住民の共助と自治による地域づくりを目指して

梅が咲き誇り、春には多くの観光客でにぎわう、関西屈指の梅林の郷として知られる奈良市月ヶ瀬。奈良県北東部と京都府、三重県との県境に位置する月ヶ瀬地区の人口は約1,200人で、3分の1以上が65歳以上の高齢者だ。自然が豊かなこのまちももちろん、過疎化の波にさらされている。

まちをどう維持していくか……? この問題に取り組むために、月ヶ瀬では現在、「Local Coop大和高原プロジェクト」(以降、Local Coop大和高原)が進められている。住民の“共助”と“自治”による持続可能な地域づくりを目指して、行政・民間企業・住民がそれぞれの立場を超えた連携を図りながら、さまざまな社会システムを実装しようとするものだ。2021年から自治体(奈良市)と民間企業が手を取り合って進められている。

月ヶ瀬エリア月ヶ瀬エリア
月ヶ瀬エリアワーケーションルーム「ONOONO」

さまざまな取り組みもスタートしている。月ヶ瀬地区の特産品を市街地の飲食店に流通させる「大和高原直送便」や、郵便局と配達ネットワークを活用した「おたがいマーケット」、資源回収の新しい取り組み、コミュニティバスの運行などがそれだ(※)。取り組みごとに関わる民間企業が異なる点も興味深い。

まちではどのような動きが起こっているのだろうか? Local Coop大和高原を推進している株式会社paramitaのディレクター・本間栄規さんと、奈良市総合政策部 総合政策課兼月ヶ瀬行政センター 地域振興課の平山裕也さんにお話を伺った。

※2024年7月現在

月ヶ瀬エリア株式会社paramitaのディレクター・本間英規さん。地域おこし協力隊の管理やプロジェクトの全体ディレクションを行う。現在、月ヶ瀬をベースに多拠点生活中
月ヶ瀬エリア奈良市総合政策部 総合政策課兼月ヶ瀬行政センター 地域振興課の平山裕也さん

「Local Coop大和高原」はどう誕生したか?

「Local Coop大和高原」が生まれた背景には、2019年に閉鎖された月ヶ瀬地区の小中学校用の学校給食センターの存在がある。この遊休資産を地域の活性化に使えないかという話が持ち上がったことがきっかけだった。

「地域活性化の象徴となるような場所になればいいなと考えていました。プロポーザル方式をした際に提案していただいたのが、Next Commons Labでした」と平山氏は話す。Next Commons Lab(代表・林篤志氏)は、新しい社会の形に仮説を立て、実験と実装を繰り返して地域に根付かせる活動を行うチームだ。彼らが進めているのが、地方自治体と取り組む新しい共同体OS「Local Coop」だった。

「ONOONO」の外観「ONOONO」の外観
「ONOONO」の外観「ONOONO」では、ドロップインの受け入れも行っている

「奈良市の東部地域は、奈良市全体の面積の約57%を占めていますが、人口は約1万人と奈良市全体の約3%にとどまっています。その奈良市東部地域の過疎化対策エリアの中に、月ヶ瀬地区がありました。月ヶ瀬のまちを100年後まで残せるか、生活の質を向上させながら、どう環境や社会文化を維持できるか……。そんな課題に向き合うなか、Next Commons Labとの対話で、地域が自走できれば持続可能なまちが成り立つのではないかと提案を受けました。人口が減少するなかでも維持できるシステムが、共助と自治があれば成り立つのではないかと共感し、『Local Coop大和高原』が立ち上がりました」と続ける。

こうして旧学校給食センターは改修され、2021年に誕生したのが、ワーケーションルーム「ONOONO」だ。住民をつなぐハブとなる、大切なコミュニケーションスポットである。

「ONOONO」の外観月ヶ瀬産の茶や手仕事グッズなども陳列
「ONOONO」の外観書籍の貸し出しも行っている

社会実験を経て、進められるさまざまな取り組み

現在、実装されている取り組みを紹介していきたい。2024年4月からスタートしたのが、互助共助コミュニティ型の資源回収ステーション「MEGURU STATION®」だ。資源ゴミは、ONOONOと各自治会館に置かれた資源回収ボックス「MEGURU BOX®」に住民が持ち込むことによって回収される。回収した資源は売却され、売却益は月ヶ瀬地区に還元される仕組みだ。これによって地域の資源ゴミステーションは、36ヶ所から6ヶ所に集約された。

また環境保全の取り組みとして、小型バイオ装置「MEGURU-BIO」も導入。機械の中にある「メタン菌」が生ごみをバイオガスと液体肥料に変えてくれる仕組みで、液体肥料は家庭菜園や農園用に住民に配布されている。

「ONOONO」の外にある、資源回収ステーション「MEGURU STATION®」「ONOONO」の外にある、資源回収ステーション「MEGURU STATION®」
「ONOONO」の外にある、資源回収ステーション「MEGURU STATION®」生ごみ資源化装置の小型バイオ装置「MEGURU-BIO」

日本郵便株式会社の郵便局と配達ネットワークを活用した新しい買い物サービス「おたがいマーケット」は、受取先に複数注文分をまとめて配達することによって、輸送コストを抑えられるものだ。また「お隣さんの分もついでに持って帰っとくわ」など、日常的なコミュニケーションでのやりとりが促進されることも目的のひとつだ。

ほかにも集配車両の余積を活用した安価な地域内配送サービス「ぽすちょこ便」を活用した「大和高原直送便」も始まっている。月ヶ瀬地域の新鮮な野菜や特産品を市街地の飲食店が直接仕入れられる仕組みで、口コミで広がりつつあるという。

「Local Coop大和高原は、住民一人ひとりの暮らしや生きがいと地域の豊かさを、共に創っていこうとする活動です。目指しているのは、地方自治体のサブシステム(第二の自治体)をつくること。公共サービスや地域課題解決をこれまでのような自治体頼みではなく、住民を巻き込んだ『自治』を再構築しながら共助の仕組みを実行していくことでよりよい地域社会を実現したいと考えています」と本間氏は話す。

「ONOONO」の外にある、資源回収ステーション「MEGURU STATION®」直売所「ふれあい市場」。平日(月水木金)に、陳列された野菜の様子を地域おこし協力隊がチェックする
「ONOONO」の外にある、資源回収ステーション「MEGURU STATION®」メッセージチャットに新鮮野菜の情報を発信。依頼主から、必要量の申し込みが入る

住民の声をどう拾って、どう取り組みにつなげていくか

メンバーが固定されがちな地域の議会の仕組みを解消するために実施されているのが、「自分ごと化会議」だ。月ヶ瀬地区の住民から無作為で選出した参加者が、まちの議題について意見交換をする場を設けている。毎回30〜40名が参加し、普段拾い上げにくい住民の声を拾えると、プロジェクトにもポジティブな影響を与えている。

本間氏は「取り組みはすべてリサーチが基になっています。まず仮説を立てて、実装へと組み立てているので、そのためにも住人のリアルな声を拾える環境をより整える必要があるなと感じています」と話す。

そして実際に地域に暮らして、住民とコミュニケーションをとり、Local Coop大和高原の取り組みを進めているのが月ヶ瀬の地域おこし協力隊だ。2024年4月に4名の新メンバーを含めて、現在6名が活動している。県外出身者が7割。副業も可能なので、それぞれやりたいことを並行しながら行っている。

2024年6月からは週に1度、彼らが自治会館に滞在し、地域によりコミットして、住民との関係を強める機会を増やしていく予定だ。地域の小さな困り事を拾い、それを解消する、この作業こそが地域おこし協力隊の「仕事」なのだ。

「自分ごと化会議」(2022年)の様子。写真提供:株式会社paramita「自分ごと化会議」(2022年)の様子。写真提供:株式会社paramita
「自分ごと化会議」(2022年)の様子。写真提供:株式会社paramita自治会館の各所に貼られている、ローカルスコープ事業についての相談会のチラシ

紹介してきたさまざまな取り組みを進めるにあたっても、地域の自治会長に何度も顔を合わせて話し合いながら、時間をかけて丁寧に進めてきた。住民自治にはコミュニケーションが欠かせない。そのための拠点として「ONOONO」が機能し、より地域との関係性を深めていきたいと考えている。

「資源ゴミを捨てに来たついでに会話をしたり、会議に参加したついでに会話をしたりと、そういうことがまず、住民がまちに関わるための第一歩。住民への認知もより広げていきたい」と本間氏。

「自分ごと化会議」(2022年)の様子。写真提供:株式会社paramita通院や買い物などのために高齢者に利用してもらう目的で、定時循環型コミュニティバスの運行もある。月ヶ瀬住民は無料で利用できる。月水金の1日4便での運行。6集落を巡っている

移住・定住の前に、まちに積極的になること

奈良市としても、移住・定住を第一目的とはしていない。「Local Coop大和高原の構想には、人口減少のなかでも地域が維持できるシステムをつくろうという軸があります。自分たちのことは自分たちで決めるという自治が育ち、人と人で支え合える世界観を描くことが私たちのゴールです。この世界観を達成した先に、周りからの共感が得られると思っています。助け合いのある場所で暮らしていきたいとか、チャレンジしやすい環境を求めているとか、結果として移住・定住が選ばれるまちであればいいですね」と平山さんはほほ笑む。

「大和高原直送便」を利用している飲食店の方を招き、ONOONOで開催されたイベントの様子。写真提供:株式会社paramita「大和高原直送便」を利用している飲食店の方を招き、ONOONOで開催されたイベントの様子。写真提供:株式会社paramita

このプロジェクトが始まってから、いい影響も生まれている。月ヶ瀬の住民によって「月ヶ瀬の未来を考える会」という場が自主的に開催されたこともあるという。自分事になる、というのはまちづくりにおいて最初の一歩といえるだろう。確かに、昨今の移住者獲得合戦は、押し売り合戦になっている。自治と共助が地域で育まれるようになれば、移住・定住による税金獲得だけが解決方法ではなくなるだろう。選ばれる地域になるためには、やり方はひとつではない。10年20年を見越したプロジェクトは、まだまだ始まったばかりだ。

「大和高原直送便」を利用している飲食店の方を招き、ONOONOで開催されたイベントの様子。写真提供:株式会社paramita「MEGURU STATION®」をきっかけに、住民同士のコミュニケーションも生まれ始めている。写真提供:株式会社paramita

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