遊休農地を活用し、ワイン用ぶどうを栽培。官民一体で地域活性化に取り組む
ワインを基軸とした地方創生、地域活性化と荒廃農地解消のために、ワインづくりを積極的に推進する長野県。そのなかでも県の東部に位置する東御(とうみ)市は人口約3万人の都市で、「千曲川ワインバレー」の一角を担っている市だ。北は上信越高原国立公園の浅間連山を背にし、南は蓼科、八ヶ岳連峰の雄大な山なみ、島崎藤村が詩に詠んだ千曲川と鹿曲川の清流とが織りなす豊かな風土と歴史に恵まれた美しい都市で、平成の大合併で誕生し、今年で発足20周年を迎えた。
東御市は、2008年(平成20年)に長野県内で初めて、最低製造数量基準の緩和などが受けられるワイン特区に認定された。小規模ワイナリーの集積によるワインの産地の形成を促進し、地域のブランド力アップや雇用の促進、遊休農地の活用など農業の活性化などにつなげ、行政と民間が一体となり産業振興を推し進めている。
今回は特産のワインを基軸に地方創生に取り組む東御市に取材に訪れ、千曲川ワインバレーが始まった経緯、ワイン用ぶどうの生産拡大のための取り組み、ワインの特徴、移住や新規参入者への支援、今後の課題などについて、東御市産業経済部の⼤塚 伸夫さん、花岡 崚哉さん、⼩林 誠司さんの3人の担当者に伺った。
千曲川ワインバレーとは
りんご(全国2位)やぶどう(同2位)、桃(同3位)、その他さくらんぼやプルーン、あんず、すいか、ブルーベリーなど、たくさんのフルーツが栽培されている、全国屈指のフルーツ王国・長野県。巨峰の栽培は全国で1位だ。長野県はぶどう栽培が盛んなことからワイン醸造も盛んで、長野県産のワインを「NAGANO WINE」と称し、世界市場も視野に入れたブランド化を推進。ぶどう栽培とワイン醸造を次世代産業の中核のひとつと位置づけ、生産者支援やワインバレーの活性化、観光等の他分野連携を進めている。
2013 年(平成25年)からは県内のワイナリーを「信州ワインバレー」として束ね、NAGANO WINE の育成を加速。信州ワインバレーには「千曲川ワインバレー」「日本アルプスワインバレー」「桔梗ヶ原ワインバレー」「天竜川ワインバレー」「八ヶ岳西麓ワインバレー」の5つのワインバレーがあり、高品質なワインを生産。2002 年から始まった「長野県原産地呼称管理制度」は、ワイン、日本酒、米、焼酎、シードルなど長野県で生産された農産物の高い品質を保証するもので、責任と自信を持って消費者にアピールしている。
長野県では、それぞれのワインバレーが地域の特徴を生かしてワイン産業の振興を図る取り組みを行っており、その中のひとつ、長野県の東信から北信地域にかけて千曲川沿いに広がるエリアが「千曲川ワインバレー」と命名されている。
千曲川ワインバレー(東地区)特区の歴史は、2008年(平成20 年)に東御市が県内初の「ワイン特区」に認定されたことに始まる。2013年(平成25 年)に広域ワイン特区の必要性について検討を開始し、2015年(平成27 年)に近隣8市町村(東御市、上田市、千曲市、小諸市、立科町、長和町、坂城町、青木村)で千曲川ワインバレー(東地区)が広域ワイン特区に認定された。現在は佐久市と軽井沢町を加えた10 市町村で協議会を組織し、活動を行っている。
「ワイン特区」の指定を受け、小規模でもワイナリーを創業できるように
東御市をはじめ、千曲川ワインバレーが認定されたワイン特区とはどのようなものなのかを、大塚さんに説明していただいた。
「ワイン特区とは、酒税法の定める正規の最低生産量(6,000 リットル)の3分の1の規模で免許が取れる特別許可区域(構造改革特区)の制度です。これによって、特区要件のひとつである『域内の原料を使用する』という条件にも広域で対応でき、投資や観光の面からも有利な環境が整うため、小規模ワイナリーの集積によるワイン産地の形成が大きく前進するものと思われます。東御市のブティックワイナリー増加の要因でもあり、特区内市町村で協働することにより、ワインの産地としての知名度・ブランド力の向上が図れるのもメリットです。ワイン用ぶどうの区域内での原材料の融通が可能となり、関連産業の雇用創出やワインツーリズムによる地域活性化のほか、災害時でも原料調達ができることから、小規模ワイナリーの経営の安定化が図られます」
長野県の主導で「ワインバレー構想」を推進
2013年(平成25年)3月、県による栽培から醸造、販売、消費にわたる振興策「信州ワインバレー構想」が発表された。ワイナリーの集積地においては、各ワイナリーの成熟度や交通の整備状況、地域資源など、それぞれの特徴や課題が異なるため、地域ごとに連携を図り、方向性と連携策を見出していく必要性が提唱されたものだ。
「ワインバレー構想は長野県がリードしました。やはり市町村が声を上げても各市町村の方針もあり、皆が同じ方向を向くのは難しいと思います。ブランド力を考慮しても、私たち東御市が全力でPRするよりも、やはり長野県という山や温泉、スキー場があるなどというさまざまな魅力ある観光資源とセットでワインをPRしていく方が、より効果的だと思います」と大塚さん。
世界のワイン銘醸地のいくつかは、「バレー=谷地」といった意味を超えて「ワイン産地」としての意味を持ちつつあることから、ワイン産業が盛んな長野県においてもその名が付けられたと聞く。長野県もそんなワインバレーのひとつとして「信州ワインバレー」を形成し、多くの人に訪れてもらい、NAGANO WINEを楽しんでもらえる場所を目指しているという。
ワイン用ぶどうを荒廃農地解消のための戦略的作物に位置づけ、各種補助等で作付面積を拡大
東御市では、ワイン用ぶどうを荒廃農地解消のための戦略的作物に位置づけ、荒廃農地復旧に対する補助、苗木購入補助、トレリス(格子状の柵)設置補助等を積極的に実施。それにより多くの荒廃地がワイン用ぶどうの圃場(水田や畑などの農地のこと)になり、農地の最適化活動に寄与してきた。
「当市においては、別の作物から(ワイン用)ぶどう栽培へ変更した農家は把握しておりませんが、既存ワイナリー等との連携による(ワイン用)ぶどう栽培への補助事業を行っています。新規参入者への支援は、長野県里親制度やJA ファーム(現在は募集なし)による栽培技術の取得プログラムや青年等就農計画に沿った就農支援を、県やJA といった関係機関とともに実施しております。また、就農時から安定経営が行えるよう、研修圃場の紹介を行っています」
新規参入者への支援は行っているものの、巨峰などのぶどうを作って販売するのと、ワイン用ぶどうを作るのとでは大きな違いがあるという。
「ぶどうを作って売るだけでしたら、巨峰やシャインマスカットなどの方が経営になります。それをあえてワイン用ぶどうを作りたいという人には、それはやはり醸造場をつくる夢があったりとか、未来に対する資金繰りがあったりとか、ある程度一定の応援団が既にいるのかというようなお話を聞かせていただきながら支援を行ってきた歴史があります。ワインの醸造場をつくるには何千万円という費用がかかりますので、少し意地悪な言い方になってしまうかもしれませんが、夢だけでは成りたたない商売であることは確かです」と大塚さんは話す。
次回は新規就農支援や東御ワインフェスタ、地域活性化の手応えや今後の課題などについて紹介する。
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