波佐見焼の産地に生まれた民間企業が手がける公園

子どもが公園で遊んでいるそばで、ベンチを囲んで会話する大人たち。コーヒー片手に、ショーケースに並ぶ焼き物を品定めしている人もいる。そんな風景が日常的に生まれている場所は、長崎県波佐見町にある「HIROPPA」(以降、ヒロッパ)だ。この場所を立ち上げて運営しているのは、波佐見焼の産地メーカー・マルヒロ。2021年10月にオープンしたヒロッパは、“私設の公園”。敷地面積約1,200坪という広さで、無料開放されており、誰でもいつでも利用できる。

ちなみに波佐見焼とは、長崎県波佐見町付近で400年以上つくられてきた陶磁器のこと。 現在でも日用食器の17%のシェアを誇っている(※)。波佐見町の中心地に位置する、焼き物の産地にあるヒロッパは、どんな経緯で生まれたのだろうか?

※参照:波佐見産業の実態調査・2021年

入り口に掲げられた看板が目印。提供:マルヒロ入り口に掲げられた看板が目印。提供:マルヒロ
入り口に掲げられた看板が目印。提供:マルヒロ上空からヒロッパを見た様子。提供:マルヒロ

「『波佐見町に多文化を』がマルヒロの理念です。町になかったのでつくりました。商品開発にしろ、イベント開催にしろ、公園にしろ、ないものをつくるという同じスタンスで捉えています」と、有限会社マルヒロの3代目社長・馬場匡平さんは話す。

オープンしてから陶器市や音楽イベントなどに加え、芝生広場という立地を生かしたヨガ教室やマルシェなどを催したりと、もう公共の公園さながらに活用されている。徒歩3分ほどの場所にある波佐見町立東小学校は、ちょうどヒロッパがよく見える位置にある。廊下の窓からヒロッパを眺めながら、下校後にどうやって遊ぼうか想像している子どもも多いかもしれない。

入り口に掲げられた看板が目印。提供:マルヒロ有限会社マルヒロの3代目社長・馬場匡平さん。柔らかい物腰の話し方が印象的。提供:マルヒロ
入り口に掲げられた看板が目印。提供:マルヒロ手前が駐車場、左棟がショップスペース、右棟がバリアフリートイレ、奥に公園が広がる。提供:マルヒロ

自由な設計の中に見え隠れする、細部への思いやり

ヒロッパの周囲にはのどかな里山風景が広がり、道路の脇には川が流れている。広場の中には池や砂場が用意され、スケートボードの練習場もある。芝生広場の遊歩道に沿うように点在する、空間を引き立たせている独創的なオブジェやアーティスティックなサイン。ないものをつくる、というマルヒロのマインドが反映された、ここにしかない公園の風景が広がっている。

ヒロッパの設計を手がけたのは、DDAAの元木大輔氏。全長10mのベンチ兼オブジェは、オランダ・アムステルダムのアーティスト、Boris Tellegen氏(DELTA)、造園は「西海園芸」が手がけるなど、多くのプロフェッショナルの技術が融合し、心地よい空間を生み出している。

子どもがよじ登れる高台子どもがよじ登れる高台
子どもがよじ登れる高台上から見るとヒロッパと書かれているベンチ兼オブジェ。提供:マルヒロ

公園への入り口をつなぐのは、つる性の植物を絡ませる木材で組んだパーゴラだ。日よけとなる植物が、広場へと優しく迎え入れてくれる。植栽の種類も豊富で、春になると桜の木の下で花見をする子ども連れの家族もみられるという。トイレや公園を一周できる遊歩道は、すべてバリアフリー。遊歩道をぐるりと一周できる散歩コースは、老若男女が楽しめるような設計となっている。

鉄棒やブランコなど公園にありがちな遊具はないが、砂場や凹凸のあるオブジェなどのさまざまな仕掛けは、子どもたちが創意工夫できる自由度の高い遊び場となっている。ただの芝生の盛り上がりも子どもにとっては、小さな山。高い場所によじ登れば、そこはお城。高低差のある空間作りが自然の姿を彷彿させる。

子どもがよじ登れる高台駐車場から公園と物販スペースへの入り口にあるパーゴラ。夏の強い日差しを和らげてくれる
子どもがよじ登れる高台地面より下に座ることができる三角形の空間。提供:マルヒロ

許容しながら、地域と共存するしなやかさ 

「なんでも禁止にせず、状況に合わせた判断ができることも私設公園の強み」と馬場さんが話すように、公園の特別なルールもあえてつくっていない。不必要なルールは時に自由を失う。コロナ禍などの世の中の変化にも、臨機応変にルールを変えながら運営していきたいという思いがある。

ルール表も強い禁止事項はない。マグネットを上から貼って、状況に応じてルールを変えられるルール表も強い禁止事項はない。マグネットを上から貼って、状況に応じてルールを変えられる
ルール表も強い禁止事項はない。マグネットを上から貼って、状況に応じてルールを変えられる公園を一周する遊歩道。曲線を描く道幅も広めの設計。提供:マルヒロ

自由度を維持しつつも、地域住民との関係構築は丁寧に行っている。ヒロッパで開催される陶器市は、県外からも人が集まる大きなイベントだ。当日は道路が渋滞するため、近隣から苦情を言われることもあった。毎回スタッフでミーティングを行い、歩み寄りながら対応できる方法を考え、実行していくというサイクルを行っている。空間演出の一つでもあるヒロッパに流れる音楽も、スピーカーの向きや位置を工夫している。

お互いを尊重しながら、落としどころを見つけていく作業は、まさにお隣さんとの関係づくりと同じ。自分たちの場所で実現したいことと、波佐見焼を育ててきた地域とどううまく共存していくかも、大切な視点だ。

ルール表も強い禁止事項はない。マグネットを上から貼って、状況に応じてルールを変えられるヒロッパの近隣に広がる風景。なだらかな山に囲まれた立地
ルール表も強い禁止事項はない。マグネットを上から貼って、状況に応じてルールを変えられるすぐそばには、川が流れている

民間企業が生み出すパブリックスペースが、ハブになる

近年、民間企業がパブリックスペースをつくるケースが増えている。例えば、京都の観光名所木屋町通沿いにあった文化施設・元立誠小学校の跡地に生まれた複合施設「立誠ガーデンヒューリック京都」にも、地域に開けた広場が広く設けられている。休日には、観光や旅の途中に立ち寄った人が芝生の上で寛ぐ姿が見られている。また2022年4月、福岡の複合商業施設・ガーデンズ千早が運営するガーデンエリアに「ちはや公園」が誕生。近隣に増えつつある子育て世帯と長く暮らす方との接点をつくるための、多世代交流の場を目指している。

ファミリーからも人気で、遠方から訪れる方も多くいる。提供:マルヒロファミリーからも人気で、遠方から訪れる方も多くいる。提供:マルヒロ
ファミリーからも人気で、遠方から訪れる方も多くいる。提供:マルヒロ子どもが屋外で午後を過ごすのも、日常の風景になっている。提供:マルヒロ

本の貸し借りができる場「私設図書館」なども、公共が担う機能の一つを民間が補うものだ。しかし、それと先に紹介した民間のパブリックスペースとの大きな違いは、企業の思いを通して「何かと何かのハブ」になることを目的にしていることだろう。ヒロッパの場合も同様だ。コーヒーを飲みながらゆっくり過ごせる空間があって、焼き物に触れられて、公共の公園とは異なる世界観がある。それだけでも波佐見焼とのハブとなっているといえる。

馬場さんが考えているのは、波佐見焼の魅力をどう子どもたちに伝えていくかということ。子どもの遊び場の近くに、自然と焼き物がある。そんな風景をつくろうとしているのだという。

ファミリーからも人気で、遠方から訪れる方も多くいる。提供:マルヒロ室内と屋外がゆるくつながる、「OPEN-END(オープンエンド)」のコーヒースペース。提供:マルヒロ
ファミリーからも人気で、遠方から訪れる方も多くいる。提供:マルヒロコーヒーも公園とショップをつなぐハブ地点。遊んだ後に、商品を選んだ後に、ちょっとした休憩ができる

波佐見焼の文化を子どもたちに残していく

馬場さんにはヒロッパを造るに至った苦い原体験がある。「焼き物屋さんに入ると、子どもだった自分は、怒られる場所だったんです(笑)。割らないように気をつかう場所で、次第に足が遠のいてしまいました。楽しい場所に焼き物がある。最初の出合いはもっとシンプルにそこからでもいいと思うんです」

ヒロッパというオープンなスペースは、子どものためだけではなく、観光客に対しても波佐見焼を知らせるきっかけにもなっている。波佐見焼の窯元だった福幸製陶所の跡地にある「西の原」は、カフェ・レストランや雑貨店が軒を連ねる、波佐見町を代表するエリアも徒歩10分圏内にある。合わせて立ち寄れば、波佐見焼の幅広さをより感じるに違いない。

マルヒロを代表するブランド「HASAMI」の波佐見焼の商品マルヒロを代表するブランド「HASAMI」の波佐見焼の商品
マルヒロを代表するブランド「HASAMI」の波佐見焼の商品マルヒロの定番商品から企画ポップアップコーナーなど、豊富なラインナップが楽しめるショップスペース

「同じ波佐見焼のメーカーや作り手でもアプローチの仕方は違います。それぞれの特性を生かして、背伸びせずにできることをやることが、焼き物全体の生存率を上げる方法でもあると考えています。目標を強いて言うなら長く続けることかな。スタンスを変えずにどう続けていくかが課題。歴史的な工芸品だと、意固地になって子どもたちに残そうとするのではなく、気がついたら自然と残っていたというのが理想です」と馬場さんは笑った。

ハブとなるこの空間は、400年以上の歴史を持つ波佐見焼の生産地にあるからこそ、強い意味を持つのかもしれない。これからもさまざまな活動が行われていくヒロッパ。これからどのような波佐見焼の新しい文化を残していくのだろう。

マルヒロを代表するブランド「HASAMI」の波佐見焼の商品公園に併設されたショップスペース。提供:マルヒロ

公開日:

ホームズ君

LIFULL HOME'Sで
住まいの情報を探す

賃貸物件を探す
マンションを探す
一戸建てを探す