日本初の高架駅として誕生

浜松町駅は、1909（明治42）年12月16日に開業。この駅の開業以前から、この場所には旧新橋駅から品川～横浜方面への東海道線が開通していましたが、既設の東海道線は非電化地上線でしたから、これとは別に分岐して高架化されました。

 

同時開業の烏森駅（現在の新橋駅）と同じく、日本初の高架駅として誕生した駅になります。高架駅とした理由は新橋駅の高架化と同様で、標高の高い上野駅まで延伸させるためです。

 

また、同時に烏森～品川～新宿～上野間が電化され、山手線には「汽車」ではなく「電車」が走るようになります。このとき東海道線は、まだ電化されていません。そのため電化駅である浜松町は、東海道線と分岐させて駅を新設する必要があったのです。

 

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東海道線列車が停車しない東海道線の駅

 

開業時の浜松町駅は、島式プラットホーム1面2線のみの駅でした。新橋～品川の区間は、日本初の鉄道である「東海道線」とされています。この区間に新たな駅が開業しても、それは東海道線の駅となるのです。したがって、浜松町駅は東海道線の駅となります。

 

東海道線は1914（大正3）年に東京駅が開業すると、東海道本線の長距離列車も東京駅から運転されるようになったのですが、浜松町駅は山手線用の1面2線のホームがあるだけで、東海道線など中長距離列車用のホームはありません。そのため浜松町駅には東海道線の列車は停車しない状況でした。

 

その後、横浜方面へは京浜電車（後の京浜東北線）が運転を開始し、こちらは浜松町駅にも停車するようになりました。当時は、山手線と京浜電車が、同じ線路を共用して運転していました。たとえば1番ホームに、あるときは山手線が停車し、次に京浜電車が停車するという方法で、ホームも共用していたのです。

 

しかし、時代が移り変わり、戦後の高度成長期になると、旅客数が増加して、1面だけのホームを共用することでは増え続ける乗客をさばききれなくなってきました。そこで1956（昭和31）年、京浜東北線と名を改めた旧京浜電車専用の線路を増設して、ホームも山手線と京浜東北線とを分けることにしたのです。

 

こうして現在の島式ホーム2面4線の駅へと姿を変え、電車の運行数も増やし、旅客増に対応しました。が、ホーム増設という大きな工事であるにもかかわらず、このときも中長距離列車である東海道線のホームは設けられませんでした。

 

ということで、浜松町駅は、開業以来現在まで、東海道線の列車は一度も停車したことがありません。なにしろホームがないのですから。浜松町駅は、東海道線の駅として開業以来100年あまりの歴史のなかで、東海道線の列車が一度も停車したことがない駅なのです。

 

海上交通と航空路線の交差する駅

浜松町駅から海側へ歩くと、竹芝桟橋、その少し先には日の出ふ頭があります。これらは、1923（大正12）年の関東大震災がきっかけで設けられた桟橋です。

 

それまで東京は、海上輸送による荷物の陸揚げ港として、横浜港を想定していました。横浜で陸揚げし、東京への輸送は鉄道を利用するということです。しかし、関東大震災によって陸上交通網が壊滅状態となったため、都心部にも海上輸送の拠点を設けるべき、ということになったのです。

 

そして1926（大正15）年、まず日の出ふ頭が完成。1933（昭和8）年には竹芝ふ頭も完成し、これによって浜松町駅は海上輸送との接続駅として、臨港鉄道駅の性格を持つようになりました。

 

1964（昭和39）年、東京五輪開催にともなう羽田空港への外国人来日客の交通手段として羽田～浜松町間に東京モノレールが開業。これにより浜松町駅は空港連絡のターミナルにもなったのです。

 

羽田空港はその後、国際線の発着を成田に譲って国内線中心の空港になりましたが、現在では国際線の発着も増やし、国際空港として発展しています。

 

こうした経緯から浜松町駅が海と空のターミナルと接続するという性格は現在も変わっていません。空港と旅客船の港との両方に接続する鉄道駅は、全国でもまれな存在といえるでしょう。

 

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新たな顔を見せる水上交通とのターミナル

ここ数年、浜松町駅周辺はその姿を変えつつあります。まずは竹芝桟橋。

 

それまでは伊豆諸島など国内各地への定期船と、東京湾納涼船などクルーズ船の発着港にすぎなかったのですが、竹島桟橋に隣接して、隅田川を上り下りする水上バスの拠点となる「ウォーターズ竹芝」がオープン。周辺の様相が一変しました。

 

注目すべきは、このウォーターズ竹芝の開発主体がJR東日本であること。JR東日本が鉄道駅ではなく、駅から離れた場所に行った都市計画なのです。

 

そのためウォーターズ竹芝は、水上バスの発着場だけではなく、ホテルやオフィス、ショッピングモール、シアターなどを併せ持った複合施設となっており、東京のウォーターフロントの新たな顔となっているのです。そして、これにともなって浜松町駅はその最寄り駅として姿を変えつつあります。

 

とりわけ大きなポイントは、ペデストリアンデッキの設置でしょう。

 

浜松町駅北口から竹芝エリアへの移動は、以前は道路に沿って歩道を歩くものでした。歩道はあまり広くはなく、段差もあり、傍らを走る自動車に注意しながら歩く必要がありました。

 

しかし、ペデストリアンデッキの登場によって、これらの課題は解決。屋根付きのデッキなので、雨の日も傘をささずに歩けます。

 

現在（2024年3月時点）、浜松町駅周辺の再開発が未完成であるため、ペデストリアンデッキは駅の直近で途切れており、駅に直結するのは2029年の予定となっています。

 

再開発でビルは解体、モノレールとの乗り換えも変化

羽田空港へのモノレールも、乗換駅としての様相を変えつつあります。モノレール駅は浜松町駅に隣接した世界貿易センタービル内にありましたが、建物の老朽化もあり、周辺の再開発に伴ってビルは解体。

 

ビル内にあったモノレール駅も少し移動をしました。世界貿易センタービルは建て替えとなって、モノレール駅も新しい姿で2027年の完成予定となっています。

 

こうしたビルの解体工事やモノレール駅の移動に伴って、JR浜松町駅でも少し変化が起きています。

 

モノレールと連絡する最寄りの改札口は、以前はモノレール駅に入らずに駅の外に出ることが可能でしたが、現在はモノレール駅乗り換え専用改札となっており、駅の外には出られなくなりました。

 

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毎月着替える小便小僧の像

駅での話題では、3・4番ホーム（山手線外回り・京浜東北線南行）の南端（田町寄り）に、小便小僧の像があります。

 

1952（昭和27）年10月14日、鉄道開通80周年の際に設置されたのが最初で、新橋駅の嘱託歯科医だった小林光医師から寄贈されたもの。もともとは白い陶製の像だったそうですが、その後、現在のブロンズ像に替えられました。

 

この小便小僧、4月にはランドセルを背負った新入生、5月には兜とこいのぼりを手にし、夏場は浴衣、12月にはサンタクロースといった具合に、着替えをするのです。

 

きっかけは1955（昭和30）年、浜松町駅近くの会社に勤務していた女性がキューピッドの衣装を着せたのが始まりといいます。その後、季節に合わせて衣装が変えられるようになり、現在はボランティアグループによって毎月着せ替えが行われています。

 

2022（令和4）年には、像が設置されて70年、人間でいえば「古希」ということで記念セレモニーも実施されました。

線路をまたぐ独特の橋

浜松町駅は、ホーム東側に東海道線や東海道新幹線などの線路が敷かれています。この線路をまたいで、架けられているのが浜松町駅構内跨線人道橋。駅の東西を連絡する自由通路として1983（昭和58）年に架けられた歩道専用橋です。この橋はフィーレンディールトラスという形式で、ハシゴを横倒しにしたような鉄枠の中に通路部分が収まるという独特のデザインとなっています。

 

この橋の外観が印象的なのは、ハシゴを思わせる鉄骨が赤さびだらけになっているからでしょう。この赤さびは、さび安定化処理といい、鋼材の表面処理にさびを利用したもの。つまり意図的に鉄骨をさびさせているのです。この処理を受けた鋼材は、ペンキと比べて経年劣化がほとんどない、耐候性鋼材になるといいます。

 

この橋は東海道新幹線や東海道線、京浜東北線、山手線と、11もの営業路線の線路をまたぎます。ということは、1日のうち橋の下を電車が通過しない時間帯はほとんどないということ。つまり、電車の通行時間は橋の修復工事はできないので、可能な限り、橋はメンテナンスフリーであることが求められたのです。

 

フィーレンディールトラス形式の橋は日本ではあまり多くなく、橋そのものを見学するために訪れる人もいるようです。

 

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駅に隣接した大名庭園、旧芝離宮恩賜庭園

駅の東側に隣接する庭園は旧芝離宮恩賜庭園。1678（延宝6）年、小田原藩大久保家の上屋敷として築かれたもので、その後この屋敷の主はしばしば変わり、幕末は紀州徳川家の屋敷でした。明治になって、有栖川宮熾仁親王（ありすがわのみやたるひとしんのう）の邸宅となりますが、1875（明治8）年、屋敷地は皇室が買い上げ、翌年からは「離宮」となりました。

 

庭園の池は潮の干満に応じて水位が変化する潮入池。池泉回遊式ですが、大きな石を組んで屏風のようにそそり立たせ、滝をイメージした枯滝や、中国で仙人が住むと言われる「蓬莱山」を表した石組みなど、枯山水の要素も取り入れています

 

文化財の宝庫、増上寺

浜松町駅の西側には、浄土宗の大本山増上寺があります。1393（明徳4）年創建の古刹（こさつ）で、江戸時代には徳川将軍家の菩提（ぼだい）寺として、上野の寛永寺とともに江戸最大級の寺院として勢力を誇りました。

 

しかし、明治維新後は徳川家の保護を失い、さらに境内の敷地の多くが明治政府によって接収され、公園とされたため規模を縮小。そして、1945（昭和20）年には空襲で堂宇の大半を焼失してしまいます。

 

戦後は霊廟の跡地などを売却し、境内などは江戸時代に比べてかなり小さくなったのですが、それでも浄土宗大本山として都内有数の大寺院のたたずまいを見せています。

 

浜松町駅から増上寺に向かう道は、江戸時代から存在する参道。

 

参道突き当たりの増上寺三解脱門（通称「三門」）は、1605（慶長10）年に徳川家康が建立したもので、都心部、山手線の内側にある木造建造物では最古とされ、国の重要文化財に指定されています。

 

ほかにも、有章院（ゆうしょういん）霊廟二天門、旧台徳院（きゅうたいとくいん）霊廟惣門、水盤舎（すいばんしゃ）など複数の歴史的建造物が存在します。

 

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都心部最大の古墳がある

増上寺の南側に広がる芝公園は、1873（明治6）年、太政官布達によって、増上寺の境内地の一部が緑地帯（公園）とされた、日本で初めての「公園」。

 

この芝公園の一角にある小高い丘が、芝丸山古墳。5世紀前後の築造と考えられており、最大部の全長は108m、後円部の直径は64mと、都内最大級の前方後円墳です。

 

古墳の裾には貝層や縄文土器、石斧などが発掘された丸山貝塚があります。このあたりは江戸湾に臨む天然の台地で、縄文時代から人々が住んでおり、古墳時代には豪族も存在したと考えられています。

 

芝丸山古墳の山上部には「伊能忠敬測地遺功表」があります。伊能忠敬といえば、江戸時代後期、全国を測量して歩き、日本初の実測に基づく日本地図を製作した人物。

 

その伊能忠敬が測量の予行演習をしたとされる場所がこの古墳なのです。モニュメントには日本地図と忠敬をたたえる碑文が刻まれています。

電車から見える船だまり

山手線の電車に乗って、内回りなら浜松町駅に到着する直前、外回りは浜松町駅を発車した直後に、車窓から小さな川が見えます。この川は古川。渋谷から恵比寿、麻布十番、赤羽橋を経て浜松町駅付近で隅田川と合流します。

 

車窓から見える場所は、金杉橋の付近。金杉橋は、江戸時代は東海道に架かる橋で、日本橋からちょうど一里。江戸名所のひとつだったようで、歌川広重の錦絵「名所江戸百景　金杉橋芝浦」には、橋から展望できる江戸湾が描かれています。橋のすぐ先には海が広がっていたのです。

 

現在も金杉橋付近の川面には、小さな屋形船が数多く係留されています。ちょっとした旅情のようなものを感じさせるのですが、狭い川にびっしりと船が並ぶ、そのすぐ上を山手線の電車が走っていくのです。これも東京の風景のひとつなのだと改めて感じられます。

 

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