日本で一番大きい建築設計事務所・日建設計が本気で取組む「公園」改革
日本で一番大きい建築設計事務所がどこかご存じだろうか。隈研吾氏の事務所? いや、確かに隈氏の事務所(隈研吾建築都市設計事務所)は急拡大しているが、それでも三百数十人。一番大きいのは日建設計で、社員数約2000人。日建ハウジングシステムなどのグループ会社6社を含めると、全体で約3000人。世界的に見ても指折りの巨大設計集団である。
日建設計は歴史も120年と長く、「東京タワー」「さいたまスーパーアリーナ」「東京スカイツリー🄬」「渋谷ヒカリエ」といった、誰もが知る巨大建築を設計してきた。それでも不思議なことに、その名前は一般にほとんど知られていない。それはなぜなのか、これからどう変わろうとしているのか──といったことを、筆者(宮沢洋)が約1年にわたり密着取材した書籍『誰も知らない日建設計 世界最大級の設計者集団の素顔』が、2021年11月19日に発刊となる。
そんな知られざる巨大設計組織がいま、身近な「公園」を本気で変えようとしていることを今回は紹介したい。舞台は東京・渋谷の2つの公園だ。
その1つ、渋谷区立北谷(きたや)公園で待ち合わせた日建設計の伊藤雅人氏(日建設計 都市部門 パブリックアセットラボ アソシエイト)は、こんなナイスガイだった。
「渋谷区初のPark-PFI」、日建設計が指定管理者としても参画
渋谷区立北谷公園(渋谷区神南1-7-7)は、2021年4月、「渋谷区初のPark-PFI」によって生まれ変わったことで話題だ。伊藤氏はこのプロジェクトの中心人物。新生・北谷公園は、「禁止事項だらけの日本の公園を変えたい」という伊藤氏の想いが詰まった公園だ。
「いつの間にか私たちの周りには、禁止事項だらけで魅力が失われた公園が増えてしまった。その背景には、管理にお金がかけられないという問題がある。もっと公共空間の『運営』に投資される仕組みをつくれば、都市全体の魅力を高められる」(伊藤氏)。
Park-PFIは、2017年の都市公園法改正で創設された「公募設置管理制度」のことだ。都市公園の魅力と利便性の向上を図るために、公園の整備を行う民間の事業者を公募し選定する制度である。これを利用して、公園内にカフェやショップなどの集客施設や保育所、デイサービスセンターなど、地域の人が集う施設が続々と生まれつつある。伊藤氏もこの制度に公園の活路を見いだした。
渋谷区ではこの北谷公園が初のPark-PFIだが、それ自体は今やトレンドの1つで珍しくはない。このプロジェクトで珍しいのは、設計を担当した日建設計が公園の「指定管理者」の一員でもあること。つまり、日建設計が運営にも関わるのだ。
北谷公園の指定管理者は、東急を代表企業とする「しぶきたパートナーズ」。東急の他、イベント企画や広告を手掛けるCRAZY ADと日建設計の3社で構成される。渋谷区は2020年8月に指定管理者を公募し、同年12月にしぶきたパートナーズを選定した。
東急が全体を統括し、CRAZY ADが広場運営、日建設計が特定公園施設や公募対象公園施設の設計業務や竣工後の地域連携業務を担う。日建設計はこのプロジェクトで指定管理者の一員となるために、会社の定款を改定したという。
なぜ、そこまでして指定管理者に? 伊藤氏は「これまでいくつもの屋外空間を設計してきたが、使い方を提案するだけではどうしても説得力に欠ける。本当に運営を変えていくには、実際に運営者の一員になってノウハウを蓄積する必要がある」と考えたのだという。
改修前の北谷公園と見比べてみると……
改修前の北谷公園は、自転車やバイクの駐輪、短時間の休憩利用が主体だった。にぎわいや華やかさからはほど遠かった。それがこんなふうに変わった。
区の公園とは思えない、2階建てのブルーボトルコーヒー
2階建ての建物には、1階・2階ともブルーボトルコーヒー・渋谷カフェがテナントとして入っている。印象としては「区の公園」というよりも、「広い庭のある贅沢なカフェ」だ。
広場も、建物の設計も日建設計だ。店舗の内装は、ブルーボトルコーヒーとの仕事が多い建築家の芦沢啓治氏(芦沢啓治建築設計事務所)によるものだが、ともに木の素材感を重視しており、言われなければ内外とも同じ建築家の設計に思える。
従来の「あか抜けない売店しかない」公園のイメージとは全く違う。こんな目玉施設を建設できるのは「Park-PFI」ならではだろう。伊藤氏によると、そもそも公園内に飲食店舗をつくってはいけない法律があるわけではなく、管理などの問題で各自治体が自主的に制限していたのだという。
緊急事態明けで、公園イベント「JINNAN MARKET(ジンナン マーケット)」開催
カフェは人気で、公園内もひと休みする人たちでなごやかな雰囲気だ。しかし、スタートが緊急事態宣言中の2021年4月だったこともあって、目標の1つがまだ実現できていない。公園を使ったイベントが開催できない状況が続いていたのだ。
一般の公園では、条例や独自の管理基準でイベント利用にはさまざまな制約がかかるが、ここは指定管理者の裁量で独自のイベントが打てる。伊藤氏は、公園を地域連携の拠点としていくためには、イベントの開催が欠かせないと考えている。もちろん、イベントは事業面でも収益源となり得る。
実は、緊急事態宣言明け以降で初となるイベントが、11月20日と21日に開催される。設計者が仕掛ける公園のイベントとはどんなものなのか。近くの人はぜひ行ってみてほしい。
■JINNAN MARKET (ジンナン マーケット) 公園がセレクトショップになる2日間
2021年11月20日(土)、21日(日) 11:00~20:00/渋谷区立北谷公園(渋谷区神南1-7-7)
北谷公園でサステナブルなライフスタイルを考える2日間。 セレクトショップの集まる神南エリアを「遊びに行く街」として盛り上げていくことを目指すイベント。今回をキックオフとし、継続的なイベントにしていくことを想定。ポップアップ(アパレル)、フード・ドリンク、アクティビティ(ヨガ・卓球など)、音楽など。近隣関係者が参加。
宮下公園は「立体都市公園制度」でMIYASHITA PARKに。今後「日本にもっと魅力的な公園を」
そして、北谷公園から徒歩5分ほどのところに、伊藤氏が計画に関わった、もう1つの話題の公園がある。2020年7月にオープンした「MIYASHITA PARK」だ。
これは1966年に整備された渋谷区立宮下公園が老朽化したことから、公園を生かして建て替えたプロジェクト。「立体都市公園制度」という、建物の上に公園を設けることができる比較的新しい制度を使い、商業施設と一体開発した。設計は竹中工務店と日建設計(プロジェクトアーキテクト)が共同して進めた。
伊藤氏は言う。「コロナ以降、公園でゆっくり過ごしたいと思う人は増えているが、日本には魅力的な公園が少ない。それは設計だけの問題ではなく、管理にお金をかけられないから。これからは空間の提案とともに、地域も絡めてお金を生む仕組みを提案できるようになることが重要だ」。
巨大な建物を設計する巨大設計集団という日建設計のイメージは、伊藤氏のような若い世代を中心に徐々に変わっていきそうだ。
しかし、実は、日建設計はこれまでの120年も、社会の要請に答えるために常に形を変えてきた。その歴史や組織に興味のある方は、拙著『誰も知らない日建設計 世界最大級の設計者集団の素顔』をぜひ手にとっていただきたい。
■『誰も知らない日建設計 世界最大級の設計者集団の素顔』
価格:2750円(税込)
ISBN:978-4-532-32442-1
発行日:2021年11月19日
著者名:宮沢 洋
発行元:日本経済新聞出版
ページ数:184ページ
判型:A5
Amazon:https://www.amazon.co.jp/dp/4532324424/
日経の本:https://nikkeibook.nikkeibp.co.jp/item-detail/32442















