遊ぶ。暮らす。新しい価値を発信する田舎の家
亀岡市は京都府の西北部に位置し、かつて明智光秀が城を築き城下町となった歴史のある町だ。京都市のみならず、大阪府の北摂地域とのつながりも強く、以前は都市近郊の住宅地として盛んに開発された。
とはいえ、少し市街中心部から離れると田園風景が広がり、昔ながらの日本家屋が多く点在する。その亀岡で、古くから建築・不動産業を営む株式会社中川住研が立ち上げた新しいサービスが、「古民家Bank」だ。
古民家BankのWebサイトは、売却を希望する古民家の所有者が物件情報を登録し、それを見た購入希望者が直接売主と交渉を行い、売買を行うマッチングサイトという位置づけだ。
昨年、サイトのオープン以来、多くの閲覧者を獲得し、売買実績も生まれている古民家Bank。このWebサイトを立ち上げ、古民家の流通をサポートするとともに、古民家での田舎暮らしの魅力を発信し続ける株式会社中川住研の代表取締役 中川克之さんに話を聞いた。
好きなことに囲まれて暮らす。舞台としての古民家
以前は京都市内に住まわれていた30代のAさんは、結婚を機に新しい暮らしを夢見ていた。ひとつは趣味でもあるガーデニングや家庭菜園による野菜作りが楽しめる大きな敷地の家が欲しい、もう一つが、大好きなバイクを整備したりするガレージを設置したい、という希望を持っていた。
そんなAさんが出会ったのが、古民家Bankだった。
結婚以前から亀岡市が勤務先であったAさんにとっては、なじみのある土地であったため、通勤の問題もない。不動産の購入が初めてであったAさんは、購入に際してのアドバイスと購入後のリノベーションプランについて、中川社長に相談した。
その後スムーズに購入、リノベーションも完了し、引越しにあたって、Aさんは中川社長と一緒にご近所の農家をあいさつに回られたという。
今では、ご近所の農家から野菜の育て方を教わったり、時にはとれたての野菜の差し入れをもらったり、ご近所を交えてお庭でバーべキューをされたり、転居後に生まれたお子様ともども、ご家族ぐるみ新しい土地でいいご縁を結ばれ、田舎暮らしを満喫されている。
「私たちは創業以来ずっと、古民家というか古い日本家屋の売買を手掛け、一定のニーズがあることはわかっていました。しかし以前は、古民家を購入され田舎暮らしを始めようとされる方は、定年後のシニアの方が中心でした。『さ、そろそろのんびり田舎暮らしでも』とお考えになって。しかし、古民家Bank立ち上げ後、ちょうどコロナ禍と重なった時期以降、若い世代の方からの問合せが増えてきています。明らかに購買層が変わってきているのを実感しています」(中川さん:以下同)
分散型社会へストックを活用。空き家対策としても
「都会生活をされている方にとって、田舎での生活が魅力的に映る若い方も多いと思います。今までさまざまなメディアでも発信されてきていますから。しかし、なんといってもネックになるのは通勤や通学の問題。ところが、コロナ禍でリモートワークが増え、働く形が変わってきました。家で野菜を育てるという暮らしが、雑誌の上の話ではなくリアルになってきています」(同)
「以前はこういった古い日本家屋の売り物件は、購入希望の潜在ユーザーに届くメディアがありませんでした。しかも、仲介だけを手掛ける不動産屋さんにとって、物件価格が低い古民家は、仲介手数料も低く、宣伝に力が入りません。ユーザーに情報が届かなかったのが現状です。しかし、インターネット上の古民家Bankでは、コストをかけずに広く告知・宣伝できます。加えてマッチングサイトの形をとることで、『どうぞ売買は売主・買主の間で行ってください。売買には手数料はかかりません』としたわけです。もちろん不動産ですから、いろいろ法的にもクリアしなければならない問題も出てきます。私たちはお客さんの希望により、そこのところはお手伝いできます。というかたちですね」(同)
インターネットによるコアなユーザーへの訴求と、流通の工夫が契機となったと中川さんは言う。あとは、働き方や暮らし方への意識変化があるとも加えた。
コロナ禍によって、都市一極集中によるリスクが大きくなり、地方での暮らしが見直されてきているのだ。
「当社の事業は社会的意義から始まったわけではないですが、社会が追い付いてきたというか、これからもっと分散型社会への変化は進んでいくと思います。今までの移住には、転職という一番のハードルがありましたが、テレワークの普及で、田舎暮らしをしながら従来通りの働き方をすることができるようになってきました。都会に籍を置きながら地方に住むことも可能になります。ローカルの良さをもっともっと発信していきたいですね。そのことが、今問題になっている空き家問題の解決にもつながるし、サスティナブル社会への道だとも思います」(同)
都市神話の崩壊か。資産価値より生活価値
話をお伺いし、今までの不動産流通システムは、地方での古い家屋の流通にとっては障壁になっていたのかもしれないと感じた。つまり、仲介手数料で稼ぐことのできない物件は、流通マーケットになかなか乗ることがなかったのだ。
地方では、不動産価格自体が低迷し、売ることもできず、維持コストの負担ばかりが所有者にかかる物件や、不動産物件として商品になりえない物件が今も多数存在する。
一方、ユーザーのほうに目を向ければ、状況は変わりつつある。
家庭菜園、ガーデニング、バーベキューをはじめ、車やボートといった大型の遊び道具に囲まれた暮らしは、都市では望むことのできない、地方の広い敷地ならではだ。農村部の隣人関係さえも、都会にはない新しい暮らしをもたらしてくれるかもしれない。
どこで暮らして、どこで働き、どこで遊ぶか。コロナの時代を経て、その環境への興味が、より大きくなってきているのは確かだと思う。不動産物件は、その興味を現実のものにしてくれる道具だ。利便性こそ不動産の価値を測るものさしであるという価値観を捨てれば、従来、価値がないものとされてきた不動産でも、新しい価値を見出すことは可能だ。
美しい自然とのふれあいや、それを通しての楽しみにあふれた暮らし。資産価値より生活価値。中川さんが手掛ける事業は、それを実現に導く術を示してくれている。
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