東京では「100年に1度の再開発」が進行中

長嶋修:1999年、業界初の個人向け不動産コンサルティング会社・さくら事務所を設立、現会長。業界の第一人者として不動産購入のノウハウにとどまらず、業界・政策提言にも言及するなど精力的に活動。TV等メディア出演 、講演、出版・執筆活動など、さまざまな活動を通じて『第三者性を堅持した不動産コンサルタント』第一人者としての地位を築く。長嶋修:1999年、業界初の個人向け不動産コンサルティング会社・さくら事務所を設立、現会長。業界の第一人者として不動産購入のノウハウにとどまらず、業界・政策提言にも言及するなど精力的に活動。TV等メディア出演 、講演、出版・執筆活動など、さまざまな活動を通じて『第三者性を堅持した不動産コンサルタント』第一人者としての地位を築く。

東京では現在、「100年に1度」ともいわれる大規模な再開発プロジェクトが各地で進行中だ。都心部の大規模複合施設から、駅前の商業施設、オフィスビル、高級マンションに至るまで、その規模と内容は多岐にわたる。これらの再開発は、東京の都市構造やビジネス環境、そして人々のライフスタイルをどのように変えていくのだろうか。

さくら事務所会長で不動産コンサルタントの長嶋修氏に、注目される再開発と東京の未来について話を聞いた。

麻布台ヒルズ

森ビル株式会社(東京都港区、代表取締役社長:辻 慎吾)等が約300件の権利者の方々とおよそ35年かけて進めてきた「麻布台ヒルズ」(虎ノ門・麻布台地区第一種市街地再開発事業)は2023年11月24日(金)に開業(画像出典:森ビル)森ビル株式会社(東京都港区、代表取締役社長:辻 慎吾)等が約300件の権利者の方々とおよそ35年かけて進めてきた「麻布台ヒルズ」(虎ノ門・麻布台地区第一種市街地再開発事業)は2023年11月24日(金)に開業(画像出典:森ビル)

2023年11月、港区麻布台に開業した「麻布台ヒルズ」は、超高級マンション「麻布台ヒルズレジデンス」をはじめオフィスやホテル、商業施設、教育機関、医療機関など多様な都市機能が集積する複合施設だ。屋上や壁面には、再開発によって失われがちな緑を積極的に取り入れ、約8.1haという広大な計画区域に約2万4,000m2もの緑が広がる。また、民間で国内初となる都市部の下水熱を利用したエネルギーネットワークを形成し、気象予報や運転実績データからAIによる予測に合わせた効率的なエネルギー利用ができるシステムを導入。これらの点が評価され、24年2月には「第1回脱炭素都市づくり大賞」を受賞した。

3月には、クリスチャン・ディオールが麻布台ヒルズに出店。同じく3月にオープンした「麻布台ヒルズ マーケット」にも高級店がラインアップする。麻布台ヒルズレジデンスの最高価格は200億円とも300億円ともいわれているが、長嶋氏はこうした高級志向のサービスや商品、そして不動産は、今後どんどん増えていくと推察する。

「かつて高級住宅街の一戸建てに住んでいた富裕層も、今ではマンション住まいにシフトし始めている。また、日本の高級不動産を買ったり借りたりするのは、日本人だけではない。
日本の不動産は、海外不動産と比べると割安感がある。マイナス金利政策の終了によって、日本の魅力が一層高まる可能性がある。日米の金利差が縮小し、ドル資産の魅力が相対的に低下すれば、さらに海外マネーが日本の不動産市場に流入する可能性もある」(長嶋氏、以下同)

日本不動産研究所によれば、23年10月のハイエンドクラスのマンションの価格水準は、東京を100とした場合、上海と台北は160.7、香港は263.4。ロンドンやニューヨークなどの欧米諸国だけでなく、アジア各国と比べても東京の不動産はまだまだ安価だ。

森ビル株式会社(東京都港区、代表取締役社長:辻 慎吾)等が約300件の権利者の方々とおよそ35年かけて進めてきた「麻布台ヒルズ」(虎ノ門・麻布台地区第一種市街地再開発事業)は2023年11月24日(金)に開業(画像出典:森ビル)東京のハイエンドクラスのマンションを100とした場合、上海・台北は160.7、香港は263.4におよぶ(画像出典:日本不動産研究所)

高価格帯のマンションは、富裕層の需要に応える形で供給が増えている。麻布台ヒルズのように、数十億、数百億円クラスのマンションは今後も少なからず出てくるだろうと長嶋氏は推察する。

「外国人富裕層の需要を見越して、バイリンガルのコンシェルジュサービスや24時間セキュリティ、グローバル水準の設備といった外国人向けの特徴を備えたマンションも増えている。東京だけでなく、大阪でも福岡でも地方都市でも、いわゆる“億ション”は増加している」

渋谷エリア

東急不動産株式会社(本社:東京都渋谷区、代表取締役社⾧:星野 浩明)が参加組合員として参画し、渋谷駅桜丘口地区市街地再開発組合(理事⾧:岸上 家幸)が推進する「Shibuya Sakura Stage(渋谷サクラステージ)」は2023年11月30日の竣工(画像出典:東急不動産)東急不動産株式会社(本社:東京都渋谷区、代表取締役社⾧:星野 浩明)が参加組合員として参画し、渋谷駅桜丘口地区市街地再開発組合(理事⾧:岸上 家幸)が推進する「Shibuya Sakura Stage(渋谷サクラステージ)」は2023年11月30日の竣工(画像出典:東急不動産)

渋谷でも、大規模な再開発が進行している。2018年には「渋谷ストリーム」、20年は「宮下パーク」、そして23年11月には「渋谷サクラステージ」と、大型商業施設やオフィスビルが続々と開業。IT企業や大手企業の進出も目覚ましい。

「渋谷は、戦後の高度経済成長期から東急が主体となって開発を進めてきた街。かつては若者文化の発信地として知られていたが、一連の再開発を経て、いまやビジネス街へと変貌を遂げつつある。オフィス需要が高まる一方で、商業施設も充実し、ビジネスと生活の両面で利便性が向上している」

東京都心のオフィス空室率はコロナ禍で上昇したが、真っ先に空室率が高まったのは渋谷。しかし、それも一時的なもので、港区や品川区、新宿区などの空室率は24年3月時点でもいまだに6〜9%程度だが、渋谷区は4%台と低水準。平均募集賃料も上昇傾向にある。

「コロナ禍の緊急事態宣言後に渋谷のオフィス空室率が高まったのは、IT系や中小企業など、テレワークの導入や移転が容易な企業が多かったことによるものと推察される。これまで、渋谷のオフィスは老朽化や陳腐化が否めず、数も足りていなかったが、これらの状態が解消され容積が増えた。昨今ではIT企業やベンチャー企業だけでなく、テック系、ビジネス系、AI系など、さまざまな業種の企業が入居している。渋谷は『ビットバレー』と呼ばれているが、これからは『テックバレー』のようなエリアになっていくのではないだろうか」

東急不動産株式会社(本社:東京都渋谷区、代表取締役社⾧:星野 浩明)が参加組合員として参画し、渋谷駅桜丘口地区市街地再開発組合(理事⾧:岸上 家幸)が推進する「Shibuya Sakura Stage(渋谷サクラステージ)」は2023年11月30日の竣工(画像出典:東急不動産)2024年3月時点の渋谷区のオフィス空室率は他の主要区と比較して低水準。23年末には平均募集賃料の上昇も見られた(画像出典:三菱地所リアルエステートサービス)

品川エリア

高輪ゲートウェイシティは複合棟Ⅰおよび高輪ゲートウェイ駅周辺エリアが2024年度末(25年3月)の開業予定。その他の棟(複合棟Ⅱ・文化創造棟・住宅棟)および各棟周辺エリアは25年度中に開業予定(画像出典:東日本旅客鉄道)高輪ゲートウェイシティは複合棟Ⅰおよび高輪ゲートウェイ駅周辺エリアが2024年度末(25年3月)の開業予定。その他の棟(複合棟Ⅱ・文化創造棟・住宅棟)および各棟周辺エリアは25年度中に開業予定(画像出典:東日本旅客鉄道)

品川エリアでは、約半世紀ぶりの山手線新駅となった「高輪ゲートウェイ」駅周辺をはじめとした再開発が進む。

「品川エリアは空港や新幹線のアクセスが良いことから、外資系企業にとって魅力的な立地。オフィスのみならず、外国人向けのマンションなども増えていくだろう」

2024年末〜2025年度中に竣工する予定の「高輪ゲートウェイシティ」は、外国人ビジネスワーカーにも対応した国際水準の高層高級賃貸住宅棟やオフィスやホテル、商業施設が入る複合棟など4棟で構成される。高輪ゲートウェイシティに隣接する泉岳寺駅周辺でも再開発が進行しており、28年には地上30階、地下3階の高層大規模複合施設が竣工する予定だ。

一方、品川駅は27年度以降のリニア中央新幹線の開通に向け、周辺地域一体の再開発が進められている。再開発のテーマは「これからの日本の成長を牽引する国際交流拠点・品川」。駅周辺の区画整理事業や北口駅改良、京急線の地平化、国道15号・西口駅前広場の整備などが進行している。

24年2月にエントリー受付が開始された日鉄興和不動産の「リビオタワー品川」は、品川駅を最寄りとする30階超のタワーマンションとして実に15年ぶりの供給となることから、販売開始前から大きな注目を集めている。

「港南は、まだ割安感のあるエリア。しかし、今後は品川エリアの再開発も相まって、外国人の需要拡大が見込まれる。近い将来、不動産価格がもう一段、二段、上昇するポテンシャルは高い」

高輪ゲートウェイシティは複合棟Ⅰおよび高輪ゲートウェイ駅周辺エリアが2024年度末(25年3月)の開業予定。その他の棟(複合棟Ⅱ・文化創造棟・住宅棟)および各棟周辺エリアは25年度中に開業予定(画像出典:東日本旅客鉄道)地上34階建て・総戸数815戸の超高層大規模タワープロジェクトのマンション「リビオタワー品川」は2026年5月上旬竣工予定(画像出典:日鉄興和不動産)

「東京一極集中」は続くのか?

2023年に東京都の転入超過数は大幅に上昇(画像出典:総務省統計局)2023年に東京都の転入超過数は大幅に上昇(画像出典:総務省統計局)

東京への一極集中は、日本の都市構造の大きな特徴だ。コロナ禍では、東京への流入が多少鈍ったものの、2023年の転入超過はほぼコロナ禍前まで回復し「東京一極集中」の再加速の傾向が見られる。100年に一度の再開発は、この動きを助長するものになるのだろうか。

「再開発によってその周辺エリアの魅力や価値が高まることはあっても、大きな流れとしてはバブル崩壊以降、長らく続いている東京への一極集中がある程度、分散することになっていくと考える。コロナ禍でリモートワークが普及し、東京に居住することの必然性が薄れつつあることに加えて、政治や経済構造の崩壊と変容が、東京一極集中の流れにブレーキをかけることになると見ている。かつて、与党は『地方』のための政党だったが、近年は『大企業』のための政党になってしまっている。こうした構図が崩壊すれば、東京に拠点を置くメリットも損なわれ始め、その他の大都市圏に分散していく流れになるのではないだろうか」

近年は大阪、名古屋、福岡などの大都市圏の再開発も活発化しており、これらの都市の不動産価格の上昇率が、東京を上回る可能性もあると長嶋氏は続ける。

「大阪や福岡などの再開発が進み、利便性と職住近接のメリットが加われば、これらの都市の不動産需要は高まる。現在、東京のマンション価格を100とした場合、大阪は50程度。福岡、名古屋はさらに低い。今後は、この格差が徐々に縮まっていく可能性がある」

都内でも進む“三極化”

「都内でもその他の大都市圏でも地方でも、今後は“三極化”が進行していくだろう。再開発もまた、格差を拡大する1つの要因となる」

長嶋氏の言う“三極化”とは、土地の価格が維持あるいは上昇していく地域となだらかに下落を続ける地域、限りなく無価値あるいはマイナスの地域に分かれていくということを指す。人口や世帯数が減少し、空き家が増え続けていることから、大半の地域はなだらかに不動産価格が下がり続け、再開発とは無縁の過疎化が進行しているようなエリアの不動産は限りなく無価値になっていき、再開発が行われるような利便性や持続可能性の高い一部のエリアのみが価格を維持、あるいは上昇していくということだ。

「三極化は、フラクタルに進行している。東京都も例外ではなく、世田谷区などでは空き家が増え続け、駅から歩けない距離のエリアなどでは地価が下がり続けている」

2023年に東京都の転入超過数は大幅に上昇(画像出典:総務省統計局)長嶋氏によれば、今後土地の価値は「価格維持あるいは上昇の地域」「なだらかに下落を続ける地域」「限りなく無価値あるいはマイナスの地域」の三極化がフラクタルに進行する(画像出典:さくら事務所)

再開発がさらに格差を広げる

長嶋氏によれば、バブル当時の日本の土地総額は2,000兆円だったが、今やその半分の1,000兆円程度。人口減少が続く2050年頃まで、さらに低減していく可能性があると言う。再開発やその期待感によって周辺エリアの地価や不動産価格の上昇が見込まれるが、不動産市場全体は縮小傾向にあることから、再開発は格差を拡大させる一因となる。東京もまた、例外ではない。

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