不登校児対策として活用されている熊本市の「フレンドリーオンライン」。朝の登校から午後の下校までオンラインで完結
2020年3月に始まったコロナ禍による一斉休校への対応を踏まえ、2021年9月、「体験」としてオンライン型不登校対策を導入した熊本市。今、本格導入となったこの「フレンドリーオンライン」がすごい、と全国の自治体関係者の間で話題になっている。
拠点校と不登校児をオンライン会議ツールで結び、子どもたちは自宅や学校の別室からオンライン登校。
朝のホームルームから終了のホームルームまで、毎日のプログラムに沿って活動している。とかく夜型になり生活習慣が崩れがちな不登校児の保護者にも好評だ。
このフレンドリーオンラインはどのようなきっかけで始まったのだろうか。
そもそものきっかけは一斉休校にある。
実は全国的に、一斉休校により、既存のインフラや家庭の情報機器を活用した配信が行われた。政府によるタブレットの配布は間に合わなかったが、多くの児童生徒が急遽用意されたオンライン登校の仕組みにより休校期間を過ごしたのだ。
この際、熊本市では少々想定外なことが確認された。これまで不登校になっていた児童生徒の一部がオンライン「登校」に参加したのである。市教委の担当者は「皆が不登校、皆がオンライン」という環境が突如出現し、一部の子どもたちの動きに変化をもたらした、と推測している。さらに、学校が再開されると、そのままリアルでも登校する児童生徒がいる一方で、再度不登校状態になった児童生徒も見られた。
従来の不登校対策やこの時期の経験を踏まえて熊本市教育委員会が選んだのは、オンライン型支援の推進なのだ。
従来から熊本市では、不登校の児童生徒に対する支援を幅広く行うとともに、学校内外の公的な支援のみならず市内の民間のフリースクールまで、積極的に紹介してきた。そして、これらと併せて、学校外の、教育支援センターによる支援の一環として2021年9月に「体験」という形で導入されたのがオンライン型の支援である。
オンラインによる支援を行うにあたり、熊本市教育委員会では、すべての学校がオンライン対応するのではなく、教育支援センターとともに拠点校を指定し、そこから配信等を行う仕組みを整えた。
学力保証は専用ソフトを活用
そもそも、文部科学省の定義によると「不登校」とは児童生徒が30日以上欠席しているケースをいう。
つまり、1日も学校に来ないケースも、欠席日数が30日というケースも「不登校」というカテゴリーになる。そこで、熊本市教委が特に着目したのは学校をはじめとする支援とのつながりがないか希薄なケース。特に現実的にどこともつながりが持てていないかきわめてつながりが希薄な不登校児が課題になっていた。
時間割は、基本的に始まりのホームルームである「スタートタイム」に始まり、座学や体験型学習などの教育活動、さらに1日の終わりを「ジャーネタイム」というホームルームで締める、という流れになっている。
不登校児にとり、在宅ながら毎日スタートタイムに出席し、日中の活動を経てジャーネタイムに至るという日々の活動があることによる生活習慣の改善効果は、特に非常に保護者に好評である。
学習支援については、長期の不登校の児童生徒が多く、教科の単元ごとの座学がすっぽり抜けてしまっているケースも多々あるため、学習支援ソフト「すらら」による自習を採用、マイペースで教科学習を行う。すららの特徴は、先生の映像ではなく、アニメーション動画を採用したソフトだということである。対人関係が苦手でも、「人」を意識せずに科目の内容を学ぶことができ、好評だ。
現在、文部科学省は不登校の児童生徒について、学校復帰を必ずしも目指す必要はない、という考え方に基づいて、社会的自立と学力保証を目標に掲げている。学力向上の部分は切り出して別のサービスに接続する、という熊本市教委の考え方は非常に合理的だ。
体験学習動画、理科実験動画、バーチャル遠足など……盛りだくさんのコンテンツを盛り上げるのは情報科教員のOBたち
また、教育委員会の先生が作成した体験型学習動画や理科の実験動画などのほか、先生が地域の様々な現場に出向いてのバーチャル遠足「わくわく学習」も好評である。外部講師を招いての授業も充実しており、飽きさせない工夫が随所にちりばめられている。
そのフレームを考える際に活躍したのが情報科を担当する技術のバックグラウンドがある指導主事(教員出身の教育委員会職員)である。そして、配信で活躍している中心的な先生もやはり情報科の先生である。各拠点校にそれぞれ1人ずつスキルのある先生が中心となって活躍してくれている。そして、それを支えるのが情報科の教員出身の市が費用を出したICT支援員である。彼らも情報科の教員OBだ。
「次世代デジタル人材の育成にもつながる」と市長も積極的に応援
大西一史市長は「今まではコミュニケーションの形というものが決まっていた。学校は基本的に出席しなければダメ、会社も出席しなければダメ、コミュニケーションは対面で…。こういった事はもちろん否定されることではないが、顔を合わせなくてもできるコミュニケーションをこれからはもっと活用していく時代になるのではないか。そうなると、今までの価値観にとらわれない学びを、コミュニケーションスキルも含め、深めていく必要がある。」とこの事業の意義を一歩踏み込んで強調する。
大西市長は熊本震災の際にもSNSを駆使した情報発信を行い、震災時の市民生活を積極的にバックアップするなど、行政におけるSNS活用の名手として知られる。
現在、熊本市役所でもDXが積極的に推進されている。私がインタビューに行った際も、実は前後のアポには職員のリモートでの相談やレクチャーが入っていた。
「従来であればレクチャーのために市長の体が空くのを、行列になって廊下で待っているような状況があった。それがコロナ禍で直接の打ち合わせを極力減らしていこうという試行錯誤の中で今のスタイルになった。従来は打ち合わせ中に次の担当者が外で待ち、保健所からは半時間かけてきたりしていたわけだが、そのような無駄がなくなった。一方で、込み入った相談などはやはり、対面で行う方がいいものもあることもわかった。ただ、メタバースのシステムがより改善されれば、ますます対面の打ち合わせは減っていくだろう。デジタルネイティブでかつ、ツールを使い慣れた人材が次の時代を担っていくはずだ。」
「あくまでも社会的自立が目的」とクールな対応の教育長
一方、遠藤洋路教育長は若干慎重な姿勢も見せる。
「そもそも現在は対面の授業に出席すればそれがカウントされる、というのが基本だ。ところが、対面の授業が画像配信より身に付くかというと、そうとも限らない」。
今後の取り扱いについても「制度的なところは、基本的には現実先行という形になると思います。それが実際、学校に行って勉強するのと比べて、同等以上の価値があるとわかってくれば、それを出席にするという考え方も出てくる可能性もある。ただ、今のところやってみみないとわからないという状況です。」とややクールなとらえ方のようだ。
「学校に来られない子どもたちに何かアプローチをするための選択肢としてこの仕組みを導入しました。いわゆる不登校支援の中で、社会的自立というものを目標にしているのであって、そのためにメタバースが活用されるわけだ。あくまでもメタバース空間で生きていてほしいということまでは考えているわけではない。ただそういう環境で学んだことで、メタバース高ICTに詳しくなってそういう方向で就職をして活躍してくれることも出てくるかもしれない、つまり結果としてはそうなるかもしれないという話です。」
このコンビが先進的といわれる熊本の義務教育をけん引しているのだろう。
既に「フレンドリーオンライン」はメタバース版が始動している。ここで学んだ子どもたちがどのような成長を見せるのか、非常に楽しみである。
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