南海トラフ地震の被害想定は、東日本大震災の10倍超!?
「いつ起きてもおかしくない」とされる、南海トラフ地震。
30年以内に発生する確率は70~80%、50年以内は90%程度もしくはそれ以上と、政府の特別機関である地震調査委員会が公表している。最大でマグニチュード9クラスの地震が発生すると予測されるその被害は、東日本大震災の10~20倍と分析する専門家もいる。
揺れや津波などで200万戸以上の建物が被害に遭うという、文字どおり”桁違い”となる被害予想も出ており、既存の民間賃貸住宅の借り上げをフル活用しても、約84万戸の応急仮設住宅が不足すると推定されているそうだ。
ちなみに、東日本大震災で建設された応急仮設住宅は、約4万9,000戸。すべてが完成するまでに8ヶ月もの時間を要した。南海トラフ地震が発生し、約84万戸の応急仮設住宅を建設が必要になった場合、単純計算で11年以上もかかることになる。
被災者はいつ仮設住宅に入居することができるのだろうか。その間、被災者はどこで生活すればいいのか。どこか他人事と捉えているこの問題に、今回は目を向けたい。
恒久的に使用できる移動可能な「モバイル建築」とは
みなさんは「モバイル建築」をご存じだろうか。
”モバイル”と聞くと、携帯電話やスマートフォンなど持ち運び可能な通信機器をイメージする人も多いだろう。
しかし本来、英語の「mobile」は、移動性・携帯性・機動性などがあることを意味する表現であり、たとえばトレーラーハウスやキャンピングカーなど移動可能な住宅を「mobile home」、移動図書館を「mobile library」などと表す。
では今回紹介する「モバイル建築」とは、いったいどんなものなのか。
「『モバイル建築』という言葉は、まだ広く認知されておりません。だからこそ、まずは多くの方に『モバイル建築』を知っていただき、ぜひ活用してほしい」と話すのは、一般社団法人 日本モバイル建築協会 代表理事の長坂俊成さん。
モバイル建築は、平常時は恒久仕様の建築物として利用し、災害時には解体せずに分離して、ユニット単位でトラックなどによる輸送が可能。容易に移築することができる建築物である。
それだけではない。一般住宅の居住性能を備え、同等以上の安全性、耐久性、遮音性などを備えているのが大きなポイントである。
決して”仮設”ではない、モバイル建築のクオリティー
今回筆者は、茨城県境町にある「モバイル建築 さかい研究開発センター」を訪れ、実際にモバイル建築に入ってみたのだが、その性能の高さには驚くばかりであった。
まず驚いたのは、気密性・遮音性の高さだ。同センター前の道路は、大型トラックなどが往来するのだが、室内ではほとんど外の音が聞こえない。そして室温も快適。失礼ながら、もっと音が反響したり、暑い・寒いなどを感じたりすると思っていた。
一般住宅と遜色がない。というより、むしろそれ以上に感じるほどだ。
長坂さんはこう話す。
「私はこれまで、東日本大震災をはじめ全国各地で復興支援をし、仮設住宅の現実を目の当たりにしてきました。暑い・寒い・カビが発生する・プライバシーがないなどといった劣悪な避難生活により、健康被害を起こす方もいます。しかし体育館などの避難所生活よりは”マシ”と、仮設住宅での生活を余儀なくされていました。今、モバイル建築 さかい研究開発センターに設置されているモバイル建築ユニットは、高性能住宅で知られる一条工務店によるもので、同社の技術やノウハウを活用してつくられています。われわれ日本モバイル建築協会が目指すのは、こういった一般住宅と同等の安全性と品質を持ったモバイル建築の開発と普及です」
モバイル建築は一条工務店に限らず、さまざまな企業が開発を進めており、長坂さんが代表を務める株式会社スタンバイリーグでも、現在コンパクトサイズのモバイル建築ユニットを開発中だそう。
「協会では正会員を対象に、所有する設計ライセンスや製造ライセンスを、原則無償で公開しています。ビジネスとしてこのノウハウを活用していただいて構いません。多くの企業に参入していただき、ともに協力し合いながら開発し、また生産拠点を全国各地に拡大することで、さらにモバイル建築を普及させていきたいと考えています」
多くのハウスメーカーや工務店は、なかなか災害時に必要な応急仮設住宅の開発にまで手が回らないのが現状だろう。しかしこういった社会貢献に近い活動に興味がある企業も多いのではないだろうか。いつやってくるかわからない災害に備え、今、手を取り合うべき時なのかもしれない。
高い居住性能とさまざまな組み合わせによる多様な利活用
平常時は地域の施設として普段使いする「社会的備蓄」という考え方
同協会ではモバイル建築を、平常時は地域の施設として利活用しながら、いざというときに備える「社会的備蓄」を推進している。
住宅として利用すると居住権が発生するためすぐに移築することはできないが、公共の非住宅であれば準備が整い次第、ユニットを分離してトレーラー等で被災地に運ぶことができるのだ。
一般的な一戸建てに比べシンプルで安価なモバイル建築は、ライフスタイルが多様化する現代において、今後住宅としてのニーズも高まりそうだ。ライフステージに合わせ、ユニットをプラスしたり、将来的にユニットを売却したりすることもできるというから面白い。住宅として採用する人が増えれば、技術も発展し、つくれる工務店も増え、工場の稼働率も上がり、コストも下がるだろう(写真提供:一般社団法人日本モバイル建築協会)現在も、普段使いをしながら社会的備蓄をしている自治体がある。用途は、学童クラブや子育て支援施設、グランピングやワーケーションなどの宿泊施設などだが、まだそれほど数は多くない。
「たとえばどこかで大規模災害が起こり、応急仮設住宅や福祉避難所が必要になったとします。被害のない地域で、仮に学童クラブとしてモバイル建築ユニットを使用していたなら、一時的に学童の機能を学校の教室などを間借りして移行させれば、使用していたユニットを被災地に貸し出すことができるのです」
全国には1,700を超える市町村がある。各自治体で社会的備蓄をしていれば、国難級の大規模災害が起きたときに、大きな力となるだろう。
「すでに完成しているモバイル建築を移築させ『動くみなし仮設住宅』として活用すれば、何ヶ月も、あるいは何年も待つことなく、早期に被災者の肉体的・精神的負担を和らげることができます。ただしこのスキームをいざというときに活用するには、導入自治体の拡大が重要です。モバイル建築の社会的備蓄が当たり前な社会にしていきたいですね」と長坂さん。
一般の恒久住宅と同等以上の耐震性や安全性で、平常時でも快適に使うことができるモバイル建築ならば、当たり前にモバイル建築が街に存在する未来も、夢物語ではないように思う。
「南海トラフ地震で不足すると推定される応急仮設住宅を供給するには、プレハブやコンテナハウスなどを扱う各団体とともに、この問題に対して総力戦で取り組まなければならないと思っています。互いに話し合い、協力しあえる関係を築いていきたい」と長坂さんは熱い胸の内を語ってくれた。
私たちの『団結力』で、国難級の大規模災害にも打ち勝つ”準備”をするのは、平常時である今だ。
取材協力:一般社団法人 日本モバイル建築協会
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