住宅地の入り口にあたる広場ある和モダンなコミュニティハウス
広島市郊外の団地再編で生まれた住宅地『SATONOWA(さとのわ)』
その入り口にあたる「わせだ広場」には、切妻屋根の「コミュニティハウス」がある。濃紺の外壁に木製建具のコントラストが美しく、小さいながらも瀟洒な建物だ。
この建物は、当時、広島女学院大学に在学した学生たちによって設計された。
『SATONOWA』のある団地は、1970年代に開発された、いわゆる「ニュータウン」だ。
広島女学院大学は、先行する1960年にこの高台に移転してきた。人文学部と人間生活科学部があり、地域との連携活動にも熱心な大学だ。ただ、団地との関係は、これまでさほど緊密とはいえなかったようだ。団地内には学生向けのアパートもなく、キャンパスとの間は急な坂で隔てられているので「団地のほうに行ってみようという発想はなかったですね」と卒業生の森川留衣さんは振り返る。
40年以上経って成熟した団地の中に、新たな住宅地をつくるにあたって、事業者のトータテ都市開発とまちのデザインを担当するブルースタジオは「新旧のまちをどうやってつなぎ、コミュニティに加わるか」を課題に掲げた。また、『SATONOWA』は分譲住宅ながら、フットパスなどの共用部を持ち、管理組合を組織する。まちの内外の住人の交流の場として、コミュニティハウスが必要だと考えた。
まちをリサーチしたブルースタジオは、団地の先輩格といえる広島女学院大学に着目。産学連携のまちづくりを提案した。
学生個人やチームによる設計コンペで、全23案から優秀案・実施案を選定したコミュニティハウスの設計
広島女学院大学人間生活科学部生活デザイン科には、建築士やインテリアコーディネーターを目指す学生たちが集まる。大学では、机上の設計だけでなく、実地経験も積ませたいと、これまでも商店街の街路灯や、実際に分譲される住宅の一部を設計するプロジェクトを行ってきた。トータテ都市開発とブルースタジオの提案を受け「小さな建物なら、学生でもかかわれる」と、コミュニティハウスの設計に挑戦することにした。
プロジェクトに取り組んだのは、2年生と3年生の総勢33人。2年生にとっては必修科目だが、3年生は選択科目で、チームを組んで参加したそうだ。
2018年10月、まずブルースタジオの大島芳彦さんから『SATONOWA』とコミュニティハウスが目指すものについて説明を受け、その後、エリアのリサーチやヒアリングを実施し、これらを踏まえて設計に取り組んだ。2ヶ月後に中間発表を行って先生方やブルースタジオ、トータテ都市開発の意見を聞き、さらにブラッシュアップして、19年2月に、合計23案のプレゼンテーションと最終審査会が開催された。
全部で7案が優秀賞に選出され、その中からトータテ都市開発とブルースタジオが実施案を決定した。選ばれた3年生3人のチームは、その後、実施設計にも参加したが、着工を待たずに卒業を迎えることになった。
卒業生3名のコミュニティハウスのテーマは『長屋台』
取材の日、久しぶりに集まった3人は、完成したコミュニティハウスを初めて見たという。
「実施設計の過程では、建物の配置変更や構造上の課題など、たくさんのトラブルに直面しました。けれど結果的に、私たちがイメージしたとおりの建物ができていて、とてもうれしいです」と、前出の森川さん。同じチームの久保田伶玖さんと宮地梨乃さんも、感慨深そうに建物の内外を見て回る。
3人とも現在は建築関係の会社に勤め、施工管理などに従事しているという。「コミュニティハウスを設計していた時は、柱をなくしたいとか、もっと大きな窓にしたいとか言っていたけれど、今考えてみれば無茶な要望でしたね」と笑い合う。
3人が考えたコミュニティハウスのテーマは『長屋台』。同時に複数のお店が出せる長い屋台だ。
「設計に先立って、地域の“長”のような社会福祉協議会の方たちにお話を伺う機会を設けていただいたんです。そのとき、コミュニティハウスが建つ広場は、盆踊りの会場だったと伺いました。そこからまず、お祭りの屋台を連想したんです」と3人。
周囲は閑静な住宅地で商店がないので、ここで出店ができれば楽しいだろう、と考えたそうだ。3つの窓は3つの店舗で、当初案では、それぞれに小上がりと土間を設ける計画だった。
縁側のようなテラスを設け、懐かしくて心地いい居場所をつくる
住宅地全体のテーマが「現代の“里”」であることから、3人は昔懐かしい日本の住宅をイメージした。「菜園をつくる予定があるということだったので、出店の反対側は、農家の縁側みたいにしようと考えました」。
アイデアの明快さとシンプルなプランが、採用のポイントだったようだ。
イベント時にはコミュティハウスに長蛇の列。地域住人にも歓迎される
『SATONOWA』では、まだ住宅の建設が続いており、今のところコミュニティハウスはトータテ都市開発が販売センターとして使っているが、ゆくゆくは地域のひとびとに運営を委ねたいと考えている。すでに休日にはイベントも開催しており、『SATONOWA』の住人以外にも広く親しまれている。
「完成直後はコロナ禍が深刻な状況だったので、大きなイベントはできませんでしたが、少しずつポップアップショップなどを開催しています」とトータテ都市開発事業部次長の浅並大悟さん。人気のパン屋さんが出店するときは、オープン前から大行列ができ、1日で数百個のパンが飛ぶように売れるそうだ。
「ここでパン教室を開きたいと申し出てくださった方もいます。放課後の児童クラブのように使いたいというご要望もあります。地域の方々からいろんなオファーをいただいて、こちらの対応が追いつかないほど。本当にありがたいと思っています」と浅並さん。
「エリアをリサーチして分かったのは、ここではご近所がお互いのことをよく知っていて、人情味にあふれていることでした。広い団地ですが、地区ごとに新聞をつくったり、料理教室を開いたりしていて、交流が活発なんです」と設計チームの3人。コミュニティハウスができたことで、大人たちの“部活”にも役立てればいい、という。
指導に当たった広島女学院大学の細田みぎわ教授は「建物は小さくても、団地や地域といった大きな視点を持って取り組んだことは、学生たち全員にとって貴重な学びになったと思います」と語る。同大学では今後も、このコミュニティハウスを通じて地域との連携を図りたいと考えているそうだ。「コミュニティハウスがどんなふうに活用されていくのか、そのリサーチを行ったり、地域の人と一緒に何かできれば、と検討中です」と細田教授。“里の環”に学生たちが継続的に参加するようになれば、まちはさらに活性化していくことだろう。
広島女学院大学 https://www.hju.ac.jp/
ヴェルコート牛田早稲田『SATONOWA』https://www.totate.co.jp/satonowa/










