当初はブルース・ウィリスでなく、別のスターにオファー
今ではクリスマスに見る最上のアクション映画ともいわれる「ダイ・ハード」(1988年公開)。“クリスマスに銃撃戦”“共感型の中年ヒーロー”という従来の常識を打ち破ったこの映画は、建築的な視点で見ても、従来のビル脱出モノとは一線を画する作品である。
2022年3月、俳優のブルース・ウィリスが失語症により一線を退くというニュースが、世界中の映画ファンに衝撃を与えた。ブルース・ウィリスは1955年、西ドイツの米軍基地で生まれ、すぐにアメリカへ移住。高校で演劇にめざめ、ニューヨークでオフ・ブロードウェイの舞台を経験。バーテンダーなどの仕事をしながら俳優としてのキャリアアップを目指した。1985年にスタートしたテレビシリーズ「こちらブルームーン探偵社」でお調子者の探偵役に抜てきされ、人気を得た後、1988年、この「ダイ・ハード」の主人公、ジョン・マクレーン役で大ブレイクする。
有名な話だが、この映画の主演は当初、別の役者が想定されていた。既にトップスターであったアーノルド・シュワルツェネッガーやシルヴェスター・スタローンにオファーされたが、彼らが断ったため、ブルースにこの役が回ってきたのだ。結果的には、「私生活や職場で問題を抱える刑事」という人間臭い役柄がブルースにぴったりはまっていた。
序盤の薄汚れたタンクトップ姿はいかにも冴えない中年という感じだ。その冴えない中年が、やられてもやられてもあきらめずに、人質(妻を含む)の救出に挑む。「なんで俺がこんな目に……」「神さま、二度と高い所には登りません」などとぼやきながら。
もし主役がシュワルツェネッガーやスタローンだったら、非現実的なムキムキヒーローに見えて、共感が湧かなかっただろう。「ダイ・ハード(Die Hard)」は、日本語にすれば「なかなか死なない」。なんかゴキブリみたいだ。シュワルツェネッガーやスタローンだったら、「Never Die(決して死なない)」か「Immortal(不死身)」だったのではないか。
ロケ地は実在する「フォックス・プラザ」
物語の舞台はクリスマスイブのロサンゼルス。ナカトミ商事が建設している「完成間近」の超高層ビル「ナカトミ・プラザ」だ。
ニューヨーク市警のジョン・マクレーン(ブルース・ウィリス)は、ナカトミ商事に単身赴任で勤務している妻ホリーを訪ねて、やってきた。この日は、ビルの高層階でクリスマスパーティーが行われる。しかし、ナカトミ商事で業績を上げて出世するホリーと、現場の刑事であるジョンの関係は少しぎくしゃくしていた。
ビルのエントランスに2人の男が現れ、受付に1人しかいない社員を射殺。後からトラックに乗った武装集団が現れ、彼らは瞬く間にビルを占拠してしまう。たまたま別室にいたジョンを除いて、全員が人質となる。
犯人グループのリーダーはハンス。ハンスはテロリストを装うが、本当の狙いは、ビルの金庫室に保管されている債券だった。ジョンはビル内の裏のスペースに巧みに身を隠しながら、犯行グループを1人、また1人と倒していく。しかし、ハンスは少なくなったメンバーで金庫室に到達。さて、どうなる……という話だ。
舞台となる「ナカトミ・プラザ」のシーンのほとんどは、撮影スタジオではなく、実在する「フォックス・プラザ」で撮影された。地上35階、1987年完成(映画公開の1年前)。映画好きならピンと来るだろう。映画を制作した「20世紀フォックス」の本社ビルだ。だから、機械室や屋上、地下駐車場などの裏側部分も、ウソっぽさがない。それだけに、救出劇にもファンタジーは許されない。
「完成間近」と「機関銃」で設定の違和感を解消
この映画は、2つの設定によって、あらゆる状況を「あり」にしてしまっている。それがうまい。
1つは「完成間近」の超高層ビルという設定。まだ完成していないので、警備が薄い。犯人グループが侵入しても、どこにも通報されず、彼らがシステムを遮断すると、外部から完全に情報隔離された状態となってしまう。そのほかにも、普通のビルなら「それはないでしょ」と突っ込みたくなる状況が「完成間近」ということで、「まあ、そうか」と思えてしまう。
もう1つは、「機関銃」。ジョンは序盤で犯行グループの1人目を倒し、彼が持っていた機関銃を手にいれる。これは、敵を倒すという以上に、「扉を開ける」という重要な役割を果たす。1つはエレベーターだ。ジョンはしばしばエレベーターシャフトに出て、上下階を移動する。いちいち階段を使っていたら、映画にスピード感が出ないからだろう。シャフト内に入るとき、ジョンはエレベーターの出入り口の扉や天井の点検口を機関銃で撃ちまくる。銃身の長い機関銃は、ときにツルハシのような役目も果たす。もし素手だったら、「そんなに簡単に開くわけがない」と突っ込みたくなるはずだ。
ガラスを破るシーンも「よく分かってる!」
ネタばれになるが、ラストシーン近くで屋外からガラスを打ち破って屋内に入るシーンも、銃があってこその状況だ。超高層ビルで一般的に使われている倍強度ガラスは、人間がぶつかったくらいでは割れ落ちない。だから、ジョンがガラスにぶつかる直前にピストルを打つあのシーンは、「よく分かっているなあ」と感心した。
瞬時にああいった行動が取れるジョンは、刑事になる前に、建設現場で働いていたのかもしれない。いかにも建設現場が似合いそうで、そういうスピンオフムービーをつくりたくなる……。などといったことは、シュワルツェネッガーやスタローンだったら思いもしなかっただろう。ブルース・ウィリスのいい映画はたくさんあるが、私はやはりダイ・ハードを代表作に推したい。
■■「ダイ・ハード」
アメリカ公開は1988年7月、日本公開は1989年2月。131分
監督:ジョン・マクティアナン
キャスト:ブルース・ウィリス、アラン・リックマン、ボニー・ベデリア、アレクサンダー・ゴドノフ
配給:20世紀フォックス





