舟旅通勤の概要
東京都の舟旅通勤とは、東京都の運河を活用した船による新たな通勤手段のことである。2023年4月に舟旅通勤の実装に向けた補助制度が創設され運航事業者等の募集が行われ、2023年8月に舟旅通勤の航路と事業者が決定した。
決定した航路は、「日本橋~豊洲」と「晴海~日の出」の2つである。日本橋~豊洲ルートについては、事業者は観光汽船興業株式会社と三井不動産株式会社となっている。運用されるのは2023年10月からの予定だ。
東京都が公表しているホームページの概要図によると、ルートは日本橋船着場から日本橋川を通って墨田川に出て、晴海運河を経由して豊洲船着場に向かう路線のようだ。現在、仮に日本橋から豊洲に電車で行こうとすると、東西線で日本橋から門前仲町まで行き、都営大江戸線に乗り換えて門前仲町から月島へ向かい、有楽町線に乗り換えて月島から豊洲に向かうというルートとなる。
舟旅通勤の航路・事業者を決定
https://www.metro.tokyo.lg.jp/tosei/hodohappyo/press/2023/08/04/07.html
日本橋と豊洲は地図上で見れば非常に近いが、電車で行こうとすると3路線も利用しなければならず、不便となっている。船であれば乗り換えをせずに最短コースで日本橋から豊洲に向かうことができるため、非常に便利なルートができるといえる。
晴海~日の出ルートについては、事業者は株式会社東京湾クルージングと野村不動産株式会社である。運用されるのは、2024年春以降の予定だ。
晴海と日の出は、地図上で見れば、目と鼻の先の距離である。東京都が公表しているホームページの概要図によると、ルートは晴海と日の出との間を流れる墨田川を渡し船のようにつなぐルートのようだ。現在、晴海には鉄道が走っていないが、仮に電車で移動しようとすると勝どき駅から日の出というルートが考えられる。勝どきから日の出まで行くには、都営大江戸線で勝どきから汐留まで行き、ゆりかもめに乗り換えて汐留から日の出まで向かうという方法がある。
ただし、晴海の場合、そもそも勝どき駅まで行くのに時間がかかることから、船で目の前の日の出まで行くことができれば非常に便利なルートができることになる。現在、晴海には臨海地域地下鉄構想があるものの、開業見込みは2040年となっており、まだまだ先だ。2024年に晴海~日の出の船旅ルートができれば、晴海フラッグの利便性が大きく向上するものと期待される。
水辺空間活用(舟運)ワーキンググループ
東京都では、水辺空間の魅力を向上させるため2015年8月から水辺空間活用(舟運)ワーキンググループを設置し、試験的に舟旅通勤を実施してきた。ワーキンググループの設置に先駆け、2014年12月に打ち出された東京都長期ビジョンでは、水辺空間および舟運に関連する施策が示されている。
東京都長期ビジョンで示された内容は、「水上交通ネットワークの充実」と「水辺空間における多彩なにぎわい・魅力の創出」の2点だ。2015年7月には、総合的な交通政策のあり方検討会において、舟運に関する民間事業者の取組み拡大や利用者の利便性向上に資する環境を実現するという基本方針が示された。「東京都長期ビジョン」や「総合的な交通戦略のあり方検討会」で示された交通政策・施策を実現するために、2015年8月に水辺空間活用(舟運)ワーキンググループが設置されたという経緯になっている。
水辺空間活用(舟運)ワーキンググループでは、当初、2020年東京大会を目途に「舟運活性化パートナー」を募集して、2016年度から2020年度までの5年で事業推進を図り、舟運事業活性化の実現を図ることを目的としていた。ただし、新型コロナウイルスにより計画は2年間延長され、現在に至っている。水辺空間活用(舟運)ワーキンググループは、運航に関する社会実験の実施が主な取組み内容となっている。
2016年度には「羽田~浅草」、「日本橋~有明」、「天王洲~勝どき~日の出」のルートを検証し、2017年度には「東京港循環航路」「隅田川縦断航路」「京浜運河縦断航路」「日本橋周遊航路」、「お台場周遊航路」のルートを検証している。2019年度には、観光など非日常の移動手段としてだけではなく、日常の通勤の移動手段としての可能性も検証し始めた。2020年度と2021年度は新型コロナウイルスにより社会実験をいったん中止したが、2022年度には再び運区に関する社会実験を実施している。水辺空間活用(舟運)ワーキンググループでは、社会実験を行うと同時にポスターやチラシ、インフルエンサー活用、メディアプロモート、PR動画や旅行系冊子等各種のPR施策により認知度向上にも取り組んできている。
らくらく舟旅通勤のこれまでの取組み
らくらく舟旅通勤とは、水辺空間活用(舟運)ワーキンググループが2019年度より行った通勤の移動手段としての社会実験のことである。らくらく舟旅通勤は、2019年度と2022年度の2回に分けて実証実験が行われている。1回目のらくらく舟旅通勤は、2019年7月24日から8月2日にかけて行われた。航路は日本橋から朝潮運河となっている。朝潮運河とは、勝どきの近くにある船着場のことである。日本橋~朝潮運河を7:30~9:00の時間帯に往復7便(計14便)で実施し、乗船者総数は2,834名となっている。
2回目のらくらく舟旅通勤は、2022年10月17日から11月4日にかけて行われた。2回目は、以下の6つの航路で実証実験されており、ルートが一気に拡大されている。
航路1:両国~日の出~天王洲
航路2:日本橋~朝潮運河~日の出
航路3:豊洲ぐるり公園~日の出(竹芝)~お台場海浜公園
航路4:天王洲~日の出~朝潮運河~一之江
航路5:日本橋~朝潮運河~日の出~お台場海浜公園
航路6:天王洲(東品川二丁目)~五反田
両国~日の出~天王洲、日本橋~朝潮運河~日の出、豊洲ぐるり公園~日の出(竹芝)~お台場海浜公園、天王洲(東品川二丁目)~五反田の航路を10月17日から平日14日間、7:00~10:00の朝の時間帯に実施し、計1,611名が利用した。同時に朝の運航日のうち6日間、17:00~21:00の夜の時間帯に天王洲~日の出~朝潮運河~一之江、日本橋~朝潮運河~日の出~お台場海浜公園、天王洲(東品川二丁目)~五反田の航路において運航を実施し、計1,237名が利用し、朝夕の乗船者総数は2,848名となった。乗船率は全体で23%であり、うち朝は15%、夜は64%となっている。
水辺空間活用(舟運)ワーキンググループでは、2回の実証実験を終え、本格的な運用を目指し2023年4月に運航事業者等を募集し、2023年8月に舟旅通勤の航路と事業者が決定している。
第2弾のアンケート結果
2回にわたるらくらく舟旅通勤では、それぞれアンケートを実施している。ここでは、2回目のらくらく舟旅通勤におけるアンケート結果を紹介したい。2回目のアンケートは930人(男性62.3%、女性37.7%)に対して行っている。
乗船満足度に関しては、「とても良かった」が51.8%、「良かった」が44.1%となっており、95%以上の高い満足度が得られている。運賃の許容額については500円が妥当とする意見が多く、500円が今後の舟旅通勤における運賃の一つの目安となる可能性がある。利用する上で重視する点としては、1位が「運航頻度」(59.6%)、2位が「運賃」(57.8%)となっており、本数が多く、妥当な運賃であれば利用者が増える見込みはありそうだ。
今後の予定
今後、2023年10月より日本橋~豊洲ルート、2024年春より晴海~日の出ルートが運行されていくことが公表されている。他のルートに関しては、今のところ開通予定は公表されていないが、順次、新ルートができていくものと思われる。
東京都が2023年3月に公表した「舟運活性化に向けた取組総括」によると、「3章.今後の取組について」の中で「通勤等の日常の交通手段としての航路の実装に向けた取組」が掲げられている。
具体的には、航路の充実に向けて、需要の拡大やコストの削減、多様な主体の関与により運航を支えていくスキームなど、航路の定着、持続可能な運航への方策が調査・検討されるようだ。
水辺のまちづくりの推進とも連携していく予定であり、「首都高地下化に併せた日本橋川周辺の水辺空間整備」等も関連施策の一つとして挙げられている。
船運は古くからある交通手段となるが、江戸時代に開発された水運が令和の時代に違う形で多くの人々に利用されていくことを期待したい。
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