50年前から粛々と計画が進められてきた、長崎駅周辺のまちづくり
「西九州新幹線 開業!」というキャッチコピーを掲げて、2022年秋、満を持して登場した西九州新幹線。長崎と佐賀・武雄温泉との間、約66kmを結ぶこの新幹線の開通は、九州エリア内だけでなく、長崎と本州をつなぐ大きな交通網になると期待が高まっている。この大きなトピックスの裏側で、長崎市は長崎駅の周辺開発に急ピッチで取り組んでいる。新幹線の整備計画が決定されたのは、1973年の11月。それからこの50年間、粛々と計画が進められてきた。
長崎市が長崎駅周辺のまちづくりにおいて掲げるコンセプトは、「市民・来訪者の交流・にぎわい空間となる、長崎市の新たな陸の玄関口の形成」だ。事業主体は、長崎市、長崎県、国の3つ。長崎市が行う「宅地、街路、駅前広場などの整備」、長崎県が行う「在来線の高架化事業」、そして国が担う「新幹線の建設事業」とそれぞれの事業が相互に関連しながら、一体となってコンセプトの実現に向かっている。それぞれの事業費は、約173億円、約529億円、約6,197億円というのだから、まさに「100年に1度」といわれる大プロジェクトだ。
「目指すところは、交流人口の増加。長崎市でも人口減少は深刻な問題で、若手の人口流出に歯止めをかけたいところですが、なかなか厳しい現状です。それを補う意味でも、魅力ある長崎市の玄関口を構築し、長崎に訪れる機会や人を増やしたいと考えています」と、長崎市まちづくり部 長崎駅周辺整備室 室長 松尾英幸氏は話す。
にぎわいと長崎らしい風景のあるまちを目指す、長崎駅舎
長崎駅は終着駅であり始発駅でもある、世界的にも類を見ない「港に面する頭端駅」だ。特徴的なのは、新幹線と在来線2つの駅舎の屋根が連続するようにデザインされ、遮蔽物がないことから新幹線と在来線がホームに平行に並んでいる姿が見られることだ。長崎駅前では2020年に、在来線の高架化工事が完了している。高架化とは、地上の線路を橋梁(高架)に移すことで、地上の道路混雑の緩和や分断された市街地の一体化を図るものだ。
このように、長崎駅舎は周辺のまちづくり(駅前広場、街路、宅地などの整備)と一体的なデザインとなるよう、先に長崎県・長崎市が策定したデザイン基本計画に基づき設計・施工が進められたが、このような事例は全国的にも珍しく、全国的に注目されている部分でもある。
また地形をとってみれば、稲佐山や金比羅山などの山に抱かれるような、ドラマティックな地形を有しており、山と海に囲まれた地形の中で、美しい夜景が楽しめるまちでもある。「長崎の個性や強みを十分に活かしながら、ここにしかない空間を形成することが空間デザインにおいて意識されています」。松尾氏がそう話すように、長崎駅舎にはさまざまな細かい配慮がなされている。
例えば、長崎県庁の建て替えが行われた際も行政棟と警察棟を隣接させず、低層の駐車場棟でつなげることで、グラバー園などのある海側の眺望を妨げないように施した。駅舎の壁面にガラススクリーンを使用したのは駅前広場から新幹線が見えるようにするための仕掛けだ。そして夜になって照明が点灯すれば、うねる膜屋根がライトアップされ、駅舎そのものが長崎の夜景に馴染んでいく。在来線と新幹線ホームが共存し、まちの風景と合わせてトータルデザインされた駅舎は、長崎市、長崎県、国の3事業体が連携することでなし得た景観といえるだろう。
数千人収容できるコンベンションセンターで、経済活性化も
長崎市は、長崎駅周辺として重点的に整備をすべきエリアを大きく4つ(長崎駅周辺エリア、松が枝周辺エリア、まちなかエリア、中央エリア)に分けている。その中でも重点的に取り組んでいるのが、長崎駅周辺エリア内の「長崎駅周辺土地区画整理事業」だ。施行されている区域は、長崎駅を中心に広がる約19.1ha。区域内では、公益民間施設や駅ビルの開業などさまざまな計画が同時進行で進められている。
駅舎の西側に2021年11月に完成した「出島メッセ長崎」は、数千人を収容できるコンベンションセンターだ。もともと貨物の車両基地だった場所を区画整理により長崎市が整備した場所で、指定管理者制度を導入して利用料金による独立採算で運営される。
「これまで長崎市内には多くの方が一堂に集まれる場所がなかったのですが、出島メッセが造られたことにより、大規模な学会や展示会などが長崎で実施できるようになりました。国内外の方に来訪していただき、交流を促すことで、交流人口を拡大し、市の経済活性化にもつなげていきたい」と松尾氏。
JR九州新長崎駅ビルも2023年秋の開業に向けて進んでいる。地上13階建ての複合施設には、商業テナント、オフィスやホテル(長崎マリオネットホテル)が揃う予定だ。1,500台の駐車場も用意され、ここを起点に長崎市街への観光も広がっていくだろう。
駅前に集まったにぎわいを、まちなかにつないでいく
長崎駅周辺にある施設間をつなぐ動線と、賑わい創出を担っているのが、駅に生まれる広場だ。東口駅前広場には、駅舎直近にバス・タクシーの乗降場と観光バスの停車場が設けられ、乗り継ぎの利便性も向上する。歩行者にとっても駅舎から快適に歩行できるように、屋根やベンチなども整備される。
また人が滞在できる憩いの場として多目的広場も用意される。2023年秋の新駅ビル開業にあわせ、先行して整備される新かもめ広場が隣接することから、連携した広場運用が図れないか、駅周辺の施設管理者や地元自治会、JRなどで組織する「長崎駅周辺まちづくり推進協議会」で検討が進められている。
中心部での重点エリアのひとつ「まちなかエリア」では、浜町地区市街地再開発事業も行われている。浜町は長崎一といわれる繁華街。“浜んまち商店街”の愛称で、地域住民にも親しまれている浜町アーケードがある。駅前から、このような市街地にも賑わいをつなげていきたいと長崎市では考えている。「駅前に人が集まり、そのにぎわいを長崎市街に送り出す、ポンプのような役割でありたい。人が歩いて長崎のまちを巡りたくなるような環境を整えていきます」と松尾氏。
相乗効果が期待される、行政と民間事業体による都市開発
民間企業の動きも活発だ。長崎駅から徒歩10分程度の場所では、2022年6月からジャパネットホールディングス(本社:長崎県佐世保市)による「長崎スタジアムシティプロジェクト」が始まっている。スポーツとビジネスの両面から民間主導の地域創生モデルを目指すもので、スタジアムを中心にアリーナ、オフィス、商業施設やホテルなどの周辺施設もそろっていく。
広いエリアでさまざまな動きが生まれている長崎市内。長崎駅を中心としたまちづくり開発が進むなか、長崎市が取り組んでいくべき命題は何があるのだろうか?
「西九州新幹線が開通した沿線5市(佐賀県武雄市・嬉野市、長崎県大村市・諫早市・長崎市)では、連携して新幹線を活用したまちづくりを推進することなどを目的に、ネットワーク会議を設立しています。今後長崎市に期待されているのは、新幹線が通らない県北・島原地域や離島など、そして唐津・伊万里など佐賀県域まで賑わいを拡げていくことです。新幹線開業を機に長崎駅周辺に生まれ出した盛り上がりを、長崎県内や近隣県まで届けていきたい」と松尾氏。
長らく長崎は海外から多くの船が訪れる「海の玄関口」として知られてきた。近年コロナ禍の影響を受けて停止されていたクルーズ船の受け入れも、2023年春に再開を予定している。これから長崎市が、海と陸という2つの玄関口を担いながら発展していく様子を見守りたい。















