相続土地国庫帰属制度の概要と背景
2023年4月より、相続した土地を国へ引き渡すことのできる「相続土地国庫帰属制度」が開始された。
相続土地国庫帰属制度とは、相続した土地に限り土地を国へ引き渡せる制度である。この制度を利用できるのは、相続や遺贈により土地を取得した相続人で、制度が始まる以前に相続が発生した人も利用可能だ。また、複数人で相続をした土地も適用可能で、その場合は相続人全員で申請する必要がある。
相続で取得した土地で事業を起こしたり、マンションを建てて不労所得を得たりする話を聞いたことがあるだろう。これらは、土地の立地が良好であり利用の需要があるケースでよく見られる。
しかし、相続で引き継いだ土地の中には、山林や農地などの場合もある。これらの土地は、建築制限などで活用できるシーンが限られるため、需要が低く売却できないことが多い。
「相続した土地を利用しないのであれば相続放棄すれば良いのではないか」という声もあるが、その場合は土地だけでなく他の財産もすべて相続できない。相続する財産が放棄したい土地だけであれば良いが、預貯金や株式、自宅などが相続財産に含まれる場合は利用しがたいだろう。
近年、このような土地を手放したくても手放せず、相続登記をしないまま放置するケースが増えている。放置された状態でさらに相続が進み、所有者不明の土地が増加している背景から、相続土地国庫帰属制度が開始されたのである。
令和6年2月29日現在の申請件数と帰属件数
2023年4月より始まった相続土地国庫帰属制度は、全国でどれほど運用されているのだろうか。
(参考:法務省「相続土地国庫帰属制度の統計 https://www.moj.go.jp/MINJI/minji05_00579.html)
令和6年2月29日現在の申請件数をみていこう。
■申請件数
・申請総件数:1,761件
・地目別
田・畑:670件
宅地:655件
山林:255件
その他:181件
この数値から「田・畑」と「宅地」がそれぞれ40%近くを占めていることがわかる。
次に、実際に帰属された数値を見てみよう。
■帰属件数
・帰属総件数:150件
・種類別
宅地:66件
農用地:33件
森林:5件
その他:46件
今のところ、申請された土地の約1割が帰属されている。
ちなみに、却下・不承認・取り下げ件数を合わせると198件あり、相続土地国庫帰属制度の審査には数ヶ月以上の期間がかかるケースが多く、審査中の土地が多いとみられる。
帰属された土地が所在するのは全部で39都道府県で、北は北海道、南は鹿児島まで全国的に適用されている。(令和6年2月29日現在)
土地を引き渡せる条件の紹介と費用シミュレーション
相続土地国庫帰属制度は、活用できない土地を国へ引き渡せる便利な制度だが、引き渡せない土地もある。たとえば「相続により取得した土地であること」「建物がない」「担保権が設定されていない」などの条件をクリアする必要がある。
以下は、国へ土地を引き渡せない条件である。
(引用:政府広報オンライン「相続した土地を手放したいときの「相続土地国庫帰属制度」」 https://www.gov-online.go.jp/useful/article/202303/2.html)
1、申請の段階で却下となる土地
・建物がある土地
・担保権や使用収益権が設定されている土地
・他人の利用が予定されている土地
・特定の有害物質によって土壌汚染されている土地
・境界が明らかでない土地・所有権の存否や範囲について争いがある土地
2、該当すると判断された場合に不承認となる土地
・一定の勾配・高さの崖があって、管理に過分な費用・労力がかかる土地
・土地の管理・処分を阻害する有体物が地上にある土地
・土地の管理・処分のために、除去しなければいけない有体物が地下にある土地
・隣接する土地の所有者等との争訟によらなければ管理・処分ができない土地
・その他、通常の管理・処分に当たって過分な費用・労力がかかる土地
また、土地を引き取ってもらう際には審査手数料と負担金が発生する。まず、相続土地国庫帰属制度の申請をする際に、1筆当たり1万4,000円の審査手数料がかかる。審査承認の可否を問わず、最初に支払う手数料である。
さらに、法務省による審査の承認を得ると、土地の性質に応じた負担金を納付する必要がある。基本的に、負担金は土地1筆につき20万円で、2筆以上でも土地が隣接していれば合算の申し出を行うことで20万円とすることができる。ただし、例外もあるため、下記の表を参考にしてほしい。
負担金のシミュレーション
・市街化区域の土地150㎡の場合
計算式:国庫帰属地の面積に2,450(円/㎡)を乗じ、303,000円を加えた額
150㎡✕2,450円+303,000円=67万500円
・1,000㎡の森林の場合
計算式:国庫帰属地の面積に24(円/㎡)を乗じ、237,000円を加えた額
1,000㎡✕24円+237,000円=26万1,000円
上記のシミュレーションから、負担金が20万円以上かかるケースも少なくない。土地がどの区域に属しているのかで負担金額が変わるため、所有している土地の種目や面積をしっかりと確認する必要があるだろう。
相続土地国庫帰属制度の2つのメリット
相続土地国庫帰属制度にはさまざまなメリットがあるが、ここでは大きなメリットを2つを紹介しよう。
・買主を探す必要がない
土地を第三者に売却する場合、買い手にとって活用方法がなければ売ることは困難である。たとえば、建築用地や資材置き場、ガレージ用地など、土地の利用方法があって初めて購入する意味があるが、著しく需要が低い土地はどれだけ安くても売却できないケースがある。
しかも、土地の所有者には毎年固定資産税がかかり、場合によっては除草や害虫駆除などの維持管理費も必要になる。使わない土地でも所有しているだけでお金がかかることが、相続登記がされずに土地が放置されている原因のひとつであった。
しかし、相続土地国庫帰属制度を利用して土地を国へ引き渡せば、買主を見つける必要がなくなる。売却のために複数の不動産会社を回ったり、見栄えを良くするための除草をしたりしなくても良いのだ。買主を探す必要がない点は、忙しい人にとって大きなメリットではないだろうか。
・引き渡し後の管理が安心である
第三者への売却は、その後の管理に不安が残ることがある。たとえば売却後、その土地に反社会的組織や特殊宗教の施設が建築されると、周辺に住んでいる顔見知りにも迷惑がかかってしまうだろう。
また「原野商法」による詐欺行為が行われる可能性も無視できない。原野商法とは、値上がりの見込みがほとんどない原野や山林について「将来確実に値上がりする」などの嘘をつき違法な勧誘を行う商法のことだ。
このように、活用方法が限られている山林や農地ほど、売却後の心配が尽きないだろう。その点、相続土地国庫帰属制度は以後の管理が国になるため、安心して引き渡すことができるのだ。
相続土地国庫帰属制度のデメリット
同制度にはデメリットも存在するため、申請する前に確認しておこう。
・制度の利用には条件を満たさなければいけない
相続土地国庫帰属制度は、利用できる土地が限られている。更地の状態が前提のため、建物が建っている場合は解体しなければならない。建物によっては解体費用で100万円以上かかるケースもあるだろう。また、制度を利用するためには境界を明らかにする必要があり、境界がはっきりしていないことが多い山林や原野は、境界明示のために手間や費用がかかることも多い。
「問題があるから国に引き取ってもらいたい」というケースの場合、その問題点がネックで審査の承認を得られないこともあるだろう。条件を満たすための対応をどれだけ取れるかも重要なポイントである。
・売却と違い、負担金が必要である
第三者への売却と違い、相続土地国庫帰属制度を利用する場合は費用を捻出する必要がある。売却の場合は、物件価格によってプラスになる可能性があり、金銭的負担は軽減される。
土地の種類や立地によっては負担金が20万円で済まないケースがあるため、どれほどの負担金がかかるのかをあらかじめ確認しておく必要があるだろう。
相続土地国庫帰属制度を利用する以外の相続した土地を手放すための方法とは
相続土地国庫帰属制度があるとはいえ、所有している土地の条件が当てはまらず引き取ってもらえない可能性もある。同制度を利用せずに土地を手放すための代表的な方法を紹介する。
・第三者へ売却
土地を手放すための一番ポピュラーな方法が第三者へ売却する方法だ。売却には大きく2種類あり、不動産会社に仲介に入ってもらい購入者を探す方法と、不動産会社に直接買い取ってもらう方法がある。
不動産会社の買い取りは相場より価格が下がってしまうデメリットがあるが、山林や農地などの特殊な土地でも引き取ってもらえることがある。不動産会社によっては土地を造成して活用するなどの得意分野があるため、特殊な土地を相続した際はできるだけ多くの不動産会社に相談してみるのが良いだろう。
・遺産分割協議で他の相続人に相続してもらう
遺産分割協議とは、相続が発生したあとに遺産分けについて話し合うことである。民法で法定相続分が定められているが、相続人が合意すればどのように分割しても良いのだ。
たとえば、相続人の中に不動産に詳しい人がいる場合に、土地を相続してもらう方法が考えられる。その人に相続不動産をうまく活用してもらえば、代々受け継いできた土地が放置されずに済むだろう。
・相続放棄する
相続した土地を手放す最終手段として、相続放棄という選択肢が考えられる。相続放棄とは、相続発生後に家庭裁判所に申述して、はじめから相続人ではなかったことにする制度だ。
ただし、先述したとおり土地だけ相続しないということはできないため、相続資産に他の不動産や預貯金などがある場合は現実的な方法ではないだろう。
相続土地国庫帰属制度は便利だが、事前に専門家へ相談を
相続土地国庫帰属制度は、現代社会の課題を踏まえて運用が始まった制度であるが、利用する前に十分に検討する必要がある。
できれば、相続が発生する前に税理士や弁護士、不動産会社などの専門家へ相談することをおすすめする。
売却する道はないのか、申請の条件に合致した土地なのか、相続放棄したほうが得ではないのかなど、さまざまな角度で検討すれば将来的に困ることも減るだろう。
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