9項目で考える安全な宅地選び

地震や台風等で斜面、擁壁が崩壊、土石流が発生して住宅が被害を受けたり、地震による液状化、その他の要因による不同沈下で住宅が傾いたりと宅地地盤に関する事故、災害が相次いでいる。だが、宅地の地盤は日常的に意識する場所ではないからだろう、不安があっても誰に相談すればよいのか、どんな対策を打てばよいのかが分からない人も少なくないのではないかと思う。

そんなときの相談先として地盤品質判定士という専門家がいる。その一般社団法人地盤品質判定士会が宅地地盤に関する地盤品質セミナーを開催した。その中から家を買う人、借りる人が知っておきたい内容をピックアップしてお伝えしよう。

まずは安全な宅地選びについて。国士舘大学理工学部の橋本隆雄教授によるとリスクの把握のためには知っておきたい、調べておきたいのは以下の9項目。

宅地選びで確認しておきたい9項目

① 地形

② 地域の植生

③ 地名から考える地盤の確認

④ 不同沈下・液状化が生じる軟弱地盤の可能性

⑤ 災害履歴およびハザードマップ

⑥ 不同沈下・滑動が生じる盛土地盤

⑦ 土砂災害・崩壊がある崖・急斜面

⑧ 既存擁壁の変状

⑨ 地盤調査による把握

当日のセミナーで使用された資料をお借りした。地形の全体像を知るためには分かりやすい(写真以外は以下すべて)当日のセミナーで使用された資料をお借りした。地形の全体像を知るためには分かりやすい(写真以外は以下すべて)
当日のセミナーで使用された資料をお借りした。地形の全体像を知るためには分かりやすい(写真以外は以下すべて)こちらは植生について。水辺に生える植物を見たら、低地なのである
水辺に生える植物の代表例、葦。それ以外にも水辺に生える植物を覚えておきたい水辺に生える植物の代表例、葦。それ以外にも水辺に生える植物を覚えておきたい

順に見ていこう。①の地形に関しては山地・丘陵地、崖錐、台地、扇状地や旧河道、谷底低地、後背湿地と12種類ほどあり、台地や自然堤防のようにおおむね安定、良好な地形もあるものの、多くはなにかしらの不安要因を抱えており、「絶対」に安全という場所はそれほど多くはない。台地や自然堤防でも立地によっては懸念もあるほどで、絶対にこだわって安全な場所を探すより、どこが弱いかを知って、それに備えた家作り、暮らし方を考えるほうが現実的というわけである。

次に②地域の植生について。竹林は絶えず豊富に地下水が供給されている柔らかい土質、集水しやすい沼沢地に多いそうで、竹林を背後に控えた低地側の宅地に繁茂するアシ、マコモ、ガマやコケ類も湿潤な軟弱地を好む植物。逆にススキ、ハマヒルガオなどは砂地などの乾燥地を好むそうだ。

③は地名から考える地盤の確認。地名では池や沼など低湿地を示す地名、芹田、芦原、小菅など湿性植物にちなむ地名、小泉、清水、井戸など湧き水地点を示す地名、笹塚新田、古川新田など新開地を示す地名、押切、袋、大曲など氾濫を示す地名、中之島、堂島、綱島など自然堤防や中州を示す地名には注意が必要。ただし、住居表示の変更でもともとはごく限られた地域を指していた地名が拡大、広大な地域に同一の地名が付けられていることや、転訛(埋めが梅になるなど、同じ音に違う字が充てられること。元の意味が分からなくなる)もあるため、用心が必要である。

当日のセミナーで使用された資料をお借りした。地形の全体像を知るためには分かりやすい(写真以外は以下すべて)地名が危険を教えてくれることは近年知られるようになった。ただし、かつてはごく狭い地域を指していた地名が広いエリアを指すことになっている例もあり、全部危険と思うのも選択肢を狭めることになる

過去の地盤被害の履歴はネットで閲覧可能

田んぼを表す記号を見たら注意しよう田んぼを表す記号を見たら注意しよう

④不同沈下・液状化は軟弱地盤で発生する。具体的には
・地形図では等高線がほとんどないか、粗くなっている
・付近の河川、湖、海などの水面と標高がほとんど同じである
・水田、低湿地などになっている

の場合には注意したい。逆に地図記号で茶畑、桑畑、果園になっている場所の地盤は堅固といえる。

⑤地盤被害の履歴及びハザードマップについてはインターネットで容易に閲覧できるようになっている。被災履歴、土砂災害警戒区域など法令に基づいて危険が予測され、制限がある地域については地方公共団体が管理していることが多いので、自治体のホームページを調べてみよう。ハザードマップは国土交通省のハザードマップポータルサイトが便利。同じく広域的な地盤調査の結果を知るためには国土地盤情報検索サイト、土地の造成履歴は地図・空中写真閲覧サービスで見ることができる。土地がどのように改変されてきたかは過去の地図と現在の地図を比べることでも分かり、そのためには過去に記事で紹介した「今昔マップon the web」が有効だ。

⑥不同沈下・滑動が生じる盛土地盤かどうかについては過去の造成状況を調べること。⑦と⑧の既存住宅地擁壁の変状については後述するが、確認すべきポイントは国土交通省が示している。

田んぼを表す記号を見たら注意しよう今昔マップon the web。現代を昔の地図を並べて見ることができ、土地の改変などを知ることができる

そして最後は⑨地盤調査。ただ、これも「絶対」ではない。以下に紹介するが、今回のセミナーでは住宅の不同沈下について2人の専門家が実際の沈下事例や対策などについて講演したのだが、一戸建て建設前に行われる簡易なSWS調査(スクリューウエイト貫入試験)では宅地下の地盤のすべてを知ることは難しい。同調査は土地の支持力のみを調べるもので、土質、水位その他、不同沈下に関わる要素を調べるものではないためだからだ。

一戸建てはマンションなどの集合住宅、オフィスビルなどに比べるとごく小さな敷地に軽い建物を建設する。そのため、マンション、オフィス並みのボーリング調査をしようとすると調査費用が過大になる。不同沈下は地盤のバランスによるものだが、ボーリング調査でも調査測点が少ないためにそこまでは見抜けないことが多く、その他試験も規模の小さな土地では試験の精度を超えている。

また、建物を建てる話だからと建築士に相談しても、関連分野ではあるものの、彼らの職能は建築。地盤ではない。そう考えると、経験を積んだ地盤のプロに依頼、状況を判断してもらうのがもっともてっとり早い。どの程度の対策を打つかはその人次第だが、まずは専門家に頼ろう。

不同沈下は良質地盤で起きる!?

続いては不同沈下について。日本住宅保証検査機構の大和眞一氏によると不同沈下と聞くと低地の軟弱地盤(沖積層)で起きるものという印象があるが、実は2006年までの不同沈下事故は洪積層、つまり台地で起こっているという。なぜか。過去の地盤沈下によって軟弱地盤である沖積層が圧密され、強い土地になったからだ。

東京では産業の勃興に伴い、明治以降地下水のくみ上げが始まり、大正時代には沈下が計測されるようになった。沈下は戦後も継続、ひどいところでは5mほども沈下したのだが、1965(昭和40)年に地下水くみ上げが規制されるようになり、1975(昭和50)年頃にはようやく沈下がストップ。そして現在に至るのだが、地下水の水位は昔のレベルまで回復しており、それによって軟弱地盤は圧密沈下し、固くなったのである。

高さのある擁壁は外に対しても、中に立っている建物に対しても危険をはらんでいる高さのある擁壁は外に対しても、中に立っている建物に対しても危険をはらんでいる

では不同沈下はどこで起きているのか。台地上では2つのパターンがある。ひとつは傾斜地。盛土、切土をして平坦な土地を作り、盛土部分に擁壁を作って家を建てた場合に家が盛土側に傾くというもので、擁壁の高さが高いほど傾きが大きくなる。

「擁壁の高さが2mを超えると地盤調査に関係なく、不同沈下する可能性が高くなるため、杭を打ったほうがよいですね」と、大和氏。

もうひとつは台地の谷地形の底、地下に泥炭、腐植土といった層がある場合。スコットランドではピートと呼ばれる層で、スコッチウィスキーの香りづけには必須だが、住宅地盤としては最低という。というのは含水率が高く、その上に家が乗ると層が圧縮されて沈下するため。寒冷地に多く、日本では北海道、東北、関東から名古屋あたりまでに分布。西日本ではあまり見られない。首都圏では埼玉県の大宮台地、神奈川県の下末吉台地の谷底低地に分布しており、注意が必要だ。

首都圏の沖積層は過去の地盤沈下のおかげで強い土地になったが、それ以外の沖積層では隣地で盛土が行われる、既存建物より重い建物が建つなどすると、それに引き込まれるように不同沈下が起きることがある。盛土、重い建物によってその直下の土地が沈下、既存建物がその方向に沈んでしまうのである。

地盤改良しても不同沈下した例に学ぶ、危険な場所

盛土工事の現場。急傾斜のように目で見て分かるもの以外に、こうした浅い窪地を埋めるような盛土もあるのでご用心盛土工事の現場。急傾斜のように目で見て分かるもの以外に、こうした浅い窪地を埋めるような盛土もあるのでご用心

では、不同沈下を防ぐためにはどうすればよいか。ジャパンホームシールド株式会社の内山雅紀氏によると前述したように一戸建て建設前のSWS検査だけでは不同沈下の危険は見抜けず、ボーリング調査でも見抜けるか、微妙だという。ただ、いくつか、手はある。

ひとつは盛土情報を知ること。盛土された土地では水浸沈下(降雨で転圧不足の盛土が水を含んで収縮して沈下)、未圧密地盤の沈下(軟弱層に重い盛土が乗ったため、軟弱層が含んでいた水を排水、それによって沈下)という厄介な沈下が起きることがある。だが、盛土の有無、いつ盛土されたかを知ることである程度は予測がつけられるというのだ。

もうひとつは地形、既往地盤情報、既存構造物の変状、地歴、造成情報などのロケーション情報を把握、総合的に判断すること。これについては冒頭の橋本教授の話ともだぶるが、その土地を知ることが何よりの防御になるのだ。

水田を住宅にすることはよくあるが、きちんと地盤に配慮した計画となっているかどうかが大事水田を住宅にすることはよくあるが、きちんと地盤に配慮した計画となっているかどうかが大事

個人的には内山氏が解説した、地盤改良をしたにもかかわらず、不同沈下した事例が反面教師として役に立つのではないかと思った。内山氏が紹介した事例は4例。そのうち、3例は新規に盛土をした水田で、もう1例は山地・砂丘に囲まれた低地で起きている。つまり、周囲から見て底にあたるような低い、湿地では慎重な地盤改良が必要であるということではないかと思うのである。

それ以外でいくつか、キーワードと思われるのは「近隣ボーリングより含水比が高い」「有機質土が厚く堆積している」「盛土下に軟弱土層が存在する」など。もちろん、ひとつの単語だけに過剰に反応、素人判断することは戒めたいが、こうした条件の重なる低地では専門家の意見をよく聞き、必要な調査、対策を打つ必要があるだろう。

既存不適格擁壁、劣化した擁壁にどう対するか

ガンタ積みと呼ばれる、廃材を利用して作られた擁壁。古い街では時々見かけるガンタ積みと呼ばれる、廃材を利用して作られた擁壁。古い街では時々見かける

続いては擁壁について。擁壁とは高低差のある土地で、安息角(土を積み上げたときに崩れない、安定した最大角度のこと。一般的には35度前後、富士山をイメージすると分かりやすい)を超える斜面の土が崩れるのを防ぐために設置される壁状の構造物のこと。簡単に言えば擁壁は建物が建つ地盤の崩壊を防ぎ、結果として建物を守るものということである。

当然、適切に施工され、維持管理されるのが理想だが、現実にはさまざまな問題があると発表者である株式会社URリンケージの西村真二氏。

まず、最初に取り上げられたのは宅地擁壁を点検するための指標として代表的な「宅地擁壁老朽化判定マニュアル(案)」(以下マニュアル)。対象となっている擁壁には3種類ある。しかも、驚くことにそのうちの2種類は既存不適格擁壁だという。

それがコンクリートブロック積み(塀などに使用される建築ブロックを指す)、ガンタ積み擁壁、空石・野面石・玉石積み擁壁(表面保護を主で、擁壁構造体としての機能がない擁壁)、増積み擁壁、二段擁壁、張り出し床板付き擁壁(構造耐力上に問題がある擁壁)。

ガンタ積みとはコンクリートや煉瓦などの廃材を積んだもので、空石・野面石・玉石積みは表面だけを石で覆ったもの。増し積みは擁壁の上にさらに擁壁を作ったもので、二段擁壁は階段状に擁壁のすぐ背後にもうひとつの擁壁を積んだもの。張り出し床板付きは擁壁の上に床を架けたものである。いずれも街を歩けば見かけるもので、特に歴史のある住宅街ほどこうした擁壁が多い。危険があり得るのにそのまま放置されているわけで、それが一つ目の問題点といえる。

ガンタ積みと呼ばれる、廃材を利用して作られた擁壁。古い街では時々見かけるこちらは何段にも詰まれた擁壁。ひびが入っているのが見える

逆に宅地造成等規制法などに合致した擁壁は練石積み・間知ブロック積み擁壁、重力式擁壁、プレキャストを含む鉄筋コンクリート擁壁の主に3種類。ただ、適法な擁壁でも施工が悪かったり、劣化が進むなどで危険が増すこともある。また、古くなればなるほど劣化が進むのは擁壁も同じで、地震などで劣化による変状が進むこともある。

判定は目視に基づく点数法でおこななわれることになっており、ここにも2つの問題がある。ひとつは複数の項目から劣化を判断するにもかかわらず、最終的に評点として採用されるのは最も悪い評点のみとされていること。複数問題があるなら、それを加算したほうが現実を反映するのではないかと思うが、現実はそうなっていないのである。

ガンタ積みと呼ばれる、廃材を利用して作られた擁壁。古い街では時々見かける石の劣化が進んでいる上に排水溝を塞いでおり、状況はよろしくない

危険が発覚しても何をどうすべきか、現時点では指針がない

過去に見たうちで、最も恐怖を覚えた擁壁。ここを歩いているときに地震が起きたらどうなることか過去に見たうちで、最も恐怖を覚えた擁壁。ここを歩いているときに地震が起きたらどうなることか

もうひとつはもっと大きな問題だ。危険度は大中小の3段階で示されているのだが、危険度が大きいと評価されても、それに対して何をすべきかが示されていないのである。危険だといわれるだけで、いつ、何をどうすべきかが分からないのだ。現状で既存不適格な擁壁が多数放置されている現実を考えると、このままの状態で、それらが適切に改善されるとは思えない。国土交通省による早々な対策が望まれるところである。

ちなみに危険な擁壁を知っておくことは家を建てる、買う以外に災害時にも役に立つ。地震時、豪雨時にはこうした擁壁に近寄らないようにすることで身を守れる。知っておいて損はないのである。

では、擁壁や崖はどのような状態のときに崩壊するのか。株式会社カナコンの高橋一紀氏は4つの要因を挙げる。強風、降雨、地震動、経年劣化である。たとえば2019年の台風15号では鎌倉市内の北から北東向き斜面で斜面林の浮上、滑落が表層崩壊、道路閉塞などを引き起こしているが、これは強風によるもの。風速が最大になったタイミングで複数地点で同じ向きの斜面が崩壊しているという。

いずれの要因も発生そのものは防げないが、それが崩壊に至らないような対策は打てる。高橋氏は住宅地のような狭隘地でも可能な工法が開発されてきていることなども含め、さまざまな工法を例示。中にはネットやアンカー、パイプを使うような比較的短期、安価にできそうなものもあり、技術の進化を実感した。

コストと生命のバランスをどう考えるか

最後に安全とコストについて東京大学名誉教授の東畑郁生氏のレクチャーを紹介しよう。東畑氏は近年、豪雨災害が激甚化していると言われていることに対し、データからそれは逆だという。たとえば豪雨による床下床上浸水の家屋被害棟数で見ると1950~1970年代のほうが遥かに多く、2010年代には長期に渡る防災努力の結果、激減といってもよい状態になっている。

水害関係の死者数を調べてみると、確かに昭和の三大台風といわれる室戸台風で死者・行方不明者3千人超、カスリーン台風で2千人近く、伊勢湾台風で5千人以上となっており、2018年の西日本豪雨は220人以上。もちろん、それでも大きな被害だが、昔に比べると明らかに数値的には大きく減少している。そうしたことから、東畑氏は「今の人には災害実体験がなく、正しく心配できていない」と指摘する。

具体的には他の危険と比較して合理的な判断ができていない、適切な費用を投じずに心配だけを口にするなどの行為で、レクチャーではそもそも安全ではない場所、過去に災害が起きた場所に居住して被災した例、住民がわずかな瑕疵も認めず、適切な対策を打てなかった例、全域を危険と判定、詳細の調査を行わない自治体の例などが挙げられた。

「本当にどこまで災害を軽減したいと思っているのか、災害に強い宅地はセールスポイントにならない、人々にとっては分譲価格のほうが大事なのではないか」と東畑氏の言葉は厳しい。安全を考えて調査をすればその分、時間がかかり、費用もかさむ。それを省いて安全を手に入れることは難しい。その場合にどちらを優先するのか。

昨今は安さ万歳、コストダウンが正義という考え方もあるが、宅地の多くは大量生産できるものではない。安全と品質、購入価格が比例すると考えると安さだけを判断基準にするのはいささか怖いところもある。冷静に、比較検討してみてほしいところだ。

ちなみに地盤品質判定士会では宅地地盤に関する相談に応じており、セミナーでは首都圏、関西圏での相談事例についても発表が行われたのだが、それによると多少数字は異なるものの擁壁、崖・斜面に関する相談が関東で8割、関西で6割と多い。

また、無料で現地を見てくれという依頼も多いそうだが、現地に行くとなると当然、費用が発生する。ところが有料だと聞くと依頼を取り下げる人が多いそうで、ここでも安全はタダという考えが根強いことがうかがえる。残念ながら、災害大国日本の、特にこれからの時代ではそれはあり得ないことである。

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