕張市の財政再建に尽力した西村宜彦教授に憧れを抱き、学生時代は札幌・北海学園大学で地域経済学を学んだという。「父が道庁に勤務していたので、いつの頃からか北海道の地域経済に興味を持つようになりました。ただ、まさか自分が実際にまちづくりに携わるとは思ってもいませんでした(笑)」

「お役所ができない分野は、民間のチカラでできる」と確信

▲南に津軽海峡、北にきじひき高原が広がる北斗市は“ホッキ貝のふるさと”としても知られている。※北斗市移住ポータルサイトよりMAP引用▲南に津軽海峡、北にきじひき高原が広がる北斗市は“ホッキ貝のふるさと”としても知られている。※北斗市移住ポータルサイトよりMAP引用

「僕は利尻の出身ですが、父が北海道庁に勤務していたので転勤が多く、子どもの頃から2~3年に一回は引越しをする生活を送っていました。

引っ越しを繰り返しながら道内のほとんどの地域で暮らしてみて、ずっと不思議に思っていたことがあるんです。“北海道のまちはなんで他の市町村と連携して地域を盛り上げないのかな?”って」(以下「」内は榑林さん談)

道外の人間から見ると、北海道は“オール北海道”としてひとつにまとまっているイメージがあるが、榑林さんによると、北海道内の各市町村はそれぞれが独立国家のような関係性だという。

「北海道は各地域ごとに恵まれた観光資源や地域産業があるわけですから、食のイベントなどを連携して開催すれば強力なPRになるはずです。でもそれをやらない…なぜなら、各市町村の生業や文化がそれぞれ違っているからなんですね。

例えば、ここ北斗市は林業・農業が中心のまちですが、函館は観光業と漁業、隣の七飯町は農業、と特色が異なっているので、良くも悪くもお互い無関心(笑)。行政間の連携が難しい土地柄なんです。だからこそ“まちづくりを進める上で、お役所ができない分野は、きっと民間のチカラでできる!”と思ったんです」

子どもの頃から道内各地を転々としてきた榑林さんだが、どうしてここ「北斗市」を活動拠点に選んだのか?それには理由がある。自分が唯一“地元”と思えるまちだったからだ。

「小学校6年生から高校を卒業するまでずっと函館で暮らしていたので、自分の人生の中でいちばん長く暮らしたまちが函館エリアで、唯一“地元”と呼べる場所でした。学生時代は札幌で過ごしましたが、函館の信用金庫で働けば、地元企業さんとの関わりを作ることができるし、地元の人脈も広がっていくはず…きっと将来のまちづくりに活かすことができると考えて就職したんです。そして配属されたのが北斗支店でした。

実は信用金庫では、新人は貯金窓口で2年、融資窓口で2年の経験を積まなくてはいけないという慣例があったのですが、僕は5年で信金を辞めて独立しようと考えていたので、窓口業務に4年も費やしていたら時間が足りません(笑)

そこで、支店長に直談判して1年足らずで外回りの法人営業に異動させてもらい、きっちりと営業成績を挙げた上で退職しました。生意気な新人の想いをちゃんと理解してくれて、独立した今も応援してくださっている当時の支店長には本当に感謝しています」

公式LINEの登録者数を増やして情報配信、そこで「活動資金」を生み出す

▲新函館北斗駅前で開催された「盆踊り復活祭~和のビアガーデン」の様子(2022年8月開催)▲新函館北斗駅前で開催された「盆踊り復活祭~和のビアガーデン」の様子(2022年8月開催)

ついつい榑林さんの生い立ちや人となりのエピソードに惹きこまれてしまうが、ここからは榑林さんが独自に編み出した「まちづくりアイデア」について紹介しよう。

信金を退職したあと、榑林さんが2022年春に立ち上げたのが広告代理店「株式会社ADuex」。その半年後に同社がマネジメントを行うまちづくり組織「北人 まちの大学」を発足し、現在は広告代理店兼まちづくり会社として地域活性につながる様々な取り組みを展開している。

何といってもおもしろいのは、「LINE」をフル活用してまちづくりを推進している点だ。

「北人 まちの大学」の公式LINEアカウントに登録すると、子ども向けのイベントや地元企業と連携したプロジェクト、割引クーポンの配布、町内会情報・防災情報などが定期的に登録者へメッセージ配信される。登録者数は取材時点(2024年9月)で6050人を突破。この数字には一部近隣市町村の登録者も含まれるが、ほとんどが北斗市内で子育て中のママさんたちだ。市の人口約4万人という母数から考えても「すこぶる高い登録率」と言っていいだろう。

こうして強力なSNSネットワークが構築されると、その配信力に対して企業からの広告需要が生まれる。そこで広告代理店の出番となるわけだ。

「東京や大阪のような大都市だと、こういう発信を行ってもたくさんの情報の中に埋もれてしまうことが多いと思うんですが、地方の小さなまちでは登録者の反応がものすごく良いんです。

新しい情報が届くことを皆さん楽しみにしてくださっているので、登録後のブロック率も少ないですね。例えば、盆踊りとかハロウィンとか季節のイベントをLINEで告知すると、毎回4000人ぐらいの方が集まってくれますから、こうした反響の良さが地元企業だけでなく大手企業のスポンサー獲得につながっています。

よく“まちづくりの活動はあくまでもボランティアであって、マネタイズできない”と言われますが、私たちは広告代理店としてスポンサー収入を得る代わりに、その資金をまちづくり活動に活かしています。だからこそ、いろんなイベントを参加費無料で開催でき、それがさらに大きな反響につながっていく…この好循環を繰り返しているので《無料イベントの定期開催》と《スポンサー獲得》のどちらが欠けても成り立たない仕組みになっているんです」

LINEのメッセージ配信についても、試行錯誤を繰り返しながら様々な工夫を凝らしている。

「配信の際は企業広告だけでなく、必ず地域のイベント情報、子育てに関する情報など、読者の皆さんに刺さる内容を織り交ぜます。広告色を極力薄めて“飽きさせない配信”を続けることが新規登録者数獲得につながりますし、結果として広告主に対しても“反響”として還元できます」

▲新函館北斗駅前で開催された「盆踊り復活祭~和のビアガーデン」の様子(2022年8月開催)▲春の訪れを告げる恒例イベントとして定着した人気の宝さがしイベント「スノーエッグハント」の様子(2024年2月開催)。「実は僕らのイベントでは、協賛スポンサーは集めません。だって“イベントの時だけお金を出してください”ってお願いするのはスポンサーさんに申し訳ないですから(笑)。もちろん、企業さんからイベントにご協力をいただくことはありますし、飲食ブースに関してはそれぞれ出店料を頂戴しますが、基本的には公式LINEアカウントに対する広告宣伝費でイベント運営を行っています」

まちづくりで一番大切なことは、子どもたちの「地元愛」を育てること

▲「北人 まちの大学」がこれまでに企画したイベントは実に多彩だ。写真は大手航空会社とのコラボで開催した「子ども地元探検隊」。50名の子どもたちが航空会社の仕事について学んだあと、プロの整備士と一緒に折り紙ヒコーキづくりを体験。実際に折り紙ヒコーキを飛ばし、飛距離を競いあう大会も行った。「お仕事体験では、地元の農家さんから大手食品会社まで、さまざまなコラボを行っています。企業さんにとってPRにつながるだけでなく、子どもたちの将来の夢を育てる機会になります」▲「北人 まちの大学」がこれまでに企画したイベントは実に多彩だ。写真は大手航空会社とのコラボで開催した「子ども地元探検隊」。50名の子どもたちが航空会社の仕事について学んだあと、プロの整備士と一緒に折り紙ヒコーキづくりを体験。実際に折り紙ヒコーキを飛ばし、飛距離を競いあう大会も行った。「お仕事体験では、地元の農家さんから大手食品会社まで、さまざまなコラボを行っています。企業さんにとってPRにつながるだけでなく、子どもたちの将来の夢を育てる機会になります」

「僕自身も家庭を持ち、実際に子育てをしてみてわかったことですが、道南エリアって子どもたちが遊べる場所が少ないんですよね。だから、多少赤字が出たとしても、定期的にイベントを開催してたくさんの楽しみを作ってあげたい。

まちづくりを考える上で何より大切なことは“子どもたちの地元愛を育てること”です。

子どものときに“楽しかったな、あのまちが好きだったな”って思えたら、大学生になって他の地域へ出たとしてもまた地元へ戻りたくなるはずですから。地元の楽しい記憶を積み重ねていくことが、僕たちの責務だと考えています」

イベント好評の成果を受けて、最近は北斗市内の町内会から行事の運営を依頼されるケースが増えているそうだ。

「町内会の多くは役員の高齢化が課題となっていて、マンパワーが圧倒的に不足していることから町内会行事の活動が破綻しかけているケースが多く見られます。そのため、最初のうちは“人手が必要になる設営のところだけお願いしたい”という依頼が多かったんですが、最近は“企画・設営・司会進行まで催し物をまとめてお願いしたい”というご依頼も増えていて、役員さんたちからは“本当に助かった”と喜んでいただいています。

小さな地域を盛り上げるために、町内会の存在は不可欠であってまちづくりの根源です。今後は北斗市内に限らず、町内会バックアップの企画をどんどん広げていきたいですね」

道内の人口5万人以下のまちで「まちづくりのフランチャイズ化」を目指す

町内会バックアップの企画は今年5月からスタートし、わずか4ケ月で8つの町内から依頼を受けた。今後はこの活動を広げるため、イベント運営費の一部に対して行政からの補助が受けられるシステムの構築を目指し、北海道庁にも働きかける予定だという。

「北海道には179の市町村がありますが、実は《北人 まちの大学》では、北海道内の“人口5万人以下の小さな市町村”をまちづくりのターゲット地域として絞り込んでいます。なぜかというと小さな地域のほうが大きな課題を抱えていますし、それを変えていくことが何より楽しいから。《北人 まちの大学》で成果をあげているまちづくりの手法をフランチャイズ化して、どんどん他のまちへ広げていきたいと考えています」

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自分の人生に対し5年ごとの達成目標を定めているという榑林さんだが、まず最初の5年で「LINE登録者1万人」を達成すること、次に「まちづくりの達人」として全国で講演会を行うこと。そして、最終目標は「まちづくりに特化した学校法人」を60歳で創設すること──地域への熱い想いを持った学生たちを集め、その授業の一環として各地域のまちづくりをサポートできるようなカリキュラム作りを計画しているそうだ。

「ようは“たくさんの榑林さんを作る”ってことだね、と笑われますが、本当にそれが実現したら北海道の小さな市町村がもっともっと元気になって、お互いに連携しながら地域を育てていけると真剣に思うんです。“自分が生まれ育ったまちが大好き”と、自信を持って言える人たちがたくさん増えるようなまちづくりをこれからも目指します」

このスタープレイヤーの情熱が、これから北海道の小さなまちにどのような変化をもたらすのか?まずは5年目の目標達成を楽しみにしながら、今後の展開に期待したい。

■取材協力 北人 まちの大学
https://www.machinodaigaku.com/

▲2024年1月に「北斗 まちの大学」から団体名を変更し「北人 まちの大学」へ。​活動拠点である「ほくと」の読み方は残しつつ、“北”海道に住む多くの“人”が市町村の枠にとらわれず、繋がり、共有できる団体であり続けたいとの想いが込められている。学生のアルバイト(ボランティアではなくきっちり報酬を支払うことも榑林さんのこだわりだ)も含め、常時25名ほどのスタッフでイベント運営を行っている。※ホームページトップ画面より▲2024年1月に「北斗 まちの大学」から団体名を変更し「北人 まちの大学」へ。​活動拠点である「ほくと」の読み方は残しつつ、“北”海道に住む多くの“人”が市町村の枠にとらわれず、繋がり、共有できる団体であり続けたいとの想いが込められている。学生のアルバイト(ボランティアではなくきっちり報酬を支払うことも榑林さんのこだわりだ)も含め、常時25名ほどのスタッフでイベント運営を行っている。※ホームページトップ画面より

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