能登半島地震で改めて注目…木造住宅の耐震性は

18年時点の戸建て住宅の耐震化率は約81%と、マンションなどの共同住宅と比べて低い(出典:国土交通省「住宅の耐震化率」)18年時点の戸建て住宅の耐震化率は約81%と、マンションなどの共同住宅と比べて低い(出典:国土交通省「住宅の耐震化率」)

1月1日に発生した能登半島地震における住宅被害の状況は、全壊が8,010棟、半壊が1万3,990棟、一部破損が6万2,951棟(3月12日時点)。全壊の棟数は、2016年に発生し、最大震度7を2度記録した熊本地震に迫る。

国土交通省によれば、18年時点の戸建て住宅の耐震化率は約81%。耐震化された住宅は、マンションなどの共同住宅と比べて1割以上少ない。28年にはおおむね100%とすることを目指しているが、ここでいう「耐震化」とは現行の基準を満たすことを指す。耐震基準はこれまで改正されてきているため、現存する戸建て住宅の耐震基準は一律ではない。

木造住宅の耐震基準の変遷と建築時期以外に耐震性能を左右する要素について、株式会社さくら事務所ホームインスペクターの田村啓氏に聞いた。

木造戸建ての耐震基準の変遷

木造戸建ての耐震基準は、1981年、2000年に大きく改正された。1981年以前の基準は「旧耐震基準」、これ以降の基準は「新耐震基準」、2000年以降の基準は「2000年基準」と呼ばれている。

旧耐震基準は、震度5程度の地震でも倒壊しないことが基準となっており、新耐震基準は震度6強や7の非常に強い地震でも倒壊しないことが基準となっている。マンションなど木造以外の建築物は、基本的に旧耐震基準と新耐震基準の区分のみだが、木造住宅の2000年基準とはどのような基準なのだろうか。

「2000年の建築基準法改正では、木造住宅の地盤に応じた基礎の設計、接合金物、耐力壁の配置などが規定されたため、2000年基準で建築された木造住宅は新耐震基準以上の耐震性が期待できる。木造住宅の耐震性はRCなどと比べると遅れを取っていたが、1995年の阪神淡路大震災で住宅の倒壊による犠牲者が多く出たことを受けて検討が始まり、2000年の改正でようやくその他の構造の耐震性に追いついてきた形」(田村氏、以下同)

耐震基準でいえば、たとえば1982年に建築された戸建てと1999年に建築された戸建ては同じである。しかし、耐震基準が改正されてから新たな耐震基準になるまでにも建築技術は進歩し、求められる性能は高まるため、耐震性能は「グラデーション」であると田村氏は言う。

「2000年基準導入以前の戸建てでいえば、構造による違いもある。個別性もあるため一概には言えないものの、在来軸組工法とツーバイフォーでは、ツーバイフォーのほうが総じて耐震性は高い」

(一社)日本建築防災協会の一般診断法に基づいて行った耐震診断。評点が高いほど耐震性が高く、評点が低いほど赤色、高いほど緑色で示される。(出典:日本木造住宅耐震補強事業者協同組合「建築年度別にみる耐震性に関するデータ発表」)(一社)日本建築防災協会の一般診断法に基づいて行った耐震診断。評点が高いほど耐震性が高く、評点が低いほど赤色、高いほど緑色で示される。(出典:日本木造住宅耐震補強事業者協同組合「建築年度別にみる耐震性に関するデータ発表」)

耐震基準を満たすだけで十分なのか?

「地震に対する構造躯体の損傷(大規模な修復工事を要する程度の著しい損傷)の生じにくさ」を3つの等級で表示(出典:住宅性能評価・表示協会「新築住宅の住宅性能表示制度かんたんガイド」)「地震に対する構造躯体の損傷(大規模な修復工事を要する程度の著しい損傷)の生じにくさ」を3つの等級で表示(出典:住宅性能評価・表示協会「新築住宅の住宅性能表示制度かんたんガイド」)

耐震基準というのは、いつの時代も、そのときの「最低限遵守しなければならない基準」に過ぎず、耐震基準を満たしてさえいれば安心というわけではない。

耐震等級

2000年にスタートした住宅の品質確保の促進等に関する法律(品確法)に基づく「住宅性能表示制度」では、耐震性能の高さについて3つの等級で表示される。

「耐震等級1は、2000年基準とイコール。耐震等級2は基準の1.25倍、耐震等級3は基準の1.5倍の地震力に対する強さを有している。耐震等級3の住宅は、そのほとんどが熊本地震で軽微な損傷で済んだという報告がある」

耐震等級3の木造建築物は熊本地震で大破・倒壊ゼロ

熊本地震における木造家屋の倒壊率は、建築時期によって大きく異なる。旧耐震基準で建築された家屋は28.2%が倒壊・崩壊し、新耐震基準で建築された家屋についても8.7%が倒壊。一方、2000年基準で建築された家屋の倒壊は2.2%にあたる7棟と非常に少なかった。

「地震に対する構造躯体の損傷(大規模な修復工事を要する程度の著しい損傷)の生じにくさ」を3つの等級で表示(出典:住宅性能評価・表示協会「新築住宅の住宅性能表示制度かんたんガイド」)旧耐震基準の木造建築物の倒壊率は28.2%と高いが、新耐震基準の木造建築物も8.7%が倒壊している(出典:国土交通省「『熊本地震における建築物被害の原因分析を行う委員会』報告書のポイント」)
2000年基準導入以降の木造住宅にも倒壊や大破は見られたものの、耐震等級3の木造建築物は倒壊・大破ゼロ(出典:国土交通省「『熊本地震における建築物被害の原因分析を行う委員会』報告書のポイント」)2000年基準導入以降の木造住宅にも倒壊や大破は見られたものの、耐震等級3の木造建築物は倒壊・大破ゼロ(出典:国土交通省「『熊本地震における建築物被害の原因分析を行う委員会』報告書のポイント」)

さらに、耐震等級3を備える住宅の倒壊はゼロ。大破もゼロだった。無被害だった住宅の割合は、等級1(建築基準法レベル)の住宅と比べて3割近く高い。

「倒壊した家屋のうち、新耐震基準導入以降に建てられた家屋の大部分に現行規定の仕様となっていない接合部が確認されている。つまり、既存不適格による倒壊が多かったということ。一方、2000年基準導入以降に建てられ、倒壊した7棟のうち3棟にも同様に現行規定の仕様となっていない接合部が確認されているが、こちらは現行基準にもかかわらず現行規定の仕様となっていないことから、設計ミスや施工不良があったものと推察される」

施工不良にも注意

住宅は、人が建てるものだ。いくら設計上、耐震基準を満たし、高い耐震等級を備えていても、それ通りに施工されなければ高い耐震性能は実現できない。

「柱や梁などの結合部は、耐震性に直結する重要な部分。適切な位置に、適切な数、適切な方法で金物を取り付けなければならない。弊社が建築中の一戸建てを検査したところ、7割以上に構造金物の施工不良が見られた。また、防水や断熱の施工不良も7割を超えている」

昨今は建設現場で人手不足が深刻化しており、現場監督や大工などの人材が足りていないことも施工不良が起きてしまう要因の一つだという。2024年4月からは、建設業の労働時間規制も始まることから、今後は一層、施工不良に気をつけたいところだ。

「地震に対する構造躯体の損傷(大規模な修復工事を要する程度の著しい損傷)の生じにくさ」を3つの等級で表示(出典:住宅性能評価・表示協会「新築住宅の住宅性能表示制度かんたんガイド」)構造検査・防水検査・断熱検査の指摘率は7割を超える(出典:さくら事務所)

地震に対する強度は建物の耐震性能だけでは測れない

能登半島には揺れの増幅率が高いエリアも一部見られる(出典:防災科学技術研究所「J-SHIS地震ハザードステーション」)能登半島には揺れの増幅率が高いエリアも一部見られる(出典:防災科学技術研究所「J-SHIS地震ハザードステーション」)

耐震基準や耐震等級は、あくまで「建物」の耐震性能に関するものである。家屋の地震に対する強度は、地盤にも大きく影響を受ける。住まいを選ぶときには、建物の耐震性とともに、地盤についても目を向ける必要があるだろう。

「地盤の強さを調べるには、防災科学技術研究所の『J-SHIS地震ハザードステーション』が便利。ハザードマップの揺れやすさマップは出していない自治体が見られるが、J-SHIS地震ハザードステーションは全国対応」

J-SHIS地震ハザードステーションで能登半島の表層地盤を見てみると、揺れの増幅率が低い青で示されるエリアは一部で、大半が黄色、一部には増幅率が高い赤や紫で示されるエリアも見られる。

輪島市を地理院地図で見ると「氾濫平野」が広域に広がる(出典:国土地理院「地理院地図」)輪島市を地理院地図で見ると「氾濫平野」が広域に広がる(出典:国土地理院「地理院地図」)

「『地理院地図』では、土地の成り立ちや自然災害リスクがわかる。J-SHIS地震ハザードステーション以上にピンポイントで調べられるため、こういったものも活用して、住んでいる場所や住宅の購入を検討している場所の地盤の揺れやすさや特徴を知ることが大切」

能登半島地震で被害が大きかった地域では、液状化によるものと考えられる建物の倒壊や断水も多数見られる。3月12日時点でいまだ約5,500戸が断水している石川県輪島市を地理院地図で見てみると、地震の際に揺れやすく、液状化のリスクがあるとされる氾濫平野が広域に広がる。

地震に強い家の「3つ目の条件」

建物の耐震性を高めること、できる限り地盤の強い場所に家を建てることに加え、田村氏は地震に強い家の「3つ目の条件」も非常に重要だと語る。

「建物の耐震性は、経年につれて落ちていくおそれがある。その要因となるのは、シロアリ被害や雨漏りなど。地盤が強く、耐震等級が3であったとしても、たとえば雨漏りが起きて、その状態を放置してしまえば地震に対する強度はどんどん落ちていく。建物のメンテナンスの重要性が実証されたのは、阪神淡路大震災。震災直後、被害が大きかった東灘地区で行われた調査では、全壊かつ主要構造部材に腐朽や蟻害のあった建物では約70%で人命が奪われた一方、腐朽・蟻害のない全壊家屋では20%強にとどまったことが報告されている」

木造一戸建ての耐震性はどう維持していけばいいのか

「耐震性能を損なわない原理原則は、なにより『水』を防ぐこと。外側は雨の浸入を防ぎ、内側では水漏れを起こさない。そして、木造住宅の大敵であるシロアリ被害を避けること。この3つを徹底することが大切。具体的には、外壁や屋根の再塗装や張替え・葺き替え、ベランダや屋上の防水層のメンテナンス、水まわり設備の交換、給排水管の交換、蟻害対策としての薬剤散布などを適切なタイミングで行う必要がある」

中古戸建ては「現状」に目を向けたうえで耐震性の向上を

新築時からのメンテナンス状況によって耐震性が損なわれる可能性があるということは、中古住宅を選ぶうえでは、建築時期や耐震性能に加え「現状」を見るべきだろう。漏水の跡はないか、床下に蟻害は見られないか、これまでどのようなメンテナンスをしてきたか……こういったことにまで目を向け、必要に応じてインスペクションを実施するのも効果的だ。

2018年には宅建業法の改正により、中古住宅を仲介する不動産会社に対し、顧客にインスペクションについて説明することが義務付けられた。2024年4月からはさらに、インスペクション業者の斡旋を行わない場合にはその理由を示すことが不動産会社に義務付けられる。

リノベーションで耐震性は高められる

「2000年基準導入より前の戸建ては、耐震等級1以上のレベルまで耐震性能を引き上げることが重要。リノベーションでは『耐震等級』という言葉は使われず『評点』で等級が表される。評点1.0は耐震等級1相当、評点1.5は耐震等級3相当」

耐震リノベーションにかかる費用は既存の性能や状態によるところだが、やはり新耐震基準の住宅を現行基準相当に引き上げるより、旧耐震基準の家の耐震リノベのほうが総じて費用はかさむ。また、田村氏の言葉にあったように耐震性能は「グラデーション」であることから、同じ基準で建築されたとしても、建築時期が新しい戸建てのほうが耐震リノベにかける費用は抑えられやすいという。

立地を選び、耐震性能を高めることが大切

株式会社さくら事務所ホームインスペクターの田村啓氏株式会社さくら事務所ホームインスペクターの田村啓氏

近年は、タワーマンションなどに見られる「免震」や「制震」の仕組みを木造戸建てに採用するメーカーも見られる。しかし、こうした仕組みの導入を検討するより前に、立地を選び、耐震性能を高めていくことが重要だと田村氏は言う。

「耐震等級1で制震ダンパーが入っている住宅よりも、耐震等級3の住宅のほうが基本的な耐震性能は高い。制震ダンパーは揺れを吸収し、繰り返しの揺れに効果を発揮してくれるため、ないよりあったほうがよいし、修繕費を抑えたり住宅の寿命を伸ばしたりする効果に期待できる。しかし、基本の耐震性能を高めていない中で制振ダンパーを入れたとしても、必ずしも耐震性能が上がるわけではない。まずは立地のリスクを知ったうえで、地震に対する基礎的な強さを高めることが大事」

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