広がる中大規模木造建築。普及の課題はコスト

2022年11月5日、神奈川県川崎市の住宅展示場「川崎住宅公園」内にオープンした5階建て木造ビルのモデルハウス2022年11月5日、神奈川県川崎市の住宅展示場「川崎住宅公園」内にオープンした5階建て木造ビルのモデルハウス

近年、SDGs(持続可能な開発目標)の観点から木造が見直されており、技術の進化もあいまって大規模な木造建築が増えている。2022年11月には、川崎市の住宅展示場内に5階建ての木造ビルが誕生した。手がけたのは自由設計の木造注文を得意とする株式会社アキュラホーム。5階建てというと、同住宅展示場内ではひときわ背が高い。同社によればこの規模の木造ビルのモデルハウスは日本初だという。

今回発表されたモデルハウスのように、中大規模建築の木造化は近年の住宅不動産業界におけるトレンドの一つである。二酸化炭素の排出量が少なく、かつ二酸化炭素を吸収し固定化が見込める木材の活用促進は、カーボンニュートラルの実現に向け重要な取り組みだ。国内の豊富な森林資源の有効活用にもつながる。

これまでLIFULL HOME`S PRESSでも、三井ホーム株式会社の「MOCXION INAGI(モクシオン 稲城)」やライフデザイン・カバヤ株式会社の「CLT住宅」など、新しい木造建築の事例を取り上げてきた。不動産住宅ポータルサイトでは2021年末より、「木造アパート」とは別に「木造マンション」区分での広告掲載が可能となった。このように各社の研究開発や業界内の動きは進む一方、普及に向けた最大の課題はコストであった。
鉄骨造やRC造に比べ、中大規模木造建築は建築費用が割高になりやすい。環境負荷を軽減するSDGsの観点でのメリットがあったとしても、経済合理性がなければ市場へ広く普及していくのは難しい。

そのような中、アキュラホームが開発を進める木造ビルのキーワードは「低コスト」だという。中層ビルに求められる建物性能を満たしながら、市場原理に見合う木造ビルはどのようなものか。同社のモデルハウスの概要を見ていきたい。

住宅メーカーが手がける5階建て木造ビルの概要

同社の担当者いわく、このモデルハウスは"普及型"木造ビルのプロトタイプとして位置づけているという。

「当社は、脱炭素社会の実現のため全国の街並みに木造建築を普及させていく『Re:Treeプロジェクト』を推進しています。木造建築を広げていくために、一戸建て住宅事業と同じく『高品質』かつ『適正価格』がコンセプトです。今回発表したモデルハウスがその先駆けとなる存在で、ゆくゆくは従来のRC造にかかる建築費用の3分の2で建てられる木造ビルの実現を目指し、開発を進めています」

5階建て木造ビルは、日本の一戸建て住宅で最も普及している木造軸組工法で建てられている。直線的なデザインで、屋根は陸屋根、外観だけ見ればRC造にも見えるが、建物を支える構造材はすべて木質だ。建築地は首都圏の駅前のビルなどを想定し、1階は店舗、2~3階は賃貸オフィス・賃貸住宅、4~5階はオーナー住居として設計されている。

モデルハウスに足を踏み入れ、最初に感じたのがその空間の広さだ。各階の床面積は100平米前後。カフェスペースの長手方向約12mには柱がなく、木造とは思えない広々とした空間となっている。この体感を生み出しているのは、2022年グッドデザイン賞を受賞した同社の木造注文住宅「超空間の家」で用いられるオリジナル構法「剛木造」だ。大空間・大開口を実現するスケルトン&インフィル設計となっている。

1階のテナント空間、2~3階の賃貸オフィス、賃貸住宅部分で使われている内装材はRC造の建物と大きく変わらない。都心の街並みや暮らしにも自然に溶け込む外観と内装デザインであると感じられた。

柱が一切なく、広々とした打合せスペース(モデルハウス1階)。カフェ用途を想定しており、奥には水回り空間も柱が一切なく、広々とした打合せスペース(モデルハウス1階)。カフェ用途を想定しており、奥には水回り空間も
柱が一切なく、広々とした打合せスペース(モデルハウス1階)。カフェ用途を想定しており、奥には水回り空間もDINKs向けの住まいを想定した2階賃貸住居スぺース(1LDK 48.14平米)。木の質感が生かされたリビング空間

一方、木造ならではの特徴も生かされている。柱や壁の一部が現し(木の素地をそのまま生かした意匠)となっており、また耐力壁の一部には組子のデザインを用いたパネル材が使われている。組子の耐力壁は、日本の伝統的な文様と組子技術が生かされた構造材で、非常に強い壁材ながら木の温かみを感じることができる。組子の耐力壁は、意匠面・構造面で2つの役割を担っているのだ。

この組子の耐力壁が各階にシンボルのように配置されている。そして4~5階のオーナー住居スペースの内装は、下の階と比べると柱、壁材、天井材にふんだんに木質建材が使われていた。階段を上がると、「木のいい香りがする」と同席していた関係者全員が同じ感想を漏らすほど。リビングダイニングスペースには、階段部分の吹き抜けと、12mスパンの大空間が広がり、大開口の窓からの景色も相まって開放感がある。5階の木造のバルコニーから、周囲にある鉄骨造の建物を見下ろすという体験は、新鮮なものだった。

柱が一切なく、広々とした打合せスペース(モデルハウス1階)。カフェ用途を想定しており、奥には水回り空間も印象的な組子の耐力壁。耐震性に優れ、壁倍率は30倍相当。壁の強さを表す壁倍率は、数値が高いほど性能が高い。一般的な木造軸組工法の耐力壁の壁倍率は1~5倍ほどなので、組子の耐力壁はその何倍もの強さを持つということになる
柱が一切なく、広々とした打合せスペース(モデルハウス1階)。カフェ用途を想定しており、奥には水回り空間も5階、オーナーの自宅部分。木の香りが漂うリビングダイニングキッチンで、木の現し部分には国産のヒノキ材が使われている。建材の地産地消を増やしていきたいとのこと

RC造と同程度のコストで実現した木造ビル。将来的には3分の2を目指す

階段部分にも組子の耐力壁が配置されている。通風性・採光性に優れ、自然光や木の温もりを感じる階段を演出している階段部分にも組子の耐力壁が配置されている。通風性・採光性に優れ、自然光や木の温もりを感じる階段を演出している

木造建築の建築費は同規模のRC造の建物に比べると割高になりやすい。一方、今回の木造5階建てモデルハウスの建築費は、同規模のRC造と同程度だという。担当者いわく、「現状は試験段階なので、この規模のビル建設を今すぐに複数請け負うことは施工体制的に難しいですが、事例を重ねていくことでコストの軽減につなげられる想定です」とのことだ。

コストを抑えるポイントは、使用する建材と、その生産・施工体制にある。

「当社が注文住宅事業の中で長年培ってきた住宅用木材のプレカット技術と生産体制が、コストを抑える大きなポイントです。新しい加工材や現場での特殊な技術を必要とせず、一般大工工事で対応できるため、コストを抑えてこのような木造ビルの建築を実現できています」

複雑な形状の組子耐力壁も工場でパネル材として製造され、完成した状態で現場に届く。施工安定性が高く、施工手間も軽減できる。また、RC造の建物よりも躯体の重量が軽くなるので、地盤改良工事にかかるコストも軽減が見込まれる。

価格と性能、ユーザーのメリット。経済合理性のある木造ビルとは

キーワードがコストダウンといっても、建物性能は市場やユーザーが求める以上の水準を目指している。今回のモデルハウスは、建築基準法上の耐火構造。火災が起きても構造躯体に火が及ばないよう、壁の下地材となる石こうボードを重ね張りするなど基準を満たすための必要な処置が施されている。1階は2時間耐火、2階から5階は1時間耐火で設計されている。

また、同社はこのモデルハウスの開発にあたり、安全性・実用性の実証のため、世界初となる5階建て木造ビル実物大での耐震実験を行った。建築確認の基準となる地震波と、さらにそれを上回る震度7クラスの地震波でも検証を行い、その安全性を示す実証データを取得しているという。

首都直下型地震を想定した加振実験中の様子(提供:アキュラホーム株式会社)首都直下型地震を想定した加振実験中の様子(提供:アキュラホーム株式会社)

また外皮は外張り断熱になっており、断熱等級4相当、耐震等級は3を超えている仕様だ。

国が定める性能基準を満たし、全建設工程で排出されるCO2量も従来の建物の2分の1程度、かつ建築コストがRC造の建物と同等かそれ以下であれば、今後の中層建築物において木造は選択肢の一つになっていくだろう。また、木そのものが断熱性・調湿作用も持つ建材である。賃貸物件として検討する場合、木がもたらす空間の快適性はオーナー、入居者にとってプラスの要素となるだろう。

首都直下型地震を想定した加振実験中の様子(提供:アキュラホーム株式会社)木の持つ素材の美しさが引き立つ組子耐力壁。木材は、断熱性が高く調湿作用があり、衝撃に対する安全性が高い、健康に良い影響を及ぼすなど、人に心地よい感覚を与える素材とする林野庁の調査データもある

「都市の木質化」は進むのか。今後の課題は設計・施工対応力

自然光が差し込み、視覚的にもやわらかい印象を受けるオーナー住居の吹き抜け空間。環境にも人にも優しい木造建築は今後も広がっていくだろう自然光が差し込み、視覚的にもやわらかい印象を受けるオーナー住居の吹き抜け空間。環境にも人にも優しい木造建築は今後も広がっていくだろう

同社が進める「都市の木質化」のターゲットは全国だが、先駆けて展開していくのは関東圏だ。今回発表したモデルハウスに続き、2023年春から錦糸町・埼玉・千葉など各エリアに同規模のモデルハウスを、2024年には埼玉県さいたま市に木造8階建ての新社屋をそれぞれ建築予定だという。
多くのユーザーにとって中大規模木造建築はまだなじみが薄いかもしれないが、こうした施工実績の積み重ねによって、ユーザーの木造建築に対する認知の拡大、ひいては建築にかかるコストダウンの実現にもつながっていくだろう。

今後に向けての課題と展望を担当者にうかがった。

「2050年のカーボンニュートラル実現に向け、CO2排出量を抑制し、またCO2を建物に固定できる木造建築は今後も注目が高まっていくでしょう。とはいえ木造建築を都市に広めていくには、まだまだ課題も多いのが実情です。コストもそうですし、一定以上の木造建築を設計できる設計士が不足しています。一般大工工事で対応できるとはいえ、施工体制を全国で整えていくには当社も時間を要するでしょう。まずは関東からモデル事例を増やしながら研究開発を続け、普及価格帯の木造ビルを実現させていきたいと思います」

今後も業界全体で経済合理性に見合う木造建築のあり方が模索されていくだろう。LIFULL HOME`S PRESSでは、脱炭素社会の実現に向けた各社の歩みをこれからも追っていきたい。

■取材協力:アキュラホーム株式会社
https://www.aqura.co.jp/