駅すぐ近くにある歴史的な踏切

代々木駅西口を出て左手へ向かうと、ホーム下のガードをくぐってすぐのところに踏切があります。これが厩道（うまやみち）踏切です。

 

「厩道」の地名が何に由来するのかは不詳ですが、この踏切は日本の鉄道史において群を抜く古さを持つ、歴史ある踏切です。

 

1885（明治18）年、山手線の前身である日本鉄道品川線が開業したとき、代々木付近では鉄道は現在のような高架ではなく地上を走っていました。厩道踏切はこのときに設けられた踏切で、都内の踏切としては最古級といえます。

 

厩道踏切は現在、埼京線や湘南新宿ラインなどの踏切となっています。この踏切の新宿寄りすぐのところに、開業当初の山手線代々木駅は設けられていたのです。

 

写真の左側の高架が現在の代々木駅で、開業時の中央線代々木駅でもありますから、山手線ホームと中央線ホームは当初、高低差があったことが分かります。

 

当時の山手線ホームからは、階段を上ると中央線下りホーム、そこから跨線橋の階段を上って下りて中央線下りホームとなっていました。

二つのレンガ造りガードは鉄道遺産

代々木駅西口から代々木商店街を進むと、すぐに山手線のガード（架道橋）があります。これが青山街道架道橋。

 

山手線を電車線と貨物線に分ける複々線化は大正初期（1913年ころ？）から工事が進められていましたが、これに伴って設けられたガードです。

 

青山街道架道橋から線路沿いの道を南下すると現れるのが裏参道架道橋。こちらは、明治神宮の建設に伴って大正初期（1920年ころ？）に設置されたもの。

 

これらふたつのガードはおよそ100年前に建設された赤レンガが残っており、鉄道遺産とされています。建設時期が古いので、ガード下の通行は地上高3.5m以下に制限されています（現代のガード下の多くは3.8ｍ以下）。

 

それにしても、さほど離れていない場所に、線路で遮断された東西を連絡させる道路が複数設けられたことは、例外的かもしれません。

 

1891（明治24）年の国土地理院地図を見ると、厩道踏切は鉄道開業当初から存在していたようです。また、代々木駅開業後は、駅の東西を結ぶ道として機能していたことが想像できます。

 

一方、二つのガードは、山手線の複々線化に伴う高架化が誕生のきっかけのようです。

 

青山街道架道橋は、地図を見る限り明治時代前期でもそれなりに主要な道だったと思われますが、裏参道架道橋はガードが必要なほどではないようです。やはり明治神宮の建設が、裏参道架道橋の建設の大きな理由でしょう。

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千駄ヶ谷の鎮守「鳩森八幡神社」

裏参道架道橋をくぐって道なりに進み、北参道交差点の先で商店街に入って進むと鳩森（はとのもり）八幡神社があります。創建年代は不詳ですが、千駄ヶ谷一帯の総鎮守として信仰を集めてきた古社です。

 

「鳩森」の由来は、『江戸名所図会』に「蒼空より白気降りて雲上に散ず、村民怪しんでかの林下に至るに忽然として白鳩多数西をさして飛び去れり、よつてその霊瑞を称し小祠を営み名付けてはとのもりといふ」とあります。

 

つまり、青空から白雲が降りてきたので不思議に思った村人が林の中に入っていくと、数多くの白い鳩が西に向かって一斉に飛び去ったことを神の霊験として、小さな祠を建て、「はとのもり」と名付けたということです。

 

860（貞観2）年、慈覚大師円仁がこのあたりを通りかかったとき、鳩森のご神体を求める村民の強い願いにより、神功皇后・応神天皇の尊像をつくり、八幡宮としたとの伝承もあります。

 

境内には都内最古という1789（寛政元）年につくられた富士塚（東京都有形民俗文化財）が残ります。円墳形に土を盛り上げ、頂上付近だけに富士山の溶岩を配しています。

 

また、山裾の御影石の里宮（浅間社）をはじめ、7合目には身禄行者（食行身禄ともいい、江戸庶民を中心にさかえた富士信仰の中興の祖として知られた人）を祀る「身禄洞窟」、ほか「烏帽子岩」「釈迦の割れ石」、山頂に富士山の溶岩石で覆われている「奥宮」を置くなど、具体的名称が比定されているのも特徴です。

坂の途中にある窟屋の神社

鳩森八幡神社の前の道は、都内でも有数の古道で、鎌倉時代以前に成立した道です。「いざ鎌倉」の鎌倉街道でもあります。

 

道は鳩森八幡神社から南方に向かって下っていきます。この坂道が、榎坂（えのきざか）。坂の途中に榎の巨木があったとされ、そう呼ばれています。

 

この坂の背後に、徳川家康の側室であったお万の方が建立した寺院の仙寿院（せんじゅいん）があります。

 

徳川家康の側室、養珠院（お万の方）の開基による日蓮宗の寺で、赤坂の紀州徳川家屋敷内に建立した草庵が始まりであるとされます。

 

1644（正保元）年、お万の方の実子である紀州徳川家初代・徳川頼宣によって現在地に移されました。

 

紀州徳川家ゆかりの寺として、江戸時代には壮大な伽藍（僧が集まり住んで、仏道を修行する場）を誇る名所とされましたが、現在はこぢんまりしたたたずまいとなっています。

 

坂の途中にはお万の方ゆかりの「お万榎」とよばれるエノキの大木があったといいます。このエノキは根本が空洞になっていて、その空洞に祠をまつり、榎稲荷と呼んでいたと伝えられていますが、戦災で焼失しました。

 

戦後になって再建され、エノキの木も植えられましたが、その脇には岩を組んだ窟屋が設けられ、ここに祠がまつられて、榎稲荷が復興されています。

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渋谷区指定文化財の石仏

榎稲荷の背後の高台に位置するのが瑞円寺（ずいえんじ）です。もとは鳩森八幡神社の別当寺でしたが、明治の神仏分離で独立した寺院となったものです。

 

庭園のような広い境内が印象的で、近くに高層建築がないため、都心とは思えない広々とした空が広がっています。

 

境内にある庚申塔（こうしんとう）の石仏は、1720（享保5）年造立のものなど2基。

 

どちらも青面金剛が邪鬼を踏みつけ、その下に三猿を彫り、塔の上部には家紋、塔の側面に狐が彫ってあることから、庚申信仰と稲荷信仰を同時に示す珍しい形式で渋谷区の指定文化財です。

身守不動の寺

瑞円寺の近くにあるのが聖輪寺（しょうりんじ）。こぢんまりしていますが、渋谷区では最も古い寺院で、寺伝によれば725（神亀2）年に行基が開創。

 

境内に入ると左手には庚申塔が2基並び、庚申塔に向かい合って、矜羯羅童子（こんがらどうじ）と制吒迦童子（せいたかどうじ）をしたがえた不動明王像が岩座に立てられています。

 

この不動明王は、詣でる者に災厄が起きないよう見守ってくれる「見守不動」、転じて「身守不動」と呼ばれています。

 

聖輪寺本尊の十一面観音は、江戸時代には広く知られていたようです。玉眼が黄金でつくられていたため、盗賊が忍び込んだものの、玉眼の黄金をひきぬいたところ盗賊は息絶えた、といった伝説がありましたが、残念ながら戦災で焼失しました。

 

観音霊場として栄え、近くの川にかけられた橋の名称が「観音橋」となったほどです。

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東京五輪のメイン会場を見る

聖林寺から坂道を下ると観音橋の交差点。ここはかつて川があり、川にかかる橋の名称が「観音橋」でした。が、現在はそうした面影は全くなく、目の前にそびえるのは国立競技場の壮大な姿です。

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