長周期地震動とは
長周期地震動とは、巨大な地震が発生した際、揺れが1往復するのにかかる時間が長い地震動のことを指す。具体的には、高層ビルの上階で大きく長く感じる揺れのことを長周期地震動という。建物には固有の揺れやすい周期(固有周期)があり、固有周期は低層建築物よりも高層建築物の方が長い。
固有周期の長い高層建築物は、長周期の波と共振しやすく、高層ビルの方が長時間にわたって大きく揺れる傾向がある。また、同じビルであっても高層階の方が低層階よりも揺れは大きい。長周期地震動は、「高いビルを長時間にわたって大きく揺らし」、「遠くまで伝わりやすい」という性質がある。
例えば、2011年に発生した東日本大震災では、震源から約700km離れた大阪市の高層ビルで長周期地震動が発生し、内装材や防火扉の破損や、エレベーター停止による閉じ込め事故等が発生している。長周期地震動は震度では測れないため、「階級」という指標でレベルが表現される。地震の指標には、震度やマグニチュードといった指標もある。震度とはある場所での地震による「揺れの強さ」を表すものであり、マグニチュードとは「地震そのものの規模」を表す。
一方で、階級は固有周期が1~2秒から7~8秒程度の揺れが生じる「高層ビル内における揺れの大きさ」を表す指標である。階級は、地震時の人の行動の困難さの程度や、家具や什器の移動・転倒などの被害の程度から4段階に区分されている。
長周期地震動の階級
4つの長周期地震動の階級を示すと、以下の通りである。
階級1:やや大きな揺れ
体感としては、室内にいたほとんどの人が揺れを感じ、驚く人もいる。室内の状況は、ブラインドなど吊り下げものが大きく揺れる。
階級2:大きな揺れ
体感としては、室内で大きな揺れを感じ、物につかまりたいと感じ、物につかまらないと歩くことが難しいなど、行動に支障を感じる。室内の状況は、キャスター付き什器がわずかに動き、棚にある食器類、書棚の本が落ちることがある。
階級3:非常に大きな揺れ
体感としては、立っていることが困難になる。室内の状況は、キャスター付き什器が大きく動き、固定していない家具が移動することもあり、不安定なものは倒れることがある。
階級4:極めて大きな揺れ
体感としては、立っていることができず、はわないと動くことができず、揺れにほんろうされる。室内の状況は、キャスター付き什器が大きく動き、転倒するものがあり、固定していない家具の大半が移動し、倒れるものもある。
2011年の東日本大震災における大阪市で発生した長周期地震動では、大阪市の地上の「震度」は3であったが、長周期地震動の「階級」は3であったとされる。
政府インターネットテレビ「震源から遠くの高層ビルでも被害!? 長周期地震動」
https://nettv.gov-online.go.jp/prg/prg17162.html
気象庁によると、震度3は「体感として屋内にいる人のほとんどが揺れを感じ、歩いている人の中には揺れを感じる人もおり、眠っている人の大半が目を覚ます。」、「室内の状況は棚にある食器類が音を立てることがある。」と定義されている。階級3の室内の状況は「キャスター付き什器が大きく動き、固定していない家具が移動することもあり、不安定なものは倒れることがある」とされており、震度3の室内の状況とはかなり異なることがわかる。
よって、東日本大震災では、大阪で高層ビルにいた人は、知らされた震度以上に大きな揺れを感じた人は多かったと思われる。一方で、東京では東日本大震災で震度が5強、長周期地震動が3の地震が生じている。震度5強は「体感として大半の人が、物につかまらないと歩くことが難しいなど、行動に支障を感じる」、「室内の状況は棚にある食器類や書棚の本で落ちるものが多く、テレビが台から落ちることもあり、固定していない家具が倒れることがある」と定義されている。
震度と階級は必ずしも一致するものではないが、震度5強と長周期地震動3はかなり似通った状況にある。よって、東京では地上にいた人も高層ビルにいた人も同様に大きな揺れを感じた人が多かったものと思われる。
長周期地震動の特徴3つ
長周期地震動には、「地震の特性」と「伝播経路」、「地盤の特性」の3つに特徴がある。
地震の特性
地震の特性としては、長周期地震動はマグニチュードが大きい地震ほど長い周期の揺れが大きくなるという性質がある。また、震源が浅いほど長周期地震動の主成分である表面波が大きくなる。つまり、長周期地震動は、マグニチュードが大きく、震源が浅い地震ほど発生しやすいことになる。
伝播経路
伝播経路としては、遠くに伝わりやすいという特徴がある。東日本大震災では、東京の方が大阪よりも震源地に近かったが、震度に関しては東京の方が強く、長周期地震動の階級に関しては東京も大阪も同じ値であった。
地盤の特性
地盤の特性としては、長周期の波は堆積層で増幅されるという特徴がある。堆積層とは、砂や火山噴出物が堆積してできた柔らかい地層のことである。関東平野などの大規模な平野や盆地は堆積層で覆われており、長周期地震動の影響を受けやすくなっている。
長周期地震動による被害
長周期地震動は、2003年9月に発生した十勝沖地震(マグニチュード8.0最大震度6弱)をきっかけに認知度が上がったとされている。十勝沖地震では、震源から約250km離れた苫小牧市で長周期地震動が発生している。
苫小牧市にあった石油コンビナートでは、石油タンク内の石油が揺動するスロッシング現象と呼ばれるものが発生し、浮き屋根が大きく揺動した。その結果、石油タンクの浮き屋根が沈没し、地震から2日後に静電気によって火災が発生するという被害が生じている。
また、前述したように東日本大震災(マグニチュード9.0最大震度7)では、震源から約700km離れた大阪市の高層ビルでエレベーター停止による閉じ込め事故、内装材や防火扉が破損するなどの被害が発生している。
今後の緊急地震速報の運用開始日
気象庁では、今後、緊急地震速報で長周期地震動に関する予測情報も知らせる予定だ。長周期地震動の緊急地震速報の運用開始日は以下の通りである。
運用開始日:2023年2月1日
長周期地震動の通知には発表基準が定められており、以下の条件を満たした場合に通知がなされる。
発表基準:震度5弱以上を予想した場合または長周期地震動階級3以上を予想した場合
対象地域:震度4以上を予想した地域または長周期地震動階級3以上を予想した場合
例えば、東日本大震災のケースでは、大阪市は震度3であったため、従来の緊急地震速報では通知の対象から外れてしまう。しかしながら、大阪市の長周期地震動階級は3であったことから、今後の緊急地震速報では今度同様のケースが起こった場合、大阪市も緊急地震速報の対象地域に加わることとなる。伝え方に関しては、今後も従来の緊急地震速報発表と流れは変わらず、区別せずに伝えられる。
予報精度に関しては、気象庁は「±1階級程度の誤差はある」としている。気象庁は2017年から2020年にかけて長周期地震動の予測情報に関する実証実験を積んできており、一定の成果を出している。予測結果と観測結果は「長周期地震動に関する情報検討会」において検証されており、±1階級の範囲に収まったものが9割程度という結果となっている。
気象庁 長周期地震動に対応した防災気象情報の強化について
https://www.jma.go.jp/jma/press/2210/26b/20221026_lpgm_start.html
長周期地震動の通知を受けたときの行動は?
また、気象庁では緊急地震速報で長周期地震動の通知を受けた際、取るべき行動は従来の緊急地震速報と「同じ」としている。緊急地震速報を受けた後の取るべき行動とは、「短い間に身を守るための行動」ということになる。
具体的には、「頭を保護し、丈夫な机の下など安全な場所に避難する」、「あわてて外に飛び出さない」等が挙げられる。ビル内にいるときは、揺れが終わるまで家具類や照明機器等が「落ちてこない」、「倒れてこない」、「移動してこない」空間に身を寄せることも取るべき行動となっている。エレベーターに乗っているときは、「最寄りの階で停止させて、すぐに降りる」ということが必要となる。長周期地震動では、エレベーター停止による閉じ込め事故もあるため、エレベーター内の瞬時の判断は重要となりそうだ。
さらに、長周期地震動の普段からの対策に関しても、通常の地震と同じである。家具類は固定し、万が一倒れた場合に備えて配置にも気を付けておくことが長周期地震動への備えとなる。
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