日建設計の社内ベンチャーチーム「Nikken Wood Lab」が開発
総合建築設計事務所の株式会社日建設計による木質ユニット「つな木」プロジェクト。一般に流通している45×45ミリの角材とクランプと呼ばれる接合部材、キャスターを基本とし、ベンチやブースなどを造ることができるものだ。
2021年1月に取材させてもらったINA VALLEY FOREST COLLEGE(伊那市の森林を生かし、地域の木を地域の建築に使うこと~「INA VALLEY FOREST COLLEGE」カリキュラムより)に講師として登壇された日建設計に勤める建築士・大庭拓也さんの自己紹介で同プロジェクトを知り、あらためて取材をお願いし、詳細を聞く機会を得た。
大庭さんは、これまでの業務以外のビジネスを募る社内コンペ「Discover Peaks Competition」に応募・提案し、審査の結果「Nikken Wood Lab(ニッケンウッドラボ)」(以下、Wood Lab)というチームが立ち上がった。Wood Labでは都市や建築の木質化の研究および実践の活動を行い、その中の一つがつな木プロジェクトとなる。Wood Labの立ち上げには、大庭さんの生い立ちが深く関わる。
「北九州市の田畑に囲まれた集落で育ちました。それこそ木造の建物しかないようなところです。祖父母は専業農家で、兼業農家であった父がまちづくり系の仕事をしていたので、僕もまちづくりやものづくりに興味を持ち、大学と大学院で建築を学びました。ものづくりは面白いし、デザインも楽しい。だけど、建築は環境に影響を及ぼしてしまう部分が幾分かあります。日建設計は環境に配慮した建築や、環境に影響を与えにくいまちづくりを手がけている設計事務所ということで入社を希望したんです。仕事のなかでそれらにどう貢献できるかを考えたとき、都市で木をたくさん使うことが森林に役立ち、僕の原風景とも親和性が高い方法ではないかと思いました。そのうちにSDGsやカーボンニュートラル、木材利用促進法と社会自体にも流れがきて、会社が求めていることと社会が求めていること、個人的に興味があってやりたいことが、なんとなくつながり始めたのが今の状況かなと思います」
「つくればつくるほど環境に優しい」
Wood Labで、つな木を提案したのは2018年のこと。
中・大規模な木造建築で使われる木材は、耐火のために施す加工に特殊な技術が必要になる。その一方で「日本のどこにでもある木材、どこにでもある技術で何か簡単なものごとが作れるというスキームも必要なのでは」という思いが、つな木の発案にいたった。
「つな木というプロジェクトにおいては、木に対してあまり性能を求めませんし、加工も一切しないんです。穴を開けることもほぼしません。45角という一般で流通しているサイズに製材して、長さを調節して切るだけ。それはどこの製材所でも行えることで、それを作るための木を出せない山もありません。これが社会で広がっていけば、つな木でいろいろな価値を生むことができるのではないかというのが、つな木を考えた理由です」と大庭さん。
日本では、戦後に植えられた人工林の木が収穫時期を迎えているが、利用されることがないまま寿命になって倒れてしまうなどして、森林の保全が問題になっている。ほぼ加工を施さない木に付加価値がつけば、山で林業に従事する人にいたるまで広く利益を生むことができるのではないか。高度な技術と共に社会に価値を生み出す中・大規模の木造建築との両輪を使って、ユーザーの拡大をすることで木材利用の促進を図る。
つな木のホームページには、「つくればつくるほど環境に優しい」というキャッチコピーが書かれている。森林の循環利用が環境の保全につながる。
組み換えできる自由さで、可能性が拡大
写真をご覧いただくと分かるように、つな木で出来あがるものは実にシンプルだ。大庭さんが日ごろ手がけるデザイン性の高い中・大規模な木造建築とのふり幅がある。
「つな木は“デザインをしないことをデザインにしている”んです。僕も含めて建築のデザイナーは自分にしかできないデザインを目指すことが多いと思います。しかし、面白いデザインは、好き嫌いも生みます。つな木はあまり自己主張しない木の利用の仕方というのに徹底していて、誰もが共有できる、インフラのように誰もが手に触ってデザインできる自由さが必要なのかなと思ったんです」
つな木の大きな価値は、組み換えができること。普段はベンチとして使っていて、それを組み換えるとイベントの店舗ブース、オフィスのワークブースなど用途に応じたものに変わる。使い手が自由にできる。
家具などと違って節がある木材も使えるし、クランプでつなぎ合わせるので木材の長さが多少違っていてもいい。デザインをつくりこまないのは、「材料に対するおおらかさ、作り手のおおらかさ、そういうきっちりしないルーズな感じがつな木に求めているものだからです」という理由による。
災害時などの医療ブースにも。使い方はさまざま
2019年秋に日建設計の社屋前の公開空地で「OUT DOOR LOUNGE」というイベントを開催し、社会実験として周辺の店舗による飲食ブースやミーティングスペースなどをつな木で作り、設置した。
続いて2020年もトライアルの期間にあて、ニーズを探った。「物理的にはさまざまな形にできると思っていましたが、どういうものが社会に求められているかというのが分かりませんでした」
トライアルの第一弾は、ある木造プロジェクトを通じて交流のあった徳島県庁。「こんなものがほしい」というリクエストをもらうなどして、職員が実際につな木を組み立ててワークプレイスを造った。まさに、ユーザーが必要なものをデザインし、自ら製作していくという場面だった。
そんなトライアルをしながら需要を感じたのが、医療ブース、囲われたワークスペース、小さなポップアップのテナント。それらをパッケージにして製品化していくことを考えているという。
だれもが組み立てられる工夫
開発からトライアルを通して、試行錯誤を重ねた。
独自開発したクランプ(接合部材)については、「足場の仮設などで使われている鉄のクランプは職人さんたちが使う工事用のものなので、ゴツゴツしていて扱いづらいです。なので、なるべく子どもが触っても怪我をしない、木にフィットして作りやすいなど、配慮やアイデアを込めました」とのこと。
さらに、「つな木だけで完結するのではなく、世の中にある鉄管用のクランプともジョイントできるようにしたので、木と鉄管の組み合わせもできます。例えばフェスなど、その場所に合わせて木を使ってもらえるようになるといいなと思っています」と語る。
また、キャスターを取り付ける際、当初はインパクトドライバーでビス(ネジ)を打っていたが、素人が真っすぐに打ち込む難しさがあらためて分かり、キャスター用のクランプを製作して、はめ込めば済むようにした。
なるべく簡単にできるように開発を進め、1畳ほどの基本のブース形であれば、数十分で造ることができるという。
地域材を使って付加価値を生むツールに
つな木は、2021年中に製品化して販売を開始する予定だが、大庭さんはさらに先に目を向けている。その一つが、地域の木材を使うこと。
つな木は組み換えできることが大きな特徴だが、「ユーザーがただ単に自分が欲しいものひとつを作りたいという希望もあるはずで、それを自分でデザインして地域の製材所さんに協力してもらってつくるという状況があってもいいんじゃないかなと考えていて」と大庭さん。
つな木のクランプに地域の材料を使って、その地域ならではの付加価値を生む。「まずは、つな木が世の中に出て行くタイミングなのでしっかりとその価値が届くことを願いますが、地域やまちをどういうふうにつなげるアクションができるか、そのためにツールとしてつな木をどう社会のなかに位置付けていくかというのが大きなゴールの一つかなと思っています」
「都市部だけじゃなくて地域を含めた循環をデザインする」。大庭さんはそんな思いを持ち、地域の人とのつながりをつくっていくことに注力していきたいと話し、つな木の可能性、そして木材利用の可能性を広げていく。
大庭さんとのお話のなかでは、「木育」という言葉も出た。つな木でつくられる無垢の空間で木に触れることが環境教育につながる。
つな木が製品化され、これからさまざまな場所で目にするだろう。その発展に大いに期待したい。
取材協力、写真・イラスト提供:株式会社日建設計 https://www.nikken.co.jp/ja/
つな木の紹介ページ https://www.nikken.co.jp/ja/insights/tsunagi.html
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