「めぶく。」が具現化しつつある街、前橋
群馬県前橋市は2016年に市の将来像を見据え「前橋市はどのようなまちを目指すのか」を示すまちづくりに関するビジョン、前橋ビジョンを策定している。それが「めぶく。」。
策定にあたって行った外部の視点からの分析は「Where good things grow(良いものが育つまち)」という言葉となっており、それを日本語に置き換えたのがこの言葉。現在は小さな芽だとしても、それらはいずれ大きく育ち、やがて大樹となり、大きな森となっていく、市はそれを育んでいこうという期待と決意を表したものだと思う。
そして実際、前橋は訪れるたびに新しい芽吹きを感じさせてくれる。最初に訪れたときの、薄く霞がかかったような状況から少しずつ、それが晴れ、光が差してきているといえばいいだろうか、新しい芽吹きを街のあちこちに見かけるようになっているのである。
2023年5月に誕生した複合施設「まえばしガレリア」はそんな芽吹きのうちでも大きな、変化を実感させる存在だ。立地するのは中央通り商店街、千代田通り商店街など9つの商店街からなる前橋中心商店街の中心、銀座通り二丁目商店街に面した場所。100年以上前の大正時代から約60年近く映画館があった土地だそうだ。近年は市が所有、Qの広場として地域に開放されてきたが、民間に売却され、そこからこの計画がスタートした。
拠点となる1本の樹木のような建築
5年前に設計を依頼されたという建築家で京都大学教授の平田晃久氏は「広場をつくりたいという、珍しい依頼だった」と当時を振り返る。どんな建物を造ってほしいではなく、街の中での役割から建物を考えるという作業だったのだろう。
「拠点となるものをどうつくるかを考え、紆余曲折を経て辿り着いたのが1本の樹木のような建築です。大きな樹冠が真ん中にある広場の上に広がり、その下では自由な活動が繰り広げられる、そんな建物です」
広場の周りにはリング状に住宅が浮かぶ形になっており、そこに大きなテラスを備えた住戸を少しずつずらしながら配した。住戸が大きく目立たないようになっているのは周囲の小さなスケールの建物と響き合うためだという。
出来上がった4階建ての建物は、中庭を囲んだ変形のロの字の、一部が欠けたような形状で、欠けた部分が街行く人を内部へ招く入り口になっている。1階は中庭を挟んで両側にはガラス張り、天井の高い2つの現代美術のギャラリーが入り、その奥は6月1日にオープンのフランス料理のレストラン「cépages(セパージュ)」。中庭から上部、2~4階の住居へは階段(*)がのびており、建物全体に空を仰ぎ見たくなるような開放感がある。
建物外周、中庭を囲む外壁には植栽が施されており、いずれは大きな森となっていくことが期待される。前橋自体は通りや川沿いに緑の多い街だが、同建物がある辺りはビルが中心。まえばしガレリアは新たな建物というだけでなく、この地にこれまでになかった存在でもあるわけだ。
(*)実際には非常階段。住戸のエントランスは建物背後にあるが、内覧会では非常階段を利用、見学させていただいた。
7~8mの吹き抜けのある2つの現代美術ギャラリー
1階には2つのギャラリーが入っており、いずれもガラス張りで天井の高い、パワーを感じる空間で大きな作品が映える。通り沿いのタカ・イシイギャラリーの吹き抜けは7m、もうひとつのギャラリー2は8mあるそうだ。内覧会では各ギャラリーの代表者がそれぞれコメントしたのだが、そのうちでいくつか、印象的だったことをご紹介したい。
ひとつはタカ・イシイギャラリー代表の石井孝之氏が語った前橋に出店した理由。まえばしガレリアの近くには2020年に誕生したアートホテルとして国際的にも有名な白井屋ホテル、建物も印象的なアーツ前橋があり、現代美術を歩いて楽しみながら回遊できる。そこに可能性を感じたと石井氏。
同じひとつのテーマで回遊できるようにすることの大事さに加え、超クルマ社会といわれる前橋(検索すると多数の記事が出てくるほど)でも、中心部ににぎわいをと考えると、やはり歩いて回れることは大事だというのである。
また、前橋に現代美術の市場があるのか? という疑問に対して、マーケットと場所には関係がないという返答にもなるほどと思った。都心にいれば売れるというものではなく、発信さえきちんとできれば場はどこにあってもモノは売れる。これからはそういう時代なのだろう。
もうひとつのギャラリー2は小山登美夫ギャラリー、MAKI Gallery、rin art association、Art Office Shiobaraという4つのギャラリーが持ち回りで出展していくとのことで、それも面白い試みだと思った。3ヶ月に一度展示を変える予定だそうで、道行く人も楽しみにできそうである。
住戸の特徴は広いテラスと絵を飾れる壁
内覧会では分譲される住宅の見学も行われた。ワンルーム、ロフト付き住戸、メゾネットの3タイプがあり、すべて間取りが違う、全26戸。共通する特徴は住戸の前にテラスがあることと絵を飾れるような壁が作られていること。
最初に見せていただいた3階の部屋はロフト7.92m2にテラスが13.65m2、ロフトを含めた専有面積が37.73m2あり、入居者が使用できる全体の面積は51.38m2。テラスに面した窓は引き戸になっており、開放的。テラスと共有廊下との間にはポリカーボネイト製の壁があり、ぼんやりとした境界になっている。
室内は住戸内を斜めに仕切る大きな壁で居室部分と洗面所、浴室に仕切られており、壁に大きな絵を掛けたら印象的な部屋になりそうである。
現しの天井、天板だけのキッチンなど設備類はシンプルだがスタイリッシュ。一方でたっぷりした浴槽が印象的でもあった。メゾネットタイプではバスタブが大胆にも窓辺に設置されている部屋もあった。
専有面積34.96m2、テラス21.09m2というワンルームも同様に斜めの壁で住戸内が仕切られており、インテリアのセンスが試されそう。広いテラスをアウトドアリビングとして使うのも楽しそうである。
専有面積67.46m2にテラス22.86m2という広いメゾネットでは上階がリビングで同じくらいの広さのテラスが続くという贅沢な造り。中心市街地でこの開放感はうらやましい。
幅広い人たちの期待を実感
住宅階では廊下のアートのようなサインも目を引いた。ぱっと見るとなんだろうと思うのだが、よく見ると部屋の位置とそれがどこにあるかが分かるようになっている。建物全体が少し複雑な造りになっているため、場所を明示する必要があるということだろう。
ちなみに価格は3,000万円弱から8,700万円ほど。現在、前橋駅前では27階建てのタワーマンションが建設されており、60m2の2LDKが3,000万円台から。それから考えると街の中心地にあるとはいえ、価格はやや高め。
それでも全体の3分の1ほどを残してすでに売れているそうで、この街をなんとかしたいという人たちが購入を決めているという。自分が住むのではなく、若い人たちに貸して住んでもらうことで中心部から動きを起こす、活性化を促進させたいという想いとみた。そうした人がいるから、前橋は変わりつつあるのだろうとも思った。
実際、内覧会には地元の重鎮と思われる方々から近くでご商売をされているだろう人たち、建築学生まで幅広い層の200人以上が集まっており、この建物への期待を物語っていた。今後、フレンチレストランがオープンすれば、昼夜人が集まるようになるのではなかろうか。
ちなみにレストランは開放的な中庭のイメージとは多少異なり、ひっそりとした洞窟を思わせる落ち着いた空間。ひとつの建物の中にさまざまな場があるのは面白い。
運営は2021年に前橋活性化のための都市開発を目的として設立された株式会社まちの開発舎。代表の橋本薫氏はこれまでも前橋の変化に大きく関与してきた立役者の一人である。まえばしガレリアにとどまらず、次の一手にも期待したい。
まえばしガレリア
https://www.towndevelop.jp/






















