クラウドファンディングってどんなもの?
姫Biz事務局の安藤さん(左)、堀さん(中)、美濃加茂市役所の山田さん(右)。姫Biz事務局は美濃加茂商工会館にあり美濃加茂市役所にも近いため、FAAVO美濃國はもちろん、さまざまな事業で連携を図りながら運営することができるという。皆さんが指を差している右側に事務局がある昨今、クラウドファンディングが注目を集めている。さまざまな業態のクラウドファンティングがあるなかで、地方自治体が共同で立ち上げたという「FAAVO美濃國」に注目してみた。その立ち上げの経緯や運営、実際のプロジェクト事例などに触れながら、クラウドファンディングの仕組みについて紹介していく。
本題に入る前に、まずはクラウドファンディングの概要を説明しよう。行政の補助金や金融機関の融資とは違った新たな資金調達手法のことで、プロジェクトを実行するために資金を得たいと思った起案者が、インターネット上のプラットフォーム(クラウドファンディングを運営する組織)を介して資金を調達できる仕組みをいう。プロジェクトは起業や製品開発、イベントの実施、支援活動、寄付などさまざまなものがあり、プラットフォームも数多くある。これに当てはめていうとFAAVO美濃國は、株式会社サーチフィールドというプラットフォームが運営するクラウドファンディング「FAAVO」の地域拠点の1つということになる。
そして、クラウドファンディングは大きく次の3つに分類されている。
●寄付型…支援者は無償で資金を提供。目標以上の資金調達が達成された場合、報告書など無償の成果物が支援者に提供される。
●購入型…目標以上の資金調達が達成された場合、支援者には支援金額に応じた商品やサービスなどが提供される。
●金融型…目標以上の資金調達が達成された場合、支援者には支援金額に応じた株や利益配分が提供される。
最も多いのが購入型で、FAAVO美濃國も購入型を採用している。
では、FAAVO美濃國にはどんな特色があるのか。美濃加茂市役所産業振興部産業振興課の山田智也さんと、FAAVO美濃國の窓口となっている起業家等支援事業「姫Biz(ひめビズ)」事務局の安藤摩里さん、堀ひでみさんに話をお聞きした。
地方自治体が共同で「FAAVO美濃國」を立ち上げたわけ
FAAVO美濃國は美濃加茂市・関市・各務原市が共同で立ち上げ、エリアオーナーとして共同運営している。地方自治体が共同でクラウドファンディングを立ち上げるというのは過去に例のない取り組みだというが、そもそも、どういう経緯でクラウドファンディングを立ち上げることになり、なぜ3市で共同運営することになったのだろうか。
「美濃加茂市では総合戦略として“中山道の活性化”と“女性の力を活かす”というテーマを掲げていました。その取り組みの1つとして起業等を支援する相談窓口『姫Biz』を設置したんですが、運営していくなかで、起業や事業PRなどにかかる資金調達が難しいという課題が上がってきました。その対策をいろいろ考えているときに、ちょうどクラウドファンディングが世の中に広まり出したこともあり、それに着目したという経緯です」(山田さん)
「なぜ3市連携かについてですが、これはクラウドファンディングのためというわけではないんです。まず、3市の市長が30代、40代と非常に若く、もともと交流があり、職員の相互派遣を行っていたという背景があります。そして、美濃加茂市・関市・各務原市が、ほぼ隣接して岐阜県美濃地方の中心部に位置しているため3市が連携していろいろな施策を進められるということで、2015年9月に『地方創生・3市広域連携協定』を締結。その一環として、3市でFAAVO美濃國の共同エリアオーナーをすることになったんです。その窓口を市から姫Bizに委託しています」(山田さん)
数あるプラットフォームのなかから3市がFAAVOを選択したのは、地域活性化に特化した運営をしているという点が、地域性を打ち出しながらクラウドファンディングを展開したいという構想目的に一致したからだという。
起案者はこう動く!
FAAVO美濃國は2015年11月にオープンし、2016年8月末までに16件のプロジェクトがアップされている。姫Bizに寄せられるプロジェクトの相談件数は月平均4~5件とのこと。事務局の安藤さんと堀さんで対応しているそうだが、相談内容は1件1件異なるため柔軟な対応が求められる。
「1案件の相談で2~3回はやりとりするので、スタートするまでに最低でも1ヶ月以上はかかります。申し込みは結構ありますが、途中でとん挫したり、ただ何かを売りたいなどFAAVO美濃國の主旨にあっていなかったりすることもあり、実際にプロジェクトまでたどり着く案件は多くはないですね。また、目標金額の設定のときに、とても大きな金額を要望される方がいらっしゃるんですが、そういった場合はほかの資金調達の方法を提案することもあります。プロジェクトにたどり着くまでの流れとしては、申し込みがあり、起案をつくりあげ、3市にお伺いを立てて、許可が出たらオープンという形です」(安藤さん)
「クラウドファンディングでは、資金の目標金額と、資金を集める期限があらかじめ設定されます。現時点でどれくらいの達成率かをサイト上で確認することができ、期限までに達成率が100%を超えればすべてのお金が振り込まれプロジェクトが動き出しますが、達成できなければ資金はまったく入りません。また、FAAVO美濃國は購入型のクラウドファンディングですから資金が集まったら終わりではなく、支援者に返礼品をお渡ししたりイベントにお招きしたりという何かしらの対価を提供していくことも必要になりますし、進捗状況などをレポートで支援者に発信していくことも大切です」(堀さん)
支援者は全国どこからでもプロジェクトに投資できる!
一方、支援者のほうは、サイトに上がっているプロジェクトの内容や起案者のプロフィールや思い、経過のレポートなどを見て、応援したいと思うプロジェクトを選んで直接出資することができる。支援コース、つまり出資金額はプロジェクトによってそれぞれ異なり、FAAVO美濃國の事例では1口500円から270万円まで幅広く設定されている。支援コースによって返礼品が違い、付加価値の高い返礼品が出資金額を選ぶ決め手になることもあるという。1口だけでなく複数支援することもできる。
出資の方法はカード決済とコンビニ決済があり、コンビニ決済では携帯電話の電話番号を登録するとコンビニ決済ができる仕組みになっている。達成されるまでは仮決済になっており、達成すれば決済が行われ、未達成であればもちろん決済も行われない。
「支援者にとってクラウドファンディングでプロジェクトを応援する一番のメリットは、日本全国どこからでも居ながらにして出資して応援できることだと思います。FAAVOの仕組みはふるさと納税に似ていますが、大きな違いは、支援者の出資金が賛同したプロジェクトに必ず使われることが明確になっている点です。ふるさと納税は基本的に自治体そのものを応援するための制度ですから、目的が明確なものもありますが、例えば特定のイベントを支援したいと思っても、具体的なメニューが用意されているかどうかは自治体によって異なります。支援者がダイレクトにプロジェクトを応援できることがFAAVO美濃國の大きな特長ですね」(山田さん)
賑わいづくりにつながったプロジェクト
FAAVO美濃國で資金を調達してプロジェクトが行われ、実際に地域の賑わいづくりにつながった事例は、以前紹介した【めざすは「全国まちおこし映画祭」開催!各務原市民が取り組む“まちおこし映画でまちおこし”とは?】をはじめいくつもある。今回は「愛犬と歩く古い町並み!中山道道太田宿で『愛犬の命を守るフェス』プロジェクト」について堀さんに紹介していただいた。
「ある起案者の方から、愛犬家向けのイベントを開催したいという相談が姫Bizにありました。トリマーをされているその方は、犬を飼っている人が最後まで面倒を見ずに手放すことが殺処分につながる一番の原因になっていることを問題視されていて、その現状をイベントを通じて訴えたいとのことでした。1度、自己資金でイベントを開催したそうなんですが、費用がかかって大変だったとか。中山道には木曽川の堤防があり、そこで犬を散歩させている人が多いことから、中山道の賑わいづくりを見込んだイベントを開催する起案を立てました。プロジェクトを立ち上げてFAAVO美濃國にアップしたところ、資金調達ができて2016年4月には2回目のイベントを開催することができました。1回目の参加者は約700名でしたが2回目は約2000名の参加があり、愛犬の命について考える機会になったのはもちろん、中山道の賑わいづくりにもつながりました」
こうしたさまざまな実績を挙げているFAAVO美濃國を、エリアオーナーは今度どう展開していこうと考えているのか、山田さんに伺った。
「FAAVO美濃國の役割としては地域活性化ともう1つ、市場調査のような活用をしていただければと思います。起案したプロジェクトがコンセンサスを得られるかどうかを図るバロメーターとして、たとえば資金がまったく集まらないのであれば事業として成立するのは困難、あるいは改善が必要だというふうに捉え、次の一歩につなげていただきたいです。今後のFAAVO美濃國の展望としては金融機関などと連携を進めて、たとえば相談窓口とシステム管理の役割を分担するなど、よりスムーズに運営できる体制を構築していきたいと考えています」
今後ますます地域の特色を生かした展開が期待できそうだ。
FAAVO美濃國はスタートしてまだ数年のクラウドファンディングなだけに、日々の業務は手探りなことも多いと思う。大変なこともあるのではないかと安藤さんにお尋ねすると、こんな答えが返ってきた。
「FAAVO美濃國の相談窓口を通じて日頃会えない方と会えたりしますし、プロジェクトの立ち上げを応援することで自分も起案者さんと一緒に活動しているような気持ちになります。FAAVO美濃國の運営に携われることはとても楽しいですし、皆さんからご相談をいただけることはとてもありがたいですね」
クラウドファンディングのプラットフォームは数多くあるので、賛同できるプロジェクトがあれば支援を検討してみてはいかがだろうか。そこから人のつながりが生まれたり、新しい体験ができたりするかもしれない。
【取材協力】
美濃加茂市
FAAVO美濃國
美濃加茂市女性起業家支援事業姫Biz事務局
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