代々木は、予備校や専門学校などが多く、若者のイメージが強い街です。その玄関口となる代々木駅は、1924(大正13)年の山手線複々線化の際に現在のような駅の構造になりました。

現在も、ホームや駅舎には「年代もの」とでも呼びたくなるような見どころが随所に残されています。
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代々木駅

代々木駅1番線は新宿方面、2番線は原宿方面行きの山手線

代々木駅の基本構造は次のようになっています。

 

  • 1番線:山手線外回りの単式(片側)ホーム
  • 2番、3番線:山手線内回りと中央・総武線各駅停車下り(中野、三鷹方面)の島式ホーム
  • 4番線:中央・総武線各駅停車上り(千駄ヶ谷、御茶ノ水、千葉方面)の単式ホーム

 

山手線内回り・外回り、中央・総武線上下線の4線に対し、ホームは3面4線となっています。

 

このホームは、1923(大正12)年に起きた関東大震災後に整備されたものがベースとなっています。つまり、大正末期から昭和初期ころ、100年近く前のものが現在も使われている可能性があるのです。

 

柱や梁(はり)などの構造材は、古いレールを再利用している場所が多く、壁や天井、桁(けた)などの建材には、木造部分も少なくありません。全体的には大正から昭和初期の建築に見られるモダニズムというか、表現主義的な建築美すら感じられます。

 

代々木駅の架線のアーチ

1番ホーム(写真左)と2番ホームの間の空中を飾る古レールのアーチ列

上の写真は、山手線の内回り・外回り線のホームを1番ホーム原宿寄りから眺めたもの。

 

それぞれのホームから立ち上がった柱は、そのまま屋根を支える梁となり、梁はさらに伸びてアーチを描いてつながっています。このアーチの柱や梁の鉄材は、古レールを再利用したもの。柱のデザインは場所によって異なります。

 

この連続するアーチは、電車の架線をつり下げる目的で設けられたもので、アーチにしたのは強度を高めるためで、機能性優先でつくられています。にもかかわらず、武骨なはずの鉄材が描く連続アーチは、まるで幾何学模様のアートを思わせます。

 

1番ホームのアーチを支える柱

屋根の端の部分だけ柱を2本立てている

1番ホームでアーチを支える柱列に近寄ってみると、柱列は屋根の形状が異なっている場所から始まっていることが分かります。

 

屋根の形状が変わるのは、後述するホーム延伸の跡。そして、屋根の端を支える部分のみ、柱が2本になっています。

 

1番ホームの柱

1番ホームの古レール柱。写真手前の部分は2本の柱、奥には壁際に片持ちの1本の柱が並ぶ

柱が2本立っているのは、ホームの原宿寄り。2本の柱と柱の間は小さなアーチを描くようになっていて機能美を感じさせます。

 

ではなぜ、すべての柱をこのような2本の柱にしなかったのでしょうか。それはおそらく以下のような理由でしょう。

 

ホームの乗車口に近い部分に柱があると、電車への乗降に邪魔になりかねないということで、原則として壁際に片持ち梁となる柱を1本立てていく方式を採用したのでしょう。

 

しかし、屋根の端の部分は他の柱よりも屋根の荷重を余計に受けるため、柱を2本に、柱間をアーチにして屋根の荷重に備えたということでしょう。

 

1番ホーム片持ち柱のデザイン

1番ホームの片持ち梁と天井の様子

1番ホーム壁際の片持ち梁の柱に注目すると、基本的に2本の古レールを柱として立ち上げ、それぞれが壁側と軒側に向けて曲げられ、梁となる古レールを支えています。

 

当時の技術だと、古レールを曲げるのはおそらく職人の手作業と思われます。柱によって微妙にデザインが変わりますが、見事なフォルムを見せています。

 

立ち上がった柱が、垂直に立つ状態から左右に曲げられて二股となる部位には、梁に向けて垂直方向に角材の束(つか)が入れられています。束は木材を使用しています。

 

屋根材は波型のスレート材。この屋根を支える桁も木製の角材。リベット打ちが多用されているのもレトロな雰囲気を強調しています。

 

2・3番ホームの柱

2番・3番ホームは島式ホームのためホーム中央に片持ち梁が並ぶ

2番・3番ホームは、2番ホームが山手内回り線、3番ホームが中央・総武下り線の島式ホーム。

 

そのため、ホーム中央から立ち上がった古レール柱が、左右に同じような角度で曲げられてそれぞれアーチへつながっています。V字形の屋根には木造の天井が見られます。

 

4番ホームの柱列

4番ホームの古レール柱

4番ホームの柱は基本的に1番ホームと同様の構造で、屋根材が波型スレート、桁が木材ということも同じです。ただ、1番ホームと異なるのは壁。山手線の駅で木造の板壁が現存しているのは珍しいといえます。

 

竪板(たていた)張りの板壁に、かつて看板などが貼り付けられ、はがされた跡が残っていたり、汚れが染みついたままになっているなどしていて、そこにはレトロ感というよりもうらぶれた印象があり、どこかローカル線の駅を思わせます。

1番ホームへの階段

扇形裾広がりとなっている階段

代々木には、ホーム以外にもレトロな雰囲気を伝える建造物が見られます。それが、西口改札から1番ホームへ上る階段。この階段は扇形に裾広がりとなっています。

 

これは昭和初期ころの表現主義建築の名残といえるでしょう。山手線では新橋駅にも同様の意匠が見られます。

 

駅西側の装飾がある外壁

駅舎西側の基礎部分の外壁には独特の意匠が施されている

駅の外側では、1番ホームの基礎部分の外壁を西側から眺めてみました。周辺の工事でかなり見つけにくくなっていますが、アーチを上下に合わせた楕円形の構造が連続するところがあります。

 

写真にある横長の楕円形の連続は、窓のようにも見えますが窓ではなく、代々木駅1番ホームの鉄筋コンクリート基礎部分の外壁に施された装飾です。

 

これは1923年の関東大震災で被災した部分を補修したものといいますが、その後特に修復された様子もなく、老朽化が目立ちます。

 

こうした大正時代の建築が現存していることにも驚かされます。ただ、この周辺はビル建設などが進んでおり、いつまでこの光景を目にすることができるのかは分かりません。

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レトロな雰囲気の駅東口

東口。山手線の駅とは思えないたたずまい

代々木駅の改札は、西口と東口、北口の3ヶ所。最も大きくて、表玄関という印象があるのが西口、都営大江戸線との乗り換えに便利なのが北口です。これらは人の流れも多く、山手線の駅としては一般的な雰囲気です。

 

これに対し、「裏口」という印象すらある東口は、人通りのあまりない細い道沿いに駅入り口があります。そのたたずまいは、まさに独特。

 

目立つのはカーブを描く屋根。そして屋根を支える垂木(たるき)がまるでパラソルのように放射状に広がっている様子。なんというか、どこか異国の駅のような雰囲気に見入ってしまうほどです。

 

また建材は、扇形に広がる垂木も、垂木が支える板天井も、さらには軒先の幕板(まくいた)も木製。基本的には木造建築といっていいでしょう。重厚な印象の柱は実際の柱ではなく、コンクリートの表面に彫刻を施して柱に見せた装飾柱です。ここにも昭和初期ころの表現主義建築の気配を感じます。

代々木駅に向かう外回り電車(1)

代々木駅にやってくる外回り電車。それなりの上り坂を進んでくるのが分かる

代々木駅には、山手線の中でトップという記録があります。それは代々木駅の標高38.7mが、山手線の駅としては最高所ということ。

 

ちなみに最も標高が低い駅は品川駅の2.9m。ここから、大崎(標高4.2m)~五反田(8.8m)~目黒(22.9m)と標高を上げてきます。

 

大まかにいって、いくつかの例外区間はあるものの、山手線の大崎~代々木間はおおむね上り坂といえるでしょう。代々木駅のホームから眺めると、外回り電車はゆっくりと坂道を上ってくるといった印象で代々木駅にやってきます。

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ホームの段差

2番・3番ホームの中央にある段差

代々木駅では、2番線(山手線内回り)と、3番線(中央・総武線各駅停車)が同じ島式ホームの西側と東側になっています。

 

このホームの新宿寄りには2番線と3番線の間に段差があって、「足元注意」の大きな表示と、転倒防止のための柵が設けられています。同一ホーム上にこのような段差がある例は全国でも珍しいといえます。

 

この段差が生じた理由は2つ考えられます。ひとつは、代々木駅と隣接する新宿駅とでホームの構成が異なること。もうひとつは、代々木駅のホーム延伸です。

 

代々木駅のホーム構成は、西側から山手線外回り、山手線内回り、中央・総武線各停下り、中央・総武線各停上りです。

 

これに対し新宿駅は、西側から中央・総武線各停下り、山手線外回り、山手線内回り、中央・総武線各停上りとなっています。

 

つまり、代々木駅で山手線内回りの東側を走っていた中央・総武線各停の電車は、新宿駅では山手線内回りの西側を走ることになります。このため、山手外回り電車と中央・総武下り電車は、代々木~新宿間で交差してそれぞれの位置を入れ替えなければなりません。

 

山手線と中央・総武線の交差

代々木駅へ向かう山手線内回り電車と、代々木駅を発車した中央・総武線の電車

これを実現するために、代々木~新宿間で、中央・総武線が急坂を上って山手線をまたぎ、山手線はいったん標高を下げて中央・総武線の電車をくぐるのです。代々木駅で同一ホームに停車する電車が、代々木~新宿間で立体交差をすることになります。

 

代々木~新宿の駅間距離はわずか652m。山手線のなかでも群を抜いて短距離であり、所要時間も1分ほど。この短距離区間で電車が立体交差するのですから、かなりの急勾配となるのは必至。

 

この急勾配が代々木駅ホームにもかかっていて、ホームに段差が生じたということです。

 

代々木~新宿の駅間距離は652mと前述しました。この距離は、JRの駅間距離の標準で、それぞれの駅の駅長室間の距離で表示します。ということは、駅長室間の距離よりも、ホームの先端など駅の場所によってはもっと短距離になる可能性があります。

 

国土地理院の航空写真で調べてみました。

 

代々木航空写真

国土地理院ホームページの航空写真をベースに加工

航空写真の下方に代々木駅、上方に新宿駅があります。代々木駅4番ホームの最北端と、新宿駅5番・6番ホームの最南端とは、わずか125mしか離れていません。さらに言えば、新宿駅のペデストリアンデッキの最南端は、代々木駅ホームからは直線距離で50mと離れていません。

 

こうした状態になった大きな理由は、ホームの延伸や増設です。新宿駅5番・6番ホームは、成田エクスプレスの発着ホーム。成田エクスプレスの新宿停車以前は存在しなかったホームです。

 

限られたスペースにホームを増設するため、駅中心部(上の写真ではバスタ新宿よりもさらに上方)からかなり離れた駅の南側にホームを増設することになりました。

 

代々木駅でもホームの延伸工事が繰り返し実施されました。山手線は、昭和初期には基本的に7両編成で運転していました。それが10両編成に統一されたのが1971(昭和46)年。そして1991(平成3)年には11両編成となります。山手線の駅は、そのたびにホームの延伸を行ってきました。

 

ホーム延伸原宿側

原宿寄りのホーム。連続アーチの屋根の手前に小さめの屋根がある

 

ホーム延伸新宿側

新宿寄りのホーム。連続アーチの左側が波型の屋根になっている

代々木駅ホーム延伸の歴史は、ホームの屋根の形状から推測できます。記事冒頭の連続アーチが見られるのが、昭和初期のホーム。その後延伸したホームは、屋根の形状が異なっています。

 

おそらく10両編成対応のため原宿・新宿両方向にホームを延伸し、11両編成対応のため新宿方向にさらにホームを延伸したのです。こうして新宿駅寄りにホームを延伸したため、新宿・代々木両駅のホーム端とホーム端の距離は激近になったのです。

 

また、新宿方向へのホーム延伸により、中央・総武線が少しずつ高度を上げている場所にもホームを設置することになって、それ以前にはなかったホーム上の段差が発生することにもつながったのでした。

 

なんとなく地味な印象の代々木駅ですが、細かく見るとなかなかに話題が豊富な駅です。次回は駅から街へ出て、周辺の見どころなどを紹介します。

 

【山手線の魅力を探る・代々木駅 3】駅から歩いてめぐる歴史スポット

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