同じ「月9」枠でも「協奏曲」とは大きな違い

この記事の掲載がいつになるかは分からないが、ドラマ「恋仲」を筆者が見返しているのは、夏の終わりである。舞台が「夏の終わり」の青春恋愛ドラマだからだ。
毎回のように「花火」のシーンがある。一方で、このドラマは、主人公の青年(福士蒼汰)が「スター建築家」ではなく「普通の建築設計者」の道を選ぶ過程を描く“青春建築ドラマ”でもある。

建築や住宅、それを設計する「建築家」は、映画やテレビドラマの中でどう描かれているのか。元・建築雑誌編集長で画文家の宮沢洋(BUNGA NET編集長)が、「名セリフ」のイラストとともに、共感や現実とのギャップをつづる。

「恋仲」はフジテレビ系列で2015年7月20日から9月14日までの毎週月曜21時、いわゆる「月9」枠で全9回放送された。この月9枠では1996年に「協奏曲」というスター建築家のドラマが制作されており(本連載「田村正和『協奏曲』、突っ込みつつもキムタクとの師弟関係には納得【建築シネドラ探訪⑫】」参照)、それと比較すると、「建築家」という仕事の多様さがこの20年で社会に徐々に認知されてきたことを実感する。

「恋仲」のタイトルどおり、ドラマの本筋は「恋愛」である。

福士蒼汰演じる三浦葵(あおい)は東京の建築設計事務所で働いている。建築家という夢の入り口に立った葵だが、入社して2年目の夏、事務所のボスからは「君はつまらない」と言われ、恋愛も長続きせず、自分の未来が見えない。ある日、富山の高校時代の友人、金沢公平(仲野太賀)から同窓会の連絡。葵は7年間会っていない芹沢あかり(本田翼)の顔が頭に浮かぶ。

葵とあかりは幼なじみ。ともに初恋相手だが、告白できずにいた。高3の夏の終わり、2人で地元の花火大会を見るが、その翌日、あかりは突然姿を消す。父親の借金のために夜逃げしてしまったのだ。

公平の声かけで7年ぶりに東京で再会した葵とあかり。だが、あかりは、葵の高校時代の親友で研修医の蒼井翔太(野村周平)と交際していた。

教員試験を目前に控えたあかりと、2人のアオイ(三浦葵と蒼井翔太)の三角関係を軸に、公平と三浦七海(葵の妹、大原櫻子)の恋愛をからめて物語は進む。

ぼんやりとした夢を一瞬で「目標」に変える

男性目線にはなるが、本田翼演じるあかりの“突然消えていなくなりそうな感じ”がすごくいい。視聴者の書き込みを見ると、演技がステレオタイプだという意見もあるようだ。筆者はそうした分野の専門家ではないので的外れかもしれないが、少なくとも高校生時代を演じる彼女は、現実にいそうな魅力的な高校3年生に見える。当時23歳だったとは思えない。

(イラスト:宮沢洋)(イラスト:宮沢洋)

葵は高校3年の夏、ぼんやりと「建築」という仕事に就くことを考えていた。ある日、あかりにこんなことを言われる。「ねえ葵、建築家になったらこういう家をつくってよ」。手渡されたチラシの裏には、あかりが鉛筆で描いた間取り図があった。

初恋の相手にそんなことを言われたら、ぼんやりとした夢も一瞬で「明確な目標」に変わる。そこから設計事務所に入るまでの過程はドラマ内では説明されていないが、「あかりの家をいつか設計する」というモチベーションで勉強し続けたことは、説明されなくても分かる。

弱音を吐く葵を励ます公平の「名言」

しかし、建築設計という仕事にも当然のことながら、向き不向きがある。そして、この仕事自体が決して「安定」したものとはいえない。自分の才能に不安になり、将来に展望が描けない。象徴的なのが第7話のこんなやりとりだ。

勤務する設計事務所でミスをした葵。先輩からは担当プロジェクトを外され、ボスの丹羽万里子(吉田羊)からは、笑いながらも転職を勧められる。プライベートでは、あかり、翔太との三角関係がグズグズ。明らかに落ち込んでいる葵を励まそうと、公平と七海(葵の妹)は葵をもんじゃ焼きの店に誘う。

速いピッチで生ビールを飲んだ葵は、普段は口にしない弱音を吐き始める。

(イラスト:宮沢洋)(イラスト:宮沢洋)

葵:「建築家もどきのオレと、将来有望なお医者さん、そりゃ医者いくでしょ」。
七海:「お兄ちゃん、あかりちゃんのことでやさぐれてたんだ」。
葵:「それだけじゃねーんだよ。考えちゃうんだよね。万里子さん(事務所のボス)みたいな才能ある人と一緒に仕事をしていると、自分のキャパをさ。別にオレがつくらなくても、世の中には優秀な建築家がたくさんいるし」。

そこに、葵を慰めようと、無理矢理割り込んでくる公平のセリフがいい。公平は実家が豆腐店で、いずれ豆腐店を継ぐことが決まっている。

公平:「分かるよ、お前の気持ち。豆腐もさ、オレがつくらなくても、スーパーにたくさん売っているし」。

公平役の仲野太賀をこのドラマで初めて見て、「なんていい三枚目俳優!」と感心した。その後も、仲野太賀が脇を固めるドラマには、外れが少ない。

唯一登場する「建築」は「うさぎ小屋」

公平のこの言葉は、一見的外れなようでいて、実は「建築ドラマ」としてのこの物語の核心を突いている。どういうことかというと、豆腐店には、全国の誰もが知る“スター豆腐職人”はいない。豆腐はスーパーでも普通に売っている。でも、地元の豆腐店には、それとは違う、日常に深く根差した味がある。

同じように、建築設計という仕事も、多くの若者はまず“スター建築家”を目指す。しかし、まちはスター建築家だけでできているわけではない。むしろ日常の暮らしを豊かにしているのは、地元豆腐店のような“小さな個性”だ。葵は失敗を重ねながらそのことに気づいていく。

このドラマには、目を見張るような建築が1つも出てこない。かろうじて「建築」といえるのは、葵が初めて設計主任を任された「うさぎ小屋」だ。場所は幼稚園。葵はあかりをこの幼稚園に誘い、完成したうさぎ小屋を見せる。鉛筆を立てたような形の小屋のまわりに、円形の広場が取り巻くデザインだ。

(イラスト:宮沢洋)(イラスト:宮沢洋)

あかり:「どうしてこの柵は丸く建てたの?」
葵:「隅っこをつくらなければ、子どもたちに仲間はずれができないと思ったんだ」。
あかり:「葵らしい。ここで遊ぶ子どもたちの笑顔が見える気がする。すごいね、葵。夢をかなえたんだね」
葵:「でも、うさぎ小屋だよ」
あかり:「ううん、すごいよ。葵がつくったもので誰かが笑顔になるってすごいことだよ。なんか元気もらった!」

駆け出しの設計者がつくった建築の褒め方として満点である。これを本田翼に実際に言われたら、よほど自信を失っていても再起してしまうだろう。

「新人建築設計コンクール」の課題が予言的

ドラマのクライマックスは、葵が応募した「新人建築設計コンクール」の結果と、あかりが2人のアオイのどちらを選んだかだ。答えを書いてしまうのはさすがに野暮なのでやめておく。が、新人建築設計コンクールの課題が面白いので、それだけ書いておく。

コンクールの課題は、「100年続く家」だ。

持続可能性という言葉は、専門家の間では古くから使われていたが、「SDGs(持続可能な開発目標)」が国連サミットで採択されるのは2015年9月。世の中で普通に耳にするようになったのは2016年に入ってからだ。その前の2015年夏のこのドラマでの設計課題は、先見的であり、予言的である。

そして、その課題に対する葵の提案が、“地元豆腐店”的な味のある内容で好感が持てる。建築ドラマとしては意外に地の足の着いたスタンスなのだ。青春恋愛モノが嫌いでない方にはおすすめである。

■映画「恋仲」
2015年7月20日から9月14日まで月曜21時、フジテレビ系「月9」枠で放送。全9回
脚本:桑村さや香
プロデュース:藤野良太
演出:金井紘、宮木正悟
音楽:世武裕子
主題歌:家入レオ「君がくれた夏」
出演:福士蒼汰(三浦葵)、本田翼(芹沢あかり)、野村周平(蒼井翔太)、仲野太賀(金沢公平)、大原櫻子(三浦七海)、吉田羊(丹羽万里子)

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