第一歩は既存の「道の駅さかい」から
6月18日から東京国立近代美術館で「隈研吾展」が始まった。同展の予習を兼ねて、書籍『隈研吾建築図鑑』の取材メモから、“隈研吾ツアー”を紹介してきた。その最終回だ。
「隈研吾の建築の集積地」と聞いたら、多くの人が思い浮かべるのは高知県の梼原町か、あるいは栃木県の那須周辺だろう。今回は、それらの背中を猛追し、追い抜かんとしている茨城県境(さかい)町を紹介する。
完成年順に見ていこう。
①さかいサンド
完成:2018年
所在地:茨城県猿島郡境町1341-1
発注者:境町
設計者:隈研吾建築都市設計事務所
第1弾は、既存の「道の駅さかい」の奥まった部分にある「さかいサンド」。2018年10月にオープンしたサンドイッチ専門店だ。隈建築のなかでも最小の部類だが、木の板をパラパラに組んだデザインはいかにも隈氏らしい。
レストラン、研究所、美術館と続々完成
②さかい河岸レストラン茶蔵
完成:2019年
所在地:茨城県猿島郡境町1341-1
発注者:境町
設計者:隈研吾建築都市設計事務所
第2弾は、道の駅さかいの北側に隣接して立つ「さかい河岸レストラン茶蔵」。2019年4月にオープンした。スノコのような板が、外壁上部にパラパラと並ぶ。東京方面から行くと、利根川に架かる境大橋を渡った左手にあり、これが一番見つけやすい。
③④S-Lab、S-gallery
完成:2020年
所在地:茨城県猿島郡境町1466-2(S-Lab)、1455-1(S-gallery)
発注者:境町
設計者:隈研吾建築都市設計事務所
第3弾と第4弾は2棟セットの建築だ。道の駅さかいから車で5分ほどの住宅街に、境町地場産品研究開発施設「S-Lab」(エスラボ)と、美術館「S-gallery」が2020年8月に同時オープンした。2棟はL字に隣り合う。共通モチーフはくさびのような断面の庇だ。
「S-Lab」は非公開だが、「S-gallery」は画家・粛粲寶(しゅくさんぽう、1902~1994年)の作品を展示する美術館。文人画調の独特の画風の画家で、人生最後の地として境町を選んだ。小ぶりな展示スペースだが、入館料330円の価値は十分ある。
集会所やカフェも隈氏の設計
⑤モンテネグロ会館
完成:2020年
所在地:茨城県猿島郡境町大字上小橋446-1
発注者:境町
設計者:隈研吾建築都市設計事務所
第5弾は2020年9月にオープンした「モンテネグロ会館」。80年以上前に住民が建てたアルゼンチンゆかりの木造集会所「モンテネグロ会館」を境町が建て替えた。旧会館の木材を分かりやすく再利用している。
1853年に米国のペリー提督率いる艦隊が浦賀に来航した際、幕府で文書担当だった境町出身の関宿藩士、野本作次郎氏がアルゼンチン人船員と交流したことで友好関係が始まったという。旧会館は1937年、船員の孫のモンテネグロ・同国臨時代理公使から資金援助を受けて建てられた。集会所として活用されていたが老朽化したため、隈氏の設計で建て替えた。カフェも併設する。
既存建物の木材を軒下に活用しているのが面白い。また、既存の樹木を残すために、屋根の一部がえぐれていることにも注目。町民によると「残してほしいと言ったのではなく、設計の先生が『この木は残すべき』とおっしゃった」という。
⑥HOSHIIMONO100Café(ほしいものひゃっカフェ)
完成:2021年
所在地:茨城県猿島郡境町(坂花町)1459-1
発注者:境町
設計者:隈研吾建築都市設計事務所
これは最新の施設で、2021年5月27日にオープンしたばかりのカフェ。場所は「S-gallery」と「S-Lab」のすぐ近くだ。境町が「S-ブランド」という名称で建設した木造2階建ての建物で、テナントとして干しいも専門店である「ほしいもの百貨」が契約。カフェを運営する。
茨城県は干しいもの特産地。カフェで販売する干しいもの繊維をイメージしたスギ材のスクリーンを外壁に設置した。
筆者もここはまだ実物を見ていないので、境町から写真をお借りした。
“新聖地候補”は他にも
境町の隈建築、現在6件。車があれば半日で見て回れる。ただ、どれも新しくてカーナビに入っていない可能性が高いので、回る前に住所登録しておくことをお薦めする。
実は、境町のほかにも“新聖地候補”の自治体がある。そのうちの2つをさらっと紹介しよう。
1つは宮城県登米市。
登米①伝統芸能伝承館「森舞台」
完成:1996年
所在地:宮城県登米市登米町寺池上町42
発注者:登米町
設計者:隈研吾建築都市設計事務所
登米②登米懐古館
完成:2019年
所在地:宮城県登米市登米町寺池桜小路72-6
発注者:登米市
設計者:隈研吾建築都市設計事務所
もう1つは大分県竹田(たけた)市。
竹田①竹田市歴史文化館・由学館
完成時期:2019年(開館は2020年)
所在地:大分県竹田市竹田2083
発注者:竹田市
設計者:隈研吾建築都市設計事務所
竹田②竹田市城下町交流プラザ
完成時期:2020年
所在地:大分県竹田市大字竹田町487-1
発注者:竹田市
設計者:隈研吾建築都市設計事務所
どこに行っても「意外に気さくな人だった」の声
地方都市の隈建築は規模が小さくて、予算も厳しいものがほとんど。それでも、それぞれに記憶に残るポイントをつくるところが隈氏の誠実さだ。右から左へ流さず、引き受けるからには必ず建築家としての爪跡を残す。そして、行く先々で「偉い先生だと思っていた意外に気さくな人だったよ」と、人間としての爪跡も残す。
東京国立近代美術館で行われる展覧会は必見だが、どれだけ展示を見ても、その建築が立つ場所の空気や、町の人の温度はなかなか分からない。ぜひ、『隈研吾建築図鑑』をガイドとして、実物を自分の目で見て回っていただきたい。
『隈研吾建築図鑑』
価格:2640円(税込)
ISBN:978-4-296-10885-5
発行日:2021年5月11日
著者名:宮沢 洋(画・文)
発行元:日経BP
ページ数:208ページ
判型:A5
Amazon:https://www.amazon.co.jp/dp/4296108859/
日経の本:https://www.nikkeibp.co.jp/atclpubmkt/book/21/282010/
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