変わる家事のあり方

家事労働時間の質問に答えていくと家事年収が計算される「家事年収シミュレーター」家事労働時間の質問に答えていくと家事年収が計算される「家事年収シミュレーター」

家事の分担について家庭内で問題になったことはないだろうか。
近年は「家事シェア」「家事ハラ」「家事の見える化」など、家事分担に関わるキーワードが話題になることが多い。

2017年版男女共同参画白書によると、女性の就業率(15歳~64歳)は66.0%と過去最高になった。一方で、2016年の総務省データによると、週全体における家事時間は男性が44分、女性が3時間28分と2時間44分の差がある。
また、国際的に見ても日本の男性の家事育児の時間は、先進国の中で最低水準となっている。(内閣府 2015年)

つまり近年日本では、女性の就業率が高くなる一方で、家事の分担が進まないという現状が問題視され、家事の分担に関わる話題が多くなっているのだ。
そんな中、見えない負担や家事に注目した企業がある。「名もなき家事」として、見える化を行っている大和ハウス工業株式会社の多田綾子さんにお話を伺った。

男女の意識の差からでてきた「名もなき家事」

まずは「名もなき家事」の誕生経緯を聞いた。
「ハウスメーカーとして家事にアプローチすることを考えていたのですが、そもそも家事に関しての男女意識の調査を行ったところ、大きな意識ギャップがあることがわかりました。夫婦に家事分担率を尋ねたところ、妻の回答では「夫1割:妻9割」がトップ。一方夫の回答では「夫3割:妻7割」という回答がトップでした。その意識のギャップがどこにあるのか深堀したところ、「名もなき家事」の存在がでてきたんです。」

「名もなき家事」とは「洗濯物を干す」「掃除機をかける」といった代表的な家事のほかに、「買ってきたものをしまう」「ティッシュの空き箱を捨てる」「タオルを取り替える」などのちょっとした家事のことである。

「家事の何が大変なのかという話をしていた時に、例えば洗濯といった大きな家事の括りの中には、干す・たたむといった代表的な作業の他に、『洗剤を詰め替える』や『ハンガーを整える』『洗濯物の仕分けをする』といった、ちょっとした動作も含まれていると気がつきました。他にも『脱ぎっぱなしの靴下を洗濯籠にいれる』や『不要なチラシを捨てる』といった、名前もついていない家事がたくさんあり、そういった動作を家事と認識しているかという点に男女の差があると感じました。そのような家事を理解してもらうためには誰もが腹落ちするネーミングが良いと考えていたところ、『名もなき家事』という名前がでてきました。」

「名もなき家事」の誕生背景には「家事の見える化」を行い男女の意識ギャップを埋めようという発想があった。
「実際に体験会などでは、男性からの反応が非常に良く、わかりやすいという声をもらっています」と多田さん。

「家事年収シミュレーター」を開発した大和ハウス工業株式会社の多田さん「家事年収シミュレーター」を開発した大和ハウス工業株式会社の多田さん

「家事年収シミュレーター」が家族のコミュニケーションを生み出す

「名もなき家事」を含めた家事の見える化の一環として、家事労働をお金に換算するとどのくらいの年収になるのかをシミュレーションできるよう開発されたのが「家事年収シミュレーター」だ。このシミュレーターを利用して家事労働の年収がわかることで、どのような効果を期待しているのだろうか。

「『家事年収シミュレーター』の目的は家族全員が家事を「自分ごと」として捉えることです。そのためには、まずは家事を見える化し、家事について家族で話すことが重要です。家事についてよく話し合う家庭ほど、家事分担に満足しているというデータがあります」(多田さん)

家事分担の話題で一般的によくあることは、「男性はもっと家事をするべき!」というもの。ただ、家族というものは家族それぞれ在り方がある。一概に、半分ずつに家事を分担すれば良いという問題ではなく、お互いの納得感が重要になってくる。そのためには、家事について話し合うきっかけが必要だ。

「今夜、家事について話しましょう。」とパートナーから言われたら、どうだろうか。
「家事分担について非難されるのではないか」「新しい家事タスクをふられるのでないか…」と構えてしまうが、雑談の中で「面白いツールがあるからやってみよう!」とゲーム感覚で一緒に家事年収シミュレーターをやってみると、お互いの家事年収を共有することから、自然と家事の話になるのではないだろうか。

実際に、筆者の運営する子連れオフィスで、ママスタッフに実施してもらったところ、人により大きく家事年収が違い、家事に関する話題で大いに盛り上がった。

この家事年収シミュレーターは家族で行うことで、「『名もなき家事』がこんなにもあるんだ」「夫婦のバランスはどうなんだろう」という会話に自然に発展し、家族みんなで家事について考え、自分ごととして捉えることを理想としている。

ハウスメーカーが考える「家事」

「ハウスメーカーの取り組みとしては、収納や子育てに着目した取り組みは今までありましたが、どれも『奥さん』に焦点をあてたもの。『奥さん』が如何に収納や子育てをしやすいかという発想でした。今回のように、家事を『家族』に結び付けて考える発想というのは今までありませんでした」という多田さん。

実は家事年収シミュレーターの背景には、大和ハウスの女性社員が企画した「家事シェアハウス」の存在があった。「家事シェアハウス」は2014年に富山県の営業所で女性社員のプロジェクトチームにより商品化された。富山県の位置する北陸は共働き率の高い地域ということで、家事を家族で分担するという発想がヒットしたという。そこから人気が後押しし、2016年に中日本に展開、2017年から全国に展開となった。

家事シェアハウスは、まずは「自分のことは自分でする」のが家事シェアの第一歩としている。例えば、帰宅してからリビングに入るまでにカバンや上着を自然に片付けられるような動線になっていたり、家族の持ち物を個別に収納する自分専用ボックスがあったりと、自然に自分のことができるよう工夫されている。次のステップとして、家事のプロセスと現状を家族内で共有する「情報シェア」ができる住まいづくりが提案されている。情報シェアボードが住まいの中に配置され、「ティッシュ残り1箱だよ」「洗濯物取り込んでね」など家事の状況を家族でシェアし、協力しあえるような住まいになっている。

自分のことは自分でするための「家事シェア動線」自分のことは自分でするための「家事シェア動線」

精神面というソフトへのアプローチ

多田さん自身も共働き。「家事年収シミュレーター」の開発に関わることになってから、夫も理解が深まり家事をシェアするようになったという。多田さん自身も共働き。「家事年収シミュレーター」の開発に関わることになってから、夫も理解が深まり家事をシェアするようになったという。

家事シェアハウスに実際に住んでいる家族からは、家事負担を見える化でき、散らかりにくくなったということ以外にも効果があったという声があがっているという。

一つ目は「心の負担が減った」というもの。
「家族みんなが家事を自分ごととして捉えることで、精神的負担が減ったという声が多いようです」(多田さん)

仕事から帰ってきて、散らかった部屋を見たときや、雨が続いてたまった洗濯物を全て片付けなければならないときの憂鬱を多くの人が経験しているだろう。そんな時、子供やパートナーにきつい言い方で「片付けなさい」「ちょっとは手伝ってよ」とつい言ってしまう方も多いのではないだろうか。
それが「家事シェアハウス」によって、既に片付いている、もしくは言われなくても片付けたり、家事をする意識が家族に芽生えているとしたらどうだろうか。
家族に家事について怒ったり、小言を言わずに済んだとしたら、精神的負担もだいぶ減ると想像できる。
こうした心の負担を減らせるということは、「住まい」というハードを作るハウスメーカーとして非常に新しい取り組みであると言える。

二つ目の効果が、子供の教育に良いという点だ。
「雨が降りそうだから洗濯物を入れよう。ティッシュが残り1箱だから補充しておこうなど、先を見て動く力や主体的に考える力が養われます。」(多田さん)
現在の子供達が大人になる頃は、人工知能(AI)が発達し、多くの仕事がAIに取って変わると言われている。そんな未来を生き抜くために必要とされているのが主体性や発想力だ。家事を経験することで、そういった将来に活かせる力が養われるという。また、家事を通した親子のコミュニケーションも発生することから、親子の関係にも非常に良い影響を与えることができる。
「家族のあり方は時代によって変わります。その時代によって住む人が居心地のよい住まいでありたい」という多田さん。

内閣府は女性活躍加速のための重点方針として、男性の家事育児の参画を推進しており、6歳未満の子供を持つ夫の育児・家事関連時間を現状の1日当たり67分(平成23年)から 1日当たり2時間30分(平成32年)にするとしている。
そのためには、休暇や労働時間の短縮といった働き方の施策も必要だが、「家事年収シミュレーター」「家事シェアハウス」のように、そもそもの男女の意識のギャップであったり、家族のコミュニケーションの活性化、精神的負担の減少といったソフト面への働きかけも必要なのではないだろうか。

多田さんは今後も「家事」を重要なテーマと捉え、家族みんなで家事シェアができるような仕組みを考えていくという。今後も新たな取り組みで、ハウスメーカーとして「家事」「家族」にどのようにアプローチするのか注目していきたい。