東京メトロ有楽町線の分岐線の概要
2022年12月26日において、東京都は東京メトロ有楽町線の分岐線計画を公表している。東京メトロ有楽町線の豊洲駅から都営新宿線の住吉駅までをつなぐ線であり、2030年半ば頃の開業が予定されている。延伸距離は約5.2kmであり、総事業費は約2,690億円という計画だ。
現状では、東京メトロ有楽町線の豊洲駅はJR京葉線の新木場駅方向に向かって接続している。新しい路線は豊洲駅で二股に分かれて都営新宿線の住吉駅へと向かう形となっており、「分岐線」という表現がなされている。
南北に長い江東区では、東京メトロの「有楽町線」と「東西線」、「都営新宿線」の3路線が東西に並走している。分岐線は南北を貫き、東西を並走する3路線をつなぐ計画だ。住吉駅から北側へは東京メトロ半蔵門線が通っており、住吉駅以北は既に南北間の移動ができるようになっている。分岐線は、今まで南北間の移動ができなかった部分を補完する役割を果たすことになる。
分岐線では「豊洲駅(有楽町線)」と「枝川駅(新駅:仮称)」、「東陽町駅(東西線)」、「千石駅(新駅:仮称)」、「住吉駅(都営新宿線)」の5駅ができる予定である。中でも「枝川駅」と「千石駅」は新しい駅であるため、周辺の不動産価格に及ぼす影響は大きい。「東陽町駅」も現状では東西線しか利用できないが、有楽町線への乗り換えが可能な駅となることから利便性は大きく向上するといえる。
これまでの経緯
現在の東京メトロ有楽町線の豊洲駅には、線路が埋め立てられて通行ができる状態になっている2・3番線ホームが存在する。階段を上り下りすることなく1番線から4番線に乗り換えることができ、便利ではあるものの、少し謎めいた構造だ。実はこの2・3番線ホームは、もともと、分岐線のために予定されていたホームである。
また、半蔵門線の住吉駅にも利用されていないホームが存在する。半蔵門線の未利用ホームも、実は分岐線のために予定されていたホームだ。有楽町線における分岐線の話の歴史は長く、もともとは1972年3月に都市交通審議会答申第15号にて亀有への分岐が答申されたのが始まりとなっている。50年以上前から計画があったため、豊洲駅や住吉駅には当初から分岐線が乗り入れるホームが作られていた。
分岐線の計画は、その後、紆余曲折を経て2009年7月に地下鉄8・11号線促進連絡協議会にて豊洲から住吉間を第一段階とすること等を確認されている。「豊洲から住吉」というキーワードが出てきたのが、今から14年前ということになる。2010年度には江東区地下鉄8号線建設基金の積立てが開始され、資金の確保に着手し始めている。加えて2018年4月に、東京都も鉄道新線建設等準備基金を創設している。
2020年1月になると国・東京都・東京メトロによる「東京8号線延伸の技術的検討に関する勉強会」が発足され、技術的な検討が進められるようになる。2021年7月以降は、交通政策審議会答申第371号において分岐線が早期の事業化を図るべき路線とされたことから、加速度的に計画が進みだした。同時期に国土交通大臣と東京都知事の合意も得られている。
2022年3月には、豊洲から住吉間の鉄道事業許可について国土交通大臣の許可が下り、分岐線が実現する運びとなった。「豊洲駅の2・3番線ホーム」や「住吉駅の未利用ホーム」は半世紀の時を経て日の目を見る形となり、ようやく分岐線の乗り入れのために利用されることになる。
期待される効果
東京メトロ有楽町線の分岐線の主な目的は、「臨海副都心や都区部東部の観光拠点へのアクセス利便性の向上」と「東京メトロ東西線の混雑緩和等」の2つとされている。
臨海副都心や都区部東部の観光拠点へのアクセス利便性の向上
現状では、電車で豊洲から住吉へ移動しようとすると、約20分かかる。乗り換え方法の1つの例を見ると、有楽町線で豊洲から月島まで移動し、都営大江戸線に乗り換えて月島から森下に移動し、さらに都営新宿線に乗り換えて森下から住吉へ移動するというルートがある。
江東区は地下鉄が東西に並走しているため、南北に移動するにはコの字状に電車を乗り継いでいかなければならない。分岐線が開通すれば、豊洲から住吉までは約9分で移動できる予定となっており、約11分を短縮できる効果がある。鉄道が街を並走すると、路線と路線との間にどこの駅からもアクセスがしにくい鉄道空白地帯が生じてしまう。江東区にも有楽町線と東西線の間、また東西線と都営新宿線との間に鉄道空白地帯が生じている。分岐線では、鉄道空白地帯の中に新たに「枝川駅」と「千石駅」ができる予定となっており、新駅周辺の利便性は改善する効果が見込まれる。
分岐線の目的の一つに「臨海副都心へのアクセス利便性の向上」が掲げられているが、東京都には東京駅から有明・東京ビッグサイトまでをつなぐ臨海地域地下鉄構想というものもある。臨海地域地下鉄は2040年までの開業予定となっているが、臨海地域地下鉄も完成すれば東京メトロ有楽町線の分岐線にも相乗効果が生まれることが期待される。
東京メトロ東西線の混雑緩和等
また、もう一つの分岐線の目的に「東京メトロ東西線の混雑緩和等」がある。東西線は都内の中でもラッシュ時の混雑が激しい路線として知られている。計画では分岐線が東西線の東陽町駅にも乗り入れるため、東陽町駅である程度人が下車して混雑が緩和されることが期待されている。ただし、東西線は始発の西船橋駅から既に混んでおり、葛西駅や西葛西駅でさらに乗客が加わって大手町駅まで行く人が多いことから、東陽町駅での混雑緩和の効果は限定的かもしれない。むしろ東陽町駅から乗ってくる人が増え、さらに混雑する可能性も否定できない。
ただし、ここ数年はリモートワークの普及により東西線の混雑は相当に緩和されている。分岐線ができるか否かにかかわらず混雑緩和はある程度実現できているため、このままリモートワークや時差通勤を推奨すれば混雑解消は維持できると思われる。
江東区の取組み
江東区は分岐線の開通に先駆けて「江東区都市計画マスタープラン2022」を策定している。マスタープランでは、新駅周辺のまちづくりの方向性も示されている。枝川駅は「水辺に囲まれた回遊の拠点」がコンセプトとなっており、業務・商業等の機能を誘導するとしている。枝川駅周辺はオフィスビルやビジネスホテル、倉庫、店舗等が中心に建てられる街づくりが行われることが予想される。
千石駅は、「緑連なるゆとり拠点」がコンセプトとなっており、下町情緒や安らぎを感じる良好な居住環境を保全しつつ、商業や生活利便機能等を図るものとしている。千石駅周辺は、スーパー等の生活利便施設が充実していくことが期待される。
不動産価格への影響
不動産価格の影響としては、やはり新たに駅ができる「枝川駅」や「千石駅」周辺は地価上昇が生じることが見込まれる。
新駅の場所は計画図からある程度推測できるが、各駅の出入口は現段階では未定となっている。各駅の出入口は基本的に2ヶ所が想定されており、具体的な位置については東京メトロが利便性や消防法等の各種法令、地上の状況等を勘案して決めていく予定である。例えば、既存のマンションの近くに駅の出入口ができれば、そのマンションの価値は大きく上がることが期待される。
また、枝川駅や千石駅の周辺では、現在でも用途地域が指定されている。用途地域とは、地域ごとに建築可能な用途を定めた規制のことである。現状では、枝川駅周辺は準工業地域、千石駅周辺は商業地域および準工業地域が指定されている。用途地域は今後変わる可能性もあるが、現段階では商業地域も指定されている千石駅周辺の方がポテンシャルは高いといえる。
商業地域は工業地域に比べると、建築可能な建物の用途の多様性が広く、一般的に容積率も高く指定されているからだ。容積率とは、敷地面積に対する建物の延床面積の割合を指す。
いずれの新駅も周辺の豊洲駅や東陽町駅と比較すると開発の余地は残っており、発展的なまちづくりが行われていくことが期待される。






